小飼弾のアルファギークに逢いたい♥

#14 ミラクル・リナックス よしおかひろたか

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経営者と技術者の立場

弾:CTOというのは当然役員なわけですけども,技術者としての立場と役員としての立場がコンフリクトを起こしたことはどれくらいあります?

よ:コンフリクトは起こさないんだけど,役員という機能と,技術者としての機能はまるっきり別なんですよ。脳の考え方も全然違って,それを同時にパラにやることは相当難しいですよ。

弾:相当疲れます。

よ:で,結果的にいうと,私は役員の器ではないということを自覚しました。自分があるパフォーマンスを達成するときにやりたいこと,やりたくないこと,できること,できないことがいっぱいあるわけです。その中で役員が求められてる機能を,興味を持って,実行できるかっていうと,私が出した結論は,私はそういう器ではない。

弾:(CTOは)ものすごく疲れる仕事です。両者とも取締役CTO経験者なので,これははっきり言いますけど,私は2年弱しか持ちませんでした.という言い方は変ですけど,少なくともその間は10年分は仕事したと自負しております。無理はたたります。一緒にやるべきではないと思います。その意味でわりとCが付く職というのを取締役会のメンバにしなくていいというのは新しい会社のやり方ですね。

よ:まあ,執行役員…。

弾:英語ではboard member(取締役会)とofficer(役員)とそれからemployee(従業員)っていうのは全部別エンティティですね。働いてはいるんだけど,究極的に誰のために働いてるかっていうのはそれぞれ違うわけです。これは押さえておいてください。だから降格とかっていうのではなく,実際に本来であれば,役員よりも稼いでいる従業員はいくらいてもいいし,実際いるんです。ただし日本の場合,昇進の末たどり着くところっていうふうになっちゃって,その歴史をまだ引きずっている部分ていうのはあるんです。

よ:そういう意味で言うと,取締役,いわゆるプロフェッショナル経営者とプロフェッショナル技術者っていうのは,するどく双方の専門性を磨いてるべきなんだけど,なんとなく日本の場合,ところてん式に年が上がってくると,取締役とか経営者にいくっていうようなパスしかないっていうのはがおかしいと思う。やっぱり技術者としてどんどんそれなりの見識とそれなりの結果と,そういうものを持つというのと,経営というのは全然違う機能だから,プロの経営者がいれば良いっていう,デュアルな道筋が本来の姿ですよね。だけど,そういうふうな形には現状,残念ながら,ほとんどなってないんですよね。良い悪いじゃなくて。私は,その取締役という役から言うと,全然力不足で,パフォームしない人間なんで,できれば技術者としてどうにかしたい。で,技術というのは甘いもんじゃなくて,8年間なんかよくわかんないことやってたやつがぽっと出て,プログラマとして通用するのかっていうことに関してはそのとおりだと思う。だから私は今は,1年生で新人で,プログラマある種勉強し直して,一から出直しますと。そういう意味での今回のブログの宣言なんです。

優れたエンジニアとは

弾:優れたエンジニアとして重要なことというのはどんなことでしょう?

よ:好奇心だと思います。いろんなところにアンテナ張るのもあるし,フレキシビリティっていうキーワードもたぶんあるだろうし,だけど,ずっと優れたエンジニアでいるっていうのは自分のやり方に疑問を持って,それを変えることに躊躇しないような人だと思うんですよ。もちろんスタイルはあるんだけど,常に勉強してるようなイメージがありますね。

弾:じゃあ,そんなエンジニアになりたがっている読者に向けてなにか一言ありますか?

よ:やっぱりずっと勉強しててほしいな。もうそれだけですね。

弾:一生勉強と。

優れたマネージャーとは

弾:敗軍の将と言っちゃうと語弊があるのかもしれないですけど,優れたマネージャーとして重要なことは?

よ:それは柔軟性とやっぱし勉強ですよ。

弾:こっちも勉強。

よ:結局,優れたマネージャーと優れたエンジニアと何か違いがあるかっていうと,ない。やっぱり優れている人は柔軟性もあるし,好奇心もすごい旺盛だし,自ら勉強する人なんですよ。実は一緒で,ただ分野や専門性が違うだけだと私は思います。よくギークとスーツとか言って対立軸を持っておもしろおかしく言う人がいるじゃないですか。それは大間違いで,ギークもスーツも一緒なんですよ。単にAさんとBさんで共通のコミュニケーションのボールを持っていないだけで,どっちも優れたギークで,優れたマネージャーであれば,そこにどうにかコミュニケーションの共通するものを発見しようとするわけですよ。どっちも理解不能であるとすれば,どっちもコミュニケーションができないという悲しい現実を言ってるだけで,私はギークもスーツも対立するものでなくて,一緒に違う仕事ができるパートナーだと思っています。

経営者とエンジニアの違い

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弾:その点は同感ですが,それでも,それを同時に兼ねるというのは難しいというのも言いましたよね。じゃあ,どこが決定的に異なるんでしょう?

よ:たとえば経営,経営者ということを考えると,そのトッププライオリティは利益を極大化,最大化するということじゃないですか。それに対して,利益を極大化することに対する専門性を持っている人。利益を最大化するゲームに対して一寝てもさめても楽しくてしようがない人と,嫌々やってる人だったらどっちがパフォーマンスが上がるかっていう。

弾:なるほど。要はやってるゲームの種類が違う。エンジニアにしても,性能命の人もいれば,拡張性命の人もいれば,要はエンジニアリングのうちのどこに主題を置くかということですね。

よ:そう。私はたとえば,経営というゲームに関して,利益を最大化することに心のそこから躍ってこれが楽しくてしようがない,24時間365日これだけやってれば幸せだっていうタイプではない。もちろん取締役としての責任があるから,毎週の売上のスプレッドシートを見ますよ。それを見て心の底からわくわくするかっていうとそうでもない。一方で,たとえばOProle注7でカーネルのキャッシュミスを計ってみたらすげえおもしろいなあみたいなことだったら朝から晩までやることに全然なんの躊躇もなくて,私はそっちのほうが好きだと。あともう一つは能力という観点でいって,ある一定時間でどういうアウトプットを出せますかと。経営に対するアウトプットと,エンジニアリングに対するアウトプットと。で,そこの相対的なところで言えば,経営に対するアウトプットよりも私は自分の能力という意味で言うと技術に対して単位時間のアウトプットのほうが高いんじゃないかと思ってる。それを,いろんな掲示板かなんかで,そんなオヤジができるわけないだろうというほうにぼこぼこに書かれてるわけですよ。

弾:それはコード見てから言ってほしい。そういう人ってどれだけコード見てるんでしょうねー。

よ:でもそういうふうに普通は思うわけ。8年間おもしろおかしくやってたオヤジが50にもなって現場に来て,軽やかにやられたらみんな立場ないじゃない?

弾:(笑)

よ:バッターボックス入って3球三振でアウトとなるか,ちゃんとどうにかこうにか3回に1回くらいヒットを打って,2割とか3割ぐらいなれるかもしれない。

弾:リプケンになれるかもしれない。

よ:今そういうところなのね。だから,バッターボックスに立つ前からオヤジだからだめとか言われると血圧上がるわけだよ。

弾:(笑)

よ:三振してから言ってくれよと。三振して,やっぱりだめだなっていうなら,私はそれ受け入れるから。たたくのは全然構わない。だけど,結果見てもいないくせに年齢だけで,決め打ちするなと。年齢だけで,あるいは取締役退任したというだけで,そんなの降格じゃないかとか言うなよと。結果から言われるんだったら,もうしようがない。自分が受け入れるんだからね。そういう社会のほうが気持ちいいですよ。

私はずっとハッカーになりたいなんてことをオヤジのたわごとで言ってるわけです。ハッカーっていう意味はどういうことかっていうと,自分の代表作を持つ人なんだけど,私にはないわけですよ,ソフトウェアとして。僕はこれ作りましたっていう,自分の代表作が何か欲しいと思ってます。

弾:楽しみにしてます。それ確かに大きいです。実際に履歴書で一番ものを言うのはそこですからね。

注7)
Linux標準のプロファイリングツール。性能のボトルネックを発見してくれる。

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著者プロフィール

小飼弾(こがいだん)

ブロガー/オープンソースプログラマー/投資家などなど。ディーエイエヌ(有)代表取締役。1999~2001年(株)オン・ザ・エッヂ(現(株)ライブドア)取締役最高技術責任者(CTO)。プログラミング言語Perlでは,標準添付最大のモジュールEncodeのメンテナンス担当。著書に『アルファギークに逢ってきた』(2008年5月,技術評論社)。ブログは『404 Blog Not Found』

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