いま、見ておきたいウェブサイト

第159回Google しごと検索、Nike Adapt BB、Google Stadia

じっとりとした空気とスッキリしない天気。なかなか明けない梅雨にやきもきしている今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいウェブサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。

いつもの検索で、しごと探せます

Google しごと検索
Google Japan Blog: Google しごと検索で、仕事探しをもっとスムーズに!

2019年1月23日から開始された、ウェブ上の転職求人情報サイトや企業の採用ページなどの求人情報を検索結果として表示するサービス、⁠Google しごと検索」です。

図1 Googleの検索結果に表示される「Google しごと検索」の提供開始を知らせる「Google Japan Blog」のエントリー
図1 Googleの検索結果に表示される「Google しごと検索」の提供開始を知らせる「Google Japan Blog」のエントリー

今回、日本で始まった「Google しごと検索」は、すでに海外で2017年6月から「Google forJobs」という名称で開始されていた求人情報の検索機能です。ユーザーがGoogleを使って求人を探した場合、インターネット上の求人情報を自動で取得して、検索結果として条件に合った情報を提供します。

「Google しごと検索」はあくまで検索サービスのため、求人ページを作成する必要がある点や求人情報を直接作成できないこと、費用を追加して検索上位へ表示させる広告枠がないことなど、他の求人情報サイトでは可能なサービスが提供されていません。

それでも「Google しごと検索」によって、Google検索の上位にくるという点は、検索して求人情報を探すユーザーに対して、非常に大きな効果があるでしょう。

求人情報サービスでも、Googleはトップに立てるか

求人情報サービスが多数ある中で、ユーザーがいくつもサービスを横断しながら、自分にあった求人情報を探していくのは非常に面倒です。もしサービスに関係することなく、インターネット上にある求人情報を一度に検索できれば、ユーザーにとっての利便性が向上し、非常に使いやすくなります。

今回始まった「Google しごと検索」は、インターネット上の求人情報を一度に検索できますが、すでにこうした求人情報の検索サービスは始まっています。

図2 インターネット上にある求人募集情報のアグリゲーションサービスとして有名な「Indeed」のウェブサイト
図2 インターネット上にある求人募集情報のアグリゲーションサービスとして有名な「Indeed」のウェブサイト

その代表格が、2012年にリクルートが買収したIndeedでしょう。⁠Indeed」は、インターネット上にある求人募集情報のアグリゲーションサービス(複数の情報を集約して1つのサービスとして提供するサービス)です。ユーザーの希望する条件にマッチした求人情報を提供するだけでなく、応募や履歴書の管理も行えるため、非常に使い勝手の良いサービス となっています。

すでに「Indeed」を始めとする求人情報検索サービスが多数ある中で、今回始まった「Google しごと検索」が優れている点があるのでしょうか。

Google検索では、さまざまな求人サービスよりも、⁠Google しごと検索」の求人情報が上位に表示されます。このためユーザーが「求人情報をGoogleから探す」というルートから来るのであれば、⁠Google しごと検索」に対応することは大きなメリットとなるでしょう。

図3 ⁠Google しごと検索」の求人情報が上位に表示される点は、大きなメリット
図3 「Google しごと検索」の求人情報が上位に表示される点は、大きなメリット

個人的には、数ある求人情報サービスへの優先的なアクセスを分けるものは、ユーザーを「使い慣れた検索からスタートさせる」のか、⁠求人情報に特化した専門的サービスからスタートさせる」のかという、情報検索時のルート選択であると考えています。

図4 多くの動画が並ぶ「Indeed」のYouTubeチャンネル。ネット上の動画だけでなく、テレビCMなどの広告にも力を入れており、知名度の向上を図っている
図4 多くの動画が並ぶ「Indeed」のYouTubeチャンネル。ネット上の動画だけでなく、テレビCMなどの広告にも力を入れており、知名度の向上を図っている

「Indeed」は、テレビCMなどの広告費を重視して、サービスの知名度アップを図っています。求人情報を探す場合に、ユーザーを直接「Indeed」のウェブサイトやアプリへと誘導できれば、⁠Google しごと検索」と競合することはありません。さらに「Indeed」を一度使わせてしまえば、⁠Google しごと検索」にない応募や履歴書の管理機能を生かして、ユーザーの囲い込みもできます。

「indeed」を買収したリクルートですが、2018年5月には、アメリカの「Glassdoor」を買収しています。⁠Glassdoor」は、企業に対する口コミ情報を中心にした求人情報検索サービスを運営していることから、今後「indeed」に口コミ情報に関連した機能の追加がされると考えられます。

Googleが「Google for Jobs」を開始した時、アメリカでは「Indeedの時代はもう終わった」といった意見もありましたが、現在も求人情報サービスでは、シェアトップの位置を占めています。

いずれにせよ、今後もユーザーにとって使い勝手の良い、質の高いサービスを提供していく努力を続けていくことが、求人情報サービスの成功へとつながる鍵となるでしょう。⁠ソーシャルリクルーティング」と呼ばれるSNSを活用した求人活動など、求職活動もここ数年で多様化が進んでいます。⁠検索=Googleで検索すること」ではなく、滞在時間の長い「Twitter」「Instagram」などのSNS上での検索や、スマートスピーカーのような新しいデバイスを通じた検索など、検索への入り口が多様化するのに合わせて、それらに対応した求人検索サービスがこれからも登場してくるのではないでしょうか。

スマホでコントロールする魔法の靴

Nike Adapt BB 'Black & White & Pure Platinum' Release Date. Nike⁠+ SNKRS

世界初の自動靴ひも調整機能が搭載されたNikeの新作シューズ、⁠Nike Adapt BB」のウェブサイトです。

図5 Nikeが発表した世界初の自動靴ひも調整機能搭載シューズ、⁠Nike AdaptBB」のウェブサイト
図5 Nikeが発表した世界初の自動靴ひも調整機能搭載シューズ、「Nike AdaptBB」のウェブサイト

「Nike Adapt BB」は、今年の1月15日にNikeが発表した、世界初の自動靴ひも調整機能がついたバスケットボールシューズです。シューズを履くと、専用のモーターとギアが圧力を感知して、自動でぴったりフィットするように靴ひもを調整をします。シューズに付けられたボタンを押して靴ひもを調整できるパワーレーシング機能も搭載しており、シューズの外観に靴ひもが見えないのが大きな特徴です。

スマートフォンの専用アプリ「Nike Adapt」を使えば、さらに靴ひもの微調整が可能です。専用アプリには、自分のお気に入りの締付け具合を保存して、いつでも変更できるプリセット機能も用意されています。そのほかにも、アウトソールの色変更やシューズのバッテリー残量が確認できます。

「Nike Adapt BB」を紹介するNikeの公式動画

Nikeは「Nike Adapt BB」を制作するにあたり、Boston Celticsに所属する現役のNBA選手、Jayson Tatumと協力しています。そのJayson Tatumは、2019年1月16日に行われたNBAの公式戦、対Toronto Raptors戦に「Nike Adapt BB」を履いて出場しました。Jayson Tatumは、個人として16得点10リバウンドを記録、さらにチームとしても117対108で勝利を収め、NBAの試合でNikeの自動靴ひもシューズを履いてプレイした最初の選手となりました。

Jayson Tatumが自動靴ひもシューズを履いてプレイしたNBA初の選手となったことを知らせるNike Basketballの公式Twitter

何でもスマートフォンで操作する時代の到来

今回販売された「Nike Adapt BB」には、スマートフォンで靴ひもの制御ができる仕組みを搭載してきました。シューズにこうした機能を搭載することは、リビングの家電や照明器具、自宅の鍵など、スマートフォンから制御できる製品が増えていることを考えると、当然のような気がしています。

もちろん、スマートフォン側の対応だけでなく、制御させるアイテム自体をスマートフォンに対応させなければなりません。Nikeは以前から、自動で靴ひもを調整できるシューズを開発しています。映画『Back to the Future』に登場した「自動靴ひも調整シューズ」をモチーフに、2015年に「Nike Mag⁠⁠、そして2017年に「Nike HyperAdapt 1.0」を発売してきました。それから2年、今回販売された「Nike Adapt BB」の価格は「Nike HyperAdapt 1.0」の半額以下です。

こうした事例を見ると、コストという理由で無理だとされていたスマートフォンへの対応も、さまざまなアイテムにすぐ搭載される可能性もあります。誰もが一人一台、24時間肌身離さず身につけているスマートフォンという魔法のデバイスから、本当に何でもできる時代に向かっているのは、当然のことなのかもしれません。

ゲームは、どこからでも、好きなときに

Google Stadia

Googleが発表した、データセンター上でゲームを動作させた映像を配信するクラウド型ゲームサービス「Google Stadia」です。

図6 データセンター上でゲームを動作させた映像を配信する、Googleのクラウド型ゲームサービス「Google Stadia」のウェブサイト
図6 データセンター上でゲームを動作させた映像を配信する、Googleのクラウド型ゲームサービス「Google Stadia」のウェブサイト

「Google Stadia」は、データセンター上でゲームを動作させて、その映像を配信するサービスです。このためユーザーはゲームコンソール(ゲームをプレイするための装置)を新たに購入する必要がありません。また、海賊版などの違法行為などの問題に対しても、非常に強固なセキュリティを持ちます。

ユーザーは、4Kの動画が視聴可能なインターネットに接続できるTVやPC、スマートフォンやタブレットが手元にあれば、すぐにゲームが楽しめます。高画質のグラフィック表現(4K、HDR、60fpsに対応)を実現するとともに、ゲームにとって非常に重要な入力の遅延を低減するWi-Fi接続の専用コントローラー「Stadia Controller」も用意されます。

近年、ユーザーがゲームの動画配信や実況、SNSなどから、プレイするゲームを見つけていく傾向が強くなっています。こうした流れを受けて、⁠Google Stadia」では、SNSとの連携によるゲームへの参加を促す仕組みを用意している点も、大きな特徴の一つです。

「Google Stadia」のSNS連携機能の一つ、⁠Crowd Play⁠⁠。⁠YouTubeLive」でストリーミングされているゲーム動画の視聴者を、そのまま配信中のゲームに参加させることもできる

自社のサービスとの連携もよく考えられており、例えば、YouTubeの予告編やプレイ動画でゲームに興味を持ったユーザーが「今すぐプレイする」ボタンを押せば、その場でゲームがスタートします。また、専用コントローラにあるボタンを押すだけで、すぐにYouTube Liveを通じてゲーム動画を配信できます。

こうしたGoogleの持つサービスとのスムーズかつ強力な連携は、ゲームコンソールを中心として発展してきた今までのゲームサービスと大きく異なる、⁠Google Stadia」の優位性となるでしょう。

ゲーム業界の構造を、根底から変える第一歩となるか

今までにない、多くのメリットを持つクラウド型ゲームの「Google Stadia」ですが、問題がないわけではありません。特に大きな問題になっているのは、ユーザーの操作におけるレイテンシ(反応速度の遅延)の問題です。手軽にゲームが楽しめるとしても、肝心のゲームの操作性が失われるとすれば、サービスそのもの存在が問われることになります。

レイテンシに関する問題は、今後5G(第5世代移動通信システム)によるURLLCUltra-Reliable and Low Latency Communications:超高信頼かつ低遅延な無線通信)で解決できるはずです。しかし、一般的な普及にはまだ数年はかかることもあり、現状の通信環境での解決は非常に難しいでしょう。

この問題に対して、Googleは「自社のデータセンターと専用回線網が世界中に展開されていること」を強調しています。世界200か国に点在する7,500におよぶデータセンターや「Streamer」と呼ばれるゲームストリーミングのために開発された新たな技術(品質を最大化しつつ、レイテンシを許容範囲に収めるためにリアルタイムで判断する)などによって、この問題に対応することになるでしょう。

もちろん、ゲームサービスという特性上、最終的には「ユーザーが求めているゲームタイトルをどうやって獲得するか」にかかっています。⁠Google Stadia」のローンチ時に用意されているタイトルは、独占タイトルを含めて約30タイトルです。こうした課題もGoogleはすでに把握しているようで、サードパーティへの参入を働きかけるだけでなく、自らの開発スタジオ設立や「Google Stadia」のタイトル開発に対する手厚い支援が行われています。

今回発表された「Google Stadia」は、Googleの持つデータセンターとAIを活用した技術を組み合わせた意欲的なサービスで、現在のゲーム業界の基本構造を一変させる可能性を秘めています。⁠PlayStation Now」「Project xCloud」といった、同様のサービスを提供するソニーやMicrosoftだけでなく、ゲームコンソールを中心に確固たるプラットフォームを築いてきた任天堂にとっても、今後の動きを注視せざるをえないでしょう。

11月から始まる「Google Stadia」のサービス内容を説明した動画

先日発表された「Google Stadia」の概要は、月9.99ドルの定額(4K HDR 60fpsの映像と5.1ch音声対応)で、11月から北米、カナダ、イギリス、ヨーロッパの14か国でサービスが開始されるというものでした。2020年には無料プラン「Stadia Base」の提供も開始されます。

上記のレイテンシや解像度のネットワーク速度依存など、まだ技術的な課題も抱えていますが、こうした点を実際のサービス開始時にどのように解決してくるのか、今から非常に楽しみです。

さらに「将来のクラウドソリューションに関して共同で開発すること」を発表したMicrosoftとソニーや、新たなゲームサービス 「Apple Arcade」を発表する Apple など 、2019年はゲーム業界を取り巻く環境が一変するような動きが続いていきそうです。

というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。

おすすめ記事

記事・ニュース一覧