ゲームデザインのミナモト

第5回ロールプレイングゲーム―長く楽しめる冒険と成長のアイデア

コンピュータ上で動くRPG

ロールプレイングゲーム(RPG)というジャンルは、現在でも「ドラゴンクエスト」シリーズ[1]「ファイナルファンタジー」シリーズ[2]をはじめとしたメジャーなゲームが存在し広く認知されています。その名の通り、ロール(役割)をプレイする(演じる)ことを楽しむ遊びで、その起源は兵士のコマを動かして遊ぶ卓上の戦争ゲーム(ミニチュアゲーム)だと言われています。

その後、ファンタジーの世界でプレイヤーが戦う「ダンジョンズ&ドラゴンズ」⁠D&D)注3が1974年に発売され大ヒットします。ボードやフィギュア、20面体のサイコロを使った緻密な内容は、家族で楽しむボードゲームとは違った新しい世界を見せてくれたのです。コンピュータゲームと区別するため、このような卓上のゲームは、日本ではテーブルトークRPGと呼ばれています。

D&Dでは、最初にプレイヤーが、クラス(職業)のほか、筋力、敏捷力、知力など自身の能力に関するさまざまなパラメータを持つキャラクターを作成し、ゲームの中で育てていきます。ダンジョンを探索し、敵を倒して経験値や宝物を得てパワーアップするという現在のRPGにも通じる基本的な要素はこの時点で盛り込まれていました。これをコンピュータ上で再現したものが、現在のRPGへとつながっていきます。

Apple II上で動作する「Akalabeth:World of Doom」注4⁠、⁠Wizardry」注5や、UNIX上で動作する「Rogue」注6などがコンピュータ初期のRPGタイトルと考えられています。

成長する主人公

D&Dをはじめとする卓上のRPGでは、パラメータ、シナリオ、マップなど非常に多くの情報をゲームマスターと呼ばれる人間が管理します。これは、ゲームのシナリオやバランスをゲームマスターが作ることを意味し、経験と才能が必要な作業です。

こうした作業はまさにコンピュータに置き換えるのに適したものでした。ゲーム内容をセーブするという行為も、ちょうどコンピュータと記憶装置(フロッピーディスクなど)が普及した当時に得られた新しい体験だったのです。それまで主流だったアーケードゲームは、終わってしまえばそれまでで、次はまた最初から遊ぶのが普通です。一方RPGでは、それまでに得たプレイヤーの能力値やお金を保存し、続きからまた育てることができます。それまで勝てなかった相手にも、ゲームを遊び続けていれば勝てるようになるという希望が与えられているのです。この「主人公が成長する」という要素こそがRPGの大きな特徴であり、長く楽しめる要因でもあります。

広大な世界の冒険

コンピュータ上のRPGが登場した1980年代初頭は、アドベンチャーゲーム[7]の登場とも重なっています。

RPGにはアドベンチャーゲームと同様に冒険の要素も含まれており、謎解きの代わりに戦闘を行って探索を続けるという楽しみがありました。その要素が強かったのが、⁠Ultima」シリーズ[8]です。マス目状に区切られたマップを俯瞰(ふかん)する画面は、ドラゴンクエストに代表される2DマップによるRPGの元祖と言ってよいでしょう。

Ultimaのマップはとにかく広く、ダイナミックに冒険ができる作りになっていました。船や馬といった乗り物だけでなく、宇宙船に乗り込み別の星に移動することすらできるスケールの広いものでした。マップ上には敵のシンボルが存在しており、プレイヤーが接触することで戦闘になります[9]⁠。スクロールする2Dのマップを冒険する最初期のゲームと言えるでしょう。

それに対して本家のD&Dに忠実な作りになっているのが、Wizardryシリーズです。3D迷路として描かれるダンジョン内で突然敵と出会うスタイルは、ドラゴンクエストの戦闘シーンにも引き継がれています。硬派で王道を行くWizardryは、プレイヤーが作成したキャラクターを最大6人のパーティーで編成し、武器や装備、アイテムをそろえながら育てていくという現在の標準的なスタイルを確立しました。戦士を前衛として配置し、僧侶や魔法使いが後衛でパーティーを援護するといった戦略的で細かい戦闘のルールや、キャラクターの善悪がパーティーを組む制約になるなど、設定の緻密さと奥深さも大きな特徴です。

国産RPGの原点

WizardryとUltimaのヒットにより、RPGはコンピュータゲームの主要ジャンルへと急成長しました。国内で本格的にRPGが登場したのは、⁠ザ・ブラックオニキス」注10と言われています。容量制約などから、Wizardryなどと比べると魔法がなかったり武器やパラメータが少ないものでしたが、海外で話題になっているRPGを日本語で遊べるということもあり大ヒットを記録しました。

国内で最も広く知られているRPGは、1986年にファミリーコンピュータ用ソフトとして開発されたドラゴンクエストでしょう。ハード上の制約の中で、RPGの要素を極限まで絞りシンプルに仕上げられた傑作です。ドラゴンクエストが優れていた点は、お城で王様から目的を告げられるシーンに代表されるように、ストーリーの流れが明確なことです。海外のRPGを筆頭に、それまでのRPGは漠然とした目的のためにレベルを上げ、断片的な情報から謎を解き、ゲームの世界観を楽しむものばかりでした。ドラゴンクエストを契機にシナリオが重視されるようになり、より日本人に合ったRPGが作られていくようになったのだと思います。

箱庭としての要素

RPGが持つ世界観の中で「役割を演じる」という要素は、海外では自由度の高い箱庭の中での冒険に進化していきました。その代表とも言えるUltimaシリーズは、町に住む人々Non Player Characterがそれぞれの生活を営み、単語を指定した細かい会話ができるようになるなど、徹底してリアルな箱庭を追求していました。善悪の要素があり、正しい行いを推奨していますが、悪人として成長すれば町を支配することも可能になる自由さを持ちあわせていました。

また、1987年に登場した「Dungeon Master」注11は、リアルタイム要素をいち早く取り入れました。擬似3Dによるリアルな視点でダンジョンを移動し、時間が経つと空腹になるといった要素や、敵との戦闘時に攻撃やアイテムの使用に時間がかかって、その間に攻撃を受けてしまうなどのリアルタイム性がありました。より臨場感のあるRPGとして後の作品にも影響を与えています。

このような箱庭としてのゲーム要素は、その後「Ultima Online」注12がMMORPGMassively Multiplayer Online Role-Playing Gameとしての道を切り拓きました。また、1人で遊ぶゲームとしては、現在の「グランド・セフト・オート」Grand Theft Autoシリーズのようなオープンワールドと呼ばれる、緻密に構築された世界でプレイヤーが楽しむジャンルに継承されていきます。

国産RPGの進化

海外のRPGが伝統的なファンタジー世界を中心にしていたのに対して、日本のRPGは、より自由な発想で作られた独自の世界観を持つものが多い傾向がありました。

ドラゴンクエストと並んで人気のあるシリーズとして現在も知られているファイナルファンタジーも、独自のシステムと映画的な演出で深く世界観に没入できるものになっています。

また、プレイヤー同士がキャラクターを交換・対戦させる要素を持つ「ポケットモンスター」注13なども、そのキャラクター性と親しみやすさにより世界中でヒットした作品です。

現在でも、⁠ドラゴンクエスト25周年記念 ファミコン&スーパーファミコンドラゴンクエストI・II・III」注14写真1は最新の家庭用ゲーム機で楽しむことができます。このような2Dマップを移動するRPGは現在はクラシックなゲームになっていますが、その根底にある、成長して長く楽しめる、世界観に浸れるといった要素は、さまざまな形で生き続けています。アクションゲームやシミュレーションに成長要素が入っていることもほぼ当たり前になっている今、もう一度広い視点でRPGの楽しさを考えてみるのもおもしろいと思います。

それではまた次回まで。

写真1 ⁠ドラゴンクエスト25周年記念 ファミコン&スーパーファミコン ドラゴンクエストI・II・III⁠⁠。それぞれの作品のファミリーコンピュータ版、スーパーファミコン版の計6作品がプレイできる。写真左がファミコン版の「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…⁠⁠、右が「スーパーファミコン ドラゴンクエストII そして伝説へ…」
写真1 ファミコン版の「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」 写真1 「スーパーファミコン ドラゴンクエストII そして伝説へ…」

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