JIRAで進化するプロジェクト管理―ITSの特徴と変遷から見えてきたもの

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ITSの導入と定着の壁

Excelを使い続けるわけ

プロジェクト管理では,計画を行うだけでなく成果を含めた進捗を把握できることが重要です。プロジェクトをフォローし,問題発生時に適切に対処するために,迅速に実情を把握できなければなりません。

ところが,実際はプロジェクトの計画を立てることに比重が置かれ,その結果プロジェクトの監視が重視されがちです。この場合,計画と実績のスナップショットを知るには,ガントチャートや課題表が作成しやすいExcelでの管理は理にかなっており,都合も良いのです。

それでは,プロジェクトの監視ではなく,プロジェクトの運営に注目した場合はどうでしょうか。おそらく多くのプロジェクトがExcelでの管理に負担と限界を感じることでしょう。特に現場にかかる負担がどんどん大きくなることが予想されます。⁠今までこれでやっていたから」という理由だけでExcelを使い続けるわけにはいかなくなるでしょう。

しかし,多くのプロジェクトでExcelが使われ続けるのはなぜでしょうか? プロジェクト管理ツールの進化を振り返りながら考えてみましょう。

限られたプロジェクトのための商用ITS

Excelが使われ続ける理由として,誰もが使えるツールなので抜け出せないというのは十分に考えられます。もう1つ考えられるのは,考案されたばかりのころのITSが比較的高額な商品であったという理由です。ITSに投資できる組織やチームでは導入されましたが,多くの開発の現場で広く認知され,普及するまでには至らなかったのです。

内製ITSのジレンマ

もともとバグ帳票とバグ票による紙文化が根付いている日本企業では,ソフトウェア開発に合わせた電子的な方法でそれらを踏襲する方法が模索されました。商用のITS製品はコストがかかるうえに自社文化や用語に合わせる手間もかかるため敬遠され,内製ITSが選択されることがありました。内製ITSは自社事情に特化できる利点があったからです。その反面,⁠紙文化をそのままシステム化」⁠全社全業種統一」といった目的が優先され,使い勝手と柔軟性に課題が残りがちでした。

オープンソースITSの貢献

この状況が変化してきたのは,2010年前後のオープンソースITSの台頭です。Trac,Redmineといったオープンソースプロジェクトが立ち上がり,成果が出始めると,ITSの意義を含めたさまざまな情報が共有・蓄積されていきました。商用製品も手に入りやすくなり,ITSを活用して本業に注力していこうと考える企業が増えてきました。オープンソースのITSは初期投資が最小限で済むため,開発現場でのボトムアップ導入が進みました。最終的なアウトプットはExcel管理表で出さなければならなくても,開発現場ではITSを使うという選択肢も出てきました。

ITSの次のステップ

開発現場主導によるITSの導入が加速すると,その課題も見えてきました。次のステップが見えてきたということです。

限られた人による活用からの進化

開発作業の促進が目的のITSは,ほかのロールやほかの目的(企画やテスト,プロジェクト管理)にとっては必ずしも都合が良いものではありませんでした。

開発者がタスクとそれに関わるソースコードとの関連を取るためにITSを活用した場合,プロジェクト管理者などの別の立場から見ると,そのタスクに関する細かい情報が多過ぎてプロジェクトの状況を包括的に知ることが難しく感じます。それを補完するために,Excelによる情報提供を別途要求することもあります。

ITSによって作業の効率化とコラボレーションが進むことを身をもって体験している開発者からすると,良いITSのしくみができたらほかのロールでも活用してもらいたいのですが,なかなかうまくいかないという状況になっているのです。

例としてバグの改修を考えてみましょう。開発者は,ソースコードを修正するための情報とワークフローがあれば十分です。それに対してプロジェクト管理者やテスト担当者は,ユーザフィードバックやテスト結果に基づくバグの追跡と説明に責任があるため,バグの登録から修正版のリリースまでの全体を見ることができるワークフローでなければ活用しづらいのです。

ある程度の目的が果たせるからこその悩みではありますが,欧米では10年以上前から,これらをスコープに入れた変更管理のワークフローを定義し,運営するのがセオリーになっています図1⁠。

図1 ITSの適用範囲

図1 ITSの適用範囲

ITSの定着に向けたツールの統一の必要性

視点を変えてみましょう。ITSの普及とともに,好みのITSを導入する現場も増えてきました。あるプロジェクトではAというITSを,隣のプロジェクトはBを,その隣はAをベースにしたカスタマイズ版A'を使うということが起きてきました。独立したプロジェクトであれば,ボトムアップ導入で問題は起きませんが,ITSが各現場に定着するに従って次の課題が見えてきます。プロジェクト間でのITSの種類の違いが異動者や兼務者の戸惑いや不満を引き起こし,生産性にも影響が出てきます。ボランティア運営に委ねるのも限界が見えてきます。

ここで,もう一度Excelの特性を振り返ってみましょう。Excelのメリットは,ファイル単位で情報を管理するため,自分たちの環境に合った「オレオレ管理表」を容易に生み出せることです。デメリットは,情報の分散化と更新の難しさです。ITSがプロジェクトごとに異なるという状況は,⁠オレオレ管理表」「オレオレITS」にスケールアップしたにすぎないともとらえることができます。ITSをより定着させスケールさせるためには,プロジェクト間でITSを統一する必要も出てきます。

望まれるITSとしてのJIRA

JIRAは,Atlassianが2002年に提供を開始したITSです。Atlassianでは,良いITSをスタートアップ企業やチームで活用できるように,次のプログラムを継続提供しています。

無償提供
オープンソースプロジェクト,NPO法人,授業用に無料で提供
スターターライセンス
10ユーザが利用できる製品を10ドルで提供し,売り上げを全額チャリティーとして寄付注1

JIRAという名前を知らなくても,著名なオープンソースプロジェクトのITSで利用されているのを見たことがあったり,知らないうちに実際に使っていたということもあります。JIRAは,多くの先進的なプロジェクトで利用され,揉まれてきているのです。

Atlassianは,製品の価格に加え,ドキュメント,既知の問題点,ユーザフィードバックを公開しているので,明確な投資がしやすくなっています。営業部門を持たずにエンジニアに投資するビジネスモデルはビジネスシーンでも注目されています。これは口コミによる評判と製品の浸透度が高くなければできない方法です。

注1)
提供製品およびユーザ数についてはhttps://www.atlassian.com/ja/software/starter/overviewをご覧ください。

JIRAはどんなITSか?

JIRAには,ITSの代表格と呼ばれるのに十分な理由があります。その主なものは次の3つです。

  • 使い勝手が良くなるよう工夫されている
  • プラットフォームとして確立されている
  • 部門やロールを問わずに利用可能なしくみに拡張できる

JIRAは,ITSの中でも特に標準機能が充実しています。ここでは標準機能の代表例としてスマートクエリを紹介します。ITSでは,あらかじめ定義しておいたフィルタを選択して目的のIssueの一覧を表示します。しかし「自分が担当している一覧を即座に知りたい」⁠自分が報告した一覧の状況を即座に知りたい」⁠期日が近いものを把握したい」というときには,フィルタを定義する時間と手間がかかります。JIRAには,検索ボックスに特定のキーワードを入力すると,欲しい情報を提供してくれるスマートクエリが備わっています。この機能を使うことで,表2のような情報を即座に得ることができます。

また,JIRAはITSを含めたワークフローエンジンのプラットフォームとして知られています。AppleのApp StoreのようなAtlassian Marketplaceにより,目的に応じた拡張機能やシステム間の連携を行うアドオンを容易に検索・調達できます。開発者にも名声や収益を得る機会として提供されています。

表2 JIRAスマートクエリ

検索ワード提供される一覧情報
my自分が担当しているIssue
r:me自分が報告したIssue
r:tnagasawaユーザ「tnagasawa」が報告したIssue
overdue期限の切れてしまったIssue
due:.1d,1w期限が昨日(.1d)から来週までの1週間(1w)のIssue
created:yesterday作成日が昨日(yesterday)のIssue

JIRAにはプロジェクトの事情に応じて展開できる柔軟な提供形態が用意されています表3⁠。

表3 JIRAの提供形態

提供形態特徴適用例
JIRA Server(旧名称:Download)自社サーバに構築自社のプロジェクトルームや機密性の高いプロジェクト
JIRA Cloud(旧名称:OnDemand)AtlassianがホストするSaaS期間の短いプロジェクトや分散拠点間での共有
JIRA Data Center(※新設)自社サーバに構築部門や企業内で統一したITSプラットフォーム

JIRA ServerやJIRA Cloudを現場に導入することから始めて,JIRAが社内で定着してきたらJIRA Data Centerで包括的に運営するなど,柔軟に利用できる点がJIRAの大きな特徴です。

著者プロフィール

長沢智治(ながさわともはる)

Atlassian 唯一のテクニカルエバンジェリスト。Rational Software などでソフトウェア開発業務改善のコンサルタント,ソリューションアーキテクトを経験し,Microsoft での7年間エバンジェリストとしての活動を経て,2014年より Atlassian に参加。

全国各地の開発現場やワークスタイルの革新のために「破壊と創造」をもたらし,仕事とビジネスが楽しくなることを願ってあれやこれや活動し続ける型にはまらないエバンジェリスト。悪巧みなどお気軽にお声がけください。

「通りすがりのエバンジェリスト」「パワポ職人」と呼ばれることもある。

趣味は,海水魚やオオクワガタの飼育,仮面ライダーの研究など。

長沢智治のTwitter(@tomohn):http://twitter.com/tomohn
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長沢智治のブログ re-workstyle.com:http://re-workstyle.com
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長沢智治コラム連載:http://buildinsider.net/column/nagasawa-tomoharu
アトラシアン株式会社 Webサイト:https://www.atlassian.com/ja/
アトラシアン株式会社ブログ:http://japan.blogs.atlassian.com

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