「中の人」が語るETロボコンの魅力─何が面白いのか,何に役立つのか

第4回 ETロボコンで実践スキルを磨く!─ソフトウェアを駆使して倒立ロボットの性能を最大限に引き出そう

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モデルベース開発

一昨年,昨年と少しずつではありますが,実機や競技コースを使う前にPC上のシミュレーションで要求の妥当性を早期に確認したり,モデルから自動コード生成をしたりするMBD(Model Based Design)の適用が見られるようになってきました図11,12⁠。

図11 MBDツールソフトウェア※2によるブロック線図モデル(2009年大会)

図11 MBDツールソフトウェア(<strong>※2</strong>)によるブロック線図モデル(2009年大会)

図12 MBDツールソフトウェア※2によるブロック線図モデル(2010年大会)

図12 MBDツールソフトウェア(<strong>※2</strong>)によるブロック線図モデル(2010年大会)

いくつかの業種では何年も前からMBDに取り組まれているようですが,実際の現場で本格的に量産開発に適用しているケースはそんなに多くはありません。MBDに限らず,新しい技法や手法をいきなり実務に導入するのは品質面や納期面でリスクが高いため,ETロボコンという砂場を使って試行することには大きな意味があるといえるでしょう。

※2)
MATLAB®/Simulink® MathWorks社

ETロボコンで習得可能なスキル

IPA/SEC(独立行政法人 情報処理推進機構 ソフトウェア・エンジニアリング・センター)から示された組込みスキル標準ETSS(Embedded Technology Skill Standards)には,組込みソフトウェア開発力の強化を目的とし,組込みソフトウェア開発に関する最適な人材育成や人材の有効活用を実現するための指標や仕組みが規定されています。その中のひとつである組込みソフトウェア開発スキルを体系的に整理したスキル基準に着目し,ETロボコンで習得可能なスキルについて紹介します。

過去の大会参加者からのヒアリングや提出されたモデルから読み取った情報をもとにETロボコンで習得することができるスキルをETSSのスキル基準の「技術要素スキルカテゴリ表3⁠,⁠開発技術スキルカテゴリ表4⁠,⁠管理技術スキルカテゴリ表5⁠」の各項目にマッピングしてみました。

表3 技術要素スキルカテゴリ

表3 技術要素スキルカテゴリ

表4 開発技術スキルカテゴリ

表4 開発技術スキルカテゴリ

表5 管理技術スキルカテゴリ

表5 管理技術スキルカテゴリ

3つの表には多くの○が付いています。これはあくまでも筆者の主観による判定結果であるため,判定者によって○の数に多少の差異はありますが,ETロボコンへの参加を通していくつかの項目に○が付くことに異論はないでしょう。実際には参加者がどこまで取り組むかによって習得スキルに差は出ますが,ETロボコンへの参加を通して各項目のレベル1:初級(支援のもとに作業を遂行できる)あるいは,レベル2:中級(自律的に作業を遂行できる)といった習熟度への到達が期待できます。

ここ数年,企業に入社して間もない社会人や学生の参加も増えており,企業では若手教育の一環として,また学生は社会人になる前の実践的教育の場としてETロボコンを大いに活用しているようです。昨年は学生チームが難易度の高い難所を攻略してチャンピオンシップ大会で準優勝するなど,社会人と同じ土俵で競うコンテストにもかかわらず素晴らしい結果を残しています。ETロボコンへの参加を通して培われたこれら多くのスキルは,必ずや企業での実務に活かされることでしょう。

また,ETロボコンの参加チームには全チームの描いたモデルが配布されるため,他チームの描いたモデルを教材にしてモデリング技術や性能要素技術を高めることもできます。

2010年の地区大会参加チーム数は343でしたので,A3サイズで2058枚(=343×6枚)ものモデルシートに触れることができる計算になります。実際にはチャンピオンシップ大会参加40チームのモデルシートがさらに加算されるため,2298枚(=2058+240)となります。この膨大な資料を上手く活用していっそうのスキルアップを図っていただきたいものです。

走行性能のさらなる発展に期待

これまで多くの要素技術がETロボコンに導入され,走行性能は飛躍的に高まってきました。今回,⁠実務に役立つ経験を積む」の章で取り上げたPID制御を例に挙げますと,光センサによる路面反射光の処理に適用するだけでなく,複数の制御対象に対してPID制御を複合化,多様化して実装し,高速安定走行を可能にしてきました。さらにはPID制御といった古典制御理論のみならず,MBDツールソフトウェアを使って現代制御理論をモデル化し,運営側から配布された倒立制御ロジックをさらに進化させたチームもありました。

10年という節目の年である2011年は競技中にBluetoothを使って走行体とPCが通信できるようになりました。これは走行体に実装された制御ロジックとPCに実装された制御ロジックがBluetooth通信でつながることを意味し,PCの高い処理能力を使って走行体を走行させることができるようになったということです。走行体に搭載されたコンピュータ資源しか使えなかった時の走行性能に比べ,PCの大規模な資源と強力な処理能力によって格段に進化した走行性能が発揮されることを期待しています。

著者プロフィール

河野文昭(こうのふみあき)

株式会社アドヴィックス。ETロボコン実行委員会 本部審査員,東海地区審査員。

2008年にADoniSのチームリーダとしてチャンピオンシップ大会で優勝し,2009年からは大会運営側(審査員)としてETロボコンに携わっています。昨年は東日本各地のモデル審査を担当し,数週間に亘ってモデル漬けの日々を過ごしました。

ETロボコンにひたむきに取り組むエンジニア達の凛とした姿を見ていると,技術大国日本の復活に期待が膨らみます。今年もエンジニア達の果敢な挑戦が繰り広げられる各地を訪れ,驚きと感動を味わいたいと思います。