概要
「ITエンジニア本大賞2023」ビジネス部門で大賞受賞ビジネス書部門で大賞受賞!
大須賀美恵子氏(大阪工業大学特任教授・日本バーチャルリアリティ学会会長[2020/21年度]),深津貴之氏(note CXO)推薦!
メタバース発,人類を別次元にいざなう衝撃のルポルタージュ!
【メタバースは我々に何をもたらすのか? “原住民”が語るメタバース解説の決定版】
メタバースでは「新たな人類」が文化を築きつつある――期待が膨らむメタバースの本当の姿,そして真の可能性とは? 仮想現実世界の住人が物理現実世界の私たちに伝える,衝撃のルポルタージュ!
Meta(旧Facebook)の事業計画と社名変更の発表以来,注目度が急上昇した「メタバース」。本書は,特にソーシャルVRに焦点をあてて,メタバースについて解説します。ただし,単なるソーシャルVRの概説ではありません。メタバースが人間の在り方を劇的に進化させる可能性を考察する,仮想現実住民である著者が物理現実に住む私たちへおくるディープで刺激的な「別次元のルポルタージュ」です。
前半では現状の主なソーシャルVRサービスの概要の紹介や,VRゴーグル,トラッキング,アバターといった関連技術の簡単な解説を行います。現在最もメタバースを実現していると考えられる「ソーシャルVR」とはそもそもどのような世界なのでしょうか? 住民ならではの視点で基本的な事項をわかりやすく整理します。
後半では,ソーシャルVRユーザーへのアンケート調査や著者本人の経験にもとづき,アバターをまとうことによるアイデンティティやコミュニケーションの変化を考察します。また,アバターと事実上無限で自由な空間性に注目して,経済分野における可能性も指摘します。これらを通じて,肉体や空間に縛られてきた人間社会がメタバースによって劇的に変化しうること,そしてそうした「進化」の萌芽が現在のソーシャルVRにはすでにみられることを論じます。
仮想現実では多くの人が「美少女」になる?
アバターをまとった人間同士の恋愛関係が生まれる?
存在しないはずの「しっぽ」を触られたと感じる人たちがいる?
――本書が扱う内容は仮想現実の文化のほんの一側面にすぎません。物理現実とは違った「別の現実」の在り方を目撃してください。
【推薦!】
大須賀美恵子氏(大阪工業大学特任教授・日本バーチャルリアリティ学会会長[2020/21年度])
「1,200人を対象とした調査と広い知識に基づいた論理的展開がすばらしい。」
深津貴之氏(note CXO)
「メタバースを理解したいなら,メタバースで生活している人々の生の声を聞こう。」
こんな方におすすめ
- メタバースの可能性について深く知りたい・考えたい人
- フィクションで描かれた仮想現実世界が好きな人
著者から一言
物理現実で語るザッカーバーグ,メタバースから覗く原住民たち
2021年10月28日,世界的な影響力をもつ超巨大IT企業群「ビッグ・テック」(GAFA)の一角であるFacebookが,社名を「Meta(メタ)」に変更し,新しいインターネットの姿である「メタバース」事業を社命を賭けて推進することを発表,全世界に激震が走りました。
CEOのマーク・ザッカーバーグは「当社の目標は,次の10年間で,メタバースが10億人に利用され,数千億ドルの取引が行われるようにすることだ」として,今後年間100億ドル(約1兆円)を超える予算をメタバース事業に投入するとしています。世間では,若者のFacebook離れや相次ぐ不祥事などで低下したブランドイメージの刷新が目的ではないかと囁かれています。
Facebookによるこの衝撃的な発表が行われたのは,開発者向けイベント「Connect 2021」の基調講演の中でした。日本時間では日付が変わり29日の午前2時。日本では,翌朝のニュースで知った方が多いかもしれません。
しかし,私「バーチャル美少女ねむ」は,友人たちとこの発表をリアルタイムで観ていました。それも,メタバース世界で。
その日も,いつものように自宅で仕事を終えた私は業務用のノートパソコンを折りたたみ電源を落とすと,ゲーミングチェアに腰掛けたまま,おもむろに腰と両足首にセンサーを巻きつけ,両手にコントローラーを握りしめました。
VRゴーグルを被り,目を開けると,そこは既にメタバースの世界。物理現実――みなさんのいる物理法則に支配された従来の世界――の自室よりもずっと広い白い部屋に私はいました。鏡には美少女アバター姿の私が映っています。現実の知り合いは誰も知らない,深夜だけの秘密の姿。バーチャル美少女「ねむ」としての私の時間の始まりです。いつものように鏡の前でくるっとまわって,手足の動き,スカートや髪の揺れ具合をチェック。にっこり笑って表情を確認します。私,かわいい。
指をすっと動かすと,目の前の空間に四角形のスクリーンが浮かび上がり,今現在メタバース世界でオンラインになっている友達のリストが表示されます。今夜はどうやらみんな一箇所に集まっているようです。
リストから友達を一人選ぶと,私は瞬時に部屋から,友人が大勢あつまる別の場所に瞬間移動しました。そこは宇宙空間に浮かぶリビングルーム。美少女キャラクターをはじめとしたさまざまなアバターの姿で,テレビの前に皆集まっています。窓の外には星々が広がり,巨大な惑星がいくつも浮かんでいますが,部屋の床にはちゃんと重力があります。窓にガラスははまっていませんが,呼吸はできます。メタバースの世界では,物理法則の全てが自由にデザインできるのです。
「ねむちゃん,やっほー!」皆手を振って私に挨拶してくれます。
「やっほー! 今日はみんな,どうしたの?」
「これからFacebookがメタバース事業について発表をするらしいよ。例の『新型』の発表もあるかも!」
ザッカーバーグの発表は,メタバースの世界を一般人にわかりやすく説明するためのプレゼンテーションや,有名ゲームとのコラボの発表など,私たちにとっては退屈なものから始まりました。
お次は,物理現実の自分の姿をスキャンして精巧な3Dアバターを作成し,VRゴーグルを被っても現実とそっくりそのまま同じ姿でメタバースの世界に行けるデモンストレーション。さらに,物理現実とメタバースがシームレスに融合し,メタバースの世界から現実の友達に挨拶するデモ……。どれも技術的には素晴らしいのですが,既に現実の自分の肉体から離れて「なりたい自分」の姿で生活するのが当たり前になっている私たちは――それが一般大衆へのわかりやすさを意識したデモであることを理解しつつも――テレビの前で「これじゃない!」と大合唱。
結局メタバースの住民が最も期待していた新型VRゴーグルの発表はなく,美少女たちの大ブーイングがメタバースにこだましました。
今後新しく広がっていくメタバースの概念・ビジョンを,一般人にも分かるように,熱く,丁寧に,しかし物理現実世界で生身の物理肉体の姿で説明するザッカーバーグ。一方で,メタバース世界でアニメキャラクターのようなアバターの姿でリビングルームに集まり,そんなザッカーバーグの姿をテレビで見守る私たちメタバースの住人。まるでアニメの登場人物が,現実世界の出来事を覗き込んでいるようなこの光景,メタバースに行ったことのないかたにはさぞシュールなものに見えるでしょう。もしかしたらピンとこないかもしれません。でも,これが私たちメタバースで生きる住人たちの日常なのです。メタバース内の「仮想現実」もあくまで「現実」なのです。
Facebookの歴史は,今でこそ当たり前になった「Web 2.0」「ソーシャルネットワーク」と称されるインターネットの革命そのものでした。それを牽引したザッカーバーグが,15年以上かけて築き上げてきたブランドを変えてまで目指す,「次のインターネット」メタバースとは果たして何なのでしょうか。本書では,メタバースに生きる一人の原住民である私が,自分自身の実際の体験・数多くの原住民たちへのインタビュー,そして全世界のユーザーを対象に実施した調査データをもとに,その真の姿を解説していきたいと思います。
本書の目的と内容
本書は,メタバースについて興味を持った幅広い読者の方を対象に,現在のメタバースの真の姿,そして未来の可能性を伝えることを目的としています。
技術評論家や投資コンサルタントには絶対に書けない,実際にメタバースに生きる原住民ならではリアリティ溢れる内容を,データの裏付けと共にお届けします。私のこれまでの全ての活動の集大成として,メタバース解説書の決定版と言えるものを目指して執筆しました。きっとメタバースへの興味を深め,知的好奇心を刺激する内容になっていると思います。
前半はメタバースの基本的な解説をしていきます。
1章では「メタバース」とは何なのか,その由来や歴史,具体的な定義を考察します。また,既存のSNSやオンラインゲームとの違い,誤解されがちなAR/VRやNFTとの関係を解き明かし,メタバースがもたらす「三つの革命」のポイントを整理します。
2章では,明らかにした定義に基づいて現時点で最もメタバースを体現しているサービスであると考えられる「ソーシャルVR」について解説します。各種サービスをさまざまな観点で比較し,どんなユーザーにどのような目的で使われているのか,また,それぞれが抱える課題についても具体的に解説します。さらにMetaの新サービス「Horizon Worlds」についても期待と懸念を論じます。
3章では,メタバースがどういった技術に支えられているのか紹介し,その中でも特に根幹技術である「バーチャルリアリティ(VR)」と,それを実現する三つの要素,「VRゴーグル」「トラッキング技術」「アバター技術」について解説します。
後半は,数多くのメタバース原住民へのインタビューや私自身の体験,そして「ソーシャルVR国勢調査」のデータをもとに,現在のメタバースにおける生活実態や文化,そして未来の可能性を「三つの革命」に沿って具体的に解説していきます。
4章では第一の革命「アイデンティティのコスプレ」を論じます。メタバースでは「名前」「アバター」「声」の三つの軸で自らのアイデンティティを自在にデザインできます。なぜ現実とは違う「なりたい自分」として生活するのか? なぜ現実と違う「性別」で生活するのか? 「受け入れる」ものから「デザインする」ものに変化した,新たな「アイデンティティ」の在り方を考えます。
5章では第二の革命「コミュニケーションのコスプレ」を論じます。メタバースにおいて重要となる非言語コミュニケーションの中でも,特に心理的距離を反映しやすい「距離感」と「スキンシップ」を観察し,人と人との関係性の変化を明らかにします。さらに,特別な相手との親密な関係性である「恋愛」,そして「セックス」の実情に迫ります。より本質的なコミュニケーションが加速されることで生まれる,新たな「社会」の在り方を考えます。
6章では第三の革命「経済のコスプレ」についてミクロ経済・マクロ経済の両面から論じます。経済の最小単位が「個人」から「分人」に移行する「分人経済」というクリエイターエコノミーの究極系,そして,従来の地球という枠組みに縛られた「空間経済」から空間自体をデザインする「超空間経済」への移行がもたらす人類の更なる発展の可能性を提示します。さらにメタバースで生まれる「職業」を考察し,新たな「経済」の在り方を考えます。
最後に7章では「身体からの解放」を論じます。原住民が感じ始めた新たな感覚の可能性「ファントムセンス(VR感覚)」について解説し,その原理的背景,いったい何を感じているのかを明らかにします。また,触覚を物理的に再現する「触覚スーツ」や,全感覚で没入できる「フルダイブVR」への期待がかかる「BMI(ブレイン・マシン・インタフェース)」について解説し,身体から解放された人類の新たな「進化」の可能性を考えます。
メタバースは荒野のフロンティア
Metaの発表以来,各種メディアは連日「メタバース」を取り上げ,投資家はこぞって関連銘柄を買い漁っています。私自身も数多くの取材を受けています。いちメタバースの住人として,巨大資本が投下されて業界が活性化するのはとても喜ばしいことだと私は考えています。
フロンティア時代の今のメタバースは,まだ貨幣経済が成立していない旧石器時代の,何もない荒野みたいなものです。その代わり,さまざまな「魔法」が使えます。距離の制約を超えて人と会えたり,会いたい人を召喚できたり,好きな姿に変身できたり,空を飛べたり,どこでもドア(瞬間移動)や四次元ポケット(アイテムを呼び出すしくみ)が使えたり。はっきり言って,慣れてしまうと物理現実が不便で仕方ないほどです。今後本格的な経済活動が始まると,物理現実からメタバースに経済の主軸が移り,物理現実の制約から解き放たれた巨大な経済圏が生まれるのは間違いないと私は考えます。
しかし,この荒野を開拓するのは,新大陸・惑星の開拓に等しい一大事業です。欠けているピースが山積みです。
はっきり言って,それは一部の人が語るような,一朝一夕で実現するようなものでは決してありません。投資期待で本書を手にとった方などは失望するかもしれませんが,私はそれでいいと思っています。根拠のない過剰な期待はただのバブルであり,悲劇を生むだけです。仮想通貨関連ではそれで涙を流す人を何度も何度も見てきましたが,メタバースの世界では繰り返したくないと思っています。そのために私ができることは,事実を伝えることだけです。
一方で私は,短期的な投資のリターンなどよりも,その先の未来の鼓動に胸を震わせています。「メタバース」の概念は,繰り返し消費されるIT業界のバズワードなどでは決してなく,「次のインターネット」という言葉で語ることすら空疎な,私たちの生活・価値観を根底から揺るがす,人類史の壮大な転換の始まりだと知っているからです。
ホモ・メタバース――人類の進化のてがかり
メタバースとは「私たちが生きていく,デジタル世界の新しい宇宙」です。これまで人類は,生まれ落ちたこの宇宙で生き延びるために,四百万年かけてひたすら自分自身を変化(進化)させ続けて来ました。メタバースがもたらす革命は「私たちが生きる空間そのものを恣意的にデザインできる」ということです。それは,人類と宇宙との主従関係が逆転するということです。私たち人類が,宇宙そのものを,自分たちが暮らしやすいように再設計するということです。それは,言わば神を目指す試みです。
2017年,イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリは,同名の著書の中で「ホモ・デウス(Homo Deus)」という概念を提唱しました。人類は生物工学・サイボーグ工学・AI技術によりいずれ死を克服し,自らを「デウス(神)」,つまり神性を備えた新たな人類種「ホモ・デウス」へと進化させると。その時,これまでの死と肉体に縛られた従来の私たちの価値観は意味を消失し,神としての新しい常識・倫理が誕生すると。
現在起こっているメタバースによる革命は,この人類の進化の「前日譚」であると私は見ています。もちろんメタバースで私たちが不老不死になることはないし,この物理現実世界で病や死を根絶するのは,まだ遥か先の未来でしょう。しかし,限定的とはいえ,私たちが神の力を手に入れたデジタルな仮想世界「メタバース」でなら既にできるのです。私たちの肉体を,自己認識を,社会を,宇宙を再設計することが。それは,物理現実世界で「神」になる前段階です。私たちは果たしてそれに相応しい存在なのか,自らを審判するためのシミュレーションが始まったと言ってもいいかもしれません。
ハラリに習って,私はその世界にいち早く適応し,全く新たな生活様式や文化を示しつつある「メタバース原住民」のことを新たな人類種「ホモ・メタバース(Homo Metaverse)」と呼びたいと思います。その変異を観察することは,人類の行く先のてがかりとなるのではないでしょうか。
今はまだ何もない荒野で,それでも大切な人たちの息遣いをはっきりと感じる,ありのままのメタバースの姿。メタバースとは果たして何なのか。そこで我々は何者になるのか。我々はどこへ行くのか。一人の原住民として,私が本書で伝えたいことはそれだけです。
始まったばかりのメタバースは今まさに進化の最中であり,その実態は今この瞬間も変化し続けています。私が伝えられることは,変わり続けるその世界のほんの入口に過ぎませんが,来る新時代の一端を照らし出し,より良い未来を考えるきっかけになれば幸いです。