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【実践編】第3回 オーガニックなサイバネティクス

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個々にネットワーク生態系を

前田:

こういった研究は,ずーっと先にいくと何になっちゃうんですか?陳腐な未来予測だと,ターミネーターのスカイネットじゃないですが,ネットワークが意識を持ってしまう。それは人間が持っている意識とは違うものかもしれないけど,そう振舞ってしまって,大いなる意思になってしまう。そういうところから人間との力関係が変わってしまう世界の話がよくSFで取り上げられますが。

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田中:

そうじゃない未来を描こうとしているんです。鵜飼いあるいは羊飼いのようなイメージですね。植物や動物がネットワークごしに人間の周辺でなんらかの活動をしていて,それがいろんな情報を拾ってきてくれるような環境です。

ユーザ個々が自分のためのミニ生態系を確保するというイメージなんですよ。たとえば僕はNYの蛍と日本の自宅の植物とどこかの鵜飼とアザラシを自分のネットワークに入れると考えて,で集まってくる環境情報の中で生活しますよ,と。前田さんは別のシェアを,別の植物を従えていますよ,と。そういうパーソナライズされたネットワーク生態系を持ちつつ,環境とインタラクトしながら生活するイメージです。

前田:

なるほど,わかります。

田中:

それを僕は庭,マイガーデンやクリーチャ・ネットワークと言っても良いんじゃないかなと思います。世界中に遍在して活動している植物や動物がまずあって,生命的な情報や環境の情報をWebに送り込んでいる。そして,各自が自分で選んだ,その部分集合=セットが,仮想的につながれた「わたしの庭」として,バイオリズムやダイナミズムを手元まで届けてくれる,というイメージです。

技術の進化と息苦しさ

“神”でありたいか?

前田:

抽象度の高いことをお聞きしたいのですが…我々は作り手として何者か? ということを。自分がそのネットワークを作って,当初は⁠神⁠としてあったのに,だんだん⁠神⁠は無関係になっていく。

田中:

僕のやり方だと,最初のお膳立ての部分は自分で介入するわけですよね,生き物と人間がインタラクションするような関係を作る。その後いったん自分は離れて成り行きを見ている。見ているうちにどちらかというとそちらが環境になって育って行って,逆に自分のほうが変わってくる……というようなことを確かに思ってますね。

前田:

たとえば『関心空間』でも,雑誌の紹介なんかでは,前田が作ったとか初めて書き込んだとか世界観を作ったと書かれているけれど,ユーザにとっては「誰それ?」⁠俺が作ったもので人とつながっているのであって,前田からは何の恩恵も受けていない」とか「どちらかというとユーザーである俺の方が貢献しているくらいだろう」と。そうなったときに,⁠神⁠というか作り手として,何を成功とみるか。

田中:

それは面白い疑問ですね。前田さん,⁠神⁠でありたいですか?

前田:

神というより場(状況空間)の提供者になりたいだけですね. 僕は複雑ではあるけれどもその複雑さが有効性を持って人に伝わるアルゴリズムを作ることに意義を感じているのであって,そのアルゴリズムがユーザや社会に有効なアルゴリズムだったとしたらそれで良い,というスタンスです。

田中:

たぶんこの話というのは,ネットワークシステムを作る人特有の世界観かもしれないですね。たとえば今日僕が作っても,明日には別の者が作ったものに変わっているかもしれない,あるいは主客の逆転。僕はその主客の逆転する感じが大好きで。最初の種を蒔いたときの自分と,少し状況が変わったときの自分というのがある。その2重性――観測するフェーズと生成するフェーズ――を,行ったり来たりし続けることが創造性の源だと思う。

前田:

完全に⁠一致してない⁠ということは第三者から見るとないというか。確かに20歳くらいから性格変わったよねって言われることはあるかもしれないけど,連続的な存在だと思うんですよ,第三者には。

僕にとってアルゴリズムが有効に働いたなというのは,自分が作りたかった世界観に変容しつつも中心を貫いているコンテクストが変わらない,ということ。自分の子供みたいなもんですよ。明らかに顔も性格も似ているけど,どんどん自立的になっていくわけじゃないですか。それを見ているから反抗しても愛おしい,というのもあるし。大きくなったから無関係というのではなくて,関係性はときおり確認するというか。そういう意味では逆転したことに快感を覚えるというよりは,底辺ではつながっていてそれが近似した世界観の中で成長していくということです。

田中:

第三者とか,メタ自己を導入するなら,それもすごくよくわかりますね。

著者プロフィール

前田邦宏(まえだくにひろ)

株式会社関心空間 代表取締役。1967年兵庫県宝塚生まれ。1990年より公共機関や企業向けデジタルコンテンツの企画制作ディレクションに従事。1998年ユニークアイディ設立(現:株式会社関心空間)。2001年クチコミ情報コミュニティサイト「関心空間」を発表。同年に関心空間エンジンを利用したASP事業を,また2005年よりメディア事業を開始。

受賞歴:
2002年10月「関心空間」にてグッドデザイン賞新領域デザイン部門入賞。
2005年9月日本広告主協会WebクリエーションアウォードWeb人賞受賞。

田中浩也(たなかひろや)

1975年北海道札幌生まれ。京都大学総合人間学部,人間環境学研究科,東京大学工学系研究科社会基盤工学専攻修了。博士(工学)。現在,慶應義塾大学 環境情報学部 准教授。国際メディア研究財団客員研究員。大学でエンジニアリング&デザインの研究教育に携わりながら,環境装置開発ユニット”tEnt”を共同主宰し,生態系と情報システムの橋渡しを試行錯誤中。旅好きに端を発したモバイルフィールドワーキングのためのフリーウェアをhttp://www.earth-walker.com/で配布中。