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第158回 2019年特別編 2018年の特徴,2019年の展望

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特徴その2 UIツールは,コラボレーションの時代に

2018年のUIツールの動きを語る上で,最も重要な出来事は「Adobe XD」の毎月のアップデートによる大幅な機能の拡張でしょう。

他のUIツールが着実なアップデートを進めていく以上のスピードで,毎月,次々と新たな機能の追加とツールの改良を進めたAdobeの底力,特にデザインツールで圧倒的な支持を得ているAdobeが,UIツールの主導権を奪いに来たことを本格的に感じさせる一年だったと思います。

図2 2018年分の「Adobe XD」の毎月のアップデートがわかる『最新機能』のページ

図2 2018年分の「Adobe XD」の毎月のアップデートがわかる『最新機能』のページ

その「Adobe XD」が行ってきた毎月のアップデートの中でも,2018年に大きな意味を持ったアップデートが二度ありました。その一つが,2018年5月に行った「無償プラン」のスタートです。

最適なUIツールを選ぶ場合,無料期間中にユーザーがある程度の操作を行って,ツールの使い勝手を確認します。ただ,誰もが短期間でツールの良し悪しや,ツールが自分の仕事に合うかどうか判断するのは難しいという問題点がありました。

「Adobe XD」で提供された「無料プラン」では,⁠無料期間内にツール内の機能すべてを試さなければ」という切迫感がなくなります。機能についても,自分の使い方に合ったものを少しづつ身につけていけることで,他のUIツールと異なり,デザイナー以外のユーザー獲得にもつながりました。

もう一つの大きなアップデートは,イベント「Adobe MAX」に合わせて発表された「2018年10月のアップデート」です。

2018年10月の「Adobe XD」アップデートで追加された,音声プロトタイピングの解説動画

2018年10月の「Adobe XD」アップデートで追加された,自動アニメーション機能の解説動画

このアップデートでは,特にライバルとも言える「Sketch」と同様のプラグイン対応やVUI(Voice User Interface)を使った音声プロトタイピングへの対応,プロトタイプの動きをより簡単に設定できる自動アニメーション機能など,新機能の追加が大きな驚きを与えました。また,このアップデートは,数多くの機能追加だけでなく,これから「Adobe XD」がどのような方向に向かって発展していくのかを明確に示したものとなりました。

後発のUIツールであった「Adobe XD」の機能は,⁠2018年10月のアップデート」が発表された時点で,標準的なUIツールのレベルに追いついたと言えるでしょう。こうした機能による各ツールの差別化が難しくなると,どのツールもシェアを爆発的に拡大することは難しくなってきたと感じます。

では,機能面では同等の機能を持った数々のUIツールの中で,これからユーザーに選ばれ,支持を得るポイントとは何なのでしょうか。

個人的には,一つは,強力なプラグインによる機能の拡張性と考えています。⁠Sketch」は,個人が中心となった強力なコミュニティを背景に,多彩で強力なプラグインを開発してきた強みを持っています。また「Adobe XD」は,ウェブサービスを運営する企業などと協力して,それらのサービスとの連携を促すプラグインの開発を進めています。機能を追加するプラグインの開発スタンスでも,各UIデザインツールごとに違いがありますが,どのような形であれ,コミュニティを活性化させるプラグインの開発環境を整えていくことが一層重要になってくるはずです。

もう一つは,他の職種との親和性,コラボレーションのしやすさと言えるでしょう。近年のウェブサイトやモバイルアプリのワークフローの変化によって,こうしたUIツールを⁠デザイナーだけが利用するもの⁠という枠では捉えきれなくなってきています。柔軟なフィードバックを繰り返す制作現場において,デザイナーはもちろん,さまざまな立場に位置するユーザーが自分のやりたいことにフォーカスできるツールになることが,存在価値を大きく高めていくポイントになると考えています。

コラボレーションの実現には,ツールのカスタマイズや前述したプラグインによる機能の拡張が必要です。多彩なユーザーによる利用が進めば,便利な機能が追加されるとともに,思いもよらない新しい使い方が次々と生まれます。こうした流れを背景に,今後もUIツールは進化していくことになりそうです。

特徴その3 VUI(音声ユーザーインターフェース)は世界を変えるか

2018年は,Amazonの「Amazon Echo」シリーズやGoogleの「Google Home⁠⁠,Appleの「HomePod」やLINEの「Clova Wave」などのスマートスピーカーを推し進める主要な企業の製品がようやく揃った年になりました。さらに,音響メーカーとの協力で音質を重視した新製品やディスプレイを搭載したモデルが登場するなど,本格的な普及の段階に入ったと感じさせる一年でした。

Googleが発表した「Google Home Hub」の紹介動画。音声デバイスにディスプレイを追加することで,さらに多くの情報が扱えるようになった

その中でも,激しいシェア争いをしているAmazonとGoogleによる,音声プラットフォーム拡大のためのさまざまな方策が目立ちました。

Amazonは,2018年2月のスマートドアベルメーカーのRing買収から始まり,KOHLERの浴室照明付きミラーやEcobeeの温度自動調節器,Philipsの電球やFirst Alertの火災警報器など,スマートホーム関連の製品に次々と「Alexa」を搭載しました。さらにBMW,Ford,TOYOTAなどの自動車メーカーが,車のダッシュボードに「Alexa」を導入することを発表しています。

Googleも,すでに買収しているスマートホーム製品メーカー「Nest」の製品への対応を進めるだけでなく,家電メーカー「LG」のテレビや冷蔵庫などの家電に「Google Assistant」を導入しました。またRenault,NISSAN,MITSUBISHIといった自動車メーカーとも提携して,車内で「Google Assistant」を利用できるように進めています。

スマートスピーカーにおいて,激しいシェア争いをしているAmazonとGoogleの両者ですが,こうして昨年の動きを振り返ってみると,どちらも同じやり方を進めています。

こうした動きについて,個人的には,音声を扱う基本的なプラットフォームを独占するために,⁠VUI(音声ユーザーインターフェース)がどこでも使える環境をいち早く整備したい」という現れだと考えています。自社で開発している機器(⁠⁠Amazon Echo」「Google Home⁠⁠)の拡大ではなく,多種多様な機器に音声を使えるようにする機能(⁠⁠Alexa」「Google Assistant⁠⁠)を搭載させて幅広く普及させようとしている点は,その最たる例ではないでしょうか。

図3 Amazonのスマートホーム対応機器を紹介するページ。様々な機器を「Alexa」に対応させていることがわかる

図3 Amazonのスマートホーム対応機器を紹介するページ。様々な機器を「Alexa」に対応させていることがわかる

スマートスピーカーの出荷台数は,IT調査会社のCanalysの調査によれば,2018年は全世界で780万台に達し,2017年から125%増加しています。アメリカ国内では「世帯普及率が40%を超えている」というデータもあり,今後も順調に生活圏内へ浸透していくことが予想されます。

昨年の連載でも触れましたが,パソコンやスマートフォンなどのデバイスを使いこなせず,インターネットの恩恵を十分に受けられない人たちも決して少なくありません。普段,自然に行っている⁠話すという動作⁠を使えば,こうした現状を打破して,より多くの人がインターネットを便利に利用できる可能性が広がります。また場合によっては,スマートフォン以上の使いやすさで,一気に普及する可能性もあります。

スマートフォンの販売台数の伸びも,ここ数年,全世界で頭打ちという状況になっています。こうした中で,次の軸となる⁠インターネット利用のスタンダード⁠をどの企業も探し求めています。生活におけるさまざまな場面で音声の利用が本当にスタンダードとなるのか,企業の試行錯誤はまだまだ続きそうです。

著者プロフィール

Lançamento(ランサメント)

国内外のウェブサイトを日々紹介する Blog『Lançamento』を運営する,自称“フリーランスという名の無職”。目指すは“エクスペリエンスデザイナー”(O'REILLY『Web情報アーキテクチャ』11ページ参照)。2008年の“ジェフの奇跡的な残留”を目の前で見たサッカー好き。