OSSデータベース取り取り時報

第79回 セミナー「OSSをDX戦略に組み込む」,MySQL リリースノートでわいわい言う勉強会,PostgreSQL 14.2リリース

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[PostgreSQL]2022年2月の主な出来事

3ヵ月ぶりにPostgreSQL本体のマイナーバージョンがリリースされました。また,前回のこの連載でお知らせした,PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアムのイベントも開催されましたので,そちらの様子もお伝えします。

PostgreSQL 14.2やサポート中バージョンのアップデート

2021年秋に公開されたバージョン14の最新版となる14.2と,その他のサポート中の全バージョンの最新版(13.6,12.10,11.15,10.20)が,2月10日にリリースされました。このリリースには過去3か月間に報告された55を超えるバグ修正や改善が含まれています。ここでは全てを説明できませんが,気付かずに放置されるともしかしたら問題になるかもしれない修正をいくつかピックアップします。

  • HOT(heap-only tuple)チェーンの状態変更がVACUUM中にあった場合に,低い確率でインデックスが損傷する恐れがあった問題が修正されました。なお,この問題発生の可能性は低確率のようですが,懸念がある場合にはインデックスの再作成をしてください。
  • TOASTテーブルインデックスの破損を防ぐために,REINDEX CONCURRENTLYを使用する修正があります。なお,TOASTインデックスは,再度インデックスを再作成することで修正されます。
  • 統計オブジェクトが同時にドロップされた場合に,ALTER STATISTICSがクラッシュする問題を修正しました。
  • 可変長データ型を抽出するときのマルチレンジでのクラッシュを修正しました。
  • 誤ったクエリ結果につながるクエリプランナーに関していくつかの修正があります。

上記についての詳細な情報や,その他の点については,リリースのお知らせや,リリースノートの該当バージョンを参照してください。

なお,今回のリリースを適用するには,他のマイナーリリースと同様に,PostgreSQLをシャットダウンしてそのバイナリを更新するだけです。データベースをダンプしてリロードしたり,pg_upgradeを適用する必要はありません。

「データベースシステムがこれまで以上に時代の先端を拓く時代に突入」

2月18日,PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム(PGECons)のイベント「データベースシステムがこれまで以上に時代の先端を拓く時代に突入」が開催されました(この連載の前回でお知らせしてからタイトルが変わりました⁠⁠。

企業が提供する価値の源泉として「データ」が重要であるという認識が一般的になりつつあります。今後,データ管理基盤の重要性は更に高まるでしょう。このイベントでは東京大学特別教授で国立情報学研究所所長である喜連川優先生の特別講演と,PostrgeSQLをデータ基盤として活用されている株式会社EDUCOMの事例紹介がありました。

【特別講演】データベースシステムがこれまで以上に時代の先端を拓く時代に突入

国立情報学研究所 所長/東京大学 特別教授/日本データベース学会 会長,喜連川優 氏の講演です。

長年にわたりデータベースとデータベースエンジン,そしてデータ活用の研究に取り組まれてきたご経験を振り返りつつ,これからはデータの時代になりつつあり,それが既に始まっていることを解説されました。また,ビッグデータという言葉が登場する以前から,⁠情報爆発」「情報大航海」を提唱されていたことをご存知の方も多いでしょう。

講演は,1980年代にRDB(リレーショナルデータベース)「本当にちゃんと使えるのか誰もわかっていなかった」時代から始まりました。その頃,ハッシュジョインを実装して稼働させることで,大幅な性能向上が可能なことを研究され,その後に多くのDBMSに採用されていったそうです。PostgreSQLでもハッシュジョインが性能向上に与えた貢献の大きさを示す逸話も示されました。

最近(といっても2014年ごろでしょうか)では,アウトオブオーダ型データベースエンジン(OoODE)に若い研究者たちと取り組まれました。これは非同期入出力を多重発行する形態です。これをPostgreSQL用に実装したモジュール(PgBooster)は,データベースエンジンの中でクエリ実行部のみを局所的に非同期化することでコンパクトに実現でき,クエリのパターンによっては数100倍も性能向上する場合があるようですPgBoosterの参考情報⁠。

これから近い将来への提言として,⁠データ駆動」の時代になりつつあることを事例を示されながら解説されました。科学の歴史として,1番目:観測の科学→2番目:分析の科学→3番目:計算の科学に続き,4番目としてデータ駆動による科学の時代になりつつあるといいます(これを提唱した「The Fourth Paradigm」の参考情報⁠。ITに目を向けてみると,スパコンに代表されるコンピューティングリソース(計算能力)を競う時代から,データ量が主要な観点になりつつあります。現在の主要技術であるAIもデータという燃料が無ければ価値を生み出せません。現代の主要な社会問題である,貧困,教育,ヘルスケア,防災についても,このデータ駆動が重要な観点になりつつあることが示されました。ただ,社会と科学(やIT)との関わりについては懸念も示されています。

世の中のデジタル化が進行しつつありますが,必ずしもすべてがうまく行っているわけではありません。特に日本では政府によるCOCOAや給付金支給,金融機関の問題など,国民がITに対して疑問を感じてしまう事象が起こっています。⁠混迷が当面はつづくのではないか」との予測も示されました。

喜連川先生ご自身がメディアで取り上げたれたものが2つほど示されましたが,⁠やんちゃな精神で失敗を恐れず挑戦すること」など,⁠やんちゃ」という表現が印象的でした参考情報⁠。

“10,000校”の全国公立小中学校が活用! ~EDUCOM様に訊く! 学校支援システムでのPostgreSQL活用ポイント ~

株式会社EDUCOMの柳澤律子氏と羽田和弘氏によるPostgreSQL活用の事例を,PGEConsメンバがインタビュー形式でお話を伺う形で進められました。

紹介されたシステムは,全国の学校や自治体単位に導入されているシステムで,校務(事務)を効率化するものです。学校の先生たちが生徒の指導とは別の校務という間接業務に費やす時間を削減することに貢献しています。

PostgreSQLの採用は,2006年にバージョン8からとのことで,もう15年以上の実績があります。それ以前は学校単位にサーバを立ててインストールしていた運用形態を,自治体単位でのセンター運用型に切り替えるタイミングで,他のDBMSからPostgreSQLに移行されました。運用形態が大きく変わるためにアプリケーション構成も変わって新規開発に近いため,移行の負担は逆に少なくて済んだ様です。

校務のためのシステムというのがどの程度のミッションクリティカル性なのか,非機能要求がどの程度高いのかは,学校関係者ではない私たち一般人にはわかりにくいものです。利用者が主に先生たちであるため,1日の中では朝の授業前や授業後などのわずかな時間に,長期では学期末などにアクセスが集中して,かつ,確実に使えないと先生達の本業に支障が出てしまうので,思いの外に厳しい信頼性が求められるそうです。それは稼働率の高さというよりは,障害時の復旧までの早さや,データロスト防止の面を特に求められるとのこと。顧客である自治体によってこれらの要求レベルが異なるので,必要なケースでPostgreSQLの有償の技術支援やサポートを受けるようにしている様です。

この校務支援システムという事例は業務分野としては特殊なものですが,オンプレミスサーバからの移行事例という観点では,一般企業でも参考になる点がいろいろある事例でした。

2022年3月以降開催予定のセミナーやイベント,ユーザ会の活動

MySQL 8.0入門セミナー MySQL Workbench編

日程 2022年3月4日(金)15:00~16:30
場所 オンライン(Zoom)
内容 MySQL Workbenchはオラクルが開発しているMySQLの公式GUIツールです。MySQL WorkbenchにはMySQLの運用管理に役立つ機能のほか,SQL開発に役立つ機能,DB設計に役立つ機能,データ移行に役立つ機能も兼ね備えています。このセッションでは,MySQL Workbenchの機能や利点をデモを通してご紹介いたします。
今回のウェビナーでご紹介する主なMySQL Workbenchの各機能
  • ER図を用いたデータベースの設計
  • SQL文の作成や最適化
  • 性能監視と分析
  • データマイグレーション
⁠2/4開催予定から日程変更)
主催 日本オラクル株式会社 MySQL Global Business Unit

オープンソースカンファレンス 2022 Online Spring

日程 2022年3月11日(金)12日(土)10:00~18:00
場所 オンライン開催(ZoomおよびYouTube Live)
内容 オープンソースカンファレンスは,オープンソースの「今」を伝える総合イベントとして,東京だけでなく,北は北海道,南は沖縄まで全国各地で開催しています。例年は東京で開催されていたこの回もオンライン開催となりました。
本編でもお知らせしたとおり,OSSコンソーシアムでは「OSSをDX戦略に組み込む ~OSSでビジネスの枠組みを変える~」を開催します。また,MySQLやPostgreSQL,その他のOSSデータベース関連のセッションが予定されていますので,公開されるプログラムをご参照ください。プログラムはすでに公開されています。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

MySQL Technology Cafe #14

日程 2022年3月16日(水)19:00~21:00(18:50ごろ接続開始)予定
内容 オラクルのテクノロジーに限定しない,開発者による開発者のための開発者向けコミュニティMeeutpセミナー「Oracle Code Tokyo Night」の企画として開催されているMySQL Technology Caféの第14回開催。
MySQLのクライアント・プログラムであり多彩な運用支援機能を提供するMySQL Shellにフォーカスを当てた「MySQL Shellを使ってもっと楽をしようの会」を開催します。
主催 Oracle Code Night

第32回 PostgreSQLアンカンファレンス@オンライン

日程 2022年3月22日(火)20:30~23:00
場所 オンライン開催(Zoom)
内容 PostgreSQLについて発表したりディスカッションしたりするイベントです。アンカンファレンス形式なので,何が出るかは当日のお楽しみ。
主催 PostgreSQLアンカンファレンス

著者プロフィール

梶山隆輔

MySQL Sales Consulting Senior Manager。

日本オラクル(株)において,MySQLのお客様環境への導入支援や製品の技術解説を担当するセールスコンサルタントチームのアジア太平洋地域リーダー。多国籍なMySQL部門にて,オーストラリア,インド,台湾などに在籍するチームメンバーを束ね,アジア太平洋地域の25以上の国や地域でのMySQL普及やビジネスの拡大をミッションとする。


溝口則行(みぞぐちのりゆき)

TIS株式会社

OSSコンソーシアム副会長兼データベース部会リーダ。他に,PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム(PGECons),日本OSS推進フォーラム(JOPF)にも参画。また,OSS推進活動の他に,日本のIT業界がDX(デジタルトランスフォーメーション)の波の藻屑とならないように,DX推進と変革に微力ながら勤しむ。