アジャイル開発者の習慣-acts_as_agile

最終回 信頼貯金を増やす

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アジャイル開発者の習慣

以上で,この連載の目的であるアジャイル開発者に必要なスキルを磨く習慣の紹介はおしまいです。ここからは連載の内容をふりかえって,もう一度,サブタイトルの「acts_as_agile」に込めた意味を確認します。

紹介した習慣

私の経験と観察からは,アジャイル開発者たちは次のような習慣を身につけています。

アジャイル開発者の習慣
  • #0 フィードバックを重視する
  • #1 仕組みを育てる
  • #2 スケール間に連続性を築く
  • #3 ドキュメントを大切にする
  • #4 設計を進化させる
  • #5 信頼貯金を増やす

そして,この習慣の実践と継続を通じて今回紹介した開発者の3つスキルとアジャイルな開発者の4つのスキルに磨きをかけ,ユーザ価値のあるソフトウェアを提供しています。

こうした習慣を身につけている私の周囲の開発者は,みなさん優秀だし偉大だなと思います。

「偉大な習慣を身につけたプログラマ」

私は自分自身をアジャイル開発者の端くれだとは任じています。しかし,彼らのように偉大になれるかと自問すると自信をなくすこともよくあります。

そんなとき私は,連載第1回の冒頭で引用したKent Beckの言葉に立ち返ります。

僕は,偉大なプログラマなんかじゃない。偉大な習慣を身につけたプログラマなんだ。

――Kent Beck注13

習慣を身につけることも一つのスキルです。習慣を支えるマインドセットを意識し,プラクティスを実行に移し,継続する。ただそれだけのことです。

注13)
『リファクタリング ― プログラムの体質改善テクニック』⁠Martin Fowler(著⁠⁠,児玉 公信/平澤 章/友野 晶夫/梅沢 真史(訳⁠⁠,ピアソン・エデュケーション)p.57で,Martin FowlerがKent Beckの発言として紹介しています。

誰でも身につけられるものがスキル

スキルは才能ではありません。偉大であることは才能かもしれませんが,偉大な習慣を身につけることはスキルです。スキルなのであれば,身につけられる/られないの違いは,やるか/やらないかです。

acts_as_agile

連載の副題である「acts_as_agile」という言葉に込めた思いはここにあります。繰り返しますが,人はアジャイル開発者であるかのように振る舞うことでアジャイル開発者になるのです。

本連載ではアジャイル開発とは「アジャイルに開発する人たち(アジャイル開発者)が開発するからアジャイル開発」なのでした。

アジャイル開発者とは,アジャイル開発者になろうとしていて,それを続けている人たちのことです。

まずはアジャイル開発者として振る舞うことから始めてみる。実践した結果からフィードバックを受ける。そこから学習する。それを踏まえて実践する。フィードバック。学習。実践。……繰り返し。

本連載をきっかけに,アジャイル開発者として振る舞ってみようと思う方が一人でも増えてくれたら,執筆者としてこれ以上の喜びはありません。

「腑に落ちる」ということ

そして,アジャイル開発者としてのスキルを磨いていくうえでは「腑に落ちる」瞬間を大事にしてください。私の経験では「腑に落ちる」とは,言葉にすると非常にバカバカしいけれども,体験している本人にとってはとても貴重な瞬間です。

個人的な経験をいくつか挙げます。⁠テスト駆動開発って,テストが開発を駆動するんだ!!」⁠ユーザストーリは,ユーザの言葉でストーリを書くべきなんだ!!」⁠リファクタリングって振る舞いを変えないで設計をきれいにするんだ!!」⁠タイムボックスは時間枠を重視するんだ!!」などなど。

自分で書いていてもバカみたいですが,こうした瞬間を体験したときが,そのスキルをあなた自身がモノにした瞬間です。健闘を祈ります。

もっと詳しく

アジャイル開発者が身につけるべき習慣について,さらに詳しく知りたくなった方には,⁠アジャイルプラクティス』注14を推薦します。

手前味噌ですが,本書は私が同僚の木下史彦さんと監訳しました。この連載とは別の切り口で,アジャイル開発者が身につけるべき45の習慣を紹介しています。連載と重なるところもありますが,連載では取り上げられなかった内容にも踏み込んでいます。

注14)
『アジャイルプラクティス ― 達人プログラマに学ぶ現場開発者の習慣』⁠Venkat Subramaniam/Andy Hunt(著⁠⁠,角谷 信太郎/木下史彦(監訳⁠⁠,オーム社)

おわりに

この連載は次のみなさんの協力でできています。

本連載の核をなすアジャイル開発者の4つのスキルを教えてくれたXPの父の一人,Ron Jefferiesさん(資料のコピーをありがとうございます⁠⁠。

いつも気づきを与えてくれるバカが征くのgreenteaさん。blikiをはじめMartin Folwerの記事の数々を翻訳してくれているkdmsnrさんオブジェクト倶楽部のサイトに翻訳記事を投稿してくださったみなさん。

最後に,勤務先の永和システムマネジメントの同僚とそのお客様のみなさん。そして読者のみなさん。

1年間ありがとうございました。またいつか,どこかでお目にかかりましょう。acts_as_agile!

著者プロフィール

角谷信太郎(かくたにしんたろう)

(株)永和システムマネジメント,サービスプロバイディング事業部所属プログラマ。「『楽しさ』がシステム開発の生産性を左右する」と信じてRubyによるアジャイル開発を現場で実践するテスト駆動開発者。目標は達人プログラマ。好きな言語はRuby。好きなメソッドはextend。著書に『アジャイルな見積りと計画づくり』(共同翻訳),『JavaからRubyへ』(翻訳),『アジャイルプラクティス』(共同監訳),『インターフェイス指向設計』(監訳)。

URLhttp://kakutani.com/

著書