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第34回Perl Mongers:顔の見える仲間を増やそう

もうひとつの.pm

Perl 5のモジュールには.pmという拡張子をつけることになっています。このpmというのはもちろんPerl Moduleのことですが、Perlの世界ではもうひとつ、Perl Monger(s)という意味になることがある、というのもみなさんよくご存じのことでしょう。このmongerという単語は、もともとはあまりよろしくない物品を言葉巧みに売りつける行商人を意味していました。オックスフォードの大きな英語辞典で共起する取扱商品を拾ってみると、肉や魚、チーズといったにおいの強い産物から、奴隷や娼婦、あるいは流行、ニュース、スキャンダルといった無形のものまで、何かしら好ましくない要素をもつものが並んでいるのですから、自虐であれ謙遜であれ、Perlについても同列に理解するべきでしょう。その後生まれたPerlMonksのような言葉に比べると、Perl Mongersはもっと下世話な、よく言えば庶民的な含みを持つ言葉であると考えられます。日本語に訳すなら差詰め「Perl屋」とでもなるのでしょうが、オヤジギャグが好きな方なら「もんもん」を背負った押し売りや、坊ちゃんが言うところの「モモンガー」を連想してみるのも一興でしょう。

Wikipediaの記述によると、Perl Mongersという言葉が使われるようになったのは、1997年に米オライリー社が開催した最初のPerlカンファレンス(のちのOSCON)で、⁠マスタリングPerl』などの著者としても知られるブライアン・フォイ(brian d foy)氏が最初のPerl MongersグループとなるNY.pmの結成を宣言してからのこと。もちろんその当時Perlにはすでに10年近い歴史があったのですから、NY.pm以前にも各地にユーザグループと呼んでよさそうなものはあったのでしょうが、氏は、自分がほかのPerlユーザグループを見つけるのに困った経験から、グループの情報を一箇所にまとめて、ゆるやかなネットワークを構築したいという構想を披露。好感触を得たことから、ニューヨーク州でPerl Mongers Inc.というNPO法人を設立し[1]⁠、第2回のPerlカンファレンスでは100以上もの新しいPerl Mongersグループの結成に尽力したのでした。

このPerl Mongersグループをつくる運動はその後世界各地に広がり、日本でも1999年以降いくつかのPerl Mongersグループが生まれています。いまも目立った活動をしているところとしては、Yokohama.pmFukuoka.pmが2010年3月に、Kansai.pmが5月にそれぞれイベントを開催していますし、Shibuya.pmは4月に台湾で開催されたOSDC.twに出張して発表をこなしてきました。最近では北海道でも新しいPerl Mongersグループを立ち上げようという動きがあり、つい先日(6月23日)741番目のグループとして公認されています。

このHokkaido.pm誕生の経緯については筆者も札幌の出身なので興味をもって見ていたのですが、途中Perl Mongersグループ全体の管理を行っているメンバーの話を聞いたときには、彼らが想定しているPerl Mongersグループと国内の認識や実態との間にいささかのズレを感じる部分もありました。もちろんPerl Mongersグループも千差万別ですから多少ズレていようとうまく運営されているのであれば問題はないのですが、想定から外れたグループをつくろうとすると、余計な手間がかかったり、最悪申請が通らなかったりすることもありえます。

そこで、今回はいつものモジュール話からちょっと離れて、Perl Mongersというグループがどういうもので、どうつくるのがよいとされているのか、またよそではどういうことをしているかを簡単にまとめてみます。

基本的には都市単位

Perl Mongersグループは、名前はどうあれ、基本的にはPerl好きな人が集まるユーザグループに過ぎません。だから、本来はどのような枠組みで人を集めようとかまわないようなものなのですが、世界的に見ると、ほとんどのPerl Mongersグループには都市、または周辺の自治体まで含めた都市圏の名前がついています。

これは、たとえばPerl MongersグループのFAQ「グループ名は九割九分会合が開催される都市の名前になる」と書いてあるとか、グループ申請時には都市名の記入が必須とされ、しかもその都市名はPerl Mongersグループのサイトでテキストとして確認できるだけでなく、機械的に処理できるようXML形式でも公開され、それをもとにしたGoogleマップで視覚的にも所在地を確認できるようになっている(ので、それ以外の規模のものをつくりづらい⁠⁠、といったシステム的な側面からも説明できますが、おそらくそれと同じかそれ以上に、Perl Mongersグループには都市ないし都市圏くらいの規模が適正とみなされている、ということでもあります。

実際、今回のHokkaido.pmの申請過程でも釘を差されたのですが、⁠傘下にいくつかのPerl Mongersグループを含んでしまうような)広い地域名を持つPerl Mongersグループはなるべくつくりたくないし、もしそのようなものがあるのなら、本来は都市(圏)単位に分割するべきである、というのがPerl Mongersグループの管理方針になっています。

もちろんこれは原則論なので、特殊な事情があるなら対応してもらうことはできますし、実際、Perl MongersグループのなかにはPerl Advent CalendarのためのグループであるAdvent.pmやAmigaユーザが集まるAmiga.pmのように特定の地域とは無関係のグループもあるにはあります。

ただ、特別扱いを求めるのであれば、その理由を説明したり、利害が衝突するグループとの調整を行う責任は、グループを申請するリーダーの側にあります。

その説明を怠った場合は、一見広い地域にまたがるグループのように見えても、Perl Mongersグループとしては、リーダーが在住している都市のグループにそのようなあだ名、別名がついているだけ、と考えた方がよいでしょうし、その名前が許されたのは単に管理者側にはコンテキストがよくわからなかったからで、別にその地域を管轄するPerl Mongersグループとしてのお墨付きを得ているわけではない、と受け取るべきでしょう[2]⁠。

大きすぎず、小さすぎずがよい理由

このようにPerl Mongersグループが都市ないし都市圏をベースにしている理由はいくつか考えられます。

たとえば、グループを統括しているPerl Mongers Inc.は、新しいPerl Mongersグループの立ち上げをサポートするため、申請のあったグループにはウェブスペースとメーリングリストを無料で貸与しているのですが(それに必要な費用は企業スポンサーが負担してくれています⁠⁠、当然ながら資源は無尽蔵にあるわけではありません。最近では無料ないし安価に利用できる選択肢も増えたためこのサービスを利用しているグループはそれほど多くはないようですが、あまりに狭い地域に、しかも構成員が重複してしまうような複数のグループが乱立してしまう事態は人的リソースの点でも無駄ですから避けたいところでしょう。

かといって、無闇にグループを大きくすればよい、というものでもありません。

単にPerlの情報がほしいだけなら、地元のPerl Mongersグループより便利なものはたくさんあります。誰よりも早く最新情報に触れたければ世界中のコアなメンバーが集まっているIRCチャンネルに参加するのが一番でしょうし、古くはPerlMonksのような専用の掲示板やメーリングリスト、最近ではブログやWikiにPerlのことを書く人も増えていますから、RSSリーダーや検索エンジン、そして辞書や機械翻訳サービスを駆使すれば、時差や言語の壁にさほど悩まされることなく世界中から情報を集められます。ネットワークを経由したやりとりでよいのなら、わざわざ地域を限定して情報源を減らす道理はどこにもありません。

それでもなおPerl Mongersグループが生まれ、広がってきたのは、Perl Mongersグループが実際に会って話をする場をつくるツールとして機能してきたからです。

もちろんYAPC::Asiaのように大きなイベントに参加すれば、全国から集まってきたコアなユーザと話をすることはできます(場合によっては海外からやってきた参加者と話をすることすらできるかもしれません⁠⁠。でも、わざわざ会って話をするために有給を取ったり、多額の交通費や宿泊費が必要になるのでは、そう頻繁には集まれません。イベントの規模が大きくなれば、全員に挨拶をするだけでも一苦労です。

それに対して、ほとんどのメンバーが同じ通勤・通学圏に暮らしていることが期待できるPerl Mongersグループであれば、たとえば月に一度定例会を開催することにしても負担に感じる人はそれほど多くはないでしょう。ときには飲み会という形で集まれば、Perl以外にも地元の飲食店情報など身近な話題で盛り上がることもできますから、Perl一辺倒ではない人にとっても参加しやすくなることが期待できます。会う回数が増えてお互いの人となりがわかってくれば、お決まりの挨拶なんてすっ飛ばして、いきなりネットワーク上では公開できないディープな話を始めることもできるようになるでしょうし、通勤圏が同じことはわかっているのですから人材募集の場としても利用できるでしょう。

また、自分たちでイベントを開催する際には、主催者が開催地でどれだけ仲間を集められるかが大きなポイントになります。手慣れた主催者であれば地元以外のところであっても会場の手配から当日の裏方仕事まですべて自分たちでこなせるでしょうが、それよりは主催者の地元で開催して、地元の知人・友人を動員した方がはるかに楽ですし、各方面に顔がきく分、安くもつきます。

YAPCとPerl Mongers

この特徴を最大限に活用しているのが海外のYAPCです。YAPC::Asiaについてはいまのところずっと東京で開催されていますが、海外のYAPCは、北米で開催されるYAPC::NAにせよ、ヨーロッパで開催されるYAPC::EUにせよ、会場は毎年公募で決められています。

●YAPC::NA
開催年開催地Perl Mongersグループ
2010オハイオ州コロンバスColumbus.pm
2009ペンシルヴァニア州ピッツバーグPittsburgh.pm
2008イリノイ州シカゴWindyCity.pm(Chicago.pm)
2007テキサス州ヒューストンHouston.pm
2006イリノイ州シカゴWindyCity.pm(Chicago.pm)
2005オンタリア州トロント(カナダ)Tronto.pm
2004ニューヨーク州バッファローBuffalo.pm
2003フロリダ州ボカラトンSouthFlorida.pm
2002ミズーリ州セントルイスStLouis.pm
2001ケベック州モントリオール(カナダ)Montreal.pm
2000ペンシルヴァニア州ピッツバーグPittsburgh.pm
1999ペンシルヴァニア州ピッツバーグPittsburgh.pm
●YAPC::Europe
開催年開催地Perl Mongersグループ
2010ピサ(イタリア)Perl.it[3]
2009リスボン(ポルトガル)Lisbon.pm
2008コペンハーゲン(デンマーク)Copenhagen.pm
2007ウィーン(オーストリア)Vienna.pm
2006バーミンガム(イギリス)Birmingham.pm
2005ブラガ(ポルトガル)Braga.pm
2004ベルファスト(アイルランド)Belfast.pm
2003パリ(フランス)Paris.pm
2002ミュンヘン(ドイツ)Munich.pm
2001アムステルダム(オランダ)Amsterdam.pm
2000ロンドン(イギリス)London.pm

もちろん運営にまつわるすべてが地元のPerl Mongersグループに丸投げされているわけではなく、YAPC::NAの場合はThe Perl FoundationことYet Another Societyが、YAPC::EUの場合はYAPC Europe Foundationのメンバーが継続的な支援活動を行っていますし、YAPCくらい大規模なイベントになるとホスト側のPerl Mongersグループにもそれなりの経験や準備が必要ですから、入札の際にはさまざまな要件を満たすことが求められています入札時の要件会場選定時の基準は一般に公開されています⁠⁠。ぽっと出のグループがいきなりYAPCの運営にあたる、ということはあまりありそうな話ではありません。

ただし、今年のYAPC::NAの会場になったオハイオ州コロンバスで人口75万人(都市圏全体で180万ほど。以下同じ⁠⁠、昨年の、そして最初の会場でもあったピッツバーグが人口30万ちょっと(235万⁠⁠、シカゴやヒューストン、トロントはそれぞれ都市人口だけで200万人を越す大都会ですが、バッファローも30万(125万)程度ですし、ボカラトンにいたっては国勢調査上の人口が10万人を切っています(ちなみにセントルイスが35万(290万弱⁠⁠、モントリオールが190万(380万⁠⁠。ヨーロッパのほうは各国の首都クラスが並んでいることもあって総じて大都会で開催されていますが、今年の会場ピサがやはり10万人を切っていますし、ブラガが18万(83万⁠⁠、ベルファストが48万(58万)といったところです⁠⁠。

これを単純に日本の状況にあてはめてみると、大都市圏を形成している政令指定都市はもとより、日本の市の上位1割程度を占める各都道府県の中核市であれば十分YAPCクラスの国際的なイベントを開催できる可能性がある、ということになりますし、もう少し小さな都市でも、しっかりとしたPerl Mongersグループを組織できれば、規模や経験に応じて国内限定ないし地方限定のイベントくらい仕切ることはできるでしょう。もちろん近隣の複数のグループが力をあわせれば、今年のYAPC::EUのように、それ以上のことだってできるかもしれません。

誰かが旗を振ればの話ですが。

日本にはもっとあってもよいと思います

2010年6月末の時点でmixiのPerlコミュニティに登録している人がほぼ6000人。Shibuya Perl MongersとKansai Perl Mongersのコミュニティに登録しているのがそれぞれ211人、79人。Shibuya.pmのメーリングリストには600人以上が登録しているので、Perl Mongersグループのメーリングリストには入っているけれどmixiのコミュニティには入っていない、という人も一定数いるのでしょうが、それにしても国内にはまだPerl Mongersグループに所属していないとおぼしきPerlユーザが少なくとも5000人くらいはいるのでしょうし、そのなかには現在Perl Mongers空白区になっている地域に住んでいる方も少なからずいると考えられます。そのことはTwitterのプロフィール検索などからも確かめられますし、シックスアパート社が公開しているProNetの企業一覧を見れば、いまはPerl Mongers空白区となっている地域にもPerl Mongersグループの核となれそうな企業はいくつも存在していることがわかります。もちろん地元の求人誌や大学のサークル一覧などを調べれば、その数はさらに増えていくことでしょう。

もちろん可能性があるからといって何でもPerl Mongersグループにしてしまえばよい、というものでもありません。実際、世界的には過去10年で3分の2近いPerl Mongersグループが活動停止に追い込まれていますし、その整理が管理者メンバーの課題のひとつとなっています。いたずらにグループを乱立させても、管理者側の事務手続きが増えるばかりで、誰の得にもならない、という結果になる可能性も否定はできません。

ただ、国内ユーザの実態がつかめない、という現状は、さまざまなところでPerlユーザに不利益をもたらしています。Perlで仕事をしたくても、仲間がいないから大口の仕事は受けられない、とか、聞けばすぐにわかることなのに、聞く相手がいなくて結局Perlを諦めてしまうとか、地方でイベントを開きたくても、どこに話を持っていけばよいかすらわからない、とか。

いくらきれいなコードが書けるようになっても、戦力が分散されすぎて各個撃破されているようではじり貧です。肩をいからせて「我々は団結する必要がある」などと息巻く必要はありませんが、日本にはもっとPerl Mongersグループがあってもよいと思いますし、それだけの余地は十分にあると思っています。

Shibuya.pmのように質量ともに世界有数のグループを参考にしてしまうと萎縮してしまう部分もあるかもしれませんが、ブライアン・フォイ氏らが管理しているPerlコミュニティのイベントカレンダーなどを見てみれば、世界的に名を知られているPerl Mongersグループであっても、そのイベントの多くは「Social Meeting」などと銘打たれた飲み会でしかないことがわかるでしょう。実際、Shibuya.pmのように600人ものメンバーを抱えているような大きなグループは、世界的に見てもそれほど多くはありません。その大半は数人から数十人程度ですし、100人も集まったらかなりの大所帯です。Shibuya.pmの場合はまともに飲み会を開くと人数が多すぎて大変なことになってしまうので、ふだんは特に気の合う仲間同士でばらばらに集まり、グループとしてのイベントは何かきっかけがあったとき、ということになっていますが、そのやり方をまねする必要はどこにもありません。Perl Mongersグループとしては、毎年顔の見える仲間が少しずつ増えていけば、それで十分に目的は達成できています。そこからどう欲張るかは、みなさんのグループの方針次第です。

新しくグループをつくるときには

これを読んで、新しいPerl Mongersグループをつくりたいと思われた方がいるようでしたら、まずはPerl MongersグループのFAQと、同じく数百人の参加者を誇るLondon.pmでリーダーをつとめたデイヴ・クロス(Dave Cross)氏のノウハウをまとめた記事をよく読んでおきましょう。また、できればPerl Mongersグループの登録を行う前に何人か同郷の仲間を見つけておいたほうがよいと思います。

申請にあたっては、FAQにも書いてあるように、タイトルには申請したいグループ名と、新規のリクエストなのか、既存のグループを復活させたいのか、本文には、グループのリーダー名、メールアドレス、svn.perl.orgで利用したいアカウント名、グループの所在地となる都市名、県名、地方名(空欄でOK⁠⁠、大陸名(日本の場合はAsiaとしておいてください⁠⁠、国名、都市の緯度、経度、それからpm.orgにサイト(ブログツールなどを使いたい場合は自前でサイトを用意する必要があります)やメーリングリストのホスティングをお願いするかを(英語で!)明記して、指定のメールアドレスにメールを送ってください。リクエストトラッカーにチケットが切られ、自動返信メールが届くはずです。なお、このチケット対応については、一般のCPANモジュールの場合と同じく有志が自分の余暇を使って作業してくれていることですから、気長にお待ちください。わからないことがあればグループリーダー向けのメーリングリストで質問するか、IRCチャンネルで確認する手もありますが、これも時差のある話ですから慣れていない方はご注意をば。

無事に申請が通ったら、www.pm.orgのユーザグループ一覧に登録され、***.pm.orgにもアクセスできるようになります。

なお、Perlのロゴや、Perl Mongersのロゴは、法的に保護されている登録商標です。公認されたグループについてはFAQに書いてある一文を明記することで(Perl Mongers Inc.が必要な手続きを代行したものとして)使用が認められるようになりますが、それ以外で勝手に使用することは禁じられています。余計な混乱を招かないためにも、Perl Mongersという名前のグループを立ち上げるのであれば、ぜひ本家に登録をお願いしたいところです。また、その際にはJPAをはじめとする国内の関係グループにも連絡してあげると喜ばれることでしょう。

ほかの地域のグループなんて関係ない、と思われるかもしれませんが、先日設立されたHokkaido.pmのメンバーには少なからず首都圏在住の人が混じっていることからもわかるように、昔そこに住んでいたとか、親族に住民がいる、あるいは仕事でよく出張する等々の理由で複数のグループに所属している人はそれほど珍しくはないのですから。

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