疾走するネット・ダイナミズム

第6回 ネット企業か通信キャリアか?――ソフトバンクの進む道

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Googleとは別の道(レイヤ)を狙う

KDDIやドコモは,インターネットとの接続がビジネスとして無視できなくなったとき,Googleとの提携を考えなければならなかった。単純なサイト接続はすでに実現していたし,ウェブサービスと同等の各種サービスもメール機能をはじめ公式メニューその他で課金モデルが機能していた。必要なのは新しいビジネスモデルとしての広告トラフィックつまり,検索連動型といわれる広告収入だ。Googleのビジネスモデルは,ウェブ全体をあたかも自社メディアとしてそのトラフィックに広告モデルを適用することだ。メールやスケジューラやその他のサービスを提供するのは,トラフィックを増やし,検索をしてもらうために必要な「コスト」でしかない。Googleにとってウェブ上で提供されるサービスやサイトはなんでもよい。検閲が入ろうとも検索できないよりはマシというのはそういう意味だ。

これに対して,ソフトバンクはヤフーを持っている。しかもヤフーは,日本においてはGoogleの検索よりシェアが高い(米国でのGoogle,Yahoo!ほどの大差ではないが⁠⁠。ソフトバンク携帯にY!ボタンが搭載されたのは必然なのだ。しかもその見ている先はウェブだけではない。ウェブだけを見たら巨人Googleとの勝負は避けられない。簡単な相手ではないし,ひょっとするとすでに勝負がついているかもしれない。とくに米国・英語圏で考えたらなおさらだ。ソフトバンクは日本で強いヤフーを生かすように,中国やヨーロッパの市場を重視した。決算発表でも日本企業や日本市場での買収やグループ拡大からいまは中国,アジアにシフトしていると述べている。アリババ(B向け調達サイト)やシャオネイ(中国最大のSNS)の株を取得し,主要株主となったのがその代表例だ。

加えて,ボーダフォン,チャイナモバイルと共同でJoint Innovation Lab(JIL)という会社を設立している。インターネットではないが,ヨーロッパと中国,そして日本の携帯キャリア3社が共同でサービスプラットフォームの研究を行うとしている。現段階では事業の詳細などは発表されていないが,これら3社の契約数は7億に達するという。7億あればオープンなネットワークでなくても十分にスケールするし,巨大SNSがクローズとはいえないのと同様に,オープンとかクローズとかの議論は意味をなさない(まあ,ネットワークそのものはトポロジー的にすべてクローズなのだが⁠⁠。この7億というユーザを背景に,音声,データを含む移動通信サービスのビジネスを考えられるわけだ。インターネットへのコンテンツ提供に積極的でない企業でも,7億の課金ユーザ網への提供ならハードルが低いともいう。

Joint Innovation Labのユーザ分布
ソフトバンク⁠株⁠2008年3月期決算説明会資料より

Joint Innovation Labのユーザ分布

研究するプラットフォームは,3社の通信網の上位レイヤのAPIなどの共通化を担うものになるはずだ。端末ハードウェアでいえばミドルウェアより上のレイヤで,さまざまなサービスやアプリケーションを開発しやすくするものだ。これがうまく機能すれば,携帯電話網をインフラ(インターネットでいえばレイヤ2あたりまで)とした新しいサービスネットワークを構築できることにもなる。もちろん,既存のインターネットとの接続は重要な要素となるが,ビジネスモデルという点で独自の課金モデルという点で,Googleのアドネットワークに依存しないメリットがある。このときの端末として,前出の「インターネットマシン」⁠のような端末)が発展したものになるのかもしれない。

米国の700MHz帯の事業免許は,今後Googleがインターネット以外の世界に拡大していくために重要だった。免許取得ができなくなった現在,Verizon Communicationsにオープン化を徹底するよう求めるとともに,Sprintらの合弁企業への出資や寄付などWiMAX事業への参入を表明している。Googleがこれだけ切望しているモバイルネットワークをソフトバンクはすでに持っているわけだ。考え方によってはMicrosoftよりGoogleを追撃できるポジションにいる。今後の動きに目が離せない。

著者プロフィール

中尾真二(なかおしんじ)

1961年生まれ。ハードウェア・コンピュータ技術者からアスキーに転職し,およそ10年ほど技術書籍・雑誌の編集に携わる。その後,オライリー・ジャパンで5年ほど企画・編集に従事。編集長時代に当時の日本法人社長とケンカしてクビに(笑)。現在はRBB TODAY,レスポンス他でニュース,コラムなどを編集・執筆。