いま、見ておきたいウェブサイト

第151回ジャンプPAINT by MediBang、Offline Only、Get a new Lens on life

穏やかな気温、適度な湿度、気持ちのよい陽の光と、いよいよ秋らしさが日に日に増してきている今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。

ツールから、マンガの世界を変える

ジャンプPAINT by MediBang | メディバンペイント(MediBang Paint)

集英社の少年マンガ雑誌『週刊少年ジャンプ』の創刊50周年を記念してリリースされた、無料の公式マンガ制作ソフト「ジャンプPAINT by MediBang」を紹介するウェブサイト『ジャンプPAINT by MediBang』です。

図1 ⁠週刊少年ジャンプ』の公式マンガ制作ソフトを紹介している『ジャンプPAINT by MediBang』
図1 『週刊少年ジャンプ』の公式マンガ制作ソフトを紹介している『ジャンプPAINT by MediBang』

実際にマンガを制作するペイントツールは、株式会社MediBangによる無料のイラスト・マンガ制作ツール「MediBang Paint」と同様の機能を持っています。⁠ジャンプPAINT by MediBang」にはペンやトーン、フォントなどが用意されており、こうしたマンガを描くために必要な素材のすべてが無料で提供されています。

さらに、週刊少年ジャンプ編集部による作品作りのノウハウが学べる「マンガ描き方講座」や、実際に連載されている作品を使って完成までの制作工程を練習できる「チャレンジジャンプ」といった、オリジナルの学習教材も備わっています。

図2 ⁠ジャンプPAINT by MediBang」では、作品作りのノウハウが学べる学習教材も充実している
図2 「ジャンプPAINT by MediBang」では、作品作りのノウハウが学べる学習教材も充実している

Windows、Mac、Android、iOSといった各種OSへの対応や、制作データを専用のクラウドスペース(容量無制限)に保存可能なこと、Webマンガの投稿サイトと連携して「ジャンプPAINT by MediBang」から漫画賞へ直接応募できるなど、ユーザーがマンガを描くことだけに集中できる制作環境を提供しています。

環境の変化から生み出されたツール

近年、マンガを取り巻く環境は大きく変化しています。無料でマンガが読めるアプリやウェブコミック(ウェブサイトで公開されるマンガ)が増え、読者は数多くの作品と接触する機会が増えました。出版社側もこの流れに対応しながら、SNSなどで人気の出た作品を出版するなどの動きを見せ始めています。

図3 イラストSNSの「pixiv」が運営する公式マンガサービス『pixivコミック⁠⁠。人気のある作品は、出版社と協力して出版されたり、TVアニメ化されている
図3 イラストSNSの「pixiv」が運営する公式マンガサービス『pixivコミック』。人気のある作品は、出版社と協力して出版されたり、TVアニメ化されている

こうした変化で、各出版社やサービスでは、多種多様なニーズを持つ読者を満たすため、マンガ作品を数多く発掘することが急務となっています。ただし、マンガ家が実際にさまざまな媒体にデビューするには、賞への応募や出版社への作品の持ち込み、新たな作家・作品の発掘など、作家も編集者も手間と時間を必要とするのが現状です。

「ジャンプPAINT by MediBang」は、作家の制作環境を整える負担を減らすだけでなく、マンガを描くことに集中させ、読者の反応をフィードバックして作品を洗練させる機会を増やします。また編集者にも、サービスを通じた作品への客観的な評価が得られることで、もっとも重要な出版に対するリスクを正確に測れるメリットが生まれます。

最終的に作家や編集者にとって、この無償のツールと描き方のサポートの提供は、大きな価値を生み出しそうです。作家と編集者を手助けしながら、ここから生み出された新たな作品のがより多くの人に読んでもらえる方向へと発展していくことを、読者の一人として期待したいと思います。

オフラインで表示します

Offline Only

アメリカのソフトウェアエンジニアである、Chris Bolinによる実験的なウェブサイト、⁠Offline Only』です。

図4 ⁠このページを表示するには、オフラインにする必要があります」という文章だけが掲示されている『Offline Only』
図4 「このページを表示するには、オフラインにする必要があります」という文章だけが掲示されている『Offline Only』
credit:Chris Bolin

『Offline Only』には、⁠You must go offline to view this page.(このページを表示するには、オフラインにする必要があります)⁠という文章が掲示されています。Wi-Fiとの接続を切る、ブラウザのデベロッパーツールでオフラインにする、ネットワークケーブルを引き抜くなどの方法でオフライン状態にすると、ウェブサイトの内容が切り替わり、自動的に文章が浮かび上がるという仕掛けです。

図5 オフライン状態になると、ウェブサイトに自動的に文章が浮かび上がる
図5 オフライン状態になると、ウェブサイトに自動的に文章が浮かび上がる

一度考えてみたい、オンラインとオフラインのあり方

オフライン状態で『Offline Only』に表示される文章を要約すれば、⁠生産的になりたいなら、オフラインになってください。あなたの価値あるものは、検索する能力ではなく、情報を統合する能力です。調査はオンラインで、創作はオフラインで」となるでしょうか。

文章では、⁠あなたを脱線させるのは、自らの好奇心が原因である⁠とも述べられています。インターネットの特徴のひとつであるハイパーリンクは、興味を持ってクリックしていけば、いくらでも繋がり続けます。こうした終わりのない行為を自制するのは、なかなか難しいことです。

どこにでも持ち歩けるスマートフォンが普及し、いつでもインターネットへの接続が可能になったことで、私たちはオンラインから逃れられない時代になっています。この文章では、その解決法にも言及しています。⁠でも時には、自分自身をネットから切断するという贈り物を与えることを考えてください⁠⁠。

最近、筆者は寝る前のスマートフォンの使用を極力控え、紙の本による読書を楽しむようにしています。⁠秋の夜長⁠ということもあり、こうしたオンライン、オフラインのあり方について、一度考えてみるのも面白いのではないでしょうか。

スマートフォンが獲得した人間の目

Get a new Lens on life | About Pinterest

新しくPinterestに実装された機能である「Pinterest Lens」を紹介するウェブサイト、⁠Get a new Lens on life』です。

図6 Pinterestの新機能「Pinterest Lens」を紹介する『Get a new Lens on life』
図6 Pinterestの新機能「Pinterest Lens」を紹介する『Get a new Lens on life』

Pinterestに追加された「Pinterest Lens」は、アプリ上でユーザーが撮影した写真を解析して、画像に関連するタグと関連画像を表示させるという機能です。⁠Get a new Lens on life』では、こうした「Pinterest Lens」の機能が生活をどう変化させるのかを、さまざまな場面をテーマに制作した動画で説明しています。

『Get a new Lens on life』で紹介されている動画のひとつ。カメラで撮影したイチゴから「赤」⁠食べ物」⁠レシピ」などのタグを導き出し、関連する画像を表示させる

情報を判断する主体は、スマートフォンへ

「カメラで捉えた映像や画像を解析して、それらを撮影したユーザーの意図を汲み取り、最適な行動を促す」ことを目的としたサービスは以前からありました。最近では、誰もが利用しているスマートフォンのカメラとAIの技術を用いて、より洗練された形のサービスが生み出されています。

2017年5月に開催されたカンファレンス「Google I/O」の基調講演で、Googleは「Google Lens」を発表しました。この「Google Lens」は、機械学習とAIを応用して、スマートフォンのカメラで映されたものに対して、その場でユーザーへの最適な提案が自動的に実行されるアプリです。

「Google Lens」の一例を紹介したツイート

例えば、英語で書かれた看板を自動的に日本語に翻訳したり、コンサート情報が載ったチラシからチケット購入と開催日のカレンダーへの記入も可能です。もちろん、Googleの提供する各種サービスとの連携も考えられており、まずは「Googleフォト」⁠Google Assistant」に実装される予定です。

今までのカメラは、⁠ユーザー自身がカメラから得た情報をどう使うかを選択して実行⁠するという使い方でしたが、⁠Pinterest Lens」「Google Lens」は、⁠スマートフォン自身がカメラが捉えたものを判断して最適の行動を自動的に実行⁠します。こうしたカメラの情報を判断する主体の変化は、機械学習やAIの技術が大きな進歩を遂げていることを感じさせます。

図7 ドイツの家電見本市「IFA 2017」で、Huawei Technologiesが発表したモバイル端末向けのAI内蔵チップセット「Kirin 970⁠⁠。このチップを搭載したスマートフォンも10月には発売される予定
図7 ドイツの家電見本市「IFA 2017」で、Huawei Technologiesが発表したモバイル端末向けのAI内蔵チップセット「Kirin 970」。このチップを搭載したスマートフォンも10月には発売される予定

高度な機械学習やAIの機能を素早く実行するには、ソフトウェアだけでは限界があります。そのため、スマートフォンの各メーカーでは、データ処理とクラウド側の負担を減らすため、スマートフォン本体に高度なAI処理を行う専用チップを載せる試みを進めています。ソフトウェアだけでなく、ハードウェアでも、さまざまなメーカーによる熾烈な競争が始まっているのです。

例えば、カメラの画像や映像からその人の病状を判断して、受け入れる病院を自動で手配し、救急車を呼ぶ。ソフトウェアとハードウェアの向上が進めば、そんな熟練した複数の専門職と同じ能力をスマートフォンが搭載するのも、そう遠い未来ではないでしょう。人間の目と頭脳を持つスマートフォンを誰もが所持するようになったとき、私たちの生活がどのように変わるのか、今から楽しみにしたいと思います。

というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。

おすすめ記事

記事・ニュース一覧