疾走するネット・ダイナミズム

第4回 変貌するモバイル市場――ドコモ方式の終焉

この記事を読むのに必要な時間:およそ 2 分

「ケータイ飽和時代」のビジネスモデル

ゴールデンウィーク直前の4月25日,そのドコモが2008年度の決算発表を行った。結果は減収増益だ。利益は確保したものの売上の落ち込みは避けられなかった。一般に番号ポータビリティ制度によるチャーンアウト(顧客流出⁠⁠,ARPU(ユーザあたりの収益)の減少,などが要因といわれている。これも正しい分析だが,その背景にはやはり携帯市場の飽和という根本的な問題がある。子供や高齢者など未開の市場があったといわれているが,携帯電話の歴史はすでに20年以上(1970年の万博での電電公社の展示を含めれば30年以上だ⁠⁠。当時のユーザが自然とシニア世代にシフトしてきている。子供の市場も本質的には少子化問題が横たわっており,ARPUを上げるにしてもフィルタリング問題など簡単にはいかない。企業支給の端末やデータ通信などに特化した2台め3台めという市場が残されているが,全体的に見れば国内市場は成熟したといってよい。

ドコモは決算発表前後に,開発プラットフォームのレイヤ分離,無線LANやフェムトセルによるホームエリア構想,全国8ヵ所の地域ドコモの吸収合併を発表している。このうち開発プラットフォームの分離はグローバル化戦略のひとつとされている。開発プラットフォームについては,すでにGoogleの提唱するAndroid構想に賛同するなど,オープン化に向けた取り組みを発表しているが,Linuxベースのプラットフォームは,ウェブ連携やユーザインターフェースについてアドバンテージがあるものの,肝心の電話通信機能,とくに高周波デバイスの制御,リアルタイムの変/復調処理など,ミドルウェアより下のレイヤでパフォーマンスが出せるのか,作り直しになるなら蓄積のある既存チップとドライバの組み合わせのほうが楽だ,という現場レベルの反応もある。

しかし,LTE(ドコモでは3.9Gと呼んでいる規格⁠⁠,4Gといった時代のグローバル戦略,海外市場に出なければならない国内事情(市場飽和)から,ドコモが持つ通信網部分のプラットフォームとオペレータ(端末メーカやサービスプロバイダ)が使うプラットフォームをより明確に分離する必要がある。開発プラットフォームのレイヤ分離は,地味な発表でではあるが,Androidの採用やiPhoneキャリアに名乗りを挙げたといったことより,重要な意味を含んでいる。通信キャリアとしての強みは「網」を持っていることだ。強化すべきは他社が容易に構築できない通信インフラだ。国内市場の限界が見えてきて,ルールも変わってきた現在,それ以外のハードウェアやサービスを囲い込む必然はもはやない。移動体通信網を確たるものとして維持し,その端末供給やサービス提供の部分については,ベンダをもう一方の「顧客」として世界に開放する。過去にドコモが海外進出で失敗したのは,あまりに日本方式をそのまま移植しようとしたからだ。ネットワーク部分はうちがやるから,端末やサービス,ビジネスはいっしょに考えよう,という戦略に転換しようとしている。

もっとも,これは通信事業者としてはむしろ自然な姿のはずだ。ようやく日本もその流れに向かい始めたともいえなくもないが,市場の流れはドコモのような巨大企業も変えていくのだ。ただし,この流れに乗ってドコモが再生するための鍵が2つある。それは,広い意味でのリストラが必要なことと一定の時間が必要なことだ。⁠リストラ」は一般的なクビきりの意味だけでなく,文字本来のrestructuring(再構築)の意味だ。すでに100%子会社である地域ドコモを消滅させ存続会社をドコモ本体とする合併案を表明している。これは,ショップや拠点の縮小というより,無駄な組織や機構を排除する意味が高い。人員計画など,ドコモは未定としているが,子会社とはいえ独立した企業の代表取締役や役員だった人たちが,支社長以下の役職になる可能性もゼロではない。スピード経営という意味では組織改革をすばやく行う必要があるが,企業の社会的責任を考えるとあまりにハードランディングな改革は問題も多い。とくに大企業になればなるほど。

決算発表前後には,iモードの立役者といわれる夏野執行役員の退職や中村代表取締役の辞任まで取り沙汰されている(2008年4月28日現在,公式発表はない⁠⁠。外部からみれば動きが緩慢に見えるかもしれないが,ドコモをとりまく環境は待ったなしの状態だ。

著者プロフィール

中尾真二(なかおしんじ)

1961年生まれ。ハードウェア・コンピュータ技術者からアスキーに転職し,およそ10年ほど技術書籍・雑誌の編集に携わる。その後,オライリー・ジャパンで5年ほど企画・編集に従事。編集長時代に当時の日本法人社長とケンカしてクビに(笑)。現在はRBB TODAY,レスポンス他でニュース,コラムなどを編集・執筆。