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【実践編】第3回 オーガニックなサイバネティクス

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淡さの確保

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前田:

人間と人間のSNSの先の話は僕も目指しているところで。どうも皆はソーシャルメディアを人間と人間の関係で捉えすぎているというか,嫌なんですよね,僕も。派閥だったりステイタスだったり…もっと違う要素で豊かになりたい。

僕は茶道が好きなんだけど,あれもすごく微妙な世界ですよね。一見, ハイクラスな人間交流をしているように見えるけど,あれもモノとかコンセプトの関係性が上位で,人間上位の世界ではない,豊かで淡い交わり, 淡交(たんこう)ですね。淡交というのは人間の交わりは, 駆け引きや利益に遠い関係ほど美しい, という茶道の言葉ですが。これもそういう淡い交わりですよね,植物とかって。

田中:

ええ。コミュニケーションが非対称だということが良くて。相手の持っているコミュニケーションチャンネルと相手の持っているのは同じではない。という状況があえて。

前田:

それ良いですね。コミュニケーションの単位が小さくなるというのは,確かにこのWeb 2.0の先にあると思うんだけど,Twitterみたいな世界はクールだったり,ハッピーではあるけど,侘びさびとか淡交とは違うもんね。

田中:

基本的にはある同一の平面の上にあらゆるコミュニケーションを置いてしまっているから,奥行きとか深さが出てこないですね。

前田:

僕がボトルメール注3を良いと思うのは,さっきの片思いじゃないけど,コミュニケーションする結果を求めるんじゃなくて,自分の思いを投じてそれが返ってくるまでが良いからなんですよね。

田中:

まったくそうですよ,結果じゃなくてアクションそのものを楽しんでいるということが大事ですよね。⁠交換」という事実性よりもむしろ,⁠交歓」というそれ自体を楽しむセンスを確保しないといけないと思いますね。

『不可能性の時代』注4という本が最近出たんですが,その中でコミュニケーションできたかどうかの結果をネットワーク社会によって独自に観察できる世の中になったという部分がありまして。今は自分のアクションに対する何らかの結果がかなり直にわかる状態じゃないですか。それ自体は,不可視のしがらみの増幅に陥るリスクがあって,結構息苦しさにつながっているんじゃないかなと。最初のころは淡かったじゃないですか,技術的にも淡かったけど。

前田:

メールなんかも昔は手紙をもらったように喜んでもらえましたよね。

田中:

そこまでしかできなかった技術の時代があったんですよね。今の技術だとできるようになってしまった。できるものをやらないという選択肢はないので,別のベクトルに,横に流れを変えていくしかないと思って,そのきっかけがこういう研究なのかなと。

前田:

ふむふむ,それは今日また別の理解が進みました。固定電話の技術者の方は,携帯電話に⁠圏外⁠が存在することに最初驚いたらしいですよ。つながらないというのは,ユーザに故障していると思われるという固定概念があったから,⁠圏外って表示していいんだ!」(笑⁠⁠。結局インフラストラクチャーってそういうふうに振舞ってきたわけですよね。たとえば電力会社の人というのは,風力発電とかを⁠汚い電気⁠って呼ぶんですよ。定常的に同じ質のものを出せないのは技術的に劣っていることだから。

それってどんどんその息苦しい話になっている気がして。つながらなくてもいい,たまにつながらなくても仕方がないって思っている心の余裕が携帯にあったのに,これが完璧に全部つながったときに,失われるものがやはりあって。おそらくネットワークでもそうして淡い付き合いが減っていったんですね。

 

田中:

ええ。そこで頼りになるのが人間以外の生物かと。サイバネティックスというのを人間社会のみで閉じて捉えているなら,その延長上にある未来はもう作っても仕方ないと僕は考えていて。その局地に近付いているからこそ,淡さみたいなもの,有機性を確保するために逆のベクトルにいったんアテンドする。⁠サイボーグ」=サイバネティックオーガニズムではなく,オーガニックなサイバネティックス,具体的に言うと「生物の参加するWeb⁠⁠,というトライアルをやりたいと思っています。

前田:

ようやく,本棚に置かれていたジャック・モノー「偶然と必然」注5のコンテクストが見えてきました。モノーは,生物学が形而上学的な言葉を使わなくても宇宙の真理にもっとも近づけるサイエンスだと言っていましたが,さらにその先を行くわけですね。つまり,言葉を持たない生物間をネットワークさせて,言語化しないまま世界を描写するインターフェースがWeb上に実現できないか,それも人間中心的な視野を可能な限り排除し,自らもそこに一体化して世界を見ようということですね。非常に奥深いお話し,ありがとうございました。

注3)
いつ,誰に届くかわからない電子メールサービス。⁠予期せぬ出会い」を創出する。
注4)
2008年,大沢真幸著,岩波書店刊,ISBN-13:978-4-0043-1122-5
注5)
1970年にパリで出版された本書は,ノーベル生理医学賞を受賞した生物学者ジャック・モノーによる現代生物学の視点から世界を俯瞰した思想的問いかけの書。

AN APPLICATION IMAGE INSPARED FROM THIS TALK
(対談からインスパイアされたWebサービスイメージ)

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センサーネットワークが街にある樹木の1枚1枚の葉や動物につながっている未来では,人間以上の感度で,街をセンシングし,目には見えないデータを可視化することができるに違いない。たとえば,人通りの多さだけでなく,人が快活におしゃべりを楽しんでいるのか,喧嘩をしているのかを,樹木や動物は人より敏感に感じ取っており,街全体の雰囲気(自分の生存環境の良し悪し)をある尺度で感知しているかもしれないからだ。

ならば,ある時期の樹木や動物の状態から,街の⁠気分⁠⁠景気⁠の変化を分析するだけでなく,予報することもできるかもしれない(少なくとも雨の日は売り上げは落ちる訳だし/イライラしている人間を動物も避けたいだろう⁠⁠。

また,ある日とても快適だった日と場所と環境データを記録し,その居心地と似た別の場所を検索することもできるかもしれない(明治時代,カナダ人牧師が夏の間,外国人にも過ごしやすい軽井沢という避暑地を発見してくれたように⁠⁠。

「植物インターフェイスと栽培メディア」は,慶應義塾大学 田中浩也研究室が母体となり、栗林賢(博士課程)を中心として継続されている一連の研究プロジェクトです。本稿の図版・ダイアグラム等は栗林氏の修士論文「植物を用いたインタラクティブシステムのデザイン支援環境」を元に作成しています。

http://mountain.sfc.keio.ac.jp/~cultivativemedia/


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「鳥との音声インタラクション」は,田中浩也+久原真人の共同ユニット⁠tEnt⁠((財)国際メディア研究財団所属)で行われている研究テーマです。

http://www.tent-info.com/

著者プロフィール

前田邦宏(まえだくにひろ)

株式会社関心空間 代表取締役。1967年兵庫県宝塚生まれ。1990年より公共機関や企業向けデジタルコンテンツの企画制作ディレクションに従事。1998年ユニークアイディ設立(現:株式会社関心空間)。2001年クチコミ情報コミュニティサイト「関心空間」を発表。同年に関心空間エンジンを利用したASP事業を,また2005年よりメディア事業を開始。

受賞歴:
2002年10月「関心空間」にてグッドデザイン賞新領域デザイン部門入賞。
2005年9月日本広告主協会WebクリエーションアウォードWeb人賞受賞。

田中浩也(たなかひろや)

1975年北海道札幌生まれ。京都大学総合人間学部,人間環境学研究科,東京大学工学系研究科社会基盤工学専攻修了。博士(工学)。現在,慶應義塾大学 環境情報学部 准教授。国際メディア研究財団客員研究員。大学でエンジニアリング&デザインの研究教育に携わりながら,環境装置開発ユニット”tEnt”を共同主宰し,生態系と情報システムの橋渡しを試行錯誤中。旅好きに端を発したモバイルフィールドワーキングのためのフリーウェアをhttp://www.earth-walker.com/で配布中。