at the front―前線にて

第4回 若きCTOが語る,経営とエンジニアリングのこれから

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課題が明確になったブロックチェーン

竹馬:ここから技術の話をしましょう。僕の中の松本さんのイメージって,Gunosyでブロックチェーンをやっていた人。ブロックチェーン周りの技術って,これは言い方が悪いかもしれないけど,まあ一段落したタイミングだと思うんです。

松本:課題が浮き彫りになったって感じですね。

竹馬:前向きに言うと,次のバブルに向けて仕込みましょうみたいなフェーズだと思うんですが,松本さんがどう思っているのか聞きたいです。

松本:あくまで僕の見ている限りの話をすると,ブロックチェーンっていう技術の突破しないといけない問題が明確になったよね,っていう一年だったと思うんです。あれだけの人と資本が投下されたにもかかわらず,結局ほとんど前に進んでいない。特に非中央集権の実現っていう意味では全然先に進めていなかったなと思っています。

非中央集権,中央はないんだけどみんなが一つのしくみの上で生活できる自然みたいなもの。自然は人間に何もしないけど,人間は自然の上で生活している。こういうものを作れるんではなかろうかと思って盛り上がり始めたのが,スマートコントラクト注2を備えたイーサリアム注3が登場したあたりの2016年。

でも結局,ステートマシンというかデータベースとしてブロックチェーンを見たときに,突破しないといけない問題がそもそも根本にあって,それを無理矢理スケールしようとしたんだけど,時間かかるよねって失望が生まれて今ですよね。

データベースを触ったことがある人ならすぐにわかるはずなんですけど,要は非中央集権にデータを扱おうとするのは,スケーラビリティの問題があるんですよね。今の技術では秒間で数千トランザクションくらいしかこなせない。それをもっと超えようとすると,プライベートブロックチェーンのような,本当に非中央集権なの? みたいな領域に突入してくる。結局マネーゲームになってしまったり,お金がある人たちが中央にいたりするんだったら,これって今のしくみと何か変わるのかみたいな話になってしまうんですよね。

注2)
ブロックチェーン上で契約を表現するしくみ。
注3)
スマートコントラクトのしくみを持つ暗号資産。

P2P技術の進化と安全性の担保

竹馬:クライアントから見た側面なんですが,仮想通貨ブームのおかげでP2PPeer to Peer技術がだいぶ発展した気がしています。特にIPFS注4のようなものが。

松本:P2Pの進化,すごいですよね。

竹馬:ただ,時期が悪かったと思っています。最近サーバレスとかあるじゃないですか。クライアントにとって,サーバを作るコストが高いので可能な限りマネージレスなものが欲しくて,その選択肢としてP2Pとサーバレスがやや近い位置にあった。

松本:たしかにFirebaseで全然作れるじゃん,みたいな話,結構ありますもんね。

竹馬:実際IPFSを使ってみると,どうしても速くはならないし,使い勝手も良くない。スループットが不安定だし,消せないんですよね。一度リリースしたら消せないというリスクを背負える人が多分あまりいない。

松本:まあそうですね。

竹馬:スマートコントラクトをデプロイしたことがあるんですが,バグってないか検証することがめちゃくちゃ難しい。

松本:めちゃくちゃ難しいです。その難しさに向き合うと,やっぱりそこを中央に担保してもらっているんだよな,っていうのが見えてきておもしろいですよね。民主主義とか組織ってのはよくできていて,長官を物理的に攻撃したとしても,できる範囲は限られている。

竹馬:そういう人の信頼みたいなものがコアになって国ってのは運営されているんだな,っていうのが仮想通貨から学んだことだった気がします。

松本:パフォーマンスの問題が解決しても,次は安全性をゲーム理論的にどう担保するかだと思います。経済的インセンティブを,たとえばコンシェルジュ的なことをやってくれる人に対して仲介のコストをちゃんと払えるとか。そうすると信頼できるブローカーを自分のコストで選ぶことができる,みたいなのが出てくるとより安心して取り引きできる。全体の経緯が自立的に育っていくよね,っていうのをブロックチェーンを研究しているときにディスカッションすることが多かったです。

竹馬:まだそこを検証をできる段階に人類がいないですよね。結局ナカモト・サトシ論文注5みたいなのがあと2つくらい出たら先に進めそうですが……。

松本:そういうコアな人たちがここ5年から10年で大きくまた次の価値を作ってくるんじゃないかと期待しながら,うちの社内の研究チームにもコアな技術も見ていこう,追っていこうと伝えているところです。

画像

注4)
InterPlanetary File System。P2P を用いたファイルシステム。
注5)
2009年に公開されたビットコインの理論的根拠として有名な論文。

そもそもビジネスは機械学習が前提

竹馬:仮想通貨が良かったというより,暗号技術とか数理的なものがわかりやすくお金にできるっていう世界観が来たのは,エンジニアとしてはおもしろい対象だったと思っていたんですよね。

松本:そうですよね。ゲームとしてもおもしろいですよね。

竹馬:ゲームそのものだったと思うし。

松本:プロダクトを作っていて非中央集権で何かやろうとすると,収益モデルまで全部含めてプロダクト作りになってしまうので,すごくおもしろいんです。こういう風に手数料率を設定すると何が起きるんだとか。ユーザーは集まるのかとか。これで普通の行動をとったときにユーザーに期待される収益ってこれくらいだよねとか。それも含めて我々の手もとでこのプレイをやったときにこれくらい入ってくるよねと,全部設計可能で。これはエンジニアにとって楽しい事業だなって思います。

竹馬:そういう事業が今後もたくさんあるといいなと思います。

松本:ただ,最初のほうの経営の話ともつながるんですが,計測してモデルを作ってという話がもっと一般的に普及してくれば,僕は普通の事業も一緒だと思うんですけどね。単にそこのノウハウを持っている人が少なくて,ブロックチェーンは強制的に考えなきゃいけなかったからだと思っています。

竹馬:たとえば,機械学習の話とかそのあたりをどう考えていますか? 個人的に,機械学習って最終的には個別のライブラリに落とされて終わる世界のような気もしているんですが。

松本:うーん,どうなんでしょう。ずっと機械学習ビジネスをやってきての話なんですけど,ライブラリを使うだけとはやっぱり限らなくて,問題設計が重要になってくるんですよね。ディープラーニングでやりましょうって話に対して,ロジスティック回帰で十分パフォーマンスは出るんだけどって話もできるわけですよ。そういうところのさじ加減はやっぱり専門性が必要です。

僕は機械学習的な話をするときによく言うのですが,機械学習でビジネスをするんではなくて,そもそもビジネスは機械学習が前提なんだと思ったほうがいい。どんな領域であれ,機械学習を使うことで効率化できる余地が生まれてくると思うんですよね。どのライブラリを使うっていうのと同じくらい,機械学習でどう効率化するっていう知見を持っている人が今後は社内に求められていくんではないかと。

竹馬:数値の最適化って切り口はエンジニアが好きなテーマですよね。ただどのメトリクスを最適化すべきかという選択自体にバイアスが発生している気がしています。

松本:そうなんですよ。そのへんもあって,BIBusiness IntelligenceツールなどはSaaSとして提供されることが多いけど,内製にシフトすると思っています。これから事業をやろうという会社の中にそもそもデータサイエンティストが入ってくるのが常識になってくる。

竹馬:結局データドリブンで動きましょう,という単純な話に落ち着きそうな気もします。それを社風として根付かせましょうと。

松本:それは当たり前の話ですよね。⁠DMMテックビジョン」でも当たり前と言っているのはそのあたりですが,意外とみんな当たり前がやりきれてない。やるだけですごい変わってくるよって思っています。それでこの会社はまだまだ伸びるって思っていますね。

竹馬:お話を聞かせていただきありがとうございました。

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著者プロフィール

竹馬光太郎(ちくばこうたろう)

フリーランスで先端技術の導入などを行う。

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Twitter:@mizchi
URL:https://mizchi.hatenablog.com/