いま、見ておきたいウェブサイト

第21回U2 LIVE FROM THE ROSE BOWL GLOBAL LIVE WEBCAST、The Red Bulletin - Inside the World of Red Bull: Print 2.0、Big Warm-up : Lands' End

朝晩めっきりと冷え込みが厳しくなり、そろそろ年賀状の準備でも始めようかと考える今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。

全世界同時プロモーション

『U2 LIVE FROM THE ROSE BOWL GLOBAL LIVE WEBCAST』
(YouTube - U2official's Channel)

2009年10月25日、世界的なロックバンドであるU2とYouTubeのコラボレーションによって実現した、全世界規模の無料ライブ配信がYouTubeのU2公式チャンネル上で行われました。

図1 多数のアクセスにもかかわらず、配信された映像は非常に美しい
図1 多数のアクセスにもかかわらず、配信された映像は非常に美しい

アメリカ・ロサンゼルスのRose Bowl Stadiumで開催された『U2 360° TOUR』の模様をまるごと放送するという、YouTubeにとっても初めての試みは、アメリカ、日本、イギリス、フランスなど、合計16か国にライブ配信されました。

図2 ライブ配信終了後はすぐ再放送が開始された
図2 ライブ配信終了後はすぐ再放送が開始された

U2のパフォーマンスの素晴らしさはもちろんですが、一度も途切れることなく中継されたライブ映像の質の高さや、生中継の終了直後に再放送が開始されるなど、YouTubeの配信能力の高さを改めて感じさせるイベントとなりました。この2時間21分のライブの模様は、『U2 on YouTube - Live from the Rose Bowl』としてYouTube上で現在公開されています。

“一体感”を作る仕組み

インターネット上でコンサートのライブ配信が行われたのは初めてではありません。しかし、今回のU2のライブ配信では、一人で視聴しているにもかかわらず、誰かと一緒にライブを楽しんでいるかのような一体感を感じるライブ配信となりました。

世界的な人気を持つU2のライブというのもその原因の一つですが、個人的にとりわけ効果的だったと感じたのは、サイト内に用意されたtwitterの投稿画面です。

図3 放送中のtwitterへの投稿は途切れることがなかった
図3 放送中のtwitterへの投稿は途切れることがなかった

生中継が行われている時間には、#u2webcastというハッシュタグ(先頭に#を付けた単語で投稿されたつぶやきのテーマを表現する)を使ったtwitterの投稿が、ウェブサイト上に滝のように流れていきました。その世界中からの投稿を目にすることで、他の誰かと生中継を同時に体験しているという共有感と一体感が生まれました。

今回のイベントでは同時に1000万人のユーザーが視聴したと言われており、またこの直後にもアメリカのロックバンドFoo Fightersが発売するベストアルバムのプロモーションとしてライブ配信を行っています。時間と場所を一気に飛び越えるインターネットの特長を生かした、世界的規模でのプロモーションのひとつの方法として、一般的となる日も近いかもしれません。

雑誌の新たな可能性

『The Red Bulletin - Inside the World of Red Bull: Print 2.0』

Red Bullがサポートしているスポーツ活動全般を扱った広報誌「The Redbulletin」とAR(Augmented Reality:拡張現実)技術を融合させた"Red Bulletin Print 2.0."のウェブサイト、⁠The Red Bulletin - Inside the World of Red Bull: Print 2.0』です。

図4 広報誌とARを使った"Red Bulletin Print 2.0."
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"Red Bulletin Print 2.0."は、⁠The Red Bulletin」を用意(持っていない場合はウェブサイト上で公開されているPDF形式の冊子を実際に印刷する)し、ページに用意された"Bull's Eye"と呼ばれるマーカーをウェブカメラで認識させることで、内容に関する映像が流れるという仕組みです。ウェブサイト内ではその流れを ビデオで紹介しています。

図5 実際にRed Bulletin Print 2.0.を試している映像

実際の映像では、紙の上では決してできない表現を見事に実現しています。AR技術を使うことで、これから雑誌にどんな表現方法を加えられるのかと考えると非常に興味深いものがあります。

インターネットをどう取り込むか

長年続く出版不況の影響を受け、2009年に入ってからも 休刊・廃刊となる雑誌が後を絶ちません。その理由の一つとして、⁠インターネットを経由して、ユーザーが安価で手軽に情報を手に入れることができる時代となった」ことを否定することはできません。

しかし、⁠雑誌の休刊・廃刊の理由のすべてがインターネットのせい」とすることはできません。実際にインターネットでは手に入らないモノを提供したり、ウェブサイト以上の体験・価値を読者に提供することで、しっかりと売り上げを伸ばす雑誌も少なくありません。

今回の「The Red Bulletin」の試みでは、インターネットで使われている技術とユーザーを上手に取り込むことで、これからの雑誌が生み出す新たな可能性の一端を見せてくれています。⁠紙⁠という枠に縛られることなく、雑誌がどう生まれ変わっていくのか。大きく変ぼうしていくこれからの雑誌の姿に期待したいと思います。

寒さを和らげる、あたたかい“心”

『Big Warm-up : Lands' End』

アメリカのカジュアルウェア通販会社であるLands' Endが、National Coalition for the Homeless(NCH:全米ホームレス連合)と協力して開始した「The Big Warm-up」プロジェクトのウェブサイト『Big Warm-up : Lands' End』です。

図6 厳しい冬を迎えるホームレスへコートの寄付を呼びかけている
図6 厳しい冬を迎えるホームレスへコートの寄付を呼びかけている
credit: firstborn

10月29日から11月30日まで行われるこのプロジェクトでは、ボストン市で昨年確認されている7,681人のホームレスが厳しい冬を暖かく過ごせるようにと、まだ着られる使わなくなったコートの寄付を呼びかけています。Lands' Endの店頭や地元のコミュニティに寄付されたコートは、NCHを通してホームレスの人々に配布されます。またコートを寄付してくれた人には、Lands' Endで新しいコートを購入した場合、20%の値引きが実施されます。

図7 プロジェクト内容を表現したビデオ

プロジェクトを広く知らせるために、ビデオの制作、E-mailやtwetter、Facebookのアプリケーションの利用、さらには"Big Warm Up Sweepstakes"と呼ばれるコンテスト(Blogで記事を書き広めてもらい、優勝者の地元の慈善団体に100着のコートを寄付する)の開催などを行い、現在ではアメリカ国内に存在する350万人以上のホームレスをも対象にしたプロジェクトとなっています。

情報伝達の次なるステップ

図8 ウェブサイトではインフォグラフィックが多用されている
図8 ウェブサイトではインフォグラフィックが多用されている

「Web標準」⁠アクセシビリティ」⁠ユーザビリティ」⁠ファインダビリティ」⁠情報アーキテクチャ」などに代表されるように、ここ数年の間にユーザーがウェブサイトで求める情報を素早く発見し、それに到達することが非常に容易になりつつあります。

しかし、到達した情報の中身がしっかりユーザーに理解されているかは別問題です。特にメディア特性として、長文を読むにはあまり適していないウェブサイト上では、単に長い文章やグラフなどの表で説明したとしても、ユーザーが理解する以前に読むことをあきらめて、そのウェブサイトから離れてしまうこともあるでしょう。

このウェブサイトでは、ホームレスを取り巻く現状やプロジェクトの推移など、多くの文章を使って説明するべき部分を、インフォグラフィックで表現しています。伝えるべき内容をしっかりとしぼり込み、情報を整理してから図案化することで、ユーザーへ内容をわかりやすく伝えることに成功しているのです。

もはやユーザーが求める情報に到達できるのは当然のことで、今後はその内容をいかにわかりやすく伝えることができるかがより重要になってくるでしょう。ウェブサイトにおけるインフォグラフィックという表現方法について、より深く考え実践する時期がいよいよ来ているのかもしれません。

というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。

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