概要
「いいカメラを使っても,画質はきれいだけど,いまいちピンとこない写真しか撮れない……」
そんな悩みはどうすれば解決するのか。プロカメラマンとして活躍する著者が,「きれい」「かっこいい」「おいしそう」「かわいい」「うれしい」といったキーワードをふまえて,イメージ以上のよさを引き出すために何に注目し,どう考え,どんな準備をして,どう撮るか,という機材やテクニック以前の「考え方」を教えます。
こんな方におすすめ
- より上手に写真を撮りたいと思っている方
- そこそこ良いカメラやレンズを持っているのに,いまいち自分の写真に満足できていない方
著者から一言
高いカメラを使っても「いい写真」は撮れない
「プロカメラマンは値段の高いカメラやレンズを使っているから“いい写真”が撮れるのではないでしょうか?」
「どんな特別なカメラを使っているのですか?」
そんな質問をいただくことがあります。この質問に対して,私はこうお答えしています。
「みなさんと同じように,量販店で手に入れられるカメラを使っていますし,高級なカメラを使っているからといって必ずしも目的の写真が撮れるとは限りません」
たしかに数十年前は,特に報道関係のカメラマンのために特別にチューニングされたカメラが存在していたようですが,現在ではそのようなことはありません。写真を作るためにはカメラとレンズが必要ですが,「写真を撮る」という行為と「写真が写る」という事実は,つながっているようで異なることなのです。
「写真はカメラの細かい操作や技術で撮るもの」
そう思われている方も多いのではないでしょうか。
たしかに,カメラやレンズの性能の進歩のおかげで,これまで撮れなかったものが写せるようになったことは事実です。しかし,被写体に向き合い,フレーミングをして,最後にシャッターを押すのは人間です。ピントはカメラが合わせてくれますが,「何に向き合い,何を感じて,どのタイミングで撮るのか?」は,どんなに高性能のカメラも教えてくれません。撮影者の意思がカメラとレンズというフィルターを通して,写真に結実されるのです。
写真を撮るうえで一番大事なことは,「シャッターを押す前にどれくらいの準備ができているか?」だと思います。道具の準備はもちろんですが,特に重要なのは心の準備です。もちろん,偶然の出会いによって素晴らしい作品を残せることも多くありますが,
「“偶然を受け入れる準備”が,奇跡の瞬間を呼び寄せる」
と私は考えています。人物を撮るなら被写体からよりよい表情を引き出すためにもシャッターを押す前のコミュニケーションが必要ですし,風景を撮るなら地図上から場所を探し出し,その場所の歴史や気候の変化を観察していきながらベストタイミングを見つけていきます。
「カメラを構え,シャッターを押す」という行為は,撮影という過程の中の最後の1割にすぎないと私は考えます。つまり,それまでの9割が写真の出来栄えを左右するのです。本書では,その部分にスポットを当てます。少しでも多くの方が写真を楽しんでいただけるきっかけとなることができれば幸いです。