書籍概要

その「エンジニア採用」が不幸を生む
~良い人材を見つけ、活躍してもらうには何が必要か?

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概要

「当社にはエンジニアが必要だ!」といっても,良い人材が見つからない。
なんとか採用できても,成果が出ず,解雇もしくは配置転換せざるをえない状況に。

――そんな悲劇があちこちで起こるのはなぜか?

2万名に近いエンジニアの職務経歴書を読み,エンジニア採用の責任者として年間700人以上の社員雇用の最終決裁を判断し,約500社の経営陣と面接してきた著者が,エンジニア採用がうまくいかない原因,良いエンジニアを採用するための方法,エンジニアに活躍してもらうための仕組みの作り方を教えます。

こんな方におすすめ

  • ITエンジニアを採用・雇用する企業経営層
  • ITエンジニアを採用・雇用する採用・人事部門の方
  • ITエンジニアを初めて採用・雇用しようと考えている中小企業の経営者
  • 転職を考えているITエンジニア

著者から一言

「良いエンジニアが採用できない」
「良いエンジニアからすぐに退職してしまう」
「最近,エンジニアのモチベーションが大幅に低下してしまった」

このような問題を企業の経営者や人事責任者から聞くことが増えてきました。一方,雇用される企業に対するエンジニアたちの不満も日々大きくなってきています。

「エンジニアの評価が低すぎる」
「経営陣や上司は技術のことを何もわかっていない」
「本当は開発を卒業して,エンジニア以外の管理部門の仕事がしたい」

なぜ,日本企業において,エンジニアも会社も不幸になっていくのでしょうか?

私は現在,経営コンサルタントとして,大企業から中小企業までの経営者とIT部門・エンジニア採用部門のコンサルをおこなっています。コンサルになる前は,年間800名のエンジニアを採用する部門の責任者として,年間2万名のエンジニアのレジュメを精査し,採用面接をおこない,活躍の期待できる方を採用しました。その中で,転職希望のエンジニアの巨大なデータと面接時の本音に接しました。また,東証一部上場の広告会社の投資業務において,2年間で700社の経営陣の方と面談し,投資家からお金を出資してもらう場面での企業経営者の本音と接しました。

それらの経験の中で,エンジニアの不幸の源泉のある部分は経営者の価値観に起因することが大きいことに気づきました。一例を挙げると,中途採用で入社することの多いエンジニアは,「新卒で入社するエンジニア以外の社員と比較して,会社への忠誠心の観点から,信頼できるとはいえない」と考える経営者は多いのです。一方で,エンジニアにも特有の価値観と企業利益と相反する本音があり,企業の中で成果を発揮していくには問題となる点があります。

「世の中に評価される実績を残したい」
「私のキャリアが正当に評価されれば,もっと給料が上がるはずだ」
「開発業務以外は携わりたくない」
「定年まで安定して雇用されたい」

この4点を同時に満たす転職先を探すエンジニアが多いのが実情です。

私には,経営者に共通した価値観と本音,エンジニアに共通した価値観と本音,そして,これらが対立する構造がはっきり見えてきました。だからこそ,解決策があると考えています。

経営者のみなさんが,「当社なら,エンジニアに対してどのような環境を作ってあげられるか,検討してみよう」「やはり,エンジニアを雇用するのは難しいから,パートナー企業を探そう」などというように考え方が変化していけば,本書の目的の半分は達成といえます。

また,エンジニアのみなさんが,「この経営者のもとで開発をするのは厳しいな。一見条件は良さそうだけど,転職は見送ろう」「どのような作業が発生するか,あらかじめ,面接のときに確認してみよう」と考えていただければ,こちらも価値ある前進だと考えます。

最近,Googleやマッキンゼーといったグローバル企業の採用に関する情報が少しずつ語られるようになってきました。これらの優れた企業の採用方法や人事制度には学ぶべき点が数多くあります。しかし,グローバルでキャッシュフローが圧倒的に豊富で卓越したブランド力がある企業だからこそ実現可能な採用方法や人事制度が大きな部分を占めています。大部分の日本企業,つまり大企業であったとしても,彼らと同じ手法でエンジニアを採用していくことは困難です。日本企業のエンジニア採用には,現実的なソリューションが求められているのです。

本書では,一般的な大企業や中小企業において,エンジニアも会社も不幸になる要因の分析と解決策を検討していきます。

本書が想定している読者は,次のとおりです。

  • ITエンジニアを採用・雇用する企業経営層
  • ITエンジニアを採用・雇用する採用・人事部門の方
  • ITエンジニアを初めて採用・雇用しようと考えている中小企業の経営者
  • 転職を考えているITエンジニア

なお,守秘義務の関係で,本書に記載されている数字やケースの内容は,幅をもった内容となっています。本書の目的が「エンジニアも会社も不幸になる要因の分析と解決策を検討すること」だからです。

IT分野に関わる採用,開発,事業運営がうまくいかない理由がどこにあるのか,問題の本質を経営者とエンジニア双方が共有できれば,企業はエンジニアの能力を引き出して成長できる企業に変化でき,エンジニアの希望が実現できるようになります。本書がその一助となれば幸いです。

目次

はじめに

第1章 経営課題をエンジニア採用で解決しようとする落とし穴

ITリテラシーさえないのに,ITビジネスを始めるためにエンジニアを採用してしまう

  • 突然,社長直轄ITプロジェクトが始まる
  • 知識のない社長に迎合するITエンジニア職の応募者
  • 入社後に始まる不幸
  • オーナー=社長なので,だれも暴走を止められない

エンジニアがすべてコストにしか見えない

  • 際限ない変更でコストだけがかさんでいく状況
  • 「内製化で仕様変更にスピーディかつ柔軟,低コストで対応できるのでは」という甘い思い込み
  • Aクラスの人は,Aクラスの人と仕事をしたがる。Bクラスの人は,Cクラスの人と仕事をしたがる
  • 転職を考える頃にはキャリアダウン

超人採用計画 ~ただし年収400~600万円で

  • 業績改善の起死回生策は「スーパーエンジニアの採用」
  • 社内育成は非現実的,でも「キャリア採用でも給与を抑えたい」
  • 採用マネージャーには人事の仕事をいっさいさせたくない人事部長
  • 経営陣が犯した3つの失敗

「エンジニアの雇用数は競争優位性の指標」という外資系株主の助言でエンジニアを確保しようとする

  • ブランド力や市場占有率では「御社の強みがわからない」と言われて……
  • 採用数ありきでのエンジニア採用開始
  • 採用の現実も知らず,根拠のない理屈をもとに,夢を見てしまう

経営者の意思決定がエンジニアを不幸にするメカニズム

  • ITや経営戦略に関して無知な経営者
  • 誤った意思決定を誤って実行して事態を悪化させる,無能で有害な中間管理部門
  • コラム 現場と話したがらない経営陣は要注意

第2章 エンジニアの募集要項が書けない人事

エンジニア以前に「良いエンジニアを採用できる採用担当者」がいない

  • 採用担当者のレベルが低いから,おかしな採用活動が展開されてしまう
  • 求人票の内容を「わからないから」と勝手に削除
  • 「採用基準と選考基準が異なることによる不合格」で,応募者も現場も不幸になる

直近のプロジェクト優先で,エンジニアの意向を考慮せず,短期的な観点で採用してしまう

  • 採用できないことは罪?
  • 優れた採用担当者がいない理由
  • コラム 大企業と中小企業では採用基準が違う
  • 採用担当の資質を持つ人物の見極めこそ,経営陣や人事部門の責任者の仕事

人材サービス会社に依存し,独自の採用活動ができない

  • 使い勝手がいいようで,マイナスの面も
  • 雇用契約を結んだエンジニアの年収の30~40%相当の紹介料が人材紹介会社の売上となる
  • 人材紹介は「退職者と同じスペックの人」を探すのに最適なサービス
  • あなたの会社に優秀なエンジニアが紹介されない理由
  • 人材紹介会社のビジネスモデルがエンジニアを不幸にする
  • コラム エンジニアは紹介会社のやり口に注意①
  • 不明確な「転職の成功」の定義
  • 「転職の理由」と「転職後の満足度」のアンマッチ

不合理な技術評価・人事制度がもたらす問題

  • 能力の低い既存エンジニアを優秀なエンジニアの上司にしてしまう人事
  • エンジニアを現場が使えない→配置転換→ネットを通じて情報が広まる→さらに採用に苦戦
  • 社内事情によるエンジニアの採用基準変更が不幸をまねく
  • 「議論の土俵」が整備できているか?
  • コラム 採用媒体会社と人材紹介会社は利益が相反するケースが多い

第3章 不幸になる要因はエンジニアサイドにもある

「就職」より「就社」したいエンジニア

  • 現職エンジニア,転職時の希望職種は「特にこだわらない」人が50%以上
  • エンジニア以外の職種へ転職するのは非常に困難
  • 「30歳までに事業責任者になる」というプランと能力のギャップが不幸を招く
  • 就職時には「就職」と「就社」を同時におこなっている
  • 転職回数が0回もしくは1回のほうが,生涯収入が高い

非合理的な理由で職業を選択してしまう悲劇

  • 意思決定が遅いから,キャリア特性を考えないまま就職してしまう
  • ゲームプランを考えておかないから,キャリアの変更がよりいっそう難しくなる
  • 「エンジニア職を選択する理由」に内在する不幸の要因
  • 職業の選択を誤るきっかけは,中学・高校入試にさかのぼる
  • 現代ではだれも夢を否定したりしない
  • コラム エンジニアは紹介会社のやり口に注意②

「評価が不満」で転職するのに,「働きやすさ」を理由に転職先を決める矛盾

  • 経験年数が多いからといって,評価を上げられるわけではない
  • 「日本のエンジニアの給与は安い」のは本当か?
  • 外部環境の変化によるエンジニアの意識の変化
  • 最後に出てくる「技術力」の問題
  • コラム 「キャリア採用で良い人材が出てこない」のは求人業界では常識

第4章 「どんなエンジニアが必要なのか?」「そもそも,エンジニアは必要なのか?」を判断する

エンジニアを2つのタイプ×4つのグループに分けて考える

  • なぜ,エンジニアを分類して考えるか
  • 技術力があっても,タイプによっては自社にフィットしないことも

革新的なインターネット・ITサービスを提供する企業の場合

  • 最優秀のエンジニアが必要だが,採用は至難
  • 優れた企業経営・事業運営が採用と定着を支える

業界最先端のプラットフォーム・システムを持つ場合

  • エンジニアの「キャリアプラン」と「自己分析力」に注意
  • やはり必要な「発注力」

コストカットのためにITを導入したい場合

  • 「驚きの安値発注」の仕組み
  • 他社の追随を許さないシステムを導入できるなら,システム部門の整備を

必要最低限のITを円滑に利用できればいい場合

  • IT機器や情報の管理以外は,外部のサービスを利用する
  • 「発注力のある人材」に必要な資質とは
  • サービスと見積もりの内容を理解していく習慣をつける
  • 情報を適切に管理できる組織を作る
  • コラム 中小企業は就職派エンジニアに向かない

第5章 良いエンジニアを見つけ,採用する方法

なぜ,良いエンジニアが見つからないのか

  • グローバルなIT企業の最先端分野の人材獲得競争は「企業まるごとM&A」
  • 都内のIT企業の数は,ラーメン店の2・4倍ある
  • 求人情報が転職する意向のあるエンジニアに届かない
  • 良いエンジニアは,企業や経営者,未来の同僚,人材紹介会社を値踏みしている
  • 人材サービス事業者も,企業や経営者,社員を値踏みしている

採用のために見据えるべき現実

  • 企業としての情報発信力が問われる
  • キャリア採用の広告は,自社内にノウハウが蓄積しない
  • 応募者集めは集客業務である
  • キャリア転職者の転職ルートは変化している
  • 全体像が見えないエンジニアの行動を推測し,試行錯誤しなければならない
  • 人材サービス事業者を「使いこなせる」人事部門,担当者が必要
  • 技術力がエンジニアの人格の大きな部分を形成している
  • 転職の最初の入口がエンジニアとなる時代
  • 優秀なエンジニアはSNSつながりで直接,転職の意向を伝える

採用を成功させるためにすべきこと

  • エンジニアは「人材」と考えず,「希少資源」であり「技術資産」と考える
  • 経営者やCTOが採用の前面に立つ
  • 採用情報発信向けのSNS利用+社内エンジニア個人アカウントで対応する
  • 優秀なエンジニアの想像力をかき立てる情報発信を自社サイトとSNSで連携実施
  • 大切なのは,だましを入れないこと
  • 小説『防衛系ソフトウェア企業社長室』 ~SNSでもつながれない優秀なエンジニアをどう採用するのか?
  • 相手の名前と連絡先がわかっていれば,現実的に採用できることもある
  • 変化に対応できない人事部門の刷新も視野に入れる
  • コラム Googleの採用方法は日本の企業でも実践できるのか?

第6章 エンジニアを惹きつけ,働いてもらえる仕組みを作る

他社との決定的な差別化を図る

  • 多くの情報はオープンで競争にさらされている
  • どんなところで差別化を図るべきか

報酬の改訂に取り組む

  • 年功序列の賃金テーブルはエンジニアにとって現実的ではない
  • 高パフォーマンス期間の給与水準を一気に引き上げる
  • 賃金カーブのピークを20代後半から30代前半に設定する
  • 利益配分ルールをドラスティックに改める
  • エンジニアを投資先のエグジットプランに参加させる

就業条件をユニークなものにする

  • 勤務地限定ではなく「地方に開発オフィスを設置」という方法も
  • 労働時間に最大限の裁量を与える
  • 残業時間ゼロ宣言と週休3日制

評価と処遇のポイントを見直す

  • CTOの感性を生かした評価システムを策定する
  • 大切なのは「感性部分の具体的評価項目の明確化」と「客観的運用」
  • 評価システムの運用を「環境整備」と「低評価者の配置見直し」で実現する

人事は実力・実績ベースで処遇する

  • 過去の実績や人間関係に囚われる経営者にエンジニアは見向きもしない
  • エンジニアにとっての1年は,ほかの職種の2年以上の重みがある

教育研修に投資する

  • エンジニアは自分の技術力に不安を感じている
  • 開発の最前線にいる最も優秀なPM・エンジニアによる実践的な研修を実施する

エンジニアのキャリアパスを中長期的に描ける企業運営を実施する

  • 先端の技術や開発手法による開発プロジェクトを社内で1つは確保する
  • 開発に関わるマネジメントの仕事を確保していく
  • 良いプロジェクトマネージャー,エンジニアが運営するプロジェクトを増やす
  • 取引先企業へIT分野のマネージャーとして転籍できる転籍支援制度を作る
  • 採用の最終面接やキャリア面談で自社エンジニアのキャリアパスを匿名公開する
  • コラム キャリアパスのコミュニケーションを取らなかった代償

良いエンジニアに働いてもらうためのプランを実現するには

  • 最大の敵は社内にいる
  • 経営者にもエンジニアにも決断と行動が求められている

あとがき

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