いま,見ておきたいウェブサイト

第166回 2021年特別編 2020年の特徴,2021年のこれから

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「Flash Player」が衰退した理由を考える

一時は,ウェブサイトの構築において⁠圧倒的なスタンダード⁠の位置にあったFlashコンテンツですが,2010年頃を境にゆっくりと衰退していきました。その理由を考えていきたいと思います。

制作側に求められた“対費用効果”

2009年の世界金融危機による広告予算の縮小で,制作側は対費用効果の高いキャンペーン効果や数値目標をクライアントから強く求められるようになりました。この動きは,単純に認知度を高めるだけでなく,ユーザーを実際に消費や購入といった行動へと導く必要性を強めていきます。

従来の不特定多数をターゲットとしたマスマーケティングでは,こうした目標の実現は厳しくなります。クリエイティブによって,新たな価値の創出だけでなく,クライアント側の高い目標とユーザーとの関係性強化をどう実現するか,今までとは異なる方法が模索され始めていきます。

図10 急速にユーザー数を増やしたSNSの代表格のひとつ,YouTube(画像は2007年頃のもの⁠⁠。2005年12月15日にサービスを開始後,ユーザー数が爆発的に増加。約一年後の2006年10月9日にはGoogleによって買収された

図10 急速にユーザー数を増やしたSNSの代表格のひとつ,YouTube(画像は2007年頃のもの)。2005年12月15日にサービスを開始後,ユーザー数が爆発的に増加。約一年後の2006年10月9日にはGoogleによって買収された

こうした中,YouTubeやTwitter,Facebookといった情報や共感を拡散させる仕組みを持つSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が注目を集めます。とくにコンテンツの拡散を重要視したプロモーション事例では,SNSの持つ強い情報拡散力は必要不可欠となり,プロモーションを行う上で重要なウェイトを占めていきました。

ユーザーの使用するデバイスの変化

ユーザー側のインターネット環境も変化を迎えます。主なプロモーションの対象であった20〜30代の若者に,モバイルデバイス(スマートフォン)が爆発的に普及し始めたことです。

図11 Appleのスマートフォン「iPhone 3G」⁠2008年7月11日発売)発表直後のAppleのウェブサイト。新たなアプリ販売プラットフォーム「App Store」にも対応。日本ではじめて販売された機種となった

図11 Appleのスマートフォン「iPhone 3G」(2008年7月11日発売)発表直後のAppleのウェブサイト。新たなアプリ販売プラットフォーム「App Store」にも対応。日本ではじめて販売された機種となった

若者の可処分時間の多くは,SNSやアプリなどのモバイルデバイス上のコンテンツで消費され,時間と場所に関係なくインターネットへ接続できます。今後の普及拡大を見据えて,プロモーションでは,⁠モバイルデバイスからの情報拡散⁠が重要視され,対応も優先されていきます。

情報拡散の大前提として,ユーザーの利用しているデバイスでコンテンツが確認できなければなりません。⁠SNSで流れてきたリンク先がスマホで確認できないから,家に帰ってからPCで確認しよう」というユーザーの行動はありえません。つまり,プロモーションがモバイルデバイスで見れない,動かないのは致命的な欠点となっていきます。

モバイルデバイスで動くコンテンツを採用する動き

爆発的に普及し始めたモバイルデバイス,とくに「iPhone」では「Flash Player」が動作しません。苦肉の策として,PCにおいてはFlashを利用し,iOSの端末「iPhone」⁠iPad」向けにFlashを使わないウェブサイトを用意したり,わざわざiOSの端末向けのアプリを制作したりするプロモーション事例も登場しました。

こうしてPCとモバイルデバイス向けにコンテンツを別々に作る作業が増え,プロモーションに関する金銭的,技術的なコストが増大します。前述の通り,プロモーションに対費用効果を求められていた制作側にとって,コストの増大は見過ごせない問題です。このため,どのデバイスでも問題なく動作する技術を利用したプロモーションが行われるようになります。

そのひとつが,どのデバイスでも関係なく視聴できる動画を利用したプロモーションでした。また,どこにでも持ち運べるモバイルデバイスの特性から,インターネット上ではなく,現実空間で行われているプロモーションをカメラで撮影してもらい,即時にSNSで拡散させるという,ユーザーの行動を利用したプロモーションも増加します。

「Google Chrome」のシェア拡大とオープンな技術の台頭

PCのブラウザでも大きな変化が起きました。オープンな技術であるHTML5を利用して,Flashサイトと同様の表現が可能なウェブサイトを実装しようとする動きが現れます。

HTML5を推進したのは,Googleです。自社開発したブラウザ「Google Chrome」でしか動作しないHTML5のコンテンツを制作しながら,機能追加によるブラウザ表現の可能性を次々と提案します。

図12 ブラウザの機能対応状況データベースCan I useでWebGL(3D Canvas graphics)の対応を調べた画面。主要ブラウザの中では,⁠Google Chrome」がもっとも早く対応(2010年12月)している

図12 ブラウザの機能対応状況データベース『Can I use』でWebGL(3D Canvas graphics)の対応を調べた画面。主要ブラウザの中では,「Google Chrome」がもっとも早く対応(2010年12月)している

「Google Chrome」は頻繁にアップデートを繰り返しながら,ブラウザに次々と新たな機能を追加していきました。地味ではありますが,HTML5の可能性を機能追加によって広げることで,Flashからの移行を推し進める原動力となっていきます。

「Google Chrome」はその後もシェアを拡大し,2012年半ばには「Internet Explorer」を上回るシェアを獲得します。HTML5を利用した独自の表現や,今までFlashサイトで使われていた表現が可能になることで,Flashでウェブサイト全体を組み上げる事例は少なくなっていきました。

図13 2009年1月から2020年12月までのデスクトップブラウザのシェア(StatCounterより引用⁠⁠。シェアを拡大した「Google Chrome」⁠緑線)が,2012年半ばには「Internet Explorer」⁠青線)を抜き去ってトップを獲得

図13 2009年1月から2020年12月までのデスクトップブラウザのシェア(StatCounterより引用)。シェアを拡大した「Google Chrome」(緑線)が,2012年半ばには「Internet Explorer」(青線)を抜き去ってトップを獲得

これ以外にも,画面サイズの小ささや回線速度の遅さというモバイルデバイスの問題,ブラウザのプラグインが持つ脆弱性などの技術的な問題もありましたが,プロモーションにおけるクライアントと制作側の関係性,ユーザーのインターネット利用環境の急激な変化に対応できなかったことが,Flashサイトの衰退していった原因だと考えています。

著者プロフィール

Lançamento(ランサメント)

国内外のウェブサイトを日々紹介する Blog『Lançamento』を運営する,自称“フリーランスという名の無職”。目指すは“エクスペリエンスデザイナー”(O'REILLY『Web情報アーキテクチャ』11ページ参照)。2008年の“ジェフの奇跡的な残留”を目の前で見たサッカー好き。