Webデザイン業界の三位一体モデル

第5回クルーソー 相川知輝(前編) 自分の居場所を決めた、成功体験

Webキャンペーンに関わるキープレイヤーである、広告主、Webクリエイター(制作会社⁠⁠、広告代理店、の三者のそれぞれの立場をインタビューすることで、これからのWeb広告/Webデザイン業界の未来を探るこの連載。5回目は代理店の立場からクルーソーの相川知輝さんに登場いただいた。

相川さんは、ブログパーツ、Twitter、Ustreamと次々と新しいツールを企業サイトに取り入れた仕掛人である。

転身後、ブログで行動ターゲティングの記事を書きまくるほどに

新野:

はじめに、今のお仕事に至るまでの経歴を聞かせてください。

相川知輝さん
相川知輝さん

相川:

僕も新野さんの連載を、かなり読んで準備してきたので(笑⁠⁠。きちんと全部お話しようとすると長くなっちゃうのですが。

実は、学生時代に2回留学経験があるんですね。1回目は1998年にアイルランド、2回目が2000年に韓国なんです。僕の中で1998年というのはWeb以前で、2000年というのはWeb以降なんですよ。

どういうことかというと、留学の期間の中で仲良くなった人たちと連絡先を交換したりするのですが、1998年のころは連絡手段のほとんどが手紙と電話なんですね。しかし、手紙と電話の人たちとはなんとなくもう疎遠になってしまいました。

それに比べて、2000年のときはちょうどその頃大学生が一斉にWebを使い始めたころだと思うんです。2回目の留学で仲良くなった人たちは、メールアドレスの交換をしていて比較的今でも交流があります。

こういうコミュニケーションのあり方って面白いなと思っていて、Webとコミュニケーションみたいな仕事っていいかも、という想いがでてきたんです。

就職先としてWebの制作会社という選択肢もあったのですが、結果的に大手移動体通信の会社に入りました。

もうすこしインフラ的なことをやってみたいと思っていたのと、Webで起きていたことが、携帯の中にインターネットが入ってきて同じようなことがおこるんじゃないかという期待感があり、それってすごい面白そうで、入社を決めました。

新野:

当時もうモノクロのi-modeサービスが始まってましたものね。

相川:

僕が入社した年は、ちょうど第三世代携帯の初代端末が発売された年だったんです。これから通信速度が早くなって、もっといろいろできるかもねって感じで。

でも、入社してみて分かったんですが、コンテンツの開発とか内容については、実はキャリアはインフラ屋さんなのでそういう仕事は殆ど無いんですね。僕の勝手な勘違いだったのですが(笑)

新野:

その後、Webの業界にはどういう経緯で入られたんですか?

相川:

ちょうど、自分と勤務先での仕事内容との齟齬が明確になりはじめた時期に、日本にSNSがでてきたり、ブログが流行り始めたりしていて、またWebの可能性が見えてきたころでした。そんななか、PCのwebをやってみたいなと再度思ったんですね。

ちょうどその頃、新野さんとも出会ってますしね。そこで立ち上がったばかりの、とあるインタラクティブエージェンシーに入社しました。

新野:

そこでは、どんなことをされていたんですか?

相川:

最初は、あんまりプロモーションサイトの仕事は担当していなくて、SEOの販売から入って、リスティング広告の販売を担当しました。

この2つは効果測定と密接に結びついているので、アクセス解析も担当するようになり、その流れからユーザビリティ調査をやったり、と。

あと、リスティング広告で効果がでてくると、もう少し手広い手法が求められますので、そこからバナー広告もお仕事として扱うようになり、メディアの領域まで手がけるようになりました。

新野:

その分野の立ち上がりの頃だから、勉強しやすいですよね。今の状況で、そういうルートでいろいろな分野を順に学んでいくって、もう現実的じゃないんじゃないでしょうね。

相川:

そうですね、特にSEOはほんとに業界が立ち上がったばかりのころで、いろんな意味で勉強しながらできたよい時期でした。

その後、メディアプランニングの仕事を中心に業務するようになったのですが、その頃、自分のブログで行動ターゲティングのことを書きまくってました。

新野:

行動ターゲティングですか。

相川:

その頃、会社が行動ターゲティングに力を入れていたんです。

でもやっぱり新しい分野の試みなので、クライアントに説明して説得するのにすごく苦労しました。

新野:

ああ、新しいことの提案はなかなか骨が折れますよね。

「必要性は感じます、でも現状やらなければ行けないことを優先したいので、また余裕ができたら新しいことにチャレンジしたいですね」とか言われそうですね。

相川;

それ、一番多い答えですね(笑⁠⁠。

そんなことを半年くらい続けてきて、その後はサイト制作やプランニング、分析、コンサルティングといった、現在につながるお仕事をやりはじめた、という経緯です。

その後、クルーソーという会社に籍を移して現在に至ります。

新野:

それはまた、広範囲だ!

でも、その守備範囲の広さが相川さんの強みなんでしょうね。なかなかそこまでできる人っていうのは、聞いたこと無いですが。相川さんに依頼した広告主は、結構楽できますね(笑⁠⁠。

相川:

そうですかね(笑⁠⁠。

でも、そこが僕の存在意義かもしれませんね。

自分の居場所を決めた、成功体験

新野:

2000年くらいに、Webが面白くなりそうだということがきっかけで業界に入られた訳ですが、SEOとかリスティング広告とか、分析とかから入ってきて、今ではサイトの企画やコンサルティングをやっているというのは、僕とは随分違うルートですね。

僕の場合は、2000年当時、⁠Flashの新しいバージョンが出てこんな面白いサイトが作れた!」とか、⁠海外のサイトで、めちゃめちゃCoolなインターフェースがあった」とか当時はまず表現の面白さに惹かれてやってきてここまでたどり着いた感じなんですよ。

相川:

ああ、それは新野さんがクリエイティブ系の人で、僕はどちらかというと技術だったり、マーケティング発想だったり、という違いなのでしょうね。

ぼくは、そういうサイトは全然見てなかったんですよ。企業のサイトとかもあんまり興味なかったですね。むしろ、新しいサービスに興味があって。

例えばICQが出てきたぞとか、エミュレーターをどうする、とか、P2Pってなんだ、みたいな。比較的新しいものはなんでも試していて、個人でリスティング広告を出したりして楽しんでいました。

新野:

面白がるところが、全然違ってますね。自分には無い側面なので。

相川:

そういう経緯があり、また元々集客業務が多かったので、キャンペーンのプランニングを行う時も面白いサイトを作って人を呼ぼうっていうところがスタート地点になるのではなくて、限られた広告予算のなかで1クリックの単価をいかに押さえて効率化できるかという所に先に頭が行っちゃいますね。きっと出身の違いでしょうね。

新野:

といいつつも、相川さんの普段のお話を伺っていると、メディアのことだけでなくて、ちゃんとクリエイティブな部分にも興味をもってますよね。意識されて、そうしているんですか?

相川:

やっぱり、憧れる対象になるような人が近くにいると、影響を受けるからでしょうね。

前の会社では、メディアの立場の尊敬できる人がいた一方で、クリエイティブな凄い人もいて、どちらもそばで仕事を見ていて、凄いなあって。

どっちもやってみると面白いですよ。でも得意なのは最適化の方ですけどね。

新野:

僕も、広告賞をとれるようなクリエイティブ的にすごいことをやるだけでなくて、たとえ地味でも、その広告のおかげでアクセスが増えて認知が上がったとか、商品が売れたっていうような結果がちゃんとついてくるようなことも大事にしたいって思いはずっとあって。

少し前に担当したIllumeっていう化粧品ブランドで、特に斬新なことをしている訳ではないけど、その商品ターゲットのことを丁寧に考えて作ったサイトがあるんです。

それがアクセス数はもちろん、売り上げへの影響もじわじわと上がってきてて、そういうのって凄く嬉しいんですよね。

相川:

結果が見えるってすごく嬉しいし、成功体験って大事ですよね。

自分が、この業界で続けてやって行こう!と想いを決めるきっかけになった成功体験があるんです。

ある高級料理店のサイトのコンサルティングを担当して、オンラインからの予約を増やしたいっていうオーダーだったんです。提供したのは、SEO、リスティング、アクセス解析、ユーザビリティ調査、若干のサイト修正を行って1年で予約を3倍に増やしたんです。毎月レポートを出すのが凄く大変でしたけど、楽しかったですね。

新野:

広告業界も、代理店への支払いを成果報酬にしたらどうだっていう意見もありますよね。

成果報酬制度が広く導入されるようになってきたら、SEOとかリスティングとか、すぐに効果に現れるようなことがもっと脚光を浴びて、みんなそっちばかりを一生懸命やるんじゃないかな。

相川:

メディアと、クリエイティブの関係って難しいですよね。成果報酬が導入されたとしても、結局メディアの効率化は一面でしかなくって、やっぱりクリエイティブの差が結果をわけると思います。それに、メディアバイイングの機能だけに特化していくと、海外のメディアバイイングエージェンシーがいい例だと思うのですが、バイイングサイドばかりみていると、やがては単なる価格競争の世界になっていって立ち行かなくなってしまうので、クリエイティブの重要性というのはかわらないと思っています。

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