小飼弾のアルファギークに逢いたい♥

#15 青木 靖

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自然な日本語

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弾:青木さんはなぜあんな自然な日本語に訳せるかというのが,僕から見ると不思議でしようがないんです。あんまり脚注も付けないじゃないですか。脚注って付けると,正確な訳にはなりますけど,読みにくくはなりますよね。

青:読者としては,結構うざったいというか,めんどくさいですよね。本文で示せるのであればできるだけ本文で(と思っています⁠⁠。

弾:1つの文章訳すのにどれくらい時間かけてますか?

青:……1ページ30分くらいですかね。

弾:おー,やっぱスピード重要なんだな。それであのクオリティ。たぶん,英語だけじゃなくてそのバックグラウンドになる知識もよくご存知だからそのスピードで訳せると思うんです。たとえばスタートアップを殺す18の誤り注9って記事なんかはプログラムの知識だけでは訳せない。Paul Graham注6の文章って,経済用語も出てくるし。あと,わりと英語圏では日常的な言い回しを,さらにもじった言い方をするじゃないですか。なんでこんなに自然な日本語になるのかなって不思議に思うんですけど。

青:…………。特に特別なことって何もしてないですね。辞書は引きます。いろいろ何種類か使ってるのと,あと,普通にWebで調べたりしますけど。特別な方法っていうのはない。

注6)
『ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち』⁠オーム社,2005年)の著書などで知られるプログラマ,ベンチャー投資家,著述家。http://www.paulgraham.com

すごいと思う翻訳者

弾:この翻訳者はすごいなっていう翻訳者はいらっしゃいますか?

青:学生の頃,ワインバーグの『コンサルタントの秘密』などを訳された木村泉先生に接する機会がありました。翻訳のスタイルとか,影響を受けている部分があるかもしれません。あと,ロールモデルっていうんじゃないですけど,かなわないと思うのが,村上春樹です。

弾:村上春樹は翻訳者である以前に作家でもあって,著名な翻訳者っていうのは自らも本を著す人っていうイメージが僕は強くあるんですね。翻訳もするけど,自分でも書く。サイエンスフィクションでは,今は亡き,矢野徹注7とか。これも故人になっちゃったんですけど,米原万里さん注8も自分でもおもしろいエッセイをいっぱい書いてらっしゃいましたよね。青木さんはそっちの方向には進まないの?

青:今のところは,自分で書いたものより人のものを訳したほうが,結果的に,貢献できるかなという感じがありますね。

弾:翻訳したほうが自己満足度は高いと。

青:…………。ある意味そうですね。

注7)
翻訳書としては,⁠宇宙の戦士』⁠ロバート・A・ハインライン,ハヤカワ文庫,1979年⁠⁠,⁠デューン砂の惑星(1~4⁠⁠フランク・ハーバート,ハヤカワ文庫,改訂版,1985~2000年)など,著作に『カムイの剣』⁠ハルキ文庫,1999年)などがある。
注8)
ロシア語通訳として活躍する一方で,⁠不実な美女か貞淑な醜女か』をはじめ多数のエッセイ,小説を著している。

自分から意見を言うタイプではない人

弾:実は青木さんのような,あまり表には出てこないタイプの方は多いと思うんですけど,そういった人たちに対するメッセージってあります? 何か貢献はしたいんだけれども,でも声を荒立てて自己主張するみたいで恥ずかしいというのかな。

青:…………。コミュニティとか社会に貢献していくやり方もいろいろあって,たとえば良いプログラムなりサービスなりを書いて公開するというのもあるし…。

弾:黙ってコードを書け(笑⁠⁠。

青:そうですね(笑⁠⁠。あとは,ニコニコ動画でおもしろいのを作るというのもあるし,いろいろやり方はあるので,自分で納得できるものが作れるやり方でやればいいんじゃないかと思います。

青木さんのサイトがなかったら

弾:青木さんのページがなかったら,今の日本のWebというかblogsphereはどうなってたでしょう?

青:いやー,そこまで影響力あるとは思ってない…。

弾:実はたいへんに影響力があるんですよ。自らの影響力をなるべく加えないがゆえに影響力がある。僕みたいに余計な一言を言わずにすまないタイプであれば,たとえば青木が紹介する何々のコーナーになっちゃったと思うんです。でも,青木さん自身があくまでも翻訳者として控えてることによって,原文の影響力がよりダイレクトにしかし日本語でわかりやすく伝わるわけです。

青:翻訳者としては自分が見えなくなるのが理想なので,そうなれているのであればうれしいです。

著者プロフィール

小飼弾(こがいだん)

ブロガー/オープンソースプログラマー/投資家などなど。ディーエイエヌ(有)代表取締役。1999~2001年(株)オン・ザ・エッヂ(現(株)ライブドア)取締役最高技術責任者(CTO)。プログラミング言語Perlでは,標準添付最大のモジュールEncodeのメンテナンス担当。著書に『アルファギークに逢ってきた』(2008年5月,技術評論社)。ブログは『404 Blog Not Found』

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