概要
過去に答えがない,組織単独では勝てない時代に,新たな“勝ちパターン”を創るには?
これまでの枠組み,常識,しがらみに縛られない「越境」の仕掛け方を,350以上の企業・自治体・官公庁で働き方改革,組織変革,マネジメント変革を支援してきた著者が集大成。
- 組織の枠を越えて働く
- 多様なメンバーの潜在能力を解放する
- 働く景色を変えて価値観の揺らぎを起こす
- 地域の壁を越えて成果を出す
- 垣根をデジタルですっ飛ばす
「いままでのやり方に限界を感じている」すべての人へ。
こんな方におすすめ
- これからの時代に評価されるキャリアをつくりたいビジネスパーソン
- 会社をよりよく変えたい経営者,管理職
- 地域活性や関係人口増に取り組む,行政や地方コミュニティの責任者,担当者
著者から一言
スタンドアローンからクロスファンクション・クロスボーダーへ
組織や地域を越えて人と人とがつながり,既存の問題や課題を解決する,あるいは新たな価値を生むにはどうしたらいいか?
越境――本書はこのテーマに向き合うべく生まれました。
「いままでのやり方に限界を感じている」
みなさんの多くがそう感じていることでしょう。その停滞感や危機感は,企業組織も持ち始めています。筆者のもとにも,連日のように企業,行政機関,メディアなどから「組織風土改革」「組織変革」「イノベーション」「DX」「コミュニケーション」を冠した相談や取材依頼が寄せられています。日本の大企業はこぞってイノベーションやDXをはじめとするトランスフォーメーションを指向するようになりました。
ところが,これがなかなかうまくいかない。
「経営陣は口先ばかり。イノベーションもDXもまったく進まない」
「意見や提案をしようとしても,上につぶされる」
「目先の成果が出る仕事しか評価されない」
「イノベーションを仕掛けたい。しかし,そもそもどこに声をあげたらいいのかわからない」
「社内の組織が縦割り。管理部門が突然横から出てきて,待ったがかかる」
「社内の“変わりたくない”抵抗勢力に足を引っ張られる」
このような切ない声が,つねに日本の職場にこだましています。
私はワークスタイル・組織開発の専門家として,これまで350を超える企業・自治体・官公庁(以下「企業組織」と総称)の現場のリアルに向き合ってきました。イノベーションが進まない。それどころか,目先の仕事の業務改善すら進まない。その背景には,いま述べたようなリアルがまちがいなく存在します。いわゆる大企業病のジレンマです。
日本の組織の倦怠感と停滞感。どこから風穴を開けるか?
どのようにして大企業病を脱していくか?
その答えの1つが越境です。
越境の意味:3つのハイブリッド
「越境とは3つのハイブリッドを乗りこなすことである」
筆者が組織開発やイノベーションがテーマの講演で強調しているメッセージです。自組織単独(スタンドアローン)で問題解決や新規価値創出がしにくい時代,3つのハイブリッドを乗りこなすことのできる組織や個人は強い。その3つとは,場所のハイブリッド,顔のハイブリッド,組織のハイブリッドです。
①場所のハイブリッド
我が国においても,テレワークの浸透にともない,働く場所がハイブリッドになりつつあります。先進的な企業では,フルリモートワークなど事業所に出社しない働き方を取り入れ,他地域の人材を獲得するスタイルも増えてきました。ワーケーション(ワークとバケーションを組み合わせた新たなワークスタイル)のような,オフィスでも自宅でもない場所(サードプレイス)で成果を出すスタイルも注目されつつあります。
事業所(オフィス,工場,店舗など),自宅,コワーキングなどのコミュニティスペース,カフェ,移動や合間のクルマの中,リゾート地,ダム際……場所にとらわれず成果を出せる,あるいは場所が異なる人とつながって仕事をできるマインドとスキルを兼ね備えておくと,これからの時代まちがいなく強いでしょう。
②顔のハイブリッド
顔のハイブリッド化も進みつつあります。もはや生え抜きの正社員オンリーで事業を回している組織は,事業継続性の観点からもリスクがあると考えられるかもしれません。複業(パラレルキャリア)や選択的週休3日制なども進みつつあります。
少子高齢化による労働力不足が深刻化する時代,週5日×8時間以上その組織にフルコミットできる人だけに拘っていては,人材の獲得や維持も難しくなります。組織は,複業人材,フリーランス,顧問など単一組織だけに属しているわけではない人材,すなわち複数の顔を持つ人材を活用できるようになっていく必要があります。もちろん,働く個人(我々)も,複数の組織で仕事をするためのマネジメント能力やスキルを身につけていく必要があります。
複数の顔を持つ人と仕事をするために,組織は制約条件をなくしていかなければなりません。「すべて対面で」「出社して」「自社独自の業務プロセスやコミュニケーションプロセスに合わせさせて」では,複業人材は活躍できません。個社個社のガラパゴスな事情に合わせていては,そのためのコミュニケーションの労力と稼働で複業人材は潰れてしまいます。組織サイドの業務の標準化,デジタル化,スリム化が求められます。
③職種のハイブリッド
業界や職種のハイブリッドも急速に進んできています。FinTechは金融×ITのハイブリッド,AgriTechは農業×ITのハイブリッドです。業界や職種を越境することで既存の問題・課題を解決したり新たな価値を生むコラボレーションと捉えることができます。HRTech(人事領域×IT)のように,職務領域のハイブリッドによるイノベーションも生まれてきました。
掛け合わせる相手は,IT(Tech)だけとは限りません。神姫バス(兵庫県)は農協とコラボレーションし,貨客混載を実現。地方都市の高齢化および過疎地域における農業生産者の問題の解消に取り組んでいます。バス事業者,農協,農業生産者および行政の「異業種越境プロジェクト」と捉えることができるでしょう。
思い起こせば,私自身も多かれ少なかれ越境を重ねてきています。
日産自動車(海外マ―ティング部門)在職中は,ルノーを含むグローバル体制のマネジメントの下,海外130か国の販売統括会社の責任者や担当者と議論しながら物事を進めていました。
NTTデータに転職した2008年頃からは,テレワークを試行。オフィスと自宅や帰省先で仕事をするスタイルを経験し始めました。海外(中国)にサポート拠点を立ち上げ,自担当の業務を日本と中国の2拠点で運営する体制に。「場所のハイブリッド」(国や文化のハイブリッドも)が加速しました。
2014年9月に企業勤めを終了し,フリーランスに(2021年8月に法人化)。ここから「顔のハイブリッド」が加わります。自らの事業を運営しながら,NOKIOO,なないろのはな(浜松ワークスタイルLab),エイトレッドなど複数の企業に,顧問,取締役,事業責任者として参画。その他,数多くの大企業のプロジェクトにアドバイザーとして関わってきています。
職種のハイブリッドも進んでいます。2021年6月に,浜松の地域企業であるWe will代表 杉浦直樹さんと組んで「デジタルワークシフトコンソーシアム浜松」を発足。KDDIまとめてオフィス中部,Box Japan,日本シャルフKDDIまとめてオフィス中部,Box Japan,エイトレッド,日本シャルフ,弁護士ドットコム,および浜松市が加わり,地方企業のデジタルワークシフトとマインドシフトを推し進めています。これは,地域のベンチャー企業,大企業,行政の越境の取り組みと考えることができるでしょう。
私個人のライフワークとしては,#ダム際ワーキングを実践および推進しています。ダムおよび近隣のカフェや宿泊施設などで仕事しつつ,自然の中でリフレッシュする新しい働き方。ダム巡りが好きな私は,2009年頃からたびたびダム際で仕事をしています。個人作業や執筆活動はもちろん,クライアントや編集者とつないでWeb会議したり,オンラインのトークイベントを配信したりと,企業間のコラボレーションもダム際で起こりつつあります。本書執筆時点で,川根本町(静岡県)と連携した大井川流域の#ダム際ワーキングプロジェクトも進行しています。私が個人で始めた取り組みが,新たな地域活性モデル,ビジネスモデルに昇華しつつあります(#ダム際ワーキングの様子と効果は,第4章(ワーケーション)でくわしく解説します)。
「価値観の揺らぎ」により,「気づき」「発見」「学び」を得る
越境を通じて気づきや学びを得るプロセスを,越境学習といいます。特定非営利活動法人しごとのみらい代表 竹内義晴さんは,インタビュー記事で越境学習を次のように説明しています。
「価値観の揺らぎ」によって起こる「気付き」「発見」「学び」のことを「越境学習」と言います。「越境学習」とは,普段の環境(つまり,会社)の枠を超えて,異なる環境を行ったり来たりすることによって得られる学びです
(ITmedia「ワーケーションしたらクリエイティブになれるの?」より)
https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/2011/18/news007_3.html
また,越境学習の権威である法政大学大学院政策創造研究科 教授の石山恒貴さんは,経済産業省のインタビュー記事(越境学習によるVUCA時代の企業人材育成)でこう述べています。
越境して恥ずかしい思いをしたり,苦しい思いをしたりする「混乱するジレンマ」(ジャック・メジローの変容的学習の用語)に直面することでリフレクションが起こります。
(経済産業省「未来の教室 ~learning innovation~」より)
https://www.learning-innovation.go.jp/recurrent/interview-01/
つまり,こう考えることができます。
越境学習とは,普段の環境(ホーム)と普段とは異なる環境(アウェイ)とを往還することで生まれる「価値観の揺らぎ」により,「気づき」「発見」「学び」を得る学習方法。
たとえば,本書でも解説するワーケーションや #ダム際ワーキングは,価値観の揺らぎが起こりやすい学習の手段の1つと捉えることもできます。普段とは異なる交通手段で,普段とは異なる景色を見ながら移動し,普段とは異なる土地で,普段とは異なる行動をする。たとえ1人での行動であっても,あるいはチームメンバーなどいつもと同じメンバーとであっても,景色の変化が多かれ少なかれ揺らぎをもたらします。それが,集中力を高めたり,新しいアイディアや発想を生んだり,ディスカッションを生みやすくするのです。
「越境で何を解決するか?」
「どこから越境を仕掛けていくか?」
「越境の考え方を自組織にどうインストールしていくか?」
本書がその道しるべになれば幸いです。