キーパーソンが見るWeb業界

第16回 ソーシャルメディアの次の展開

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トリプルメディアへの意識

栗田:ここまでWeb全般の流れ,とくに個人目線のWebの話が多かったと思うのですが,企業のWebサイトは2010年でどう変わってきました?

阿部:まず,大きな企業と仕事をするときは,これまでと同じくすぐに新しいことを始めるというのは難しい状況です。たとえば,ソーシャルメディアを使うにしても,まずガイドラインの整備,というところからスタートすることが多くあります。

それでも,数年前と比較すれば,どの企業もチャレンジにすることに対して肯定的で,失敗してもいいからそれを活かそうと考える担当者は増えているように思います。

これは,2010年のWeb広告研究会でもよく話されていた,トリプルメディアの考え方が浸透してきているからだと思います。

企業にとって,Paid Media(広告⁠⁠,OwnedMedia(自社メディア⁠⁠,Earned Media(クチコミ・CGM)があって,企業がその違いを意識してWebサイトを運用していくことが求められてきている時代になっています。さらにこの流れの中では,ソーシャルメディアは避けて通れないものなので,そこを通じて顧客とコミュニケーションを取っていこうっていう企業の動きは多く見られた1年でしたね。

森田:それに付随して,企業の社員教育にも影響が出てきていて,ソーシャルメディア上でのリスクにどう対応するか,それを整備する動きも生まれてきました。

阿部:僕自身の経験では,企業の担当者とのコンセンサスをまとめる(打ち合わせを行う)ために,人との関わりがソーシャルメディアを経由することが増えています。それまではリアルな打ち合わせのみで行っていたのが,ソーシャルメディア上でのつながりが増えて,密接につながれるようになった1年でした。

森田:ソーシャルメディアは,企業にとってメリットがあるだけではなく,小さい商店や小売,レストランなどのサービス業にとってもメリットが生まれています。六本木にある「豚組」は,オーナーの@hitoshiさん自身が積極的にTwitterを活用して,来店する人を増やしていますし,Twitterの本まで書いていますからね。

お客さんとのコミュニケーションという観点で,ソーシャルメディアには大きな力があるのでしょう。

ソーシャル時代の情報の扱われ方

栗田:それでも,ソーシャルメディアの使い方が上手い人,下手な人っていますよね?

森田:たしかに人によってはコミュニケーションが取れなかったり,フォローが増えなかったり。あとは,何かを批判しづらくなってきた雰囲気はあります(笑⁠⁠。

栗田:そういう(批判を書きたい)ときはブログを書くのも1つの手段ではないですか?

長谷川:今の時代,それが難しいところで,論として成立するのであればエントリを書くべきですが,単に感情的なものであれば書かないほうが良いこともあります。今のネットのつながり,スピード感では,言葉が独り歩きして,間違って伝わる可能性,転送される可能性があります。どんな文脈であってもどう使われるかはわからない時代です。

森田:その点で言うと,自分たちがネットに触れてWebサイトを立ち上げたころは,その(情報を扱う)リテラシーを持ち合わせていたように思います。最近は,情報の扱いに対する意識が希薄になってきましたね。

栗田:リテラシーに関しては,年代ではなくて⁠個⁠に寄るところが大きいと思っています。年齢関係なく,情報の扱いに長けている,コミュニケーションを取れる/取れないがすぐに出てしまうのもソーシャルメディアの特徴です。

森田:普及という点では,ソーシャルメディアを使う人が増えたことで変わったのが,2009~2010年はじめ頃は,自分のタイムラインには小さな井戸端会議がたくさんある状況で,それを,少しずつ共有できるのが面白く感じていました。

ところが,今はもうTwitterはTwitter有名人の場,みたいなものになってきていて,自分が選んだタイムラインは面白いけど,全体で見ると同じだったりして,面白いの質が変わってきているように感じます。

阿部:いずれにしても,TwitterとかFacebookに振り回されている感はあります(笑⁠⁠。

長谷川:あと,Twitterの場合,30分なら30分という時間の中で,限定されたリアルタイムの動きが見られるわけで,それが見ている側に取っての満足につながります。見ていない時間を気にしなくて良いという意味で,通常のWebサイトを30分見るというのとは意味合いが異なります。

冒頭で話されていたWebを見る時間がTwitterに削られてきている要因はこのあたりにもありそうです。

引き継ぎからの調整が増えた企業サイトの動向

長谷川:企業サイトの振り返りに関して私が2010年で特徴的と感じたのは,フルリニューアルや部分的リニューアルよりも,今あるサイトを引き継いで調整したいという案件が増えたことです。たとえば,⁠効果改善は目指すが,リニューアルはしない⁠といったものです。

この要因は,2000年頃からの企業サイト構築,リニューアルといった動きが続いた結果,企業側にもWebサイトの意味やリニューアルの効果が見えてきたことで,今あるものを使って,特定の要件だけを改善していく意識が高まっているのだと思います。また,企業側からもWebを通じた戦略を前提にした発注をしてもらえることが増えてきています。

もう1つ,あまり大幅にリニューアルをすることで,従来の顧客(ユーザ)が離れてしまう危険性についても意識が向いているようです。良い意味で,円熟してきていると感じています。

森田:そういうのってすべて作り直すことよりも難しかったりしませんか?

長谷川:もちろん難しいところもありますが,リバースエンジニアリングの観点で対応することで可能です。また,予算的な面でも,効果改善に対して,これまでリニューアルにかけていた費用と同等の予算を用意する企業も出てきました。

森田:おそらく,単純な技術スキルで対応できることよりも,人的な部分,属人性が求められる部分のリニューアルが増えてきたのでしょうね。2011年以降は,これまでの企業サイトの構築やリニューアルという仕事とは質が変わるかもしれません。

2000年のワクワク感が戻ってきた

阿部:最近の傾向として,海外でキャンペーンなどを行う場合は必ずと言っていいほどソーシャルメディアを活用しているため,有名なデジタルエージェンシーもソーシャルアプリ開発を請け負っているという話も聞きます。このあたりどう思います?

栗田:やはり流れとしてはソーシャルメディア上でのビジネスは大きくなっていて,注目もされていますし,そういったプラットフォームで仕事をする人は増えているのだと思います。初期の頃のWebデザイナーはデザインもプログラミングもできるハイブリット系の人が多かったのですが,どんどん分業化され,それぞれの専門性も高くなってきている印象はあります。

阿部:なるほど。もう1つ,ソーシャルアプリを含め,iPhoneなどのデバイスと絡めたアプリケーションというのも1つの流れになっていますよね。ここで僕が面白いと感じているのが,Webサイトデザインであればデザイナーが前面に出てきたのが,ソーシャルアプリやiPhoneアプリになると,エンジニアが前面に出てくるシーンが増えてきていることです。今は着実に技術ドリブンのアウトプットが増えています。

結果として,これまでは,ユーザ→デザイナー→エンジニアという人のつながり方だったのが,ユーザに対して,デザイナーもエンジニアも対等のポジションにいるわけです。これは,2011年以降でも増えていきそうな予感がします。

森田:こういう動きに関しては2000年に多くの人が感じていた,何かが生まれるワクワク感が戻ってきたともいえるかもしれませんね。

栗田:この流れをさらに促進する意味でも,作って終わりではなく,作ったものを広めていく,その意識,その動きを大切にしたいですね。そのためには,きちんと評価できるメディア,ユーザを教育できるメディアの必要性を感じています。個人ではコンテンツをコントロールすることが難しい時代でもあります。

2011年は,改めて言語力に磨きをかけて,何が良いのか,何が正しいのか,もう一回立ち返る良い機会になりそうな年になるのではと感じています。僕らは小さなメディアなのでが,そうした意識を持ってやっていければと考えています。


この座談会は,2010年12月に収録されたのですが,会話の節々から聞こえてくるTwitter,ソーシャル,この2つというのが今のWebを象徴していることを改めて認識できた座談会でした。一方で,栗田氏が述べたように「伝えるメディア」⁠ユーザを教育するメディア」というのが次のフェーズで求められていると思います。2011年は,その2つに着目しながら新しいWebの展開に期待しましょう。

今回の座談会はワンパクラウンジにて収録しました

今回の座談会はワンパクラウンジにて収録しました