新春特別企画

2013年のソーシャルWeb

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セマンティックWebはさらに重要になる

日本において昨年はFacebookが本格的に利用され始めましたが,同時に多くのWebサイトがFacebook上でコミュニケーションのネタとして消費された年となりました。それにつれて,多くのWebサイト構築者がOGP(OpenGraph Protocol)仕様を知ることになったと思います。

すでにOGPが登場してから2年以上が経過しています。これからわかることは,米国に比べて日本におけるソーシャルWebの広がりは残念ながら2年ほど遅れていると言うことです。もちろんアーリーアダプタの方々によって,Web標準仕様はいち早く日本に持ち込まれているわけですが,それが普及するまでには,やはり時間がかかっています。海外の事例を待ってから,という姿勢の方が多いのかもしれません。

そうしている間にも,Webサービスの有名どころは着々と進化を続けています。例えばGoogleは,Webページのセマンティックな記述をここ数年で非常に重要視するようになりました。つまり,SEOへのテクニックがここ数年でかなり変化したのです。正しくWebページのコンテンツを論理的にしておくことが,良いサイトと判定されるための近道になってきました。

さらにGoogleは,ナレッジグラフという新しい検索機能をリリースし,インターネットに無数にあるWebサイトが関連データベースとして機能するようにしてきています。まだこの機能は始まったばかりですが,今後情報から情報への関連がナレッジグラフ内で構築されていくにつれて,あなたが公開しているWebサイトにとっても,ユーザが目にしてくれるようにするためにナレッジグラフに取り込まれなければならない日が近づいてきています。そのためには,Webページに対してセマンティックな記述を施し,他のWebサイトと意味のあるリンクを張ることが必要になります。

Webサイトのソーシャル連携には認証とシェアが今年はより行われる言及しましたが,これは同時にセマンティックWebへのサポートが進むことも意味しています。OGPやHTML Microdata,Schema.orgといった仕様がますます重要になるわけです。SEO,ソーシャル化,その目的はどちらでも構いませんが,結果として行うことは同じです。GoogleやFacebookなど,セマンティックを理解する側の準備はすでに整っています。インターネットを今年さらに進化させるためには,Webサイトを公開している人々がそれぞれソーシャルWebをサポートすることが必要なのです。

PC向け技術がスマートフォン向けに移植される

ここで重要なのは,ユーザがインターネット上にあるコンテンツを消費するために利用するデバイスは,スマートフォンやタブレットがほとんどを占める時代が来た,ということです。

GoogleやFacebookの技術が利用されてきた土壌は,今まではPCが主流でした。モバイルデバイスはおまけ程度に考えられてきたわけです。しかし,ユーザの動向は間違いなく「PC離れ」であり,その勢いはものすごく加速しました。昨年までは,PCをターゲットにしたWebサイト向けに,GoogleやFacebookを始めとする企業がソーシャル性を組み込むための部品を提供してきていました。

今年からは,むしろPC向けには提供されず,スマートフォンやタブレットのみで利用可能な部品が数多く登場します。そして,多くの開発者がそれらをモバイル端末向けに組み込んでいくということが行われます。PCをベースに考えることから抜けられないサービスは,今年から次々と脱落していくことでしょう。

スマートフォンやタブレットをターゲットにした場合,提供されるライブラリは「JavaScriptで組み込み可能なもの」「ネイティブアプリで組み込み可能なもの」の2つが提供されます。PC向けだけであれば前者のみで事足りますが,それではユーザのニーズに全く答えられません。そういったサポートの手厚さが,結果として今後の市場形成や開発者の取り込みに大きな影響を及ぼすことになるでしょう。Facebookとて,そこが命取りになるかもしれません。

スマートフォンやタブレット向けのユーザ体験は,PCと比べてやはり異なります。今年は従来からPC向けに提供されているものがモバイル端末向けに次々と移植され,開発者は対応に追われる年となるでしょう。

エンタープライズソーシャルの事例増加

最後に,ソーシャルというキーワードがエンターテイメントではなくエンタープライズで使われ始めることを取り上げたいと思います。つまり,ユーザがソーシャルメディアを直接使う話ではなく,企業がソーシャルメディアを業務やサービスに取り入れるときの話です。

企業はマーケティング目的でソーシャルメディアを捉えがちなのですが,例えば航空業界ではソーシャルメディアをより深く使い始めています。興味深い昨年の話として,次の2つが挙げられます。

KLMオランダ航空のソーシャル座席予約

KLMオランダ航空では,昨年から「FacebookやLinkedInのプロフィールを見ながら,座席を決められる」というサービスミート&シートを始めました。読者の皆さんも「隣に座ってくる人はどんな人なのかな」と気になったことはあると思います。数時間同じ席に座っているわけですから,例えば同じ趣味を持っている人と隣同士になれれば,もしかしたら会話が弾むかもしれませんし,その結果不快な思いをせずに済むかもしれません。ネガティブな印象を持つ顧客は,もちろんプロフィールの公開を拒否することも可能です。

このサービスは,デモではなく昨年実際に開始された実例です。現在でも継続して提供されています。

サービス開始直後の調査結果によると,6割を超える人々,特に女性については,その安全性に懸念を感じていたようですが,1割強のユーザには好意的に受け入れられたようです。ロマンスを期待する男性もいるようですが,例えば同じイベントに参加する人が搭乗しているかどうかを探すことができ,予め情報交換できたことでイベント参加の価値が上がった,というユースケースは結構ありそうです。

多くの人にとって利益をもたらす仕組みかどうかは怪しいですが,少なくともこれによって旅がより魅力的になった人もいるはず。面白いサービスですし,顧客にどういった属性の人がいるのか,KLMオランダ航空側にとっても貴重な情報が得られるでしょう。

バージン・アメリカとFacebookの顧客サポートデモ

KLMオランダ航空よりもより踏み込んだことを考えているのが,バージン・アメリカです。それはセールスフォースのイベントで発表されたデモンストレーションで,ファーストクラスに登場した顧客がFacebookに書き込んだ情報をスタッフが確認し,もしその顧客が重要な会議があって遅刻できないことを書き込んでいた場合に,乗り継ぎをスムーズにするために「現地スタッフに誘導を指示」することと,その顧客の座席にあるディスプレイに乗り継ぎのための道順を着陸前に表示する,という内容でした。

このデモでは,セールスフォースが提供している様々なサービスとFacebookを連携させ,顧客が何を求めているのかを事前に知って付加価値を提供しよう,という試みが表現されています。重要なのは,システム間連携によってもたらされる,顧客のニーズの認識からその対応までのスピードです。さらに,異なる場所にいる関係者への情報のシェアという点でもテクノロジが有効に機能しています。

他社と差別化しリピーターとなってもらうために,顧客のニーズをどのように拾っていくかの一手法として,ソーシャルメディアの利用が今年から数多く試されていくと考えられます。もちろん,上記のデモを見てネガティブな感想を持った人もいると思います。ソーシャルメディアに書かれた情報,特に一般に公開された書き込みについて,それは誰でも見れる情報である反面,⁠その情報がどう使われるか」について漠然と「怖い」という印象を持つ人もいます。これはメリットとデメリットが両方存在する世界なので,提供するサービスのバランス感覚が非常に重要になります。

今年は,そういった難しさにチャレンジする企業が日本でも登場し,事例が2,3個出てくる年になると考えています。

まとめ

本記事を書き始めた時には「できるだけ技術的なトピックを」と考えていたのですが,ソーシャルの利用シーンのことばかりの内容になってしまいました。これからもわかる通り,ソーシャルは「参加する」段階は終わり,日本も「活用する」段階に入ってきたということです。⁠ソーシャルをどう活用していけばいいかわからない」という声を昨年までは聞きましたが,海外の事例を元にして,今年は日本においても様々な試みが行われるようになるでしょう。

そのチャレンジのために必要となる技術的仕組みは,既に整っています。OpenID,OAuth,OGP,HTML Microdata,Schema.org,そしてHTML5に代表されるWeb標準技術とモバイル端末向けのネイティブアプリ開発技術を組み合わせて,新しいソーシャルWebを皆さんの手によって実用なレベルでぜひ開発してみてください。

著者プロフィール

田中洋一郎(たなかよういちろう)

株式会社ミクシィ所属。Google API Expert(Social分野担当)。Mash up Award 3rd 3部門同時受賞。書籍「OpenSocial入門」「mixiアプリ開発&運用コンプリートブック」を出版。

Bloghttp://www.eisbahn.jp/yoichiro
Twitter: http://twitter.com/yoichiro

著書