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第166回 2021年特別編 2020年の特徴,2021年のこれから

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これからのFlash。そして,残したもの。

2016年,AdobeはFlashコンテンツの主要オーサリングソフトウェア「Adobe Flash Professional」「Adobe Animate」へと改名しました。すでにFlashコンテンツだけを作成するツールではなく,多くのフォーマットに対応していたため,この改名に大きな驚きはありませんでした。

サイエンスSARUによるアニメーション映画『夜明け告げるルーのうた』の告知映像。アニメーションをFlashで制作した経緯や利点が説明されている。⁠夜明け告げるルーのうた』は,アヌシー国際アニメーション映画祭長編部門の最高賞である「クリスタル賞」を受賞。Flashで制作されたアニメーションの受賞は史上初

2017年にサイエンスSARUが公開した映画夜明け告げるルーのうたは,100%Flashで制作された作品です。アニメーション作品の制作で利用されることは,開発当時の利用法,原点にFlashが戻ってきた感じがあります。

Flashで使用されていたSWF(Small Web Format)形式のファイルは,モーショングラフィックスなどを制作する「Adobe After Effects」で読み込めるため,映像制作の素材としても利用されています。⁠Adobe Animate」の名前通り,アニメーション制作におけるこうした使用法は今後もなくならないでしょう。

2020年12月31日,Adobeは「Flash Player」のサポートを終了し,ダウンロードページを削除しました。2021年1月12日以降はシステムレベルで「Flash Player」によるFlashコンテンツの実行がブロックされ,主要なブラウザ上でFlashコンテンツを実行できなくなりました。

今後のFlashコンテンツの再生に関しては,本連載でも紹介したRuffleswf2jsなどの「Flash Player」エミュレーターの利用が必要です。ローカル環境であれば,現在もAdobeのDebug Downloadsからダウンロードできるスタンドアローン版「FlashPlayer」を利用して,SWF形式のファイルを実行できます。

こうした実行環境を整えても,Flashで制作されたウェブサイトのすべてが再生できるわけではありません。すでにウェブサイト自体が消滅していたり,外部のサーバと連携していたFlashコンテンツはWayback Machineのようなアーカイブサービスでも保存できていません。かろうじて画像や動画として残すことは可能ですが,ユーザーが膨大なFlashコンテンツの遺産を⁠体験できなくなること⁠は非常に残念です。

現在では,ウェブサイトを制作する目的が,情報提供や人材募集,顧客獲得といったより明確なものへと変化しました。プロモーションについても,ユーザーとの接触機会の多さや予算規模からSNSを使った事例が増えています。

モバイルデバイスを最優先に考えられたウェブサイトは,ウェブサイト自体のテンプレート化を進めました。提供するコンテンツの内容や種類,目的によって最適化されたレイアウトや構造が決まれば,最終的なビジュアルデザインについては,似たようなものになることが一般的となってきました。

ビジュアルデザインの定型化は,ウェブサイトの目的やそれらを実現するためのコンテンツ,アクセシビリティなど,構築するための基盤についてしっかり考えることで成立しています。以前と比べて,ウェブサイトはより良い方向への正しい進化を続けています。

とはいえ,Flashコンテンツの全盛期を体験している筆者にとっては,表現方法を含めて,最近のウェブサイトにはやや物足りなさを感じることもあります。そのため現在では,個人が中心となって自由に行っている実験的プロジェクトや各自のポートフォリオに注目しています。

図14 筆者が定期的に巡回しているデザインポータルサイトのひとつ『Awwwards』のFreelance Portfolios。ポートフォリオは制作者が考え抜いた⁠独自の表現方法⁠⁠実験的なコンテンツ⁠が実装されることから,おもしろい事例が非常に多い

図14 筆者が定期的に巡回しているデザインポータルサイトのひとつ『Awwwards』のFreelance Portfolios。ポートフォリオは制作者が考え抜いた“独自の表現方法”や“実験的なコンテンツ”が実装されることから,おもしろい事例が非常に多い

インタラクティブなウェブサイトの構築に欠かせなかったFlashでは,多くの個人が試行錯誤と実験的プロジェクトを繰り返すことで,次々と新しい表現方法が登場しました。その後,表現方法はさらに洗練されながら,ウェブサイトを構築していく上での基本的技術として浸透していきました。

技術が拡散していく歴史を振り返れば,現在ウェブサイト構築のベースとなっているHTML5についても,個人による実験的なプロジェクトによって,基本的な技術と新しい表現方法が確立され,一般的な表現方法として波及していくことでしょう。

Flashによるウェブサイトでは,グラフィックやタイポグラフィ,プログラミングやアニメーションなどの複数の要素を巧みに組み合わせながら,ウェブサイトを構築する能力が必要でした。現在もFlashコンテンツの制作で活躍していた方々は,プログラミングやグラフィック,映像表現やアニメーションなど,幅広い分野で影響を与え続けています。

「Flash Player」は,とくにブラウザ間で扱う技術の統一が難しく,問題のあった時期において,ウェブサイトの表現方法を広げ,コンテンツの質を高め,進化させるという重要な役割を担ってきました。

「Flash Player」の機能から開発者が生み出した,動画や画像の斬新な使い方やインタラクティブな仕掛け,アニメーションによる細部の動きや演出,ウェブサイトの構造からユーザーインターフェイス,これこそが今日のウェブサイト構築の土台であり,インターネットの歴史におけるFlashの最大の功績なのです。

2021年のこれからについて

いまだに感染が拡大している新型コロナウイルスの一番の問題は,人の移動による接触が増えることで感染者が増加して,最悪の場合,大規模な都市封鎖が発生する点です。人命や経済活動に影響を与えるこの問題を根本的に解決するには,全世界の国々にワクチン接種を広めることが不可欠です。

ただし,新型コロナウイルスに対する世界各国のワクチン接種スケジュールや変異株の登場から,2021年内に世界中のすべての国民がワクチン接種を終えることは難しそうです。

図15 2021年4月1日現在のイギリスのオックスフォード大学が運営するThe Our World in Dataによる,100人あたりのCOVID-19ワクチンの累積投与量のグラフ(1回の投与量をカウントした場合⁠⁠。世界各国のワクチン接種は,まだ始まったばかり

図15 2021年4月1日現在のイギリスのオックスフォード大学が運営する『The Our World in Data』による,100人あたりのCOVID-19ワクチンの累積投与量のグラフ(1回の投与量をカウントした場合)。世界各国のワクチン接種は,まだ始まったばかり

したがって,生活の基盤である安定的な経済活動の再開を考えると,2021年の半ばまではコロナの感染拡大は多少軽減するものの,昨年と同様の外的環境が続くと考えています。

このため,新型コロナウイルスの感染拡大という環境下で生まれたビジネスや新しい仕組みが,定着していくことになるでしょう。新たに生まれた各種サービスも,利用者が増えていくことで洗練され,生活の中で欠かせないものとなるはずです。

ヨーロッパ公道での走行テストを行う,Sonyが開発したEVのプロトタイプ「VISION-S」

EV(電気自動車)の周辺環境も活況を帯びてきました。EVの普及が進む中国やヨーロッパを中心に,多くの自動車メーカーが開発に力を入れ始めています。またSonyの試作車やAppleのEV開発のうわさなど,既存の自動車メーカー以外からの業界参入の可能性も高まっています。

2021年には,国内外の多くの自動車メーカーからEVが登場してきます。車両開発が遅れ気味の日本のメーカーからも,今年は新車が登場してきそうです。ハードだけでなく,自動運転タクシーのサービス提供や,この連載でも紹介したテスラの完全自動運転の例など,業界のスタンダードを目指すシステムやソフトウェアにもおもしろい動きが期待できそうです。

図16 2021年に株式上場を控えている,アメリカの暗号資産取引所Coinbase

図16 2021年に株式上場を控えている,アメリカの暗号資産取引所「Coinbase」

昨年は,株価や暗号通貨の急激な値上がりも大きな話題となりました。その原因としては,新型コロナウイルスの影響で旅行などの消費に回るはずのお金や雇用・経済対策による給付金が,株式や暗号通貨への投資に向かったからと言われています。

新型コロナウイルスの影響はまだ続くと考えられるため,余剰金はさらなる投資へと向かう可能性があります。こうした中で,2021年にはアメリカのフィンテック企業「Robinhood」や暗号通貨を取り扱う「Coinbase」など,若者を中心に利用されているフィンテック関連の企業による株式上場が控えています。

とくに価格の急激な高騰が続いている仮想通貨については,フィンテック企業だけでなく,他業種から仮想通貨を絡めた新しいサービスが生まれる可能性もあり,大きな動きのある一年となるかもしれません。

図17 ヨーロッパの複数都市で分散開催される予定だった「EURO2020」は,2021年6月11日から7月11日に開催予定となっている

図17 ヨーロッパの複数都市で分散開催される予定だった「EURO2020」は,2021年6月11日から7月11日に開催予定となっている

最後に,⁠東京2020オリンピック」「EURO2020」など,昨年延期されたスポーツイベントについてですが,個人的には⁠観客数の限定,または無観客での開催⁠がもっとも有力だと考えています。現時点でも新型コロナウイルス感染対策の問題点が残りますが,医学的・科学的見地からしっかりと問題をクリアして,開催を実現して欲しいものです。

今回も最後まで読んでいただき,ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。

著者プロフィール

Lançamento(ランサメント)

国内外のウェブサイトを日々紹介する Blog『Lançamento』を運営する,自称“フリーランスという名の無職”。目指すは“エクスペリエンスデザイナー”(O'REILLY『Web情報アーキテクチャ』11ページ参照)。2008年の“ジェフの奇跡的な残留”を目の前で見たサッカー好き。