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【実践編】第3回 オーガニックなサイバネティクス

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生態系のイメージ,植物の持つ力

前田:

僕が今日一番聞きたかったことは,人間が介在していないし,相互に意思を持っているかどうかわからない,けれども自分と別の存在を認識できているならば,コンピュータが介在していても,もう生態系と言っても良いと思うんですが。田中さんの実験はそこに近付いていっているのかどうかということです。

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田中:

うーん。植物の研究ではそれを証明する方法もなくて,確かめられていないんですね。そもそも「確かめること」が目的なのかどうかという話もありますが。

とりあえず,少しずつでも前に進もうということで,対象を鳥に変えた実験も行っています。鳥とコンピュータを対応させて,コンピュータの出す指令を鳥が受けてどうフィードバックを返しているかというものです。

そうすると,確かに鳥がコンピュータの鳴き方を学習して,コンピュータらしい鳴き方になるのは事実なんですね。コンピュータも鳥の鳴き方を真似てだんだん学習していくのも事実。相互に影響を与える存在になっているということは言えると思います。

ただ,僕はこの実験の究極の目的は,⁠アルゴリズムを見つける」というコンピュータサイエンス的な関心にあるのかなと最近思っています。いろんな実験環境を作って,あとは,どう変わりゆくか,何が起こるのか,という変容の過程を観測する。それで,最終的にどんなアルゴリズムを人間が見つけられるのかということを試しているのかもしれません。なので,出来上がったものが生態系と似ているかどうかや,そもそも生態系と言えるのか,という定義の議論をするのは結構リスキーかもしれないですね。

前田:

最初この実験を聞いたとき,⁠ジュラシック・パーク』を想起したんですが。

田中:

あ,ちょっと待ってください。ここ図1で僕が生態系と書いたのは,あくまで生態系を「参照源とした」ネットワークシステムをまずは考えたい,という意味からです。今のところ,⁠既存の生態系」に直接働きかける前の準備フェーズなんです。

たとえばSNS,あれは冒頭で⁠ソーシャル⁠と言っている時点で,まず社会をモチーフにしたネットワークサービスを人工的に作る,それをまた社会に埋め込んで送り返す,そうして,やがてSNS自体が膨らんで我々の社会の一部になっていく,という3段階の実験だと僕は解釈しています。⁠関心空間』もたぶんそうですよね。あれが社会だと言えるかどうかはあまり大事ではなくて,こういう社会の仕組みもあり得る,という「可能性のプラットフォーム」を立ち上げることに価値があると僕は捉えていて。その意味で,まずは,今のネットワークシステムに生態系のような有機性を付与するにはどうするか。たとえば植物や動物を繋いでみる。そういった参照源として「生態系」と記しているんですね。

たぶんさっき前田さんがおっしゃたことは,前田さんの「生態系」という概念の必要条件かと思います。生態系だからこういう要素がないといけないんじゃないかとか。

前田:

じゃあ,ココとココ(図1の人間と人間のつながりと生物と生物のつながりの間を指しながら)の間がたぶんあるんですね。

田中:

あ,鋭いですね。

前田:

たぶんそこの間って,植物を持ち歩くというような⁠習慣⁠じゃないですかね。たとえば今,犬を連れて歩くというのも1つの単位みたいな社会もあるじゃないですか。あれがプロトコルになっていて,そういう生活スタイルの中でほとんど表裏一体で。家族って皆呼んでいるわけですよね。あれが植物に置き換わったらとか,モバイルになったらとか,そういったイメージですか?

田中:

そうです,そうです。

前田:

ここ(胸ポケット)に土を挿しても不自然ではないという状況があったときに,そこでさらにネットワークにつながっていても変わらないでしょ,とか。

田中:

ええ,実はペット型の植物というのは2年前に開発していて注1⁠。将来的には携帯電話のアンテナのもう一方に好きな植物を挿して生活するということがあると思っていて,それは先ほどの犬の話に近いですね。

前田:

ちょうど今『関心空間』とコラボしている『PLANTED』注2のいとうせいこう編集長と話したら,彼は行動力があるからすぐやっちゃいそう。

田中:

僕もそれはもうできてくると思っています。ITコミュニティと植物好きコミュニティ・動物好きコミュニティがまだリンクしていませんが,そこはたぶん自然とリンクするものかと。そうなったときに今度はネットワークシステムとしてあらかじめどんなものを用意したら良いのかと少し先回りして考えていく,それが今のスタンスですね。

以前,植物の生態電位をBGMに代えながら持ち歩くというデバイスを開発する実験を学生がやっていて。植物の電位がなんらかの音に変わってずーっと再生されているんですよ。そもそも植物の生態電位って,環境のあらゆるパラメータ,温度や周囲の電磁波とかに反応して変わるんですが。その環境に対する敏感さというのは人間の何万倍もあるので,それを聞いているとものすごい解像度で環境に対する感覚がくる。

こういう人間の知覚を書き換える効果を,植物や動物には託しています。その先に生態系をシフトしたりとかということに自然とつながっていく感じでしょうね。

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前田:

たとえば大地震の前にカエルの大移動があった,とかいうことは,そのセンサーが働くということですよね。

田中:

そうですね。自然の中の生き物のほうが,人間よりも高い解像度で環境を意識しているので,情報システムを通じて間接的にそういうインテリジェンスを人間社会にも取り込もうという発想です。

前田:

植物ほどでは敏感ではないにせよ,我々の電位も変化はありますか?

田中:

人間の皮膚にも植物のように生体電位があって,そこで感情の変化などを調べることができるそうで,そういうことを研究している方もたくさんいます。でも,僕は人間とペットがワンセットで1つのモジュールとか,人間と植物がワンセットで1つのモジュールとか,そういうふうに捉えるほうが面白いと思っていますので。

前田:

モジュールといっても社会関係なんですよね。犬とかだと,お互いの認識でちょっとずつ1つの社会関係が個性化していくというか,お互いの新密度が上がっていく気がするんですが。植物は想像しにくい…(笑⁠⁠。

田中:

植物は意思を持っているかどうかの議論になってしまうので…,擬人化という欲望は,結局人間の片思いなんですよね。心のメカニズムとしては真だけど,科学的なメカニズムとしては証明する方法がない。

前田:

確かにそのエコというのを人格化して近付いていくという点では,1個だと難しいかもしれない。でも,実社会だと盆栽や蘭なんかをたくさん温室で作っている人というのは,かなり植物に対して愛情があるというか。

田中:

そうですね。どちらかというと植物は,単体で扱うのではなくて,ある量を扱って確率統計をとってみたりすると,⁠群としての知性」が立ち上がってきて,生態系らしさが出てくるのかなという感じはしますね。

前田:

屋久島まるごとIT化という記事があって。実際はそうじゃないんだけど, 屋久島中の葉っぱ1個1個がつながっていて,それがすべてネットワークに可視化されるとかイメージしちゃいました。

田中:

森が1つのインテリジェンスだという機能は昔からありますよね。たとえば天然の森に人間が一歩足を踏み入れると,⁠人間がやってきた」という情報が出て森全体に広がるらしいですよ。樹木の根っこどうしの間で微弱な電磁波を出し合って伝達して。それで森中が人間がやってきたことを認識するみたいです。

前田:

『風の谷のナウシカ』の森(腐海)と蟲がシンクロしているということを想起させる話しですね。

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注1)
植物の反応を光で示すプランター「Plantio」の外へ持ち運びできるタイプ「Pocket Plantio」⁠写真)
注2)PLANTED
植物をキーワードに,ヒト,ファッション,インテリア,アート,エコロジーなど,まったく新しい切り口でボタニカル・ライフ(=植物とともにある暮らし)の楽しさを提案する雑誌。

著者プロフィール

前田邦宏(まえだくにひろ)

株式会社関心空間 代表取締役。1967年兵庫県宝塚生まれ。1990年より公共機関や企業向けデジタルコンテンツの企画制作ディレクションに従事。1998年ユニークアイディ設立(現:株式会社関心空間)。2001年クチコミ情報コミュニティサイト「関心空間」を発表。同年に関心空間エンジンを利用したASP事業を,また2005年よりメディア事業を開始。

受賞歴:
2002年10月「関心空間」にてグッドデザイン賞新領域デザイン部門入賞。
2005年9月日本広告主協会WebクリエーションアウォードWeb人賞受賞。

田中浩也(たなかひろや)

1975年北海道札幌生まれ。京都大学総合人間学部,人間環境学研究科,東京大学工学系研究科社会基盤工学専攻修了。博士(工学)。現在,慶應義塾大学 環境情報学部 准教授。国際メディア研究財団客員研究員。大学でエンジニアリング&デザインの研究教育に携わりながら,環境装置開発ユニット”tEnt”を共同主宰し,生態系と情報システムの橋渡しを試行錯誤中。旅好きに端を発したモバイルフィールドワーキングのためのフリーウェアをhttp://www.earth-walker.com/で配布中。