キーパーソンが見るWeb業界

第19回 建築から見るWebと空間のデザイン

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何が“価値”なのか

阿部:ちなみに齊藤さんのお仕事を見ていると,内装設計やインテリアデザインという枠に捕らわれていない感じがするのですが,たとえばこういったお店全体をトータルでコーディネートする意識はありますか?

齊藤:もちろんあります。その部分をゼロにはできません。商品と空間をどうつなぐのか,たとえば,収録を行っているここ(アトリエイノーヴェ)の場合,商品のディスプレイの横に工房を配置しています。つまり,どういう商品を扱っていて,どうやってつくっているかまでをきちんと伝える意図があるわけです。つまり,作り手側も,自分たち自身がコンテンツになる意識を持っていますね。

阿部:そういう考え方というのは,やはり齊藤さんご自身の経験に基づいているのですか?

齊藤:漠然と考えているところはあるのですが,体系立てたものはまだないです。強いて言えば,大学時代のデジタルコンテンツを学んだ経験から,データベースの概念を知っていることが影響していると思います。

Webってなんだろうって考えたときに,0と1の考え方,そしてデータベースの構造を思い浮かべられるのは自分の強みだと思います。

たとえていうなら,昔の日本では,金持ちは蔵を持っていて,お金があればあるほど蔵が大きく,中に詰め込めるものも増えるわけです。それが価値でした。

今はそうではなくて,蔵から何を持ってくるかに価値があるわけで,Webで言うところのキュレーションだったり,検索だったり,その部分の付加価値が求められています。

店舗も同じで,作る人もいる人もいて,素材もある。あとはどう売るかが大切なわけです。

長谷川:価値の意味に関して,1つの例で言うと,私は過去に某大手のアルバイト募集サイトを請け負ったことがあって,そこではユーザ調査からサイトデザインを行いました。それまでのサイトは,⁠職種」⁠場所」⁠時給」など,作り手側が考えたスペックでデザインされていたのですが,実際に対象となるユーザ,つまり学生にアンケート調査をすると,そもそもそういった項目から自分で選ぶことが少なくて,ほとんどがわいわい,気軽にアルバイトをしてみたいという答えが返ってきました。

この調査でわかったのは,まず探しはじめのきっかけをどこに置くか,それが大事で,その上で,職種なり場所なりスペックを細分化していくことでした。つまり,ユーザ自身が探すことに期待せず,ある程度こちらから価値観を提案してあげた上で,視線を変えながら判断してもらうことが大切だったわです。

先ほどの齊藤さんの蔵の話と同じで,蔵の大きさだったり見た目ではなく,中から何を持ってくるか,ユーザが良いものに出会うようにする検索の道筋が大切だということがわかったのです。

情報設計は価値のコントロールを行うこと

齊藤:それは道筋の多さが重要ということですか?

長谷川:(広告メディアとしての)価格に応じた効果が出るように道筋を決めたので,結果として発見の道筋を増やすことがWebにおける価値,重要性につながっています。

森田:それでも,たとえば,⁠雑誌を例に)全部が見開き広告になれば価値の意味がなくなりませんか? 全部が同じ価値のものだらけになってしまうわけで,意味がなくなりませんか?

線形導線からWebエコシステムの流れ

長谷川:そのとおりで,全部が同じ価値になるのは(ビジネス上)良くないわけです。ですから,価値の違いを出す編集,それも情報設計の観点から考えていきます。誤解を恐れずに言えば,高い価値の道筋だけではなく,低い価値,すなわちそれなりの費用に応じた価値というのも意識的に設計していました。

情報設計の本質は,効果のコントロールであり,意図を反映することになります。

齊藤:Webの場合は,線形導線を作るかどうか,から始まり,その先をどうするかという風に考えていくのですか?

長谷川:そうですね。Webの場合は,もともと1つのページで複数の使われ方があることが前提となるため,ページの単位ではなく利用者の行動フローを複数考えてそれをページデザインに反映させていく,という方法がとられます。その際,建築の世界のアプローチであるクリストファー・アレグザンダーのパターンランゲージ※(パタンランゲージ)アプローチなどを参考にしています。

※パターンランゲージ(パタンランゲージ):建築家クリストファー・アレグザンダーによって提唱された設計手法。単なる機能の積み上げではなく,複数の機能を同時に実現するようなモノやコトのデザインにおいて,成功事例をパターン化して再利用する方法。オブジェクト指向プログラミングなどでは「デザインパターン」として応用されている。

齊藤:これまで,Webはトップページから入って目的のページを目指すという設計がなされているように感じましたが,最近は,⁠検索システムの向上もあり)途中から流入することも意識しなければなりません。

長谷川:1つのWebサイトが小さければ線形でも問題ありませんが,大きくなればそうもいきません。最近は,1つ1つのWebサイトではなく,ネット全体を生態系と捉える「Webエコシステム」の考え方が主流になっています。たとえば,Amazonなんかは,ユーザのほとんどがトップページから入りませんし,末端のページをどう作るか,さまざまな流入経路とその文脈を考慮した動線の作り方が求められます。

阿部:齊藤さんは店舗設計をするときに,導線設計はされますか? また,それはどのような考え方で進められるものなのでしょうか?

齊藤:一般的に建築の分野では「動線」という表記をします。たとえば,洋服を扱う店舗であれば,これまでは,まずショーケースを配置しました。それからディスプレイで実際に触らせて,価格の安いもの,高いものの順に配置し,線形に回って全部でタッチさせる。最後にレジに向かわせる動線です。

最近はそうではなくなってきていて,ショーケースやテーブルを分散させる設計が増えています。これは,重心が分割されていて,平面の設計ルールが変わっていると言えますね。とくに,ディスプレイやデバイスが増えてからそれが顕著になっています。

阿部:店舗へのインタラクティブなメディアの挿入でしょうか。

齊藤:ええ。そして,今はその先の考え方が生まれてきていて,商品はそのままに,背景を変える設計が考えられています。たとえば,店舗内にパリの街角をイメージさせたり,自然の中をイメージさせたり。それを時間軸で変えられるようにするものです。

おそらく,こういう方向性に進むと,不動産の価値が変わりますね。これまでは,路面店,駅前などに価値が集中していたのが,もっと広い場所であったり,空間を活用できる場所に新たな価値が生まれてくるわけです。

阿部:いわゆるデジタルサイネージを応用した設計ですね。僕もこれまでいくつか扱ったことがあるのですが,齊藤さんほど理解されている建築側の担当者というのはほとんどいなく,結果として,インタラクティブなものが後付になってしまうようなケースがありました。本来ならば,ビルであったり,建築物であったり,そこを含めたトータルで考えていかなければならないはずです。

長谷川:サイネージについては,これまで,⁠探す方法がなかったために)人が集まることに価値があったため,そのアプローチで考えられてきたのが,デジタルサイネージになり,デバイスやWebが進化したことで,探しやすさに対して,実現したいコンセプトが合わせやすくなってきました。それが先ほどおっしゃった不動産の価値の変化なのではないでしょうか。

齊藤:その点でいうと,初めからサイズを決めてできることが決まってしまうのはアウトですね。今では,逆に死んでいる場所,デッドスペースでさえ,活用できる可能性があります。たとえば,地下,1F,最上階があったときに,地下にデバイスを置き,最上階をストレージにすることで,1Fの価値とは異なる,新しい価値が生まれてくるわけです。

著者プロフィール

馮富久(ふぉんとみひさ)

株式会社技術評論社クロスメディア事業室室長。

1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属され,2004年1月に編集長へ就任。同2004年9月に『Web Site Expert』を立ち上げ,同誌編集長に就任,現在に至る。その後,2008年9月に設立したクロスメディア事業部(現クロスメディア事業室)に配属。現在,社外活動として電子書籍を考える出版社の会の代表幹事やWebSig 24/7のモデレーター,TechLIONプロデューサーなども務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワード他各賞審査員などの経験を持つ。

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