小飼弾のアルファギークに逢いたい♥

#23えとらぼ 衛藤バタラ、廣瀬正明、大沢和宏、松野徳大

2006年4月以来、4年間に渡った本連載、今回で最終回となりました。トリを飾るのは、写真ストレージサービスFicia(フィシア)を開発しているえとらぼ⁠株⁠代表取締役の衛藤バタラさんと開発部の廣瀬正明さん、大沢和宏さん、松野徳大さんです。少数精鋭を地でいく面々に、会社の生い立ちからインタビューが始まりました。

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撮影:武田康宏

新たに会社を始めた理由

弾:本連載でいろんな方をインタビューしてきたんですけど、バタラさんはたぶん僕と一番境遇が近いんですよ。上場させた会社でCTOをやって[1]⁠、そこを辞めて。その後は、僕は1人で好きなようにやってますけど、バタラさんはまた会社を始めましたよね。その理由は?

衛藤バタラ(以下、バ⁠⁠:会社というより、サービスを作りたかったんです。世の中にあるいろいろな写真ストレージサービスを見ていると、こうだったらいいのにと思うことがあって、それを形にするには自分で作るしかないと思って会社を作りました。

弾:会社ではなく個人でやるのも選択肢に入ると思うんですけど。

バ:人を雇ったりするのは、個人でもできなくはないけど、採用を考えると会社という形をとっているほうがやりやすいかなと。

弾:僕自身会社を持っているので、いろんな都合上、会社を作っておくといいというのもわかるんですけど、人を雇うのは、結構勇気がいることですよね。たとえば今日雇って、明日辞めてもらうわけにはいかないですし。そうそうたるメンバーを食わせていかなければならないというのはプレッシャーにはなりません?

バ:逆にそのプレッシャーがあるからもっと良いサービスにとか、もっと早く黒字にしないといけないというのもあると思います。

弾:そのほうが仕事をする気になると。それは確かかもしれないですね。

自己紹介

弾:社員さんからも自己紹介してもらえます?優秀な(笑⁠⁠。

松野(以下、松⁠⁠:松野です。ネットではtokuhiromというハンドルで、2009年の2月にえとらぼに入社しました。その前はモバイル系の会社[2]つぶやき系のサイトやモバイルのWebサイト全般をやっていて、主に着うた、着メロサイトを運営していました。今はFiciaのサーバサイドのことをやっています。

大沢(以下、大⁠⁠:大沢です。ネット上ではYappoというハンドルです。えとらぼには2008年の夏、8月頃に入りました。その前までは受託開発の会社[3]でECサイトなどをよく作っていました。Ficiaではサーバサイドももちろんですけど、WebのUIもいじっています。

廣瀬(以下、廣⁠⁠:廣瀬です。ハンドルはhirose31です。えとらぼにはYappoさんのちょっとあと、2008年10月くらいに入りました。仕事としてはネットワークとかサーバとか、インフラ周りをやっています。技評さんからも『サーバ/インフラを支える技術』っていう本[4]が出てますので買ってください。

弾:たくさん売りましたよ(笑⁠⁠。

廣:弾さんのブログで紹介されて(売上が)びよーんって上がりました(笑⁠⁠。ありがとうございました。

入社の理由

弾:みなさんはなぜ、えとらぼに入社されたんですか?

松:ばりばりコードを書ける環境に行きたかったっていうのはあります。

弾:創設者がばりばりコードを書いてる人だから。

松野徳大さん
松野徳大さん

松:あとは自分よりできる人がいる環境に行こうかなと思って、一番良さそうだったということですね。

大:入った時期は逆なんですけど、最初は廣瀬さんから、おもしろい話あるからおいでよってうさんくさい感じで誘われて(笑⁠⁠。行ってみたら、奥からどこかで見たような…(笑⁠⁠。

廣:誰と誰を会わせるか言わなかった(笑⁠⁠。

大:バタラさんっていうだけでおもしろいし、あとで廣瀬さんも来るという噂があったので、技術的にもちゃんとしたことできそうだし、おもしろいことができそうだと。

弾:その廣瀬さんは?

廣:僕はバタラさんとは何年か前にお話しさせていただいたことがあって、しばらく連絡とってなかったんですけど、2008年に連絡をもらって、サービスを作ろうと思っているということでFiciaの骨子を聞いて、おもしろそうだと思うし、当時、子どもができたばかりでいっぱい写真を撮っていて、この写真どうしようって思ってたときなので。

弾:子どもの写真をアップできるサービスが欲しかった! いいですね(笑⁠⁠。ここまでで給料の話がまったく出てこないというところに僕は感動しているんですけど、大丈夫ですか? これ、聞いちゃっていいのかな。給料犠牲にしました? えとらぼに来るにあたって。

松:してないんじゃないですか。

廣:してないです。

弾:犠牲にはしてない。やっぱりそこは押さえておかないと。

大:僕はいいんですけど、嫁に怒られる。

弾:(笑⁠⁠。そういった意味でえとらぼというのはすごく恵まれた会社だと思います。今、仕事ができる人って給料じゃまったく釣れませんものね。昔は結構金で横っ面をひっぱたいてっていうのがあって(笑⁠⁠。

一同:(笑)

バ:結局、給料だけだと上がっても何%かじゃないですか。それで毎日やりたくない仕事をしょうがなくやってるよりも、夢を持って好きなことをやるっていうほうがずっといいと思うんですよね。

Ficiaのサービスと価格

衛藤バタラさん
衛藤バタラさん

弾:Ficiaは、今は月315円でしたっけ?

バ:はい、税込で315円です。

弾:すごく安いんですけど、今、無料のサービスもいっぱいありますよね。で、ネットで商売をするときの難しさに、無料のものがこれだけあるというのがあるじゃないですか。たとえばわざわざお金を払ってそれを使おうっていう動機ってなんでしょうか?

バ:Ficiaも2Gバイト以下は無料です(笑⁠⁠。ただ無料のサービスがあるといっても、無制限っていうのはまずないと思います。

弾:2Gバイトは大きいですよね。Dropboxも2Gバイトだし。ブログサービスも2Gが有料と無料の境になっています。なぜ2Gバイトなんでしょうね。signedintの最高の数字だから?ストレージの場合、関係ないはずなんだけどな。

バ:ほかのサービスと比較検討もしましたし、ヒアリングもして、納得できる金額かと。

弾:無料のものからお金を得ていくのかっていうのはものすごいビッグイシューなはずなんですよ。ネットに関わっていた我々はここ数年そういう状況にあるんですけど、⁠フリー』ていう本[5]が出たじゃないですか。プロじゃない人も気づき始めるわけですよね。だからたとえば同じ黒字化にしても、どういうふうに黒字に持っていくのかっていうのはすごく興味があります。

バ:ビジネスモデルとしては今、広告はなしで有料会員が収入源という形です。

弾:足ります?

バ:今のところはまだ無理なんですけど、もうちょっといけば。

弾:日本だとニコニコ動画も有料会員やってるじゃないですか。あそこは有料会員あり、広告ありって、収入源も多いんですけど、支出もでかいので、まだ黒字になっていないって言ってますけど。どうですか? 費用的には。

バ:そこはどれだけコストが抑えられるかが勝負ですね。

人件費というコスト

弾:だからそれですごいびっくりしているわけです。こういうすごい人たちを雇っているというのは。どう考えても人間よりも高いものってないですよね? そうでない時代もあったんですよ。一番高かったのが回線だっていう時代もあって、たぶんニコニコ動画とかも人間よりも回線費用のほうがかかっていると思います。僕自身、空恐ろしくなっているんですよ。機械とか、要するに人間でないものがここまで安くなって、人の費用はそう簡単には下がらないし、下げようがないじゃないですか。それでも下がっているとは言ってますけど。たとえば35歳の年収が200万減ったっていうようなニュースがありますけど、それでもほかのものはそんな下がり方じゃない。対数スケールで桁が減っているわけです。

バ:優秀な人を雇わないでやっていくっていうのもありかと思うんですけど、優秀なチームがないから人月がかかってインフラコストが高くなるっていうケースもあると思うんです。

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弾:優秀な人を少人数雇うっていうのはかなり正解なんです。僕は別にバタラさんが間違っているということではなく、そういう今言ったような逆説をすごく強く感じるようになってきたんですよ。たとえばGoogleのばかでかいデータセンターにしてもその1つを2、3人でまわせるようになっているんですよ、たぶん。そうやって考えていくと、我々の業界ってものすごい雇用創出量が少なくないか、っていうあんまり愉快でない結論が出てきちゃうんですよね。

バ:人がそんなにいらなくなるということ?

弾:ちょっとできますというくらいじゃ、お金出すまでもなくなっちゃったじゃないですか。優秀になるまでにはかなりの経験が必要で、でもその経験を積むまでの間はお金をもらえるような仕事はできなくてっていうので。だから、OJT(On the Job Training)できなくなってきたんですよね。

弾:今、BS(Balance Sheet:貸借対照表)上のプライオリティはFiciaを成功させること? 会社を黒字にさせること?

バ:Ficiaを成功させる=黒字だと思います。

弾:じゃあ、少なくともFiciaがうまくいくと会社もうまくいくビジネスモデルになっていると。

バ:そうですね。

弾:実は僕は、そこは本当にそうなのかって。そうだといいなと思いつつ、そうなのですか? という。率直に言うと、これだけのメンバーがあったらこれだけのメンバーを貸すサービスというのはないの?と思ったり(笑⁠⁠。Yappo on Demandとかtokuhiro on Demand、hirose31 on Demandっていうのはないのという(笑⁠⁠。手っとり早くお金にもなりますし。これだけのメンバーを集めた以上、これだけのメンバーに見合ったサービスを作っていただきたいなと。

バ:そうですね。

会社の宣伝

弾:話が変わるんですけど、Googleの中に入っちゃうと、今までネットでいろんなおもしろいこと書いてきた人が、ぱたっと静かになるのね。最近そうでもなくなってきたけど。今のところえとらぼはそんなことない。その一方で、やはりプライオリティとしては会社の仕事のほうが優先順位が高いわけじゃないですか。社員が外に向かって、社員としてよりも個人として発言することに関して、バタラ社長としては具体的にこうしてくれというのはあるんですか?

バ:特に今はないですね。

弾:放置プレイ?

バ:もちろん会社として話すときは相談してもらってますが、個人で何かすることに関しては特にどうしてくださいっていうことはないですね。

弾:少なくとも会社の宣伝くらいもっとしろくらいは言ってもいいと思うんだけど。だってえとらぼの「え」の字も出てこないじゃん、きみらのブログってさ(笑⁠⁠。もう少し営業しようよ(笑⁠⁠。

大:ちゃんとFiciaにアップしてる写真、ブログに貼っつけてる(笑⁠⁠。

弾:でもその写真のURLまで見る(笑⁠⁠?。やっぱりある程度名前は知られないと使われるようにならないじゃないですか。この人も使っていますというときに、やっぱり出てほしいんですよね。何も会社の太鼓持ちになれというのではないんですよ。会社の製品と言えども、まだここがだめだったらそう言っていいんですよ。でもそうしたらこれ、俺が直すって言えるじゃないですか。もう少し表に出てほしいなというのはあるんですよ。どうですか? 母ちゃんが知ったら怒られるから、これだけは勘弁してくれ(笑⁠⁠?

転職しました

松:僕はまさにその理由もあるんですけど。まだ親に転職したこと言ってない(笑⁠⁠。

弾:(爆笑⁠⁠。

バ:ここで発表(笑⁠⁠? もう少し宣伝してほしいというのはもちろんあるんですけど、今までまったくしなかったかというとそうではなくて、YAPC(Yet AnotherPerl Conference)のときなんか、YappoさんはFiciaで発表してたり。

弾:それは作る人には受けるけど、使う人には「へー」ですよね。みなさんの書いた記事を読むのは、実はプログラマばかりではないので。そのへんもう少し上手にというか、宣伝しなよ、自分で作ったもんなんだしさっていう。

えとらぼでの仕事

弾:入ってみて、えとらぼは職場としては楽しいですか?

松:そうですね。入ったとき思ってたのとだいぶ違うコードはいっぱい書いてますけど(笑⁠⁠。僕はもともとサーバサイドのコードを書こうと思ってたんですけど、今はクライアントアプリケーションを結構書いてます。手さぐりですけど、やったことがないことが多いのでおもしろいですね。たとえば、Visual Studioとか使ったことなかったので。

弾:え? Visual Studio使うような何かが?

バ:クライアントのアップローダがあるんですけど。

松:ネイティブのWindowsのアプリケーションが。

バ:ネイティブアプリケーションは、外部メディアに直接アクセスできるのが一番大きいんですよね。

廣瀬正明さん
廣瀬正明さん

廣:FlickrとかだとSDカードをパソコンに挿して、写真を選んでアップロードっていう感じじゃないですか。Ficiaではネイティブアプリケーションが常駐していて、SDカードが挿さったのを感知して、前回アップロードしたのから新しい差分だけFiciaに上げてくれるんです。だからどちらかというと、フォトシェアリングサービスというよりはフォトストレージで、自分のハードディスクの延長がネットの向こう側にあるという。Flickrと同列で比較されることがあるんですけど、それは実は違う。

バ:ただのフォトストレージとかフォトシェアリングサイトではなくて。

廣:自分のストレージの延長線上で写真管理のハブみたいなポジションを目指しています。

バ:Web上にあるiPhoto[6]をイメージしていただくといいかもしれないです。

優れたエンジニアとは

弾:優れたエンジニアっていったいなんでしょう?

バ:技術とか経験もあると思うんですけど、同じビジョンをシェアできることとか、目標に対してすごくパッションを持っていることとかもすごく大事だと思います。

松:問題を認識して、解決策を提示して、それを実践するっていうところまでトータルで、すばやく確実にできるっていう、それこそエンジニアリングですけど、そのプロセスが全部できるっていうのが。

弾:全部できなきゃだめ?

松:理想的にはそうですね。コンピュータエンジニアは全部できないと一人前と言えないのかなと。

大沢和宏さん
大沢和宏さん

大:人をまきこめる能力というか、人を動かす。人に動いてもらうんじゃなくて、自発的に人が動いてくれるようにプロダクトなり、エンジニアリングを進めていけるような人っていうのはなかなかいいなと。たとえばPerlの世界だと、あるプロダクトを始めていて、そこがプラグインとかを差し替えて変えられますよ。で、プラグインはこういうAPIで作ってねって、適当にやっといて、そのプロジェクト自体がすごくいいものだったらわーっとプラグインが集まってきて、ノウハウとかもそれを使っている人たちの間でたまっていくみたいな感じですね。具体的には宮川さん[7]みたいな感じなんですけど。

廣:僕は彼ら(大沢さん、松野さん)を優れたエンジニアだと思っているんですけど、一緒に仕事していて思うのは、自分の得手不得手をちゃんと把握しているので、聞けばいいところと自分が頑張ってやればいいところをちゃんと峻別しゅんべつできている。そういう意味ではえとらぼのチームはうまく機能していると思うんですね。だからすごく仕事をしやすいっていうのもありますし。完全にみんなの分野がセパレートしているわけではなくて、微妙に興味や仕事上の分野がかぶっているので、いろんな意見交換ができるし。

読者に一言

弾:最後に、読者に一言お願いします。

バ:Ficiaぜひ登録してください(笑⁠⁠。ちなみに、これまで10Gバイトを315円で提供していたんですけど、10倍の、100Gバイトが1ヵ月315円になりました[8]⁠。

弾:ちょっと待て。100Gバイトってどう使うんだ。

バ:それでも全然足りないですよ。

弾:ムービーやると足りなくなるか。

バ:僕も自分の写真全部上げたんですけど、40Gバイトくらいあったんですよね。それだと数千円くらいを超えてしまう。

弾:でも100Gバイトはさすがにすごいよ。Warez[9]対策とかはしてるの?

バ:Ficiaじゃなくて、もっといいのがある(笑⁠⁠。何もわざわざめんどくさいことしなくてもいいかなって。

弾:そうか100Gバイトはさすがに有料だから。写真とかムービーじゃないとだめですか。

バ:今のところそうですね。

弾:じゃあ、廣瀬さん。

廣:来週、Ficiaの中核的な機能を担っているkumofs[10]をオープンソース化する予定です。ぜひみなさん使ってください。

弾:100Gバイトとかっていうのは、そういうのがあってこそですよね。

廣:kumofsは小さめのデータを格納しているkey-valueストアみたいな感じなんですけど、写真データのストレージはまた別にあります。

弾:kumofsの使いどころは?

バ:写真とかを出すうえでDBにアクセスしなきゃいけない部分のデータをmemchachdプロトコルでがーっと取ってくるとか。メタデータですね。

廣:あと、誰に見せるとか見せないとか、パーミッションは全部kumofsに入っています。

松:僕もなんか公開しておけばよかった(笑⁠⁠。そうだ、動画にも対応したので、写真だけじゃなくてぜひ動画もアップロードしてください。

バ:デジカメには写真だけじゃなくて動画も入ってるじゃないですか。SDカードパチッて挿したときに写真だけ上がって動画だけ自分でバックアップ取らなきゃいけないですから。

大:弾さんの連載は今回で最終回ですが、次号から、えとらぼでFiciaでやっているUIまわりを取り上げた連載を本誌で書かせていただくことになっています。

松:Yappo先生の次回作に期待(笑⁠⁠。

弾:この連載はこれで何回目になるんでしたっけ。なかなか長かったよね。

編:えーと……16回くらい…?

弾:もっとやってるでしょ。担当編集者ですら思い出せない…。えーと、⁠#0から数えているので)24回ということになりますね。連載としては今回が最後なんですけど、不定期でまた発生するかもしれないです。そのときはよろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。

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