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第166回 2021年特別編 2020年の特徴,2021年のこれから

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特徴その2 「Flash Player」の24年間がもたらしたもの

2020年12月31日,Adobeは「Flash Player」のサポートを終了しました。

図5 Adobeの「Flash Player」サポート終了後,Flashコンテンツにアクセスすると表示される画面

図5 Adobeの「Flash Player」サポート終了後,Flashコンテンツにアクセスすると表示される画面

「Flash Player」は,Flashコンテンツを再生するブラウザのプラグインとして配布されてきました。圧倒的な「Flash Player」の普及率と制作者からの熱い支持によって,多くのFlashコンテンツが制作された時期もありました。ですが,現在ではFlashコンテンツを体験することも難しくなりました。

個人の実験的な作品から圧倒的な業界標準の地位を確立して,環境の変化による衰退からAdobeのサポートが終了するまで,さまざまな出来事とともに,24年間に渡る「Flash Player」の歴史を振り返りたいと思います。

Flashの誕生

Flashの前身は,1993年にアメリカのカリフォルニア州サンディエゴに設立されたFutureWaveSoftwareから発表された「SmartSketch」です。

「SmartSketch」は,タブレット式の携帯情報端末「AT&T EO Personal Communicator」の画面に直接ペンで絵を描くことを目的に制作されたベクター描画アプリケーションでした。1994年にプロジェクトが頓挫したため,フレーム単位のアニメーション機能を追加してWindowsとMac OSに移植を開始。1996年8月19日に「FutureSplash Animator」⁠当時250USドル)として販売が開始されます。

ブラウザにプラグイン「FutureSplash Player」をインストールすれば滑らかなアニメーション表現が実現できることから,これに目をつけた当時のMSN(Microsoft Network)「The Simpson's」の公式ウェブサイトが「FutureSplash Player」を採用しました。

「FutureSplash Player」が使われていた,1996年頃の「The Simpson's」公式ウェブサイトのFlash部分。ベクター画像のため,拡大しても画像が荒くならない

Macromediaによる買収と「Flash Player」の広がり

1996年11月,FutureWave SoftwareはMacromediaに買収されます。Macromediaはプラグイン「FutureSplash Player」「Macromedia Flash Player⁠⁠,アプリケーション「FutureSplash Animator」「Macromedia Flash」と改名して販売を開始。⁠Macromedia Flash Player」はブラウザのプラグインとして無償配布されたため,しだいに多くのコンピュータのブラウザにインストールされていきます。

ドイツ・ミュンヘンのデザインエージェンシーのウェブサイト『EYE4U』⁠1998⁠⁠。大胆なアニメーションとサウンドが特徴のウェブサイトは,全面がFlashで制作されている

「Macromedia Flash」は,1998年の「Macromedia Flash 3⁠⁠,1999年の「Macromedia Flash 4」と次々とバージョンアップが行われます。⁠Macromedia Flash 4」では,後の「ActionScript」の前身であるアクション機能を強化(変数や文字列の処理,条件分岐の追加⁠⁠。アニメーションだけでなく,インタラクティブ性の高いウェブサイトも制作され始めます。

中村勇吾さんの個人サイト『MONO*crafts』⁠1999⁠⁠。マウスの動きに反応するアニメーションやインターフェイスなど,サイト内で公開された数々の実験的作品は衝撃的で,世界中の話題となった

その後も2000年の「Macromedia Flash 5」⁠拡張したスクリプト言語「ActionScript」が登場⁠⁠,2002年の「Macromedia Flash MX」⁠ビデオの埋め込みが可能⁠⁠,2004年の「Flash MX 2004」⁠ActionScript 2」が登場⁠⁠,2005年の「Macromedia Flash 8 Professional」まで,多くの機能を追加しながらバージョンアップが行われます。

アメリカの高級百貨店「Barneys New York」のウェブサイト(2001⁠⁠。デザイナーのJoshua Davisによる,横スクロールとマスク効果を生かした演出が素晴らしい

アメリカのクリエイティブエージェンシー,2Advanced Studiosのウェブサイト(2001⁠⁠。レイアウトやUIなどは模倣されることも多く,その後のFlashサイトに大きな影響を与えた

機能の追加によって強化されたアニメーションと,プログラミングや動画を生かしたFlashの表現は,ポートフォリオや個人的な作品だけでなく,企業のウェブサイトやキャンペーンサイトにも利用されるようになり,多くのFlashサイトが登場します。

アートディレクターとして活躍されている西田幸司さんの個人サイトRAKU-GAKI⁠2002⁠⁠。 ⁠インターネット界のアカデミー賞⁠である「The Webby Awards 2004( Personal Category⁠⁠」を日本人としてはじめて受賞

RAKU-GAKI (1 May. 2002) from Koji Nishida on Vimeo.

オランダのデジタルアーティスト,Han Hoogerbruggeによるインタラクティブアニメーション『NAILS』(2003)。マウスの動きに反応して再生されるアニメーション。時間を忘れてしまうほど,どの作品も楽しく,素晴らしい

Jordan StoneとMartin Hughesによるデザインユニット,⁠WEFAIL」のウェブサイト(2003⁠⁠。切り貼りしたような手作り感あふれるグラフィックが特徴

Adobe Systemsによる買収とFlashの黄金期

多くのウェブサイトに採用されていくことで,⁠Macromedia Flash」はウェブサイトの制作における業界標準ツールとしての位置を確立します。

こうした中で,2005年にAdobe SystemsがMacromediaを約34億USドルで買収します。Adobeの持つ「Photoshop」「Illustrator」といったクリエイティブツールの中に「Flash」が組み込まれ,ツール間の連携と使い勝手が向上することで,本格的にFlashサイトが拡大します。

Saabの乗用車「Saab 9-3 Sport Estate」のスペシャルサイト,⁠Saab "Saibu"Tour』⁠2006⁠⁠。奥行きのあるクリック&ズームの直線的なインタラクションで,車の細部を紹介します

2007年,買収後のAdobeが最初にリリースした「Adobe Flash CS3 Professional」では,Flashを使ったビジネスアプリケーションの開発を可能にするプログラミング言語「ActionScript 3.0」が導入されました。本格的なプログラム言語である「ActionScript 3.0」の導入により,それまで難しかった高度なプログラム表現も可能になりました。

UNIQLOによるグローバル・プロモーション『UNIQLOCK』⁠2007⁠⁠。⁠MUSIC×DANCE×CLOCK(音楽×ダンス×時計⁠⁠」をテーマにしたこの作品は,世界三大広告賞(カンヌ国際広告祭,The Clio Awards,The One Show)のすべてでグランプリを受賞

UNIQLOCK from PROJECTOR on Vimeo.

2008年の「Adobe Flash CS4」では,インバースキネマティクスやモーションエディタなどのアニメーション関連の機能を強化。プラグインの「Adobe Flash Player 10」には,内蔵の3Dエンジン(GPUアクセラレーション非対応)が追加されました。これ以降制作されるFlashサイトでは,3Dの表現を行う事例が増えていきます。

McCann Erickson Japanによる自然環境の保護運動啓発サイト,⁠エコだ!動物園』⁠2008⁠⁠。Roxikの城戸雅行さんによる3D表現は,当時のFlashによる3D表現の中でも異彩を放つほど,圧倒的に軽快な動作と触り心地の良い操作性を実現している

2011年の「Adobe Flash Player 11」では,GPUを利用するための「Stage3D」がリリースされ,デスクトップ上でFlashアプリケーションやゲームでの3Dレンダリング(GPUアクセラレーション対応)が可能になりました。その後もAdobeは2013年にかけて,3D機能を強化します。

このように2005年のAdobeの買収から「Adobe Flash CS4」が発売された一年後の2009年頃までは,企業などのキャンペーンで制作されるFlashサイトにかけられる費用も年々増大していきました。

アメリカ・カリフォルニア牛乳協会による「Got Milk?」キャンペーンで制作された『Get the Glass!』⁠2007)のメイキング映像。内容は単純なすごろくゲームでありながら,ゲーム内の3DCGのレベルの高さや実際にセットを組んでの動画撮影が行われるなど,贅沢な制作規模がわかる

Flash自体の機能強化だけでなく,Flashサイトを構築するための動画やセット,データベースとの連動にも潤沢に予算が使われ,より大掛かりな仕掛けを使ったFlashサイトが続々と登場してきます。

個人的には,この期間が「Flashサイトの黄金期」と考えます。

著者プロフィール

Lançamento(ランサメント)

国内外のウェブサイトを日々紹介する Blog『Lançamento』を運営する,自称“フリーランスという名の無職”。目指すは“エクスペリエンスデザイナー”(O'REILLY『Web情報アーキテクチャ』11ページ参照)。2008年の“ジェフの奇跡的な残留”を目の前で見たサッカー好き。