WSEA(Web Site Expert Academia)

第20回リニューアル直前!特別編

毎回、さまざまな分野の方をゲストに迎え『関心空間』代表取締役 前田邦宏氏との対談をお届けする『Web Site Expert Academia⁠⁠。

今回は、連載リニューアル直前の特別編ということで、本連載の振り返りや2007年のWeb動向について、本誌編集長 馮と対談していただきました。

奥:関心空間代表取締役 前田邦宏氏。⁠撮影:蝦名悟)
奥:関心空間代表取締役 前田邦宏氏。(撮影:蝦名悟)
編集部注)
本対談は2007年11月28日に行われたものです。

連載振り返り

馮:

まず最初に、これまでの連載を振り返ってみて、どのような感想でしょうか。

前田:

僕自身、この企画をいただいたおかげで出会えた方もいますね。

僕らが思うに情報空間というものは、まだ狭い。もうちょっと外があるんじゃないかと。でも振り替えって空を見れば宇宙があるわけで、情報空間を広く捉えようと思えば宇宙にまでつながる、そういうことがすごく新鮮でしたね。話の中の断片的なものをつなぎ合わせると、具体的にどんな方法論や仕組みにいくのか、ということを整理すればいろんなことが見えてくるんじゃないかと思いました。

馮:

なるほど。近接領域の概念ですね。それから、去年はとくに検索エンジンに注目が集まっていた印象があります。使い方1つで、情報の広さも狭さもどっちの方向にも振れることができます。

たしか水島先生の回のお話で「一番良い情報が、検索結果の前から3ページ目の下のほうに出てきてしまう可能性がある」とおっしゃっていました。現段階では、この部分はまだ改善されていなくて、その補助的な技術として、レコメンドのような概念が生まれてきました。こういう流れを見ていると、検索を使うユーザは、自分で探せる範囲の情報だけではなく、その先を求めているのかな、と思います。

今振り返っていただいたように、上を見れば宇宙があったり、⁠前回のような)医療の方向につながっていったり……。結局のところ、情報の広がりはインターネット上で探すだけではなくて、リアルの部分で意識を変えることで広がっていくんだということを、これまでの対談を拝見して強く感じました。

前田:

そうですね。そして前回の話題のテーマが医療・肉体の話で。これ実はすごくWebと関係があるんですよね。

たとえば我々のビジネスの一部は広告ですが、広告というのは認知機会がないと成立しないコンテンツですよね。広告主やエージェントからの依頼で、ユーザにどういうインプレッションを与えるかということは皆さんすごく技術をしのいでいる。

けれども、それは我々が起きていて、かつ、意識が向いた瞬間という、非常にうまくタイミングをキャッチしないと見つけられない。体調が悪かったらそこにいくら良いコンテンツがあっても意識が始動しないし、悲しい気持ちでいたらいくら楽しいメッセージをされても受け取れない。そういう意味ではすごく肉体的にも精神的にも支配されていますし、検索エンジンで言うと自分の検索能力にも制約を受けていますよね。

結局は自分のツール下におけるスキルアップ/自己拡張がどうやって可能なのか? 自己を拡張させるためにはWebは何ができるのか? という話がずっと続いてきたという気もしますね。

馮:

自己拡張の考え方があった一方で、ここ数年のWeb業界は、CGMのように自然発生的に生まれてくるという考え方も強調されていましたよね。結果として、何もしなくても話題が出てくるんじゃないかという誤解的な感覚を持ってしまったユーザも増えてしまったんじゃないかなと思います。

その考え方に対して、Webというものは、自分から発信していくなり入っていくなりしないと、広げることもできないし距離を縮めることもできない。そういうこともこの連載を通じて感じました。

前田:

ふだん飲みながら話していることも、対談という形に落として、アカデミックな視点からいろんなジャンルでつなげてみましょう、と粒を揃えてみると1つのテーマが見えてくる。これは僕1人だけだとコンテンツ化されなくて、編集作業という別の人間が整理をすることで形になってくるもの。

“Web 2.0⁠とくくられるサービスの中で、うまくいっているものと明らかに失敗しているものがありますよね。それはあまり強く意思を持たないコンテンツが大量に蔓延していて、それを汲み取る検索エンジンの仕組みと、どうしてもコンペティティヴな関係にある。このSEO特集(本誌#14)も、ある意味では商売をしている人もそこに便乗してしまっている。そうすると、本当に純粋な意志や意欲を持った人が、コンテンツを正確に届けるという経路が複雑化してしまって。

たとえば紙のメディアであれば、書店という限られた空間でありながら、最適化されたインターフェースがある。自分の生き方や職業に適合したコンテンツを見つけるのには、そんなに時間がかからないですよね。でも、これをWebで満たそうとするとすごく難しい。要は、強い思いと弱い思いが、粒の揃わない状態で大量に同じ空間に存在していますから。

そういう意味では、来年以降、特定の人が特定の状況で、ある時間にどの空間にいて、その空間に来るまでの過去の履歴など、全部ふまえたうえで次をサジェストする仕組み、その人の思いを汲み取る仕組み、もしくはその思いを伝える仕組み。そういうのは、まだまだたくさん出てくる可能性があるというか…出てきてもらいたいですね。

馮:

おそらく、現状の環境でそのための場を作るということは、それほど難しくなくスマートにできると思います。大事なのは、その場をどうやってユーザに届けるのかっていうことで。その動きが次のWeb業界のフェーズの1つになっていくのかと思います。昨年からのSNSやblogブームは、こうした意思の強い弱い情報が混在する現在の状況に寄与している部分がすごくありますね。今まではあえて制限しなかったことで、混在しているのだと思います。

来年以降はこの部分がどう作り込まれて洗練していくのか、あるいはもっと混沌としていくのか、気になるところです。

前田:

改めてこの対談連載を振り返ると、最初にWikipediaの集合知の話題があって、第2回目はインターフェースの話、3回目で水島さんと情報空間の狭さや広さというのを検索エンジンをメインに扱い、4回目で宇宙という自分の未知の広さをどうエクスプローラするのかいう話題を。5回目で自分たちの足場といいますか、生物的な起点の話になり、そして6回目で肉体の話に。

今度は未来ですね。自分が踏み出した先に何が寄与するのか。寄与するということが、今は推奨エンジンなどといった言葉にしかなりませんが、もっとデリケートな言葉になるのではと思いますね。もしかしたら、推奨するのがあたりまえになって、推奨エンジンと呼ばなくなるのかもしれない。

馮:

それに加えて、より細分化されていくことも考えられます。現時点では、汎用的というか広い視点で検索がレコメンデーションされていますが、今後は検索軸とは異なるレコメンデーションも出てくると思います。

今まで以上にネット上のユーザ間の動き、言動、関係、つながりといったものの影響力が大きくなり、WebサービスやWebサイトを作っていくうえで、どこまで汲み取っていけるかが重要になりますね。

2007年のWebトレンド総まとめ

SecondLifeは化けるのか?

馮:

メディアから見て、2007年はSL(SecondLife)がプチバブルでした。とくに紙媒体がこぞって取り上げ、たくさんの書籍や雑誌記事、さらにはTV番組で紹介されたりもしました。Webの視点で見たSLというのは、アーカイブ性のない空間ではありますが、何かブレイクする、秘めた可能性があるんじゃないかと思っているのですが、どのように思われます?

前田:

僕は世界観や思想のあるサービスが好きなので、SLに関しては、世界を作るというイメージはすごく好きだったんですけど、参加する人がその気持ちを持っていないんじゃないかと、とくに日本のユーザは。

Webのときは違ったんですよ。そこで英語でコミュニケーションをしなくても、自分の手元に海外へのつながりがあるということや、自分のサイトが見られているのでは、ということをすごく意識していた。でもSLだと、日本人のユーザは外国人に話しかけられると逃げてしまう。

そこが、世界観と世界を意識したアプリケーションの中で、参加するユーザと作り手側の意識が少し乖離している感じはしますね。広告宣伝も、世界を意識したものを提案すれば良いのに、日本の企業は日本人に向けて発信しちゃうんですよね。

馮:

たしかに日本のSLは閉じた世界ですよね。以前海外のblogを見ていたら、SL内で無視する日本のユーザが多いと書いていました。

前田:

SL内で対談した様子をTVで放送するという番組も最近出てきましたよね。TVの前の人に対して活動するという…これは、SL内にいるすべての人たちに対してコミュニケーションするという動機とは違いますよね。

馮:

ええ。現時点で日本の企業がSL内で発表する動機は、先行投資の意味合い以外には、それを取り上げてくれるメディアをすごく意識しているんじゃないかと思うんです。ユーザに向けたプロモーションではなくて、ある種のPR(Public Relation)に近いものだと感じています。

前田:

サービスに対しての期待はしています。自分が接したことのないような人からも注目されるようなサービス・プロモーション設計や、コミュニティを作ろうという意識があると、もっと魅力的になるはず。

馮:

もう1、2年様子を見ないとわからないとは思いますが、そこがポイントですよね。その結果、ユーザの意識が変わらないと現状の枠を越えるのが難しいと思います。

“スキマ”を埋めるツールTwitter

前田邦宏氏。
「これからは"ライフログ"を軸としたサービスが
充実していくでしょうね」
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馮:

あと、2007年もう1つ流行ったのは、Twitterなどのマイクロブログですね。今までコンテンツとコンテクストと捉えていたものが、概念がまったく逆になったというか。文脈にあまり関係なく発信していくだけというものが、ここまで流行るとは。

前田:

あれは僕、すごく相互補完的なものだと考えています。文脈のなさを文脈とするような、そのスキマを可視化したという点では、まさに『関心空間』と同じ発想上で。

『関心空間』でいうところのキーワードのようなかっちりとしたマイクロコンテンツのフォーマットではなくて、そのスキマなんですよね。⁠声かけられても良いよ⁠みたいな、スキマの時間・空間というのを少し露出することによって、コミュニケーション機会を増やすというところが、すごく僕は共感できて。

馮:

わかります。それって検索の外側に近い部分で、かっちりとはしてないんだけれども、何となく埋められる。自然体で相手の部分に入っていけるソーシャルサービスといったニュアンスのものですね。

前田:

人間が持っている何でもない⁠間⁠を気持ち良く過ごせる人間関係って、なかなか良い状態だと思うんです。猿の毛づくろいじゃないですけど、暇なときは相手の肩をさすってあげる、みたいな。そういうちょっとしたコミュニケーションの断片が、人間関係のある種の豊かさを示すものなのだと思うので、そういう意味では、もっと広がっていくんじゃないでしょうかね。

馮:

たぶんあの気軽さがTwitterにつながっていて、それが次のつながりにもなる。もともとつながっていた人同士で、その毛づくろい的なことができる。親友や恋人や夫婦であれば、何も話さなくても1日過ごせるみたいな、それにすごく近い感覚で、意識的ではないコミュニケーションがとりやすいのかなと。しかし、時間経過によってはその関係がゼロになってしまうこともあり、その差が激しいと思っています。

前田:

だからコンテクストを出しているんですね、⁠ちょっと今ヒマ⁠⁠とてもヒマ⁠⁠声かけないでほしいヒマ⁠⁠ちょっと声かけてほしいかもヒマ⁠みたいなものを。

馮:

個人がもっている気分の濃淡を表現しているイメージですね。

前田:

あの小さな言葉の中に濃淡が出ていますよね。今まで声がかけにくかったところに⁠かけても良いよ⁠と言われる、パーミッションのアプリケーションだと思うんですよ。本来離れていたら共有できない空間を瞬時的に作るんですよね、Twitterは。親しい友達同士でおちゃらけるというか。

馮:

SNSは浅くて広いつながりを増やしていくことに対して、Twitterは逆に友達を増やすことが目的ではなく自分の心地良さが重要なサービス。そして、身近な人との距離感をより近づけることができる瞬間的なコミュニケーションとでも言えますね。

今後この感覚を表現していくサービスは増えていきそうです。

前田:

多くなると思いますね。同じSNSでもmixiは、実はつながりに対するコミュニケーションの頻度によって人間関係を深くしている。なぜなら、コミュニケーションを返さないといけないという人間的な所作が必要だから。Twitterはそういうところから外れていますよね。そこの間ですとか、さらにゆるい関係とか、ほんの少しの時間…以前、携帯ビジネスの関係者の方が言っていたのですが、たとえばラーメン屋の待ち時間で見れるコンテンツやツールというのはまだまだ開拓されていない。

馮:

本当にちょっとした時間というか、埋めなくても良いけど埋められたら良いなというスキマを埋めるサービス。そのあたりは今後のサービスとして、もっともっと出てきそうですね。

ちなみに『関心空間』で今後そういったサービスをリリースする予定はありますか?

前田:

もうすぐローンチなんですが、12月に情報大公開プロジェクトの中で『Kanshin Airport』〈http://pr.my lifeassist.jp/kanshin.html〉というサービスを、3ヵ月だけの実証実験で行います。自分の立っている地点に近くてかつ趣味思考の近い情報を推奨してくるサービスです。単に自分の場所に近いお店を推奨するというサービスは、距離の近いお店しか推奨されないですが、そのなかでも自分のライフスタイルに合ったものをオススメしてくれるというものです。

これは実用的なサービスですが、そういうことの発想モデルは、たぶんこれから非常に充実してくるでしょうね。なぜなら、今、行動ターゲットマーケティングというのは、アクセスログのようなものを指していますが、ネット上の履歴だけでなく、朝起きてから寝るまでの心理的な行動履歴などの⁠ライフログ⁠を共有するサービスに対して、皆が前向きになっているからです。活用しようとする企業側の魅力と、提供すればこういうサービスが受けられるんだというユーザの利害が、一致し始めていると思います。

一昔前は個人情報ってネガティブイメージでしたよね。固定電話で発信者の電話番号を出すというのが、個人情報の漏洩だって喧々諤々になっていた時代もありましたけど。

馮:

最近はセキュリティへの意識が高まっていく一方で、ログインが簡単だったらそれで良いってユーザが増えてきていますし。

前田:

それは、ある程度セキュアな個人情報の提供場所が増えてきたということもありますよね。個人情報だけでなく、ライフログ、購買利益、支店情報、心理的な気分というのをどんどん出してきていて、それに適合した情報を手に入れるという手段は、これからますます増えていくと考えています。

そして次回からは

馮:

今まではアカデミックな授業形式でしたが、次からはリニューアルして実践編ということで。

前田:

そうですね、対談の相手となる方ご自身が目指している機能を図表化したものをベースに、ネットワークの立場で議論をして。その話を聞いていると新しいサービスが連想されるような対談にしたいと思っています。

馮:

今後の本連載の展開が楽しみです。期待しています。


というわけで次回からはリニューアル! 新たに⁠実践編⁠として展開していきます。乞うご期待!

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