小飼弾のアルファギークに逢いたい♥

#15 青木 靖

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優れたエンジニアとは

弾:優れたソフトウェアエンジニアというのは青木さんの目から見るとどんな人ですか?

青:うーん。やっぱり第一は,プログラミングが好きということ。これは翻訳とかほかのことについても言えることだと思います。ほかの人に何か言われようが,理不尽な状況だろうが関係なく,とにかく学び続け,いい仕事をしようとする姿勢は,好きでないと難しい気がします。

弾:青木さん自身はどうですか? プログラミング好きですか?

青:自分がアルファギークかどうかは別として好きですね。

弾:で,優れたエンジニアにとって,言葉ってなんでしょう? よくいるじゃないですか,黙ってコード書けの人。青木さんの紹介している文章って,黙ってコード書けの対極にあるものばかりですよね。エンジニアにとって語りってなんでしょう?

青:…………。コードでしか表現できないことがありますが,コードではうまく表現できないこともあります。たとえば意図だとか考えた過程のようなこと。それからどう考えるかについて考えるとか,そのプログラムはそもそも作る意味があるのかを考えるようなメタレベルでの思考は重要だと思いますが,そういったことは言葉でしかできない。言葉は人に伝える以前に,自分自身(の思考)にとって重要なものだと思います。

エンジニアの素養

弾:SEやソフトウェアエンジニアの素養として何を身につけておくべきですか?

青:月並みですが,コミュニケーションスキルでしょうか。人からでないと得られない情報があるし,プロジェクトなどでは技術系の問題より人間系の問題のほうがインパクトが大きい場合があります。コミュニケーションはスキルというより姿勢の問題かもしれませんが。どっちかというと,僕自身があまり得意でない部分があって。コミュニケーションを取ろうという気持ちがあれば下手なりにできると思うし,コミュニケーションを取ろうという態度は重要じゃないかなと。

弾:コミュニケーションスキルって,聞かれたことにスパーンと答えるというのも当てはまるかというとそれは違うと思います。実は今回の対談では,長考モード注9がたくさん登場したんですけど,これどうやって誌面に反映させられたらいいのかなって。

青:はは(笑⁠⁠。

弾:でも実はそれもメッセージなんですよ。青木さんの沈黙のありようというのがすごく饒舌だったんです。全部違ったんですよ。これはどういうふうに言えばいいのかなあと考えあぐねている沈黙もあれば,うーん,これは答えづらいなの沈黙もあって,とても饒舌なんですね。でも,僕はここにいるからわかるけど,読者にどうやって伝えたらいい? 翻訳もそれに似てるといえば似てる気がするんです。青木さんの話法を紙にそのまま転写することはできません。寡黙であることそのものもメッセージではあるんですけど,確かに現代はわりと饒舌な人がうける世の中だと思うんです。平たく言うと口がうまいやつです。が,僕はそれがコミュニケーションだとは思ってないんです。寡黙な人にとってはどういうコミュニケーションスキルを磨いたらいいと思いますか?

青:それは僕が知りたい…(笑⁠⁠。

弾:(笑⁠⁠。でも少なくとも青木さんは英語で書かれた別の人のメッセージを日本語でほかの人に伝えるというのに,ものすごい成功されてるわけじゃないですか。だから前の質問に対する答えを持ち合わせてるのかなぁと。翻訳者は透明なほうがいいとおっしゃいましたよね。でも,透明というのは没コミュニケーションではないと思います。その2つの違いはなんでしょう? まだ青木さん自身は自分のことはわからない? 青木さんすごい上手に見えるんですけど。少なくともWebを通して見たり,こうしてお話を伺う限りはすごい上手だと思うんです。どうするとそうなれるのかは説明できない?

青:…………。自分自身であまりわかってるか自信ないんですけど,重要なのは,誠実さと伝えたいと思う意志,だという気がします。

弾:翻訳の場合は伝えたい意志というのが2つありますよね。原著者の意志と,翻訳者の意志。たぶん透過的であるというのは,あたかも原著者が直接語っているように見せるということだと思うんです。ですが,この文章を翻訳したいということそのものがメッセージですよね。だから世の中にある英語で書かれていることをそれこそGoogleみたいなしくみで自動翻訳してない以上は,実際に何を訳すかっていうのは意志なわけです。実は青木さんの意志に触れるためには青木さんの訳した文章,1個1個見てもわかんないんですよね。www.aoky.netを全部見てみると,こういうことを伝えたいっていうのが伝わってくるような気がします。そういった形で何も語らずして自分の意志を伝えるというのはものすごい魅力を感じますね。自分にはない才能なんで。

注9)
記事中の「…………」の箇所。

今後の翻訳予定

弾:最後に,最近翻訳されている本について,ちょっと紹介を。

青:最近出たのは,⁠Eric Sink on the Business of Software 革新的ソフトウェア企業の作り方』⁠翔泳社)という本。原著者はSourceGearというソース管理ツールを作っている会社を創業したプログラマで,ソフトウェア会社の経営に関するさまざまなことについて書いたエッセイ集になっています。あと,⁠Joel on Software』の続編も,来年の早い時期に翔泳社から刊行予定です。

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著者プロフィール

小飼弾(こがいだん)

ブロガー/オープンソースプログラマー/投資家などなど。ディーエイエヌ(有)代表取締役。1999~2001年(株)オン・ザ・エッヂ(現(株)ライブドア)取締役最高技術責任者(CTO)。プログラミング言語Perlでは,標準添付最大のモジュールEncodeのメンテナンス担当。著書に『アルファギークに逢ってきた』(2008年5月,技術評論社)。ブログは『404 Blog Not Found』

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