「中の人」が語るETロボコンの魅力─何が面白いのか,何に役立つのか

第4回 ETロボコンで実践スキルを磨く!─ソフトウェアを駆使して倒立ロボットの性能を最大限に引き出そう

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要素技術

たとえば,⁠コース上の黒色ラインを滑らかにトレースする」という機能要求を実現するためには,要素技術として旋回指示の制御にPID制御図2を適用する方法が考えられます。性能審査では,このPID制御という要素技術が,走行体の自律性すなわちライントレースに有効な技術であるかを評価することになります。

図2 光センサ値のPID制御(2010年大会)

図2 光センサ値のPID制御(2010年大会)

ETロボコンの代表的な要素技術のひとつとなっているPID制御について簡単に触れておきましょう。PID制御は,制御系の出力値(図2の光センサ値)と目標値(図2の走行閾値)との偏差を制御系にフィードバックしながら偏差を小さくしていく方法です。P(Proportional)は比例制御,I(Integral)は積分制御,D(Derivative)は微分制御を表しています。

P項は出力値と目標値との大きさに比例した操作(制御)を担っており,I項は出力値と目標値との偏差をなくすような微調整の操作(制御)を担っており,D項は出力値の急激な変化に応じた素早い操作(制御)を担っています。また,P項は制御全体のゲインを決定するという役割も持っています。これら3つの操作を使って制御系にフィードバックする入力値(図2の旋回量)を決めることになります。

走行体のライントレースに適用されるPID制御は,黒色ラインと白色ゾーンの境界図3をPID制御の目標値(図2の走行閾値)にして,モータ駆動へ旋回要求を渡すことで,黒色から白色,白色から黒色への操舵切り換え時に発生するオーバーシュートを抑えることができます図4,5⁠。

図3 黒色ラインと白色ゾーンの境界をトレース

図3 黒色ラインと白色ゾーンの境界をトレース

図4 旋回角が大きな操舵(PID制御無)

図4 旋回角が大きな操舵(PID制御無)

図5 旋回角が小さな操舵(PID制御有)

図5 旋回角が小さな操舵(PID制御有)

走行戦略

コースを最短時間で走破し,難所を攻略するためにはどのような走行戦略が必要なのかを検討します。

たとえば,階段という難所を攻略するためには,階段の上り段差を検知したら光センサを活用したライントレースを中断し,階段の下り段差を検知したら再開するという走行戦略を立てたとします。これは走行体が段差に乗り上げた瞬間,走行体の下部に取り付けられた光センサから路面までの距離が変化する(遠くなる/近くなる)ため,平坦な路面走行時に適用していた黒色と白色を識別する閾値をそのまま階段の段差通過時にも適用すると誤判定図6することがあるので,そのリスクを回避するための走行戦略となるわけです。

図6 光センサによる路面色の識別(2010年大会)

図6 光センサによる路面色の識別(2010年大会)

要素技術と走行戦略の関係

前記の階段攻略におけるライトレース戦略を実現するためにはどうすればよいのでしょうか。まずは要素技術として車輪の回転加速度の変化やジャイロセンサの加速度の変化を捉えて,段差を識別する方法図7が必要となるでしょう。

性能審査においては,この加速度の変化を検知して段差判定をするという要素技術が,走行戦略の実現に有効な技術であるかを評価することになります。つまり,走行戦略の実現性を評価するにあたり,実現に必要な要素技術が網羅されているか,一つひとつの要素技術の妥当性はどうか,その方法の信頼性はどうか,その方法がもたらす有効性はどうか,といった具合に要素技術と走行戦略の関連がどうなっているのかが大きな関心事となっています。

このように性能審査では,階段という難所を攻略するためにどのような走行戦略が練られ,どのような要素技術を実装しているかを評価することになります。

図7 ジャイロセンサによる段差判定(2010年大会)

図7 ジャイロセンサによる段差判定(2010年大会)

トレーサビリティ

性能審査の項目ではありませんが,審査項目のひとつにトレーサビリティ表2があります。これは,⁠要求モデル⁠⁠,⁠設計モデル⁠⁠,⁠性能モデル」のそれぞれの要素がモデル間で双方向に関連図8しており,追跡可能となっているかを審査するものです。

図8 モデル相互のトレーサビリティ(2011年大会)

図8 モデル相互のトレーサビリティ(2011年大会)

また,⁠要素技術と走行戦略の関係」の章で触れた要素技術と走行戦略のように,モデル内の要素の双方向の追跡性図8についてもこのトレーサビリティという項目で評価します。

たとえば,PID制御で実現できる目処付けができれば,⁠設計モデル」の構造のダイアグラムにPID制御を要素として反映することになるでしょう。したがって,⁠性能モデル」内のPID制御という要素技術が「設計モデル」の構造や振る舞いのダイアグラムの適切な部位に反映されているかどうかを評価します。さらに,PID制御が「性能モデル」に記載されたどの走行戦略に関連しているのかについても評価します。

表2 トレーサビリティ審査基準(2011年大会)

表2 トレーサビリティ審査基準(2011年大会)

著者プロフィール

河野文昭(こうのふみあき)

株式会社アドヴィックス。ETロボコン実行委員会 本部審査員,東海地区審査員。

2008年にADoniSのチームリーダとしてチャンピオンシップ大会で優勝し,2009年からは大会運営側(審査員)としてETロボコンに携わっています。昨年は東日本各地のモデル審査を担当し,数週間に亘ってモデル漬けの日々を過ごしました。

ETロボコンにひたむきに取り組むエンジニア達の凛とした姿を見ていると,技術大国日本の復活に期待が膨らみます。今年もエンジニア達の果敢な挑戦が繰り広げられる各地を訪れ,驚きと感動を味わいたいと思います。