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第171回 2022年特別編 2021年の特徴,2022年のこれから

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特徴その2 プライバシー保護の強化が変える広告ビジネスと構造の変化

2021年には,Appleが推し進めているユーザーのプライバシー保護が,広告業界に大きな影響を与えました。

これまで広告主は,Appleの端末に割り当てられるID,IDFA (Identifier for Advertisers) を利用してユーザーに適合した広告を配信してきました。しかし,2021年4月にリリースされた「iOS 14.5」では,プライバシー強化を目的にApp Tracking Transparency(アプリのトラッキングの透明性)と呼ばれる新たなプライバシー保護機能が導入されます。

この結果,iPhone上のアプリは⁠IDFAを収集することをユーザーに必ず通知する⁠ことが求められ,ユーザーの許可が得られなければ,IDFAの収集や共有ができなくなりました。

ここ数年,iOS上ではプライバシー保護機能の強化が進められてきました。2017年9月にリリースされた「iOS 11」でブラウザの「Safari」に搭載されたITP(Intelligent Tracking Prevention)と呼ばれるウェブサイトの行動追跡を防止する機能から始まり,その後もiOSのバージョンアップとともに適応範囲を拡大します。

2020年9月にリリースされた「iOS 14」では,ユーザーが設定で「広告トラッキングを制限する」を選択すれば,他社のアプリやウェブサイトなどを横断したユーザーの行動追跡(クロスサイトトラッキング)拒否や,オプトアウト(ユーザーによる広告の受け取り拒否)が可能になりました。

Appleの急速なプライバシー強化に対しては,収益の多くを広告事業から得ているFacebook(現Meta Platforms)が猛反発しました。内部テストを実施した結果,⁠変更で自社の広告プラットフォームがもたらす収入の50%以上が減る」発表し,アプリの広告収入に頼る中小企業や広告枠を供給するパブリッシャーを傷つけると主張する全面広告を新聞に掲載します。

AppleのCEOであるティム・クックによる,Appleのプライバシーに関するデータの考え方を述べたツイートでは,⁠ユーザー自身が自分の収集されるデータとその使用法についての選択権を持つべき」だと述べている

Facebookの反応に対しては,AppleのCEOであるティム・クックが「ユーザーは収集されるデータとその使用方法を選択できる必要がある」とTwitterで回答し,改めてAppleがユーザーのプライバシー保護を強化していくことを表明しました。

Appleのプライバシーポリシー変更によるユーザー保護機能は,その後も拡張を続けます。2021年4月にリリースした「iOS 14.5」では,すべてのアプリで「ユーザーにIDFAの許可を得ること」⁠初期設定では不許可)が義務づけられます。最新の「iOS 15」では,⁠Safari」のIPアドレス保護,⁠メール」の第三者保護,プライバシーレポートの表示といった機能を追加しながら,プライバシー保護を強めています。

動画1 ユーザーがアプリやウェブサイトでの行動を追跡をコントロールできることを表現した,Appleのプロモーション動画

2022年1月27日,Appleの2022年第1四半期の決算発表後のカンファレンスコールで,⁠アクティブなインストールベースのデバイスが18億台以上」となったことが発表されました。前年1月の決算発表にあった「アクティブデバイス数16億5,000万台のうち,iPhoneが10億台を占める」ことから推測すれば,現在アクティブなiPhoneは約11億台であるため,Appleのプライバシーポリシー変更が広告業界に与える影響は決して少なくないことが予想できます。

これまで広告業界は,個人のプライバシー情報を起点として,数多くのビジネスモデルを成立させてきました。しかし,ユーザーのプライバシー保護の流れの中では,今まで通りの収益を上げることは難しくなるでしょう。情報の取得が厳しくなることで,新たな方法を使い,今まで同様の広告ビジネスを継続しようとする動きも出てきています。

高いシェアを持つブラウザ「Chrome」を提供しているGoogleは,2020年に「ChromeにおけるサードパーティCookieのサポートを,2年以内に段階的に廃止」すること,2021年3月には「個人のWeb閲覧履歴に基づく広告販売を,2022年には終了すると発表しています。さらに今後もAppleのプライバシー変更に伴う変化が予想されることから,新たな技術を使って,広告の効果を落とさず,今まで通りの成果をもたらすことを公表しています。

動画2 Googleが提案した,広告効果を落とさず,ウェブサイトやAndroidのアプリでユーザーのプライバシー保護を進めるための新技術「Privacy Sandbox」を説明した動画

費用対効果の高さでビジネスを成立させてきた広告業界にも変化が出てきています。個人の行動を基盤とした従来のビジネスモデルとは異なった,新たなモデルで広告事業を急拡大する企業が登場しています。

その大きな成長を遂げているのが,Amazonの広告事業です。2022年2月,Amazonは2021年の第4四半期決算の決算発表を行いましたが,その際,今まで非公表だった広告事業に関する収益を初公開しました。そのAmazonの四半期の広告収入は97億USドル(前年比32%増⁠)⁠,通年では310億USドルとなり,Googleが運営する「YouTube」の2021年の総広告収入(288億USドル)を上回りました。

Amazonの広告事業は,主にEC(Electronic Commerce)サイトである「Amazon.com」で表示されます。これらの広告は,⁠Amazon.com」のマーケットプレイスに出品する企業によるものです。⁠Amazon.com」を訪れるユーザーに対して,商品検索結果や関連性の高いキーワード・商品に基づいて広告が表示されることから,効率的で効果の高いことが予測できます。

図4 ⁠Amazon.com」の商品検索結果で表示される,Amazonのスポンサープロダクト広告(赤枠部分⁠⁠。商品検索結果ページのトップや商品ページに表示されるため,効果が高いと考えられる

図4

Amazonは「Amazon.com」以外でも,自社タブレット端末の「Kindle」やストリーミングサービスの「Amazon Prime Video」⁠Twitch」などの関連サービスにも広告を表示しています。多面的な自社サービス上での広告販売は,前述しているAppleの規約変更のような,プラットフォームによるビジネスの不確実性が少なく,新たな収入源となる優秀なビジネスと言えます。

これまではユーザーが欲しい商品を探す場合,Googleなどの検索サービスで商品を探して,購入するウェブサイトへと移動するという流れでした。しかし,購入意欲の高いユーザーが直接訪れる「Amazon.com」内での広告はさらに効果が高いということなれば,Amazonの各種サービスへの広告に比重を移していくクライアントは増加していくでしょう。

クライアント側の変化の中で,検索サービス側もすぐに商品を購入できるよう,新たな購入フローを追加・改良しながら対抗しています。Googleは昨年5月にShopifyとの提携を発表し,検索時に表示されるショッピングタブの機能強化や広告出稿のない業者の商品を無料枠のショッピングタブに掲載する変更を行っています。

Googleはこれ以外にも,EC向けの施策を積極的に行っています。昨年11月15日から22日には,⁠YouTube」「YouTube Holiday Stream and Shop」開催し,インフルエンサーとブランドが主催した生放送で特別割引された商品を販売しました。さらにブラックフライデーに行われたキャンペーンBlack-owned Fridayでは,動画内で表示される商品をユーザーがそのまま購入できる仕組みを提供しています。

図5 2021年のブラックフライデーに開催されたアフリカ系オーナーの小売店を支援するキャンペーン「Black-owned Friday」のウェブサイト。⁠black-owned shops near me」を検索させることが目的の動画内では,表示される商品がそのまま購入できる仕組みになっている

図5

「YouTube」では,2022年以降もイベントなどで新たなショッピング体験のフォーマットを試しながら,ビデオオンデマンドやパーソナライズされたショッピング機能といったショッピング関連サービスへの投資を継続することを表明しており,今後はEC事業に向けての投資も増えていくでしょう。GoogleがAmazonの独占するEC市場への攻勢を強め,一方のAmazonはGoogleの独占する検索広告市場のシェア拡大に乗り出す。広告業界の動きを見ると,もはや「検索といえばグーグル」⁠EC市場といえばアマゾン」といった,事業単位での切り分けは意味のないものです。企業が自らの強みを生かして,業種を問わず利益を獲得できる領域を拡大していくという,厳しい大競争時代へと向かっているようです。

著者プロフィール

Lançamento(ランサメント)

国内外のウェブサイトを日々紹介する Blog『Lançamento』を運営する,自称“フリーランスという名の無職”。目指すは“エクスペリエンスデザイナー”(O'REILLY『Web情報アーキテクチャ』11ページ参照)。2008年の“ジェフの奇跡的な残留”を目の前で見たサッカー好き。