いま,見ておきたいウェブサイト

第25回 2010年特別編 2009年の特徴,2010年の展望

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特徴その3 "見えないもの"をどう見せる?

ウェブサイトの制作で,⁠クライアント側の持つデータをどう使おうか」と考えるのは,制作側の永遠の課題でしょう。そのデータをウェブサイトのコンテンツとして有効に活用する方法はさまざまですが,2009年は目の前に形として見せにくいものを,上手に可視化(ビジュアライゼーション)したウェブサイトが目立ちました。

『Honda | インターナビ | INTERNAVI REALIZATION』

『INTERNAVI REALIZATION』では,ホンダの提供するカーナビゲーションサービス「インターナビ」のユーザーから集められた位置情報を利用したコンテンツが作られています。ただ単純に可視化するだけでなく,明確なコンセプトと組み合わせることで,データを美しい光の軌跡や臨場感を高める映像として表現することに成功しています。

図6 データの可視化とコンセプトの融合がコンテンツを生み出した

図6 データの可視化とコンセプトの融合がコンテンツを生み出した

credit: METAPHORSEMITRANSPARENT DESIGN?

『NAKANO QUEST | ナカノクエスト』

また次世代区政コミュニケーションツール『NAKANO QUEST』では,目に見えにくい政治家の活動・行動を可視化したことで,有権者の「政治家は何をやっているのか」という疑問を解消するだけでなく,政治家とのコミュニケーションの場を作ることに成功しています。

図7 政治家の見えにくい活動を見事に可視化した

図7 政治家の見えにくい活動を見事に可視化した

credit: 1-10design Inc.,実現ネット, TOCマーケティング研究所, ピコトン

2009年にはこのほかにも,情報をよりわかりやすい形で表現する"インフォグラフィック"という手法を前面に押し出したウェブサイト(例:『Big Warm-up : Lands' End(公開終了⁠⁠』など)も数多く登場しました。すでに「そのままのデータを見せてユーザーに理解してもらう」という時代は終わっています。可視化することで生まれる新しいコンテンツや,ユーザーに何らかの価値を与える形での可視化が,今後は求められていくのではないでしょうか。

特徴その4 不況から生まれたクリエイティビティ

2009年のウェブサイトで最も顕著だったのが,大規模キャンペーンサイトの減少でしょう。不況の影響を多分に受けた結果だと思われますが,そのような状況の中でもクリエイティビティを最大限に発揮して,成果を上げる素晴らしいウェブサイトも登場してきました。

『宅配ピザのドミノ・ピザ(ドミノオンライン本店)』

『宅配ピザのドミノ・ピザ』では,注文を受けてから配達までの様子を紹介する映像を配信することで,顧客の待ち時間を自社のプロモーションとして利用することに成功しています。今まで使われることのなかった空白の時間を,クリエイティビティで価値あるものに変換させたことは,非常に高く評価できると思います(なお私事で恐縮ですが,すでにドミノオンライン本店でピザ注文を4回行っております⁠⁠。

図8 待ち時間を価値あるものに替えた『宅配ピザのドミノ・ピザ』

図8 待ち時間を価値あるものに替えた『宅配ピザのドミノ・ピザ』

credit:ADK(agency),Bascule/Spoon.(production)

『We Choose the Moon: Celebrating the 40th Anniversary of the Apollo 11 Lunar Landing』

また,企業のビジョンや歴史などをテーマにしたウェブサイトも数多く制作されました。アポロ11号の有人月面着陸成功40周年を記念する『We Choose The Moon』では,歴史的な偉業の打ち上げから月面着陸までを追体験できます。"歴史"という他者が真似できないコンテンツを提供することで,自らの価値をユーザーに再認識させるというこの手法は,物事の価値について再考する機会となったこの不況の中で,特に効果的ではなかったでしょうか。

図9 40年前を再現した『We Choose The Moon』

図9 40年前を再現した『We Choose The Moon』

credit: Domani Studios

景気が回復しても,ウェブサイトの制作に潤沢な予算が組める機会はかなり少なくなるでしょう。一方で,予算以上の効果をもたらすウェブサイトへの要求はより高まっていくでしょう。その状況下で力強いクリエイティビティを発揮して,どのようなウェブサイトが制作されていくのか,今後も興味は尽きません。

2010年のウェブサイトを考えてみる

最後に,2010年のウェブサイトについて,少しだけ考えてみました。

世界的な景気後退の影響は,さまざまな分野に深刻な影響をもたらしました。2009年のウェブサイトを振り返ると,単なる予算規模という観点から見ても,潤沢な予算をつぎ込んで制作されたウェブサイトや,不況の影響の大きかった業界のキャンペーン系ウェブサイトが激減するなど,はっきりと目にわかる形で現れました。

そんな中で,もともと対費用効果が高いと言われるウェブという媒体に,クライアント側がより高い効果を求める動きが強まっています。また,ユーザーも以前のような単純な広告やプロモーションによって動くことが減り,単なる消費や購入ではなく,行動に対しての意味づけを求める姿勢が強まってきています。仮に2010年に景気が上向き,企業などの業績が回復したとしても,この流れは変わらないでしょう。

その結果として,Blog,SNS,Twitterへと広がるソーシャルメディアを中心に,顧客との深いコミュニケーションが重要視される時代を迎え,企業の求める結果とユーザーが求める思いを,"クリエイティビティ"で実現できるウェブサイトが強く求められていくのではないでしょうか。

クライアント側の要求を実現するための新たな視点や価値の創出に加え,ユーザーとのコミュニケーションをも両立させたウェブサイトをどうやって実現するのか,制作側では試行錯誤が繰り返されるでしょう。そのためにクライアントワークだけに頼ることなく,自らの持つクリエイティビティを生かして,新しい分野への道を切り開くことも必要になってくるかもしれません。

こうしたクライアント側,制作側,そしてユーザー側と,ウェブを取り巻くさまざまな周辺環境の大きな変化は,固定化しつつあったウェブサイトの定説を崩していきます。実際にウェブサイトを訪れるユーザーにとっては,⁠非常におもしろい時代になってきたな」と私は感じています。混とんとした時期を経てそれらが再構成された時,そこから生まれたウェブサイトを通じて,私たちは今まで味わったことのない体験をするに違いありません。

今年も新鮮な感動と未知なる体験を求めて,これから登場してくるウェブサイトに期待したいと思っています。

著者プロフィール

Lançamento(ランサメント)

国内外のウェブサイトを日々紹介する Blog『Lançamento』を運営する,自称“フリーランスという名の無職”。目指すは“エクスペリエンスデザイナー”(O'REILLY『Web情報アーキテクチャ』11ページ参照)。2008年の“ジェフの奇跡的な残留”を目の前で見たサッカー好き。