概要
『電網恢々疎にして漏らさず網界辞典』準備室!
大手ネット企業の代表成田晋(なりたしん)は,ブラック企業,成り上がりと呼ばれることに怒りを感じていた。それっぽいことをゴーストライターに書いてもらった本を出版し,わかったふうな経営訓をメディアに垂れ流しても心は晴れなかった。どこまでいってもコンプレックスは消えない。血筋のいいネット経営者たちとは,なにかが違う。彼らの多くは海外生活が長く,英語が達者だが,漢字すら読めない。漢字の読み書きができる自分がバカにされる所以はないと成田はますます怒った。成田も英語を学んでみたが,落ち着きがないのですぐに挫折した。
成田は,ネットを通じて世界を網羅するまったく新しい辞典を作ることを決意する。それが「電網恢々疎にして漏らさず網界辞典」だ。莫大な予算を注ぎ込んだ一大プロジェクトを企画したものの,失敗することは誰の目にも明らかだった。そこで番頭役の専務が機転を利かせて小規模の窓際プロジェクトに矮小化して経営への負荷をかけないようにした。
プロジェクトメンバーに抜擢されたのは社内のはぐれ者メンバー4人。そんなこととは知らず,網界辞典準備室にやってきた。
室長は番頭役の専務宮内亮一(みやうちりょういち)だが,実務は室長代行の和田安里香(わだありか)が務める。和田は,ぽっちゃり眼鏡の人気者にして,怖いもの知らずの論理展開と実務的な手腕でいちもく置かれていた。
宮内は,和田に適当にサブカルでもやってお茶を濁せと命じる。それを聞いた和田は好き勝手に遊ぶことをひそかに決意し,常識と倫理を隅田川に投げ捨てる。
ひとくせもふたくせもある室員を前にした和田は,4人それぞれを寓話,法則,処理系,実例担当に任命し,テーマごとにレポートを書くように命じた。
かくして大手ネット企業を舞台に,奇妙な辞典作りがスタートした。