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困難な時代は技術が進化するチャンス ―ソラコム 安川CTOが語る,2021年コロナ禍でのIoTの存在意義

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感染症の蔓延がIoT業界にもたらすもの

――2020年はソラコムにとっても新型コロナウイルスの影響を強く受けた1年だったと思いますが,米国を拠点にして開発を統括する安川さんにとっても変化を余儀なくされた部分は多かったのでしょうか。

安川氏:そうですね,日本に出張することができなくなったり,Discoveryのオンライン開催など,前年には予想できなかった事態に直面したことは事実です。ただ,ソラコムは以前からテレワークを導入していたのでオフィスに行く/行かないが問題になることはありませんし,私も日本のチームと日常的にオンラインでミーティングをしたり,顧客サポートに対応してきたので,ワークスタイルそのものはコロナ前とほとんど一緒です。ただ,チームビルディングの視点から見ると,明らかに物理的なコミュニケーションは減ってしまったので,WFH(Work from Home)を前提にしたコミュニケーションを効率的に行えるよう,これまでより意識して進めています。1週間に一度はオンラインで,欧州などのメンバーも含めて雑談をしたりゲームをしたりするなど,リモートであってもチームとしてつながっていることが感じられるようにしています。

――ソラコムのビジネス全体への影響はどうだったのでしょうか。

安川氏:もちろん影響はあります。コロナによって多くの企業がさまざまなコストの無駄を見直していますが,通信費に関しても同様で,使われていないサービスを解約したり一時停止するところも増えています。こうした動きは当然,ソラコムのビジネスにも影響してきますが,ユーザが通信費の効率化を目指していくのは当然なので,そうしたニーズに応えられるサービスは伸びています。

――ちょっと失礼な質問かもしれませんが,新型コロナウイルスが国内で本格的に流行する前の2020年2月に,ソラコムとしてはじめてのコンシューマ製品となるiOS向けのeSIMデータ通信サービス「SORACOM Mobile」が発表されました。しかしその直後からパンデミックが急激に拡大し,一般の日本人が海外旅行や出張する機会はほとんどなくなってしまい,現在に至ります。SORACOM MobileはAppleとのコラボレーションも実現し,これまでとは違うユーザ層を獲得できる大きなチャンスだったと思うのですが,結果としてコロナにやられてしまったかたちになったことをどう捉えていますか。

安川氏:たしかにSORACOM Mobileの直後にパンデミックが拡大の一途をたどることになるとは予想していませんでしたね。ただ,私はSORACOM Mobileも,そしてソラコムのこれまでのeSIMへの取り組みも失敗だったとは思っていません。元々IoT向けに培ってきた技術をベースに構築されている上,今後も必要になる技術を使って開発していることから技術開発投資の観点で失ったものはありませんし,日本も米国もパンデミック収束の時期はまだ見えてきませんが,人々が海を越えて行き来する日々が戻ってくることは間違いありません。また,eSIMという技術自体も物理的なSIMカードに縛られていたさまざまな制約を解き放つものであり,必要なときに必要なサービスを受けられるようにするというソラコムの基本的な考え方とマッチします。eSIMへのこれまでの投資は必ず次のチャンスに活きてくると信じています。

2020年の最初のサービスローンチとなった「SORACOM Mobile」はソラコム初のコンシューマサービスとして注目されたが,コロナの感染拡大によりシェアを獲得するには至らなかった

2020年の最初のサービスローンチとなった「SORACOM Mobile」はソラコム初のコンシューマサービスとして注目されたが,コロナの感染拡大によりシェアを獲得するには至らなかった

エンジニアの真価が問われる“変化の時代”

――コロナ禍では物理的なエクスペリエンス,とくに人と人のコンタクトが大きく制限されることになり,さらにその終わりが見えないという厳しい状況が世界各地で続いています。技術者としてこの困難な時代にどう向き合っていくべきだと思われるでしょうか。

安川氏:困難な時代であることはそのとおりだと思います。でも困難な課題があるのなら,それを解決するために機能するのが技術であり技術者ではないでしょうか。逆に困難な時代だからこそ,技術が解決できるチャンスはこれまでよりもたくさん存在すると思います。ただし使う人のことを考えてサービスやアプリケーションを作る,そのことが大前提です。困難な時代であってもなくてもそれは変わりません。逆にどんなに先進的でとがった技術であっても,使う人の立場を考えていないシステムは世の中に受け入れられにくい。失敗するプロダクトは使う人の側に立っていないことが多いと感じます。

新型コロナはこれまでの日常を大きく変えてしまいましたが,新しい技術が台頭するきっかけとなった側面もあります。ZoomやTeamsといったオンラインコラボレーションツールがこれほど普及したのもパンデミックによる影響ですが,そうした技術の潮目の変化を正しくとらえて自分たちのビジネスにスムースに取り入れたユーザはビジネスでも成功していることが多い。私が見ている限り,米国の企業はやはりこうした技術の変化をスムースに受け入れて,自社のビジネスに取り入れるのがうまいと実感します。

――技術を作る側と使う側,両方のマインドセットが変化に対応していく必要があると。

安川氏:パンデミックほどではないにしろ,社会や時代はつねに変化にさらされています。もっといえば社会や時代が変化し,技術がそれに応じて進化することで技術の陳腐化が防げている。技術者にとって変化とはチャンスであり,変化することがむしろ自然であるという認識はもっていたいですね。

――最後に,日本のIoT技術者に向けてメッセージをお願いできますか。

安川氏:先ほども言いましたが,コロナによって技術が問題を解決するチャンスは大きく拡がったと思います。技術者の方はなにか課題を見つけたら,それを自分がもつ技術でどう解決できるのか,その方法をつねにデザインし,アイデア実現のためのアプローチを考えてみてください。ソラコムはそのアイデアの実現をサポートするプラットフォームを今年も皆さんに提供していきます。


Go Build. ―これはAmazonのCTOを務めるヴァーナー・ボーガス博士がよく使うフレーズです。Amazon/AWSではシステム開発にかかわる人々を「ビルダー(Builder⁠⁠」と呼んでいます。ただコードを書くだけではなく,社会を支えるシステムをビルド(構築)する役割を担った存在 ―AWSのエンジニア時代にヴァーナー博士からビルダーとしての多くを教わったという安川氏は現在,より多くのビルダーを支えるIoTプラットフォームの進化に取り組みながらも,⁠世界中のヒトとモノをつなげ共鳴する社会へ」というソラコムの理念さながらに,社会を支えるいちビルダーであることに重きを置いているようにも見えました。

パンデミックという困難な時代にあってもビルダーとして,そしてソラコムというプラットフォーマーとしてやるべきことにブレはない,そんな安川氏とソラコムが今年はどんなサービスを発表するのか,筆者もいまからとても楽しみです。

2017年6月の「AWS Summit Tokyo」のキーノートに登壇した安川氏とヴァーナー博士。⁠尊敬するヴァーナーから紹介されてAWSのイベントに登壇するのは感無量」とコメント

2017年6月の「AWS Summit Tokyo」のキーノートに登壇した安川氏とヴァーナー博士。「尊敬するヴァーナーから紹介されてAWSのイベントに登壇するのは感無量」とコメント

著者プロフィール

五味明子(ごみあきこ)

IT系の出版社で編集者としてキャリアを積んだ後,2011年からフリーランスライターに。フィールドワークはオープンソースやクラウドコンピューティング,データアナリティクスなどエンタープライズITが中心。海外カンファレンス取材多め。Blog 「G3 Enterprise」やTwitter(@g3akk),Facebookで日々IT情報を発信中。

北海道札幌市出身/東京都立大学経済学部卒。

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