いま、見ておきたいウェブサイト

第110回The Future of Airline Websites、Pick the Hole Location Challenge、Audi USA

ようやく猛暑にも体が慣れ始めたものの、まだまだ真夜中の喉の渇きと寝苦しさを感じる今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。

未来の航空会社のウェブサイト、見せます

The Future of Airline Websites

アメリカ・ニューヨークを拠点とする広告代理店、Fantasy Interactive(以下Fi)による理想の航空会社のウェブデザインを提案した『The Future of Airline Websites』です。

図1 理想の航空会社のウェブサイトを提案している『The Future of Airline Websites』
図1 理想の航空会社のウェブサイトを提案している『The Future of Airline Websites』
credit:Fantasy Interactive, Inc.

「2012年には、旅行の計画を立てるのに、旅行者の87%がインターネットを利用している」という、アメリカのコンサルティング会社J.D.Power and Associatesによる調査結果をもとに、主要な航空会社のウェブサイトを様々な観点(デザインや使い勝手、情報の整理など)から採点した結果をもとに、未来の理想の航空会社のウェブデザインが提案されていきます。

図2 ウェブサイトでは、さまざまなデザインを通して、提案が紹介されていく
図2 ウェブサイトでは、さまざまなデザインを通して、提案が紹介されていく

『The Future of the Airline Website』では、現在の航空会社のウェブサイトへの提案として、⁠更新スピードとシンプルさ」⁠自社ブランド強化のためのオンライン体験」⁠旅行アドバイザーの役割」⁠予約プロセスの改善」⁠美しく迅速なアクセス」⁠各デバイスで一貫した体験」を挙げながら、実際にそのデザインとインタラクションをウェブサイト上で見せてくれます。

気になる提案の行方

ウェブサイトを通じて、⁠The Future of the Airline Website』のような形で自分たちのアイデアや提案をオープンにすることは、自信がなければできないことでしょう。今回、Fiがこうした行動を起こした理由のひとつが、⁠旅行の計画時に、航空会社は相手にされていない⁠という現実です。ウェブサイトでも、⁠現代の航空会社にで提供されているオンライン予約は90年代で止まったまま」⁠航空会社がデジタルの経験を抜本的に改善しない限り、⁠第三者⁠が航空会社の利益に食い込み続ける」といった、厳しい言葉が並びます。

例えば、明日から海外に旅行すると仮定した場合、まず最初に訪れるウェブサイトは、オンラインの旅行会社でしょう。複数のサービスを縦断的に検索して、ユーザーに最適なプランを提案する仕組みは、ユーザーにとって、実に便利にできています。⁠世界最大のオンライン旅行会社⁠と呼ばれるExpediaやPriceline.comなどは特に有名ですが、どのサービスもユーザーを惹きつける個性(⁠⁠旅の快適度」で比較できるhipmunk(ヒップマンク)や、当日空いているホテルの予約機能だけを提供するHotel Tonightなど)を持っているのが特徴のひとつです。

図3 航空券検索サービスのひとつ、hipmunk。⁠出発地」⁠行き先」⁠日程」を入力すると、複数条件を簡単に比較できる。ボタンも少なく、シンプルでわかりやすい。
図3 航空券検索サービスのひとつ、hipmunk。「出発地」「行き先」「日程」を入力すると、複数条件を簡単に比較できる。ボタンも少なく、シンプルでわかりやすい。

こうした強力な個性を持つサービスに負けない仕組みを、航空会社が実際に構築できるのか。⁠The Future of the Airline Website』のような提案であっても、それが実現できるかは別の問題です。今現在、航空会社が強力なウェブサイトを構築できているかを考えてみれば、その道は平坦なものではないことに、誰もが気づくでしょう。

『The Future of Airline Websites』の内容をまとめた動画

Is This The Future of The Airline Website? from Fantasy Interactive on Vimeo.

そうした状況でも、Fiは諦めを知らないようです。ウェブサイトの最後には、"Let’s work together, take the lead, and chart the course that others will follow."(一緒に取り組んで、先導して、他が後を追うような進路を示しましょう。)といった熱意のある言葉が並びます。この提案から新たな仕事が実現するのか、また、実際の事例でこの内容がどれぐらい実現するのかなど、興味はつきませんが、現状をひっくり返すような、航空会社のウェブサイトがこれから誕生するのかどうか、今後の動きに注目したいと思います。

あなたの投票が、選手のプレイを変える

Pick the Hole Location Challenge - Hosted by Jack Nicklaus | PGA.com

ニューヨーク州ロチェスターにある「オークヒル・カントリークラブ」で開催された、ゴルフの世界4大メジャートーナメント大会の1つ、⁠PGA Championship(全米プロゴルフ選手権⁠⁠」で実施されたユーザー参加型イベント、⁠Pick the Hole Location Challenge』です。

図4 ユーザーの投票で、ピンの位置が決定される『Pick the Hole Location Challenge』
図4 ユーザーの投票で、ピンの位置が決定される『Pick the Hole Location Challenge』

ウェブサイトでは、⁠PGA Championship」が開催される「オークヒル・カントリークラブ」15番ホール(パー3)の4つのピンの位置が表示されています。用意された動画や説明文を参考に、ユーザーが1つを選択し、投票します。最終的に最も多い票数を獲得したピンの位置が、実際に最終日(8/11)の15番ホール(パー3)で採用されました。こうしたイベントは、ゴルフのメジャー大会では史上初の試みとなります。

“観るだけ”から変化する、スポーツ観戦

日本でも、毎週のように多くのスポーツ大会が開催されています。こうしたイベントでは、⁠観戦すること⁠がファンの最大の楽しみではないでしょうか。ただし、⁠自分ならこうする」と想像しながら観戦中に大声をあげてみても、それらが実際の選手のプレーに与える影響は小さいでしょう。

図5 ユーザー投票の結果、最終日のピン位置は「C」に決定した
図5 ユーザー投票の結果、最終日のピン位置は「C」に決定した

今回の『Pick the Hole Location Challenge』では、実際のピンの位置がユーザーの投票で決定しており、プレーする選手に大きな影響を与えることとなりました。試合結果でも、最終日の15番ホールの平均スコアが3.2133となり、⁠大会4日間で最も難しいピンの位置となった⁠ことがデータでも証明されています。

ファンにとって、こうした試みは非常に新鮮に感じられるでしょう。もちろん、すべてのスポーツで、ユーザーの決定が競技に直接影響を与えられることはできませんが、今までのような⁠観戦するだけ⁠という考え方が少しづつ変わっていくことで、スポーツがより身近で興味深いものとなっていくことでしょう。

よりシンプルに、よりわかりやすく

Audi USA | This is Truth in Engineering.

新しく設計された、ドイツの自動車メーカーAudiによるのAudi USAのウェブサイトです。

図6 大幅なリニューアルが実施された、Audi USAのウェブサイト
図6 大幅なリニューアルが実施された、Audi USAのウェブサイト
credit:AKQA

一見すると、まずシンプルなデザインとレイアウトに目が行きます。中でもウェブサイトで特に注目されるのが、"title search"と呼ばれる、検索とナビゲーションの統合です。各コンテンツのタイトル部分が検索窓となっており、タイトルをクリックすれば、どのページでもすぐにウェブサイト内の検索が開始できるだけでなく、その検索結果がリンクとなって、ナビゲーションの役割を果たすという仕組みです。この検索には、Googleのビジネス向け検索ソリューションである「Google検索アプライアンス(GSA⁠⁠」が導入されています。

図7 各ページのタイトル部分が検索とナビゲーションの役割を果たす
図7 各ページのタイトル部分が検索とナビゲーションの役割を果たす

また、その他にも、⁠Cinematic car configuration⁠と呼ばれる、高品質の画像を使った車のカスタマイズや、アメリカ国内のディーラーにある認定中古アウディ車の在庫検索の改良も実施されています。

図8 高品質の画像を使った車のカスタマイズも、今回のリニューアルの特徴のひとつ
図7 高品質の画像を使った車のカスタマイズも、今回のリニューアルの特徴のひとつ

より重要性を増す、“情報の絞り込み”

今回のリニューアルに伴い、Audi USAのウェブサイトでは、レスポンシブWebデザインが実装されています。PCを始め、タブレットやスマートフォン、HDTVなどで、一貫したデザインによるコンテンツの閲覧が可能です。

図9 Audi USAのウェブサイトは、レスポンシブWebデザインに対応
図9 Audi USAのウェブサイトは、レスポンシブWebデザインに対応

特に注目する点は、表示されている車のコンテンツに注目させる、計算されたレイアウトでしょう。余計なものを極力表示せず、場面に応じて、ユーザーに必要なものだけを表示するという実にシンプルなやり方ですが、気がつけば、用意されている各コンテンツに自然と目が行き、集中できます。

今回のAudi USAのリニューアルをフィーチャーした説明動画

とはいえ、一度に大量の情報を表示しても、ユーザーがすべての情報をしっかり見てくれるわけではありません。そのため重要なコンテンツへと集中させるための、情報の選択と絞り込みが必要になってきます。社内の部署間におけるパワーバランスや、縦割りの組織構造などを考えれば、そう簡単に行えるものではありませんが、所持するコンテンツが⁠本当に重要か⁠という優先順位を付けることで、企業自らの現状認識とこれからの方向性がより明確になるという重要な意味を持っています。

「どんなデバイスにも対応できる」という甘い言葉とは裏腹に、レスポンシブWebデザインの成功は、こうしたユーザーに集中させるための⁠情報の絞り込み⁠にかかっていると考えます。ユーザーや企業のどちらにもメリットのある⁠情報の絞り込み⁠が進むことで、まだまだ少ないレスポンシブWebデザインの成功事例が、これから増えていくことを期待したいと思います。

というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。

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