ブロックチェーンの課題と可能性~BBc-1(Beyond Blockchain One)から学ぶブロックチェーン開発

第17回 ブロックチェーンの本質的価値を改めて考える

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ブロックチェーンはBitcoinの中で生まれた技術

例えば,可用性・耐障害性のための複製,および複製間で状態を一致させるための分散合意技術,自律性のためのP2P(Peer-to-Peer)などが,既存の技術であるにも関わらず,ブロックチェーンの特徴として,巷ではよく騒がれています。

しかし開発したいシステムがブロックチェーンであるかどうかに関わらず,必要に応じてこれらの既存の技術を適用すれば,もともと「分散システムの性質」である「分散」⁠⁠合意※4)⁠⁠ゼロダウンタイム※5)⁠⁠セキュア/安全」⁠⁠安価な情報共有」といった要素については実用的な(往々にしてブロックチェーンを凌駕する)レベルで達成できることを,特に設計者としては知っておく必要があるのではないでしょうか。

ブロックチェーンとは,もともとはBitcoinという具体的システムの設計の中で生まれた,前述した「記録が改ざんされていないと証明できること」という本質的価値を満たすための作業証明を用いたアイデアと,既存の周辺技術を組み合わせた技術のことを指しています。

他のアプリケーションを設計する場合でも各々別途,同じ様に考えるべきではないか,というのが設計に関する私の主張です。

BBc-1では,⁠記録が改ざんされていないと証明できること」のコアとなる部分を提供するという考えです。

※4)
複製の間で状態が一致すること。
※5)
本当にダウンタイムがゼロであることはブロックチェーンかどうかに関わらず実現困難ですが,一貫性を常に保つことを犠牲にして可用性の方を優先させることはできます。

本質的価値を活かせる技術の見極めを

さて,端的には,⁠遺言書テスト」は,⁠システム内部で改ざんされていないことの証明」「デジタル署名の事後(秘密鍵が漏洩した後も含めて永年の)証明」を要求するものです。遺言書というのは,署名付き文書の正当性が判断されるべきタイミングで署名者が亡くなっているため秘密鍵の秘匿性に疑いがあり,かつ巨額の遺産が扱われるとすれば関わる人々の共謀も疑いやすいという性質をもちます。そういった理由から思考実験の例として採用しています。

もし,解きたい問題が(変形を経て)この遺言書テストと同じ形になる場合は,テストに不合格な技術は使えないことになります。また,もし解きたい問題がこのテストの形にならない場合は,そもそもブロックチェーンと呼ばれる技術を使うことの意味がありません。

最も不幸なケースは,解きたい問題も特に無いのに,このテストに合格しない技術を使って「ブロックチェーンを用いた実証実験に成功した」などと謳うことです。しかし残念ながら,このケースが巷に蔓延しているように思えてなりません。

このテストに合格するためには,証明を要求するユーザ図1では「相続人たち」⁠が,自らAPI図1では「保存システムのAPI」⁠の内側を担うか,あるいは内側からは改ざんできない形で外部に保存されている証拠を確認できなければなりません。したがって,多くのいわゆるプライベート/コンソーシアム型の台帳技術は(少なくともそのままでは)このテストに合格できないことになります。このテストに合格できるのは,Bitcoinを含むパブリック型の台帳技術でしょう。

かといってBitcoinを含むパブリック型の台帳技術は外因により停止ないし劣化してしまい,動かしたい人々の意思だけでは継続できない恐れがあります。ここでいう外因としては,暗号技術の危殆化や仮想通貨の市場価格の暴落が挙げられることは第1回に述べた通りです。

典型的なパブリック型の台帳技術では,作業証明(PoW:Proof of Work)⁠または通貨持ち分に応じた投票権による投票(PoS:Proof of Stake)を経てシステムに記録が保存されます。PoWでは,投入する電力を上回る仮想通貨での収入を期待してマイナーたちが参入/撤退の判断をするので,経済学的理由により作業証明のための電力コストと仮想通貨の市場価値が均衡することが知られています。いずれの方法を採っても,仮想通貨の市場価値の過半を投入できる主体にとっては改ざんが可能になります(いわゆる,51%攻撃)⁠市場価格が暴落して,マイナーの数が減ったり,通貨を買い求めやすくなったりすると,過半を投入できてしまう主体の登場が容易になってしまい,システムの安全性が損なわれます。

最近の技術動向

ブロックチェーンの本質的価値を改めて書くと,過去に位置づけられたデジタル署名を,何の権威にも依らずに正しいまたは正しくないと証明できることです。

加えてブロックチェーンの課題は,第1回でも整理した以下の5点があり,これらの解決が望まれます。

  • 実時間性の欠如
  • 秘匿の困難さ
  • スケーラビリティの無さ
  • 進化のガバナンスの困難さ(新技術を実地で試しにくい)
  • インセンティブ不整合性(システムの安全性が仮想通貨の市場価値に依存)

さて,次回(最終回)では,BBc-1以外の最近の技術動向を紹介します。今回挙げてきたブロックチェーンの本質的価値や課題に沿って,技術的な価値を簡単に検証してみます。

最近の技術として紹介し,簡単に検証するのは,Ethereumの最新開発動向,EOS,Hedera Hashgraph,一連のセカンドレイヤ技術,そしてMimbleWimbleです。

著者プロフィール

斉藤賢爾(さいとうけんじ)

1964年京都市生まれ(生まれただけ)。

一般社団法人ビヨンドブロックチェーン代表理事。慶應義塾大学SFC研究所 上席所員・環境情報学部 講師(非常勤)。

2000年よりP2Pやデジタル通貨を含む「インターネットと社会」の研究に従事。30年以内(2048年まで)にこの世から「お金」の概念を消し去ることが当面の目標。

みかんとSFが大好物。

Twitter:https://twitter.com/ks91020