目指せ100万円!「第1回察知人間コンテスト」優勝への道~ARアプリ開発キット「SATCH SDK」入門~

第8回いよいよ締切間近!審査員が語る「こんなAR見てみたい!」

ARに特化したプラットフォームSATCHの登場によって、誰でも容易にスマートフォン向けARアプリを開発、公開できるようになりました。そこでKDDIと技術評論社では、SATCHを使用したARアプリ開発コンテスト第1回察知人間コンテストを開催することになり、募集が開始されました(応募期間:2012年3月31日まで⁠⁠。今回、最終回ということで第1回察知人間コンテストの審査員による座談会の様子をお届けします。

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審査のポイントをお伝えします

技術評論社とKDDIが開催するARアプリケーションコンテスト「第1回察知人間コンテスト」の第1次募集の締切が近づいてきました。第1次募集はアイデアのみでの募集(申し込みページはこちらとなるため、いかにユニークなアイデアを考えられるかがポイントとなります。本連載の最終回となる今回は、⁠第1回察知人間コンテスト」の審査員の方々に集まっていただき、コンテスト応募作品に期待することや審査のポイントなどを座談会形式で語っていただきました。

ご参加いただいたのは、本コンテストの審査委員長を務める、AR三兄弟の長男である川田十夢氏、KDDI株式会社のモバイルARアーキテクトである小林亜令氏、アドビ システムズ株式会社のテクニカルエバンジェリストである太田禎一氏、株式会社バスキュール号のプロデューサーである西村真里子氏、面白法人カヤックのディレクターである野崎錬太郎氏、株式会社ミクシィの技術部コアプロダクト開発グループの鈴木理恵子氏、株式会社技術評論社クロスメディア事業部の部長代理である馮富久の7名です。進行役は馮が務めました。

注:株式会社ワンパク代表取締役クリエイティブディレクター 阿部淳也氏は都合により参加できませんでした。

――馮

これまで限定的であったARアプリの開発が、SATCHの登場によって身近になりました。今回開催されている「第1回察知人間コンテスト」は、ARを開発者以外にも広く浸透させていきたいという思いから始まっています。ARは、⁠使う」から自分たちでも「作れる」の段階にあります。コンテストの開催によって、ARアプリのアイデア部分での支援、またSATCHでの技術的サポートができるのではないかと考えています。今回の座談会は、審査員の皆さまのご意見をいただき、応募者にアイデアのヒントをお届けできればと企画しました。よろしくお願いします。まずは審査員の方々に、簡単な自己紹介とARに期待することをうかがいたいと思います。

――川田氏

今回、審査委員長を務めさせていただくことになりました、公私ともに長男の川田です。ARには長く関わっていますが、ここ1~2年はスマートフォン利用の伸びが顕著で、それに合わせてARの概念も浸透してきたと感じています。スマートフォンはARと非常に相性が良いですし、キャリアもARを前面に押し出してきています。雑誌やメディアでも取り上げられることが多くなっており、アニメーションなどのわかりやすい手法が使用され、また「AR三兄弟」のようにARの専門的知識を広く一般に伝えて大爆笑をとる、やまだかつてない作り手も出てきたと聞きます(笑⁠⁠。技術とパフォーマンスの両面でやっとみんなが触れられるもの、理解しやすいものになってきたことから、今年がARのスタートの年になるのではないかと感じています。

――鈴木氏

ミクシィ社でmixi Platform、とくにmixi Graph APIの開発を担当しています。これまでのmixiが培ってきたリソースを活かしてアプリやサービスを作っていただくための仕組みづくりを行っています。またアプリケーションを作るイベントであるハッカソンを開催したりもしています。ARは、位置情報なども活用できるので、ソーシャルメディアと相性が良いと思っています。マッシュアップしていくことで、さらにARの可能性が広がるのではないかと期待しています。

――小林氏

もともとKDDIの研究員で、ARの研究開発やアーキテクチャを担当しています。研究者のころから、ARはネットにつなげるインターフェースと考えています。テンキーやマウスだけじゃなくて、実空間にあるものからネットにつなげられるものですね。ARが普及することで、ネットへの入り口がたくさんできます。Webが広がれば市場も広がり、使い方も広がります。とくにメディアとしての進化に期待しています。

――野崎氏

面白法人カヤックという会社でディレクターを担当しています。ARは実際に、スマートフォンと絡めた問い合わせが増えています。案件としては、話題性や驚きを与えるツールとしてエヴァ(⁠⁠エヴァンゲリオン⁠⁠)と組んだローソンのキャンペーンがよく知られていて、お客様に「ああいうことできないの?」と言われることが多くなっています。経験としてARは新しい存在であり、楽しみを与えてくれます。お客様にとっても、ARが選択肢の1つとして定着してきた印象があります。

――太田氏

アドビ システムズでテクニカルエバンジェリストをしています。マクロメディアの時代からFlashにも携わっていますが、ARにはFlashが欠かせない要素です。ARの民主化という部分で言えば、かっこいいのはもちろん、誰でも使えるようになったことは大きいと思います。Flashで実績のある人も、コンテストに参加してほしいと思います。

――西村氏

バスキュールという会社がミクシィと合弁してできた、バスキュール号という会社で、プロデューサーをしています。位置情報を軸としたプライベートSNSの「Pelo⁠⁠、テレビとスマホ、ソーシャルをつなぐ「Social Stadium System」など自社サービスのビジネス面やPRを担当しています。

かざすと何かが起きるARって楽しいですよね。でも、⁠かざす」ことはハードルが高いと思うんです。かざすのではなく、位置情報を読んでスマートフォンの画面に自動的に何かが飛び出したり、メッセージでの活用とかもいいと思います。あとは、KinectとARを組み合わせるのもおもしろそうです。

どんなARがおもしろい?

――馮

「こんなARがあったらおもしろい」と思うことはありますか?

――川田氏

SATCHでは画像認識、顔認識、地図連携といった部分にフォーカスされていますが、ARの概念はもっと広いものなんです。季節感を演出したり、暑い日に涼しいものを呼び込む風鈴だってARだと思うんです。風の可視化ですね。また、光学迷彩で有名な慶応大学の稲見先生によると、都市ガスもARだそうです。本来は匂いがない都市ガスに、事故防止のために天然ガスの匂いを付けて「可臭化」しているわけですね。

こういった「見えないけど見えたほうがいいもの」に対して、何かを足すことがARだと思います。逆に、見えているものを見えなくするのもARですね。また、小林さんの「実空間にあるものからネットにつなぐ」にあるのは「省略」なんです。インターフェースやマウスなどをARで省略しています。それはプロセスや時間の省略なんですね。次は道具が省略されて、その次はもしかしたら肉体が省略されてしまうかも知れません。でもそれは違和感があるので、テクノロジーが叶えるわけです。

必要なものは確かにあるけど、人間の機能ではまかなえないものをARで補完する、強化することが可能になると思うんです。コンテストのタイトルを「察知人間」としたのは、人間の感覚を拡張するものだと考えたからです。人間の持つセンサーでは感知できないものをARで察知する。また、感知してるけどわからないものがARでわかるようになる。そんなARを見てみたいですね。

――野崎氏

季節柄、花粉が可視化できたらいいですね。役立つものが出てくるといいと思います。ARはキャンペーンアプリが多いので、ツールとして普段でも使えるARで役立つものを作りたいと考えています。

――小林氏

ARは新しい入り口。画像だけで終わってほしくないですね。⁠引き算」するARを見てみたいと思います。何かを隠すAR。たとえば、都心部はリアルなオブジェクトが多いので、隠した方が臨場感が増します。現実感を出すためにわざと引いたり、わざと残すものがあると思います。何が引かれるかに興味があります。

開発者目線で見たSATCHの印象

――馮

開発者目線で、SATCHの印象を聞かせてください。

――鈴木氏

SATCHの開発ガイドには入門チュートリアルがあり、ちょっと頑張ればできそうという印象を受けました。サンプルもいっぱいありましたし、Android版もiPhone版も用意されています。敷居が低いのはいいですね。ただし、Macには対応していないので注意してください。

――太田氏

敷居が低いのは大事ですね。SDKやガイド拝見しても、特別なことをしなくても開発できそうです。ツールの通りに作ればできるということは、アピールすべきだと思います。Windowsでそのまま作れるというのも、今までなかったことです。⁠枠を外れるという意味での)バカなことをするコストが下がる」ことがおもしろいですね。そして、くだらないことができる開発者がどんどん増えると楽しいですから。ARの民主化に期待しています。

――小林氏

SATCHの特徴を改めて申し上げますと、まず1つ目は「マーカーレスAR」です。実空間にあるものを認識してネットにつなぐなどアクションができます。エンジンはライブラリとしてあるので、何を認知対象にして、何を重ねてコンテンツを作成するかがポイントになると思います。

2つ目は「日本語化」です。トータルイマージョンの「D'Fusion Studio」というツールをベースにしているので、当初はマニュアルやチュートリアルが英語でわかりづらかったんです。そこで、KDDIですべて日本語化し、サンプルムービーやサンプルソースも公開しました。デベロッパーが簡単に一歩を踏み出せることを目指しています。

3つ目は「無料」です。そのまま無償で使えます。この3つの特徴で、まずはARの可能性を試したいと考えています。

ARアプリ開発の躓きをクリアするヒント

――馮

ARアプリを作成する上で、躓きやすいポイントはありますか?

――野崎氏

せっかく作ったのに、使ってもらえないというのはありますね。アイデアの独創性、新規性が重要になると思います。

――川田氏

パソコンが普及し始めたころは、ホームページを開いてもどこがボタンなのかわかりませんでした。ARも同じで、なにをどうすればいいのかの導線は重要だと思います。もちろん、タブレットネイティブの世代ではカメラの画面をタッチして撮影するなど、画面に触れる操作に慣れているので、操作性が変わってきます。

――小林氏

カメラで写せば何かできる。でも、どこをかざすかの導線設定は難しいと思います。マーカーレスであることが、逆に難しくなってしまうかもしれません。思わずかざしたくなるものがアイデアとして出てくればいいですね。

――馮

日常で使えるということはポイントになりそうですね。具体的なアイデアはありますか?

――野崎氏

SATCHはマーカーレスなので、⁠形」にフォーカスするのもおもしろそうですね。たとえばマンホールの形を認識させてみれば、そこから発展していきそうです。

――小林氏

SATCHは画像認識を行う際に色情報を使わないので、認識対象物によっては誤認識が発生するケースがあると思います。逆にそれがおもしろい要素になるかも知れませんね。また、MOTOROLA XOOMなどの機種には、気圧センサーが搭載されています。そうすると、1-2m程度の高度変化を検出できるようになりますので、ARの可能性を広げるひとつの要素になると思います。

――川田氏

行動を喚起するようなものがいいですね。遊びの要素が強いものとか。たとえばマンホールからゾンビが出てくる映像を忍ばせておいて、発見した人が「くだらない。けど面白い!」と思ったり、それに「いいね!」を付けられるといいですね。みんなゾンビにしちゃう「ゾンビカメラ」とか。空間や映画に「いいね!」をつけられたら楽しいですよね。映画だったら、それを時間軸で見ればマップができる。

――野崎氏

くだらなくてハッピーになれるアプリがいいですね。それと、新しい「形」に気づけたら楽しいと思います。風景の中からハート型を見つけて、認識すると画面にハートのアニメーションを表示するとか。その写真をFacebookにアップできるようにすれば、みんなハートを探すようになりますよね。そんな、くだらないけど気持ちのいいものが見たいです。

――太田氏

マーカーレスがキモなのですが、あえてマーカーを使うのもいいですね。とくにコンテストでは、ダイヤの原石があればいいと思っています。完成度は高くなくても、楽しければいい。使う側のテンション上げて、初めて成立するようなものを見たいですね。エアギターもARですから、そんなイメージです。

――西村氏

ソーシャルフィードと連携するARも見たいですね。あと、生活で役立つというとテレビかなと思います。テレビ見ながらスマートフォンをいじるケースは多いので、テレビと連動するARがあるといいですね。

――鈴木氏

ソーシャルメディアとARは相性が良いので、それを活かしてくれるものがいいですね。あと、いま思いついたのですが、生活で役立つというとたとえば鏡台にタブレットを埋め込んでヘアースタイルやメイクのシミュレーションができたら便利ですね。

審査員一同、たくさんのご応募をお待ちしております!
審査員一同、たくさんのご応募をお待ちしております!

応募者への期待

――川田氏

化粧はARが役立つ可能性がありますね。デパートなどに化粧を体験できるしコーナーがありますが、苦手な人が多いんです。でも、ARで他人に顔をいじられる恥ずかしさと煩わしさを省略できるわけですね。

最後に、コンテストに応募してくれる人に3つのことを申し上げたいと思います。1つは、⁠未来への大風呂敷⁠⁠。発明は発見の組み合わせです。新しくなくても、違う見え方、見せ方で発明になります。SATCHによって、今まで苦労したことがすぐにできるようになっているので、組み合わせ方がポイントになると思います。

2つ目は「公共インフラを作るなら何か」ということ。いま、メディアがどんどんなくなってきています。CDも少なくなってきて、音楽を楽しむには音源を聴くか、ライブに行くしかない。そこを埋めるアイデアがあると思います。

東日本大震災の被災地に行ったときに、大きなショックを受けました。ARが自然に負けたと思ったんです。津波のとき、もし「あそこに避難すれば助かる」というAR、インフラがあればという敗北感を味わいました。

現在、被災した人たちに対して0からアプリ開発を教育するといったことが行われていると聞きます。そういう人たちがARで何を立ち上げるか、これはぜひ知りたいと思います。津波で失われた建物といった残像は、マーカーみたいですから、そこに向けて走り出せると思うんです。

3つ目は、⁠願望直球型AR」です。強くなりたい、モテたい、空を飛びたいといった欲望を実現できるアプリも楽しいと思います。想像力は自由ですので、いろいろな見立てでアイデアを応募して欲しいと思っています。

――馮

本日は長い時間、ありがとうございました。

SATCH SDK利用規約改訂に関して

2012年3月1日よりSATCH SDKの利用規約が改訂されました。

従来の利用規約では、SATCH SDKで開発するアプリケーションを公開する場合は、KDDIの提供するau one Marketから配信することが必須とされていましたが、改訂後はGoogle Play(旧Androidマーケット⁠⁠、App Store、au Marketのいずれかで配信することと、アプリの詳細情報を本サイトに登録し、3/1にリリースしたSATCH Viewerポータルに掲載していただくことが必須条件となります。その他、詳細につきましては、SATCH Developersにてご確認ください。

第1回察知人間コンテスト

http://satch.jp/jp/

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