増井ラボノート コロンブス日和

第15回 フラット整理法

この記事を読むのに必要な時間:およそ 3 分

身のまわりのフラット整理

前述の方法であらゆるファイルをフラットに管理できるようになるのですが,書類や小物はどうすれば良いでしょうか? 実は書類や小物はもっと簡単な方法で楽に整理できます。

クリアファイル整理法

書類の管理は面倒なものです。普通の家庭でも,製品のマニュアルだの保証書だのクレジットカード明細だの領収書だの保険の書類だの,医療費明細だの,たくさんの書類を整理する必要がありますが,こういったものをきれいに分類して管理するのはたいへんです。

雑多な書類を楽に提案する方法として,1993年ごろ野口悠紀雄氏が提案した「超整理法注1⁠」という書類整理手法がかなり話題になったことがあります。⁠超」と言っていますがこれは極めて単純な整理方法で,

  • ①タイトルを書いたA4の封筒(角形2号封筒)に資料を入れて棚に並べる
  • ②使った資料は必ず一番端に戻すという作業を繰り返す

だけです。この結果,

  • よく使う資料が端に集まる
  • 使わない資料は逆の端に集まる

ことになりますが,よく使う資料は端にある可能性が高いのですぐ見つかりますし,逆の端にたまってきた使わない資料は廃棄を検討できるというわけです。

ここでは分類も階層的管理も使われていませんから,階層脳な人はこれでうまくいくことに驚いたかもしれません。野口氏は最近のインタビュー(⁠⁠PHP Buines⁠s The 21⁠2016年11月)でも「目当ての情報がすぐ見つかるのであれば,わざわざ整理に時間や手間をかけることはありません。その方法論の基本は,⁠分類しない』ことです」と語っており,この整理手法を現在も利用しているようです。

「超整理法」は確かに簡単なうえに分類の必要がないという大きなメリットがあるので非常に話題になりました。野口氏をはじめ,現在もこの方法を利用している人も多いようですが,この方法には次のような問題がある気がしています。

  • 封筒にタイトルを書くのが面倒臭い
  • 封筒の中身が見えない
  • 古いファイルを捜すのに時間がかかる
  • 古いファイルの存在に気づかず同じファイルを作ってしまう可能性がある
  • 角形2号封筒のサイズはA4書類よりかなり大きいのでA4用の箱や棚に入れにくい

現在は計算機やネットワークが十分普及しており,⁠超整理法」が執筆された1993年とは状況がかなり異なっていますから,私は次のような「クリアファイル整理法」のほうが良いと思っています。

  • ①大きく番号を書いた透明クリアファイルに書類を入れる
  • ②クリアファイルを番号順に並べる
  • ③番号と中身の対応をテキストファイルやWikiなどに書いておく

写真1 書棚の中のクリアファイル

写真1 書棚の中のクリアファイル

私は数年に渡ってこの方法を実践しており,実用的に利用しています。番号を最初は手書きしていましたが,最近は印刷したシールを貼っています写真1⁠。

これは非常に単純な方法ですが,次のようなメリットがあります。

  • タイトルやキーワードを手書きする必要がない・テキスト検索すればどの番号のクリアファイルに何が入ってるかすぐわかる
  • 大きさがA4にそろっているのでA4用の箱や棚で整理しやすい
  • 透明なので中身を確認しやすい
  • 番号順に並んでいるので,整理/検索しやすい
  • 書類の属性やコメントなどをいくら記述してもかまわない

超整理法の時代にはタイトルや中身の情報を書くために封筒を利用する必要がありましたし,たくさんの情報を書くことはできませんでした。クリアファイルには番号だけ書いておけばいいわけですし,テキストファイルにはいくらでも情報を書いておくことができます。

この「クリアファイル整理法」はあまりにも単純なので,こんなものでうまくいくのか? こういう方法をサポートする文房具や検索システムが売られているのではないか?――などと思ったものですが,意外とそういう製品は存在しませんでしたし,この方法はとてもうまくいくことがわかりました。

番号と中身の対応を書くのが面倒だという問題はありますが,封筒に手書きするよりは楽ですし,あとで検索するのが楽であることを考えるとテキストファイルに書くほうがはるかに便利でしょう。

注2)
「超」整理法――情報検索と発想の新システム 野口悠紀雄(著⁠⁠,新書判,248ページ,1993年11月25日,ISBN978-4-12-101159-6

箱整理

クリアファイルに入れにくい小物は,番号を書いた箱に入れるようにすればクリアファイルの場合と同じように整理を行うことができます。箱や引き出しでものを整理する場合,箱のカテゴリを決めて分類して格納したくなるものですが,箱の中身をきちんと記述しておくことに気を付けておけば,きちんと分類する必要はないでしょう。たとえば「土産」とか「食器」とかいった箱を用意してきちんと分類したくなるかもしれませんが,⁠土産物の食器」はどちらに入れれば良いかわかりません。適当な番号の箱に入れてから,その番号のところに「Xさんにもらったドイツのワイングラス」などと記述しておけば後から捜すのに苦労することがありません。

フラットへの移行

現状の開発環境は,階層型ファイルシステムが前提になっているのがほとんどですので,残念ながらあらゆるファイルを今回紹介した方法で管理することは困難です。しかし,これまで整理が難しかった雑多なファイルに関しては明らかに有効だと感じているので,徐々にフラットな整理方法に移行していこうと思っています。

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著者プロフィール

増井俊之(ますいとしゆき)

1959年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部教授。ユーザーインターフェースの研究者。東京大学大学院を修了後,富士通半導体事業部に入社。以後,シャープ,米カーネギーメロン大学,ソニーコンピュータサイエンス研究所,産業技術総合研究所,Appleなどで働く。2009年より現職。携帯電話に搭載される日本語予測変換システム『POBox』や,iPhoneの日本語入力システムの開発者として知られる。近著に『スマホに満足してますか? ユーザインターフェースの心理学』。