いま、見ておきたいウェブサイト

第162回2020年特別編 2019年の特徴、2020年のこれから

2020年もすでに後半に差し掛かっておりますが、みなさま、いかがお過ごしでしょうか。⁠Lançamento - Website, What a Wonderful World!』を運営しているLançamento(ランサメント)です。

『いま、見ておきたいウェブサイト』では、2019年も国内外のウェブサイトやウェブサービス、アプリなどを紹介してきました。ここ最近、連載の更新ができていませんでしたが、今回は「特別編」と題して、2019年に登場したウェブサイトやウェブサービスの背景などを振り返りつつ、残り少なくなってきた2020年のこれからについて、語っていきたいと思います。

特徴その1 「アプリ」「ゲーム」もクラウドで動かす、SaaS時代へ

今や当たり前となりつつあるクラウドサービスは、その利用形態によって、⁠SaaS(Software as a Service⁠⁠PaaS(Platform as a Service⁠⁠IaaS(Infrastructure as a Service⁠⁠」の3種類に大きく分けられます。2019年には、その中でもSaasの領域で多くのサービスが登場してきました。

エンドポイントセキュリティのCrowdStrike、サーバー監視・分析サービスのDatadog、ビジネスSNSのSlack、ビデオ会議のZoomなど、アメリカではSaaSを手掛ける企業の大型IPO(新規株式公開)が相次ぎました。

図1 2019年にIPOを果たした、ビジネスチャットツールのSlack
図1 2019年にIPOを果たした、ビジネスチャットツールのSlack

こうした流れは、日本でも顕著でした。クラウド会計ソフトのfreee、名刺管理サービスのSansan、ビジネスチャットツールのChatworkなど、SaaSを提供する会社のIPOが相次ぎました。

図2 クラウド会計ソフトのfreee。2019年には、日本でもSaaS型のクラウドサービスを提供する会社のIPOが続いた
図2 クラウド会計ソフトのfreee。2019年には、日本でもSaaS型のクラウドサービスを提供する会社のIPOが続いた

こうしたSaaSが拡大している背景には、大容量のデータを取り扱うために必要な、新しい技術の登場が影響しています。その最たるものが、5G(5th Generation)でしょう。5Gの特徴として、⁠通信速度の高速化(最大20Gbps⁠⁠低遅延(タイムラグの減少⁠⁠多数の同時接続」が挙げられます。そのどれもが、SaaSの質を向上させるために必要なものです。

図3 ゲーム業界に「クラウド・ゲーミング」を再認識させた、GoogleのクラウドゲームサービスStadiaも、5Gの技術が基盤となっている
図3 ゲーム業界に「クラウド・ゲーミング」を再認識させた、Googleのクラウドゲームサービス「Stadia」も、5Gの技術が基盤となっている

スマートフォンの性能向上も見逃せません。これまでは端末側でデータを処理することは難しく、クラウドへのデータ転送にも時間がかかっていました。近年の性能向上で、スマートフォン側でデータ処理を行い、必要な結果だけをクラウドへ送信するという「エッジコンピューティング」が進んでいます。

クラウドで行っていた作業をスマートフォン上で実行できれば、クラウドの負担が減るだけではありません。スマートフォン内のプライベートな情報を端末内にとどめることで、個人情報とプライバシーのセキュリティー向上も実現できます。

データ保存についても、万が一のデータ復旧も早く、ローカルのバックアップよりも安全で確実です。またセキュリティ面でも、大規模なデータセンターを運営する会社が、セキュリティのために人材と膨大な金額を投入していることを考えれば、企業や個人レベルでのセキュリティとは比較にならないレベルでの保護が行われます。

クラウドの持つ技術と新たな技術の登場によって、今後はSaaSが続々と生まれてくる時代になるはずです。

特徴その2 “マップ戦国時代”のはじまり

スマートフォンの普及に伴って、ユーザーが検索を始める方法は大きな変化を迎えています。

「調べたい」と思ったとき、⁠ブラウザから検索する⁠以外にも、滞在時間の長い⁠SNS上からの検索⁠や文字入力の煩わしさがない⁠音声による検索⁠など、ユーザーがデバイスを利用する状況に応じて、検索の出発点が多様化してきました。

多様化する検索の出発点の一つとして、ユーザーの利用が拡大しているのが、地図サービスです。

図4 公共交通機関の情報とARナビのライブビューの強化、ローカルガイドのフォロー機能などが追加されたGoogleマップアプリ
図4 公共交通機関の情報とARナビのライブビューの強化、ローカルガイドのフォロー機能などが追加された「Googleマップアプリ」

2019年には、地図サービスの定番とも言える「Googleマップ」が大幅な機能のアップデートを行いました。利用者が最も多いと思われるスマートフォンのアプリでは、新しいデザインの導入だけでなく、使い勝手を向上させる新機能が数多く追加されました。

図5 大幅な改良が加えられた、Appleのマップアプリ。自動車や歩行者を使って、日本でも地形データを日々収集している
図5 大幅な改良が加えられた、Appleの「マップ」アプリ。自動車や歩行者を使って、日本でも地形データを日々収集している

また「Googleマップ」と比較され「非常に使いづらい」と評されていたAppleの「マップ」アプリも、iOS 13へのアップデートとともに、多くの改良と新機能を追加しながら進化してきました。

どちらの地図サービスも、地図のアプリでありながら、位置情報以外の情報を提供することに力を入れてきています。

ユーザーの行動を考えれば、日常の中で地図を確認する回数も多く、さらに地図を見てからの様々な行動(ルート検索や店舗への予約など)が考えられるため、地図内に必要な情報を集約するのは理にかなっています。

さらに地図上への情報集約が進めば、ユーザーの行動と地図とを関連付けた新たなサービスを提供できるため、ビジネスも拡大できます。

図6 ゼンリンの提供する「3D高精度地図データ」を採用した、日産自動車のインテリジェント高速道路ルート走行プロパイロット 2.0
図6 ゼンリンの提供する「3D高精度地図データ」を採用した、日産自動車のインテリジェント高速道路ルート走行「プロパイロット 2.0」

こうした流れの中、じわりと拡大しているのが、自動運転に必要不可欠な地図サービスです。

自動運転の基盤となる「ダイナミックマップ(高精度の3D地図とリアルタイムの地図情報を組み合わせたもの⁠⁠」に関しては、オランダのTomTomやHEREと日本企業との連携が発表されるなど、自動車に搭載したセンサーから作成する地図のスタンダードとなるべく、各社の動きが活発になっています。

地図と情報とユーザーの行動をリンクさせたサービスは、これからも続々と登場してくるでしょう。サービスの多様化で、⁠Google Maps一強⁠時代もゆっくりと変化しつつあることを感じた一年だったのではないでしょうか。

特徴その3 人間とAIの組み合わせが生み出す力

「認識や推論、言語に特化した作業は、AI(artificial intelligence)で代替できる可能性が高い」とされていたため、AIが社会に導入されていく場合、まず取って代わられるのは、データの入力や書類の作成など、一定のパターンで行われる定型的な作業と言われてきました。

そのため、人間の持つひらめきや想像力が必要不可欠な領域にAIが入り込んでくるのは、⁠まだまだ遠い先の話だ」と誰もが思っていたことでしょう。

近年、絵画や音楽、小説といった領域で注目されているのが、自動生成AIです。中でも注目されている技術が、GAN(Generative Adversarial Network:敵対的生成ネットワーク)です。このGANを応用して、2019年にはクリエイティブな領域にも、AIが目覚ましい進歩を遂げながら進出してきました。

図7 キーボードからのメロディを選択したジャンルに合わせて自動作曲するキーボードAWS DeepComposer
図7 キーボードからのメロディを選択したジャンルに合わせて自動作曲するキーボード「AWS DeepComposer」
図8 OpenAIが発表した言語モデルGPT-2⁠。最小限の情報から、自然な内容の文章を生成する能力を持つ
図8 OpenAIが発表した言語モデル「GPT-2」。最小限の情報から、自然な内容の文章を生成する能力を持つ

現在、人間が判断しながら実際に手を動かすような複雑な作業でも、AIとロボティクスの利用で、ほぼ同じ作業が行える段階に近づいています。中には⁠人力で行うことは、ほぼ不可能⁠な事例もあり、⁠本当に人間が行うべき作業は何なのか」を改めて考えさせられます。

図8 DJIの農業用ドローンDJI Agras MG‐1の自動航行システムを説明した動画。人間が行う従来の農薬散布作業と比べ、圧倒的な省力化と効率化を実現できる

ただ対費用効果などの面から、ビジネスとしてAIですべてを行うには限界があります。標準化と低価格化が進めば、あらゆる作業が自動化されるでしょうが、現時点では、人間とAIがお互いの得意分野を分担して共同作業を行うことが、最も効率的かつ問題のない理想の組み合わせです。

今後はコストや技術などの要因によって変化しながら、⁠人間が行うもの」⁠人間とAIが協調して行うもの」⁠AIが行うもの」という区分が明確になるでしょう。人間の複雑な動作を学ばせることで、今までにない新たなAIの利用方法が生まれる可能性も秘めています。

AIを一般的なビジネスとして成立させるには、まだ超えるべき課題も多いです。それでも、一時期の⁠何でもAIで解決⁠というブームのような段階から、より実用的で価値を生み出せる段階へと、着実に進んでいることを実感できた一年でした。

2020年のこれからについて

図9 折りたたみ可能なフォルダブルスマホ、SamsungGalaxy Foldの販売価格は、日本円で約24万円
図9 折りたたみ可能なフォルダブルスマホ、Samsung「Galaxy Fold」の販売価格は、日本円で約24万円

2019年には、折りたためることをコンセプトとした、新デバイスが発表されています。非常に高価ですが、5Gの商用サービス開始と同時に、コンテンツ消費におけるスマートフォンの欠点を埋めるデバイスとなるかもしれません。価格次第では急速に普及する可能性もあるでしょう。

図10 昨年末に販売されたライブストリーミング用のスイッチャーATEM Miniシリーズは、コストパフォーマンスに優れ、現在でも入手が困難
図10 昨年末に販売されたライブストリーミング用のスイッチャー「ATEM Mini」シリーズは、コストパフォーマンスに優れ、現在でも入手が困難

2019年は、芸能人やミュージシャン、スポーツ選手などが、相次いで⁠YouTuber⁠として参入しました。動画配信に必要な機器は低価格化と高機能化が進んでおり、参入のハードルはさらに低くなると考えています。動画内容も高度に編集されたものが増えており、近年鈍化傾向のあるPCの売上台数にも影響を与えるかもしれません。

国内では、1月にトヨタ自動車が発表した「コネクティッド・シティ」プロジェクトに注目しています。静岡県裾野市に自動運転やロボットなどの先端技術を試験導入した人工的な街を作るという、スケールの大きなプロジェクトです。広範囲での技術試験が行えることで、様々な分野に必要な大量の基礎データが獲得できるため、今後の日本の技術発展において、非常に重要なプロジェクトになるかもしれません。

2019年10月31日、TwitterのCEOであるジャック・ドーシー氏が「政治広告の掲載を世界中で禁止する」とツイート

2020年11月にはアメリカ大統領選挙も控えています。2016年の選挙では⁠フェイクニュース⁠が問題になりました。メディアやSNSなどにおける選挙や政治の広告、コメントの正確性をどのように担保するかについて、改めて問われる機会となるでしょう。明確に⁠政治的な広告をなくす⁠方向へと動き出したTwitter、⁠表現の自由⁠として掲載継続を決めたFacebookなど、政治的な広告におけるSNSの立ち位置の変化にも注目です。

というわけで、残り少なくなってきた2020年のこれからをまとめてみました。今回はコロナウイルスに関連する話題は省略していますが、年初からの世界的な感染拡大により、上記のような観測が成り立たない状況となっています。

コロナウイルスによる影響は、2009年のリーマンショックのような金融を中心としたものとは性質が異なります。人間同士の接触や行動制限によって、多くの業界で長期的な不況が懸念されています。ワクチン接種や治療法の確立まで、全世界に甚大な影響を与えることになるでしょう。

ただ、こうした困難な状況下でも希望は見いだせます。接触や行動を制限されながらも、世界中の人々が初めての状況に対応すべく、新たな考え方へと移行しながら、日々行動を起こしています。以前と変わらぬ生活を維持するためのサービスも次々と登場しており、改めて人類の力強さを感じています。

新たな生活の基盤となるワクチンについても、世界各国で開発が進められており、来年には多くの国で接種が始まります。誰もが今までと同じ日常を取り戻せる日は、必ず訪れます。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。

おすすめ記事

記事・ニュース一覧