at the front―前線にて

第2回 JavaScriptの呪いから解き放たれて

この記事を読むのに必要な時間:およそ 4 分

ネイティブアプリか? Webアプリか? PCか? モバイルか?

天野:僕はJavaScriptだけでやっていかなくなった理由の一つが,iPhoneのブーム。自分が起業して,ベンチャーに携わっていく中で,自分が好きなものと現実はまったく違うんだなと考えて,自分のJavaScriptのブランディングは足かせになるんじゃないかと思うようになったんです。

iPhoneがネイティブアプリケーションだったっていうのが,あの時代の空気からすると衝撃的で,基本的にアプリケーションというとWebだったんですよね。最初はiPhoneのネイティブアプリケーションは流行らないと思っていて,でも現実はそうじゃなかった。自分が間違っていたんだな,と。自分がJavaScriptに思考を捻じ曲げられてしまった,みたいなことをすごく感じるようになりました。そこから次に起業するときはモバイルアプリケーションだ,と。

そういう点で,mizchiさんは僕と反対かなと思ったんだけど,JavaScriptをずっとやっていくんですか? 今日のインタビューで,どう話したらmizchiさんがモバイルに来てくれるのか,ってのを考えてたんだけど。

竹馬光太郎氏

竹馬光太郎氏

竹馬:(笑)⁠自分としてはこだわっているつもりじゃなくて,ある種の縛りがある環境で,ちょっと無理してリッチなものを作るっていうのが好きなんです。それがWebだったって感じですね。

あと,単にそもそもスマートフォンが好きじゃないっていうのがあります。僕にとってはPCでやるインターネットというのが一番で,モバイルはその劣化版。それでモバイルをやらざるを得ない通勤時間ってのが嫌い。好き嫌いとは別に,仕事で必要だから,勉強はしているんですけど。

天野:mizchiさんにとって,PCにあってモバイルにないものってなんですか? たくさんあると思うけど,モバイルに足りないものってなんですかね。

竹馬:うーん,先に言っておくと,自分が古いタイプだという自覚はありますよ。そのうえで言いますけど,一番大きいのは画面のサイズと縦横比,次点で入力の問題。

縦横比ってGUIを設計するにあたって本質的な要素だと思っていて,たとえばタブレット用のアプリケーションってPCのデザインとすごく近くなりますよね。それに比べると,モバイルの縦画面って,基本的にデータが一本のストリームになる。単に縦と横が変わったっていう変化じゃなくて,情報の受け取り方が根本的に変わったんじゃないかなと思っています。

天野:縦画面って,集中を大事にするUIですよね。気が散らなくはあるが,情報量は少ない。

竹馬:僕は,大画面で情報をガッと読みたい,情報の密度に満足感を覚えてしまうタイプ。ただ主流じゃないと思うんですよね。ほとんどの人はデータをしぼったほうが使いやすい。

天野:画面の広さというのはある種の手段のような気がして。いかに大量の情報を摂取するかみたいなところなのかな。

竹馬:今は入力をしぼって,レコメンデーションで,いかに適したものを提供するか,って時代だと思っています。

天野:すばらしい。そうなんですよね。僕は,ほしい情報へのアクセスがしにくい時代だったから,画面が広くなければいけなかったのではないかという気もしていて。レコメンデーションの精度が上がると,画面の広さは解決できると思いません? どう思います?

竹馬:そこを思うところはあって,最近はRSSリーダーで大量の情報を読むみたいな体験がなくなった替わりに,サービス側が提供するレコメントエンジンとかの優秀さが,サービス品質に本質的に関わるようになってきた。だからAIっていうのもそのトレンドに合っているし,わかるんですよ。わかるんだけど,優秀なレコメンデーションエンジンを作れるような,データをたくさん持っていて技術力がある会社って本当に少数なんですよね。大きな会社にはいいけど,小さなプレイヤーたちがまねすると痛い目を見る時代なんじゃないかと思っています。

今書いているコードは企業の価値を上げるか?

竹馬:結局ベンチャーやってみた感想,どうでした?

天野:いやー,苦しいですね。苦しかった。とても大変だったけど,ベンチャーをやって,良いことも悪いこともありました。

良いことは,常に会社の価値に貢献する行動指針を意識するようになったこと。つまり,会社にとって何が必要か,会社の価値といっても抽象的な意味ではなく,株価そのものを意識するようになったということ。会社が次の調達のときとか,IPOのときに今の価値はどのくらいに付くんだろう,って,成長に寄与できるような行動から逆算して行動するようになりました。今書いているコードが,どのように企業の価値を上げることにつながるか,すべて企業価値に換算して自分で行動する。そうしないと,逆に不安でドキドキしてしまう。

その半面,自分への投資がおろそかになってしまったという反省はあります。よく休みの日は自分の勉強しろって話がありますが,会社価値にひも付かない勉強をしなくなってしまいました。

竹馬:正しい意味で経営者目線を持てた,みたいな話ですよね。経営者目線を持つこと,個人的には立場や状況によって難しいと思っているんですが,エンジニアのポジションで自分が書いたコードがどれぐらい会社の成長に寄与したか,生の数字を知ることは,基本的に珍しいことですよね。

天野:エンジニアがどういう風に目標を与えられるかってのは難しい課題だと思います。今の会社でも,あなたはこういう行動をとれば最終的にこの会社の価値が高まります,みたいなのがあるんです。それってチームのマネージャーとかが,メンバーと話し合って決めるんですが,自分でその感覚を持っているのと,与えられたりしてやったりするのとは違いますよね。

この話も今の会社で盛り上がったんですが,納得感を持ってプログラムを書くのか,納得感を持たないでプログラムを書くのか,どっちがいいか? って話があったんです。これはとある会社の話なんですが,パクリのアプリケーションを作ろうとして,当のエンジニアたちは,パクリだから適当に作るか,みたいなそんな感じでやってた。でもビジネスとして成功したんです。

で,片や僕らは納得感を持って作りたいと思っているわけで,それってなんなんだろうって考えるわけです。細かい作り込みみたいなものは,作っている人しかわからないという自負もある。きっとそこに正しい部分もあると思っていますよ。

経営陣には説明責任もあるし,われわれエンジニアとしてもいったん自分のやりたいことをフラットに考えて,本当のその会社の方針とか仮説に対して一緒にコミットできるのかを考えないといけないとは思います。お互い歩み寄って,会社とのすり合わせをしっかりやるってのは大事だと思うんですが,難しいですよね。

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スマートニュースに貢献し,もう一度起業を

竹馬:今後の話なんですが,10年後何していたいですか?

天野:今はスマートニュースの成長に貢献できればそれでよくて。その中で私が活躍できるフェーズがあれば活躍したいと思っています。

もしそのフェーズを脱したんであれば,その知見を持ってもう1回起業したいって思いもあります。やっぱり起業してよかったと思っているんでしょうね,エンジニアとして。さっき言った自己投資がおろそかになる欠点もありますが,結局判断の基準みたいなものをはっきりと得られたのが良かったと思っています。資本主義社会では,数十年単位ではブレなさそうな価値観を。

もちろんスマートニュースで活躍,ってことがまず大前提。感謝しているんです。自分の会社をしっかりと終えられたということは。

竹馬:他人に起業を勧めたりは?

天野:しちゃいけないもののような気がするんですよね。いばらの道ですからね。mizchiさんを見ていると,1回,JavaScriptから解き放たれて,新たな考え方の軸を得れる一つの選択肢としておもしろいよ,とは言いますよ。でもするべきだとは思ってないです。大変だってわかっているから。

起業家として僕がレベル高いかっていうとあんまり高くないんですが,エンジニアとしての生き方がある意味さわやかになったという気がします。あんまり自分の技術に対して,ある意味オーナーシップを感じなくなったというか。

それよりも何作るのかな? とか,今この会社に必要なことは何かな? とか次に流行るアプリケーションはどんなもので,それを作るためにはどうしたらいいんだろうとか。ある意味エンジニアとしての成長に必須なのかも。いろいろプログラミング言語を触らざるをえないじゃないですか。起業するとサーバもクライアントも。デザインもやらなきゃいけないんで。

竹馬:僕もJavaScriptに呪われているところがあるんで,いつかそういうフェーズを経験する必要はあるとは思っています。

天野:そうそう,呪いを解きたいなって。身軽ですよ。JavaScriptの人って言われなくなるとすごく楽だから。

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著者プロフィール

竹馬光太郎(ちくばこうたろう)

フリーランスで先端技術の導入などを行う。

GitHub:mizchi
Twitter:@mizchi
URL:https://mizchi.hatenablog.com/

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