キーパーソンが見るWeb業界

第19回 建築から見るWebと空間のデザイン

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先入観を壊すこと

阿部:新しい価値を生み出すこともそうですが,たとえば,ユーザ側であったり,発注者側に間違った,あるいは強固な先入観がある場合,今のような話が難しくなったりしませんか?

長谷川:その誤解を紐解くことも,設計の1つになりますね。

齊藤:たとえば,キッチンを設計する場合,調理をする主婦の方の意見で「コンロは4個口欲しい」といったケースがみられることがあります。まさにこれは先入観で「多いほうがより快適なキッチンスペースになるのでは」という思い込みから生まれるものです。ただ,目的を考えた場合,その4個口はほんとうに必要かどうかを考えなければいけないですし,⁠設計者側が)それをきちんと理由とともに説明して2個口に減らすという提案も求められますね。

森田:それはそうなんですが,僕は違う意見です。4個口あるという数の意味もあるように思っていて,実際は2個口しか使わなくても,4個口あることで2個の余白が生まれる意味があるのではないでしょうか。心理的余裕というか,使わないことの価値もあるように思います。

阿部:シナリオ設計。仮説と検証のようなものですね。実際に使うシーンを想定し,一度極端に振り切った考え方も入れた上で判断することは大切です。

ただ,最近のWebのデザインでは標準とかデファクトスタンダードを意識する傾向が高まっているように思っていて,面白みに欠けている印象があります。何かしらチャレンジしないとつまらないですね。

齊藤:それは意外です。Webのクリエイターにもスタンダードを前提に物事を考える人っているんですか?

阿部:けっこういますよ。

長谷川:強いて言うなら,デファクトスタンダードの良い点は,ベストプラクティス,世の中の人が迷わないっていう点です。

リアルとWebの組み合わせ

阿部:これまでも話してきたように店舗設計であったり,デジタルサイネージであったり,最近はリアルとWebの組み合わせが本当に増えてきました。一方で,僕達提案する側としては,まだまだハードルが高いですよね。実際のオペレーションにまで足を踏み入れられないなど,リスクがあります。

森田:何より,リアルとWebを融合させた場合の,先の効果を言えない点が難しいです。単純にクオリティが良いといっても,その効果がどのぐらい上がるのか,見えづらいです。

長谷川:たとえば,店舗の例で言えば,フラッグシップ店であれば,そもそも売上などの効果は第一要件とは限らない場合もあります。つまり,新しい試み,新機軸であるといったことが優先されたりもするわけです。そこは経営判断の問題にもなりそうです。

阿部:本来はそうなんですが,コストをかけた場合,どうしても費用対効果が求められるので,そのあたりの啓蒙活動はまだまだ必要ですね。

プロジェクト体制の作り方

長谷川:今の効果の話やコストの話にもつながりますが,人材が足りないことも問題だと感じています。建築の場合,設計と施工が分かれていて,責任の所在やリスクが分散されています。

ところが,Webの場合,企画とインタラクション(実装)が同じケースが多く,プロトタイプを作るにしても,同じ人がすべて担当して,責任も集中してしまいます。

齊藤:それは良い点では?

長谷川:すべてをコントロールできるという点では,良いですね。ただ,企画と実装の切り分けで考えると,形にする部分との切り分けがあっても良さそうです。

森田:そのあたりは,組織構造でも難しいですよね。たとえば,1つの会社で考えた場合,組織立ててプロジェクトを進めると,同じような仕事ばかりになります。たとえば,Webであれば,キャンペーン担当とコーポレート担当のように分かれます。

ワンストップでやることは良い一方で,代理店抜きで案件を扱うと,御用聞きになってしまう場合もあります。

そこで,プロジェクトマネージャーという職種が求められるのですが,Webの場合,単なる進行管理であったり,議事録だけを書く人になるケースがあります。このあたりが問題点の1つではないでしょうか。

長谷川:本来であれば,プロダクションマネージャーとプロジェクトマネージャーを切り分けて,実装側にも発注側にもダメだしできる人材が必要ですね。そして,そこに責任も担保させます。

齊藤:今後は,そういう人に発注していくような方向も見えていますね。

森田:結局,プロジェクトの流れとお金の流れは違うにもかかわらず,一緒に考えてしまって,結果として進行管理に終われてしまいがちです。とくにWebの場合,広告業界の流れもあるため,お金の流れは予算とコストで考えられてしまうので,どうしても受ける側のリスクが高くなりますね。

若手への期待

齊藤:とは言っても,最近は発注者権限のある人が,Web側だったり,クリエイティブ側の世代に近づいている傾向もあります。ですから,次の世代に期待をしたいところです。

阿部:あえて言うなら,Webの場合,僕達30代がまだまだ元気で目立ってしまう部分があるので,ぜひ20代の台頭を待ちたいですね。⁠Web Site Expert』でデザイナー・クリエイターアンダー30特集とか,ぜひお願いしたいです(笑)

齊藤:建築の世界は40代が若手と言われていますが,メディア側であえて20代をフィーチャーする傾向がありますから,そういうのもおもしろそうですね。

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撮影協力(会場提供⁠⁠:アトリエイノーヴェ

今回は,建築という業界から見たWebやネットについてお話いただきました。ネットやデジタルの普及が進むに連れ,リアルとWebの垣根がなくなりつつあります。その中で,Web業界の人たちはどう考え,同働いていくべきか。また,新しい価値の作り方について大変参考になる話だったのではないでしょうか。そして,次の世代の台頭にも期待したいですね。

著者プロフィール

馮富久(ふぉんとみひさ)

株式会社技術評論社クロスメディア事業室室長。

1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属され,2004年1月に編集長へ就任。同2004年9月に『Web Site Expert』を立ち上げ,同誌編集長に就任,現在に至る。その後,2008年9月に設立したクロスメディア事業部(現クロスメディア事業室)に配属。現在,社外活動として電子書籍を考える出版社の会の代表幹事やWebSig 24/7のモデレーター,TechLIONプロデューサーなども務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワード他各賞審査員などの経験を持つ。

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