新春特別企画

2010年の勉強会

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勉強会と商業セミナーの違い

勉強会は基本的には何かに興味を持った主催者が参加者を募って開催します。商業的な教育やセミナーとどのように違うのでしょうか(表参照⁠⁠。

勉強会とセミナー

 勉強会セミナー
主催者ボランティア企業
料金無償ないし廉価有償
形式対話的一方的(片方向)
講師ボランティア専門家
参加者能動的受動的
ネットワーク積極的ない

何かを学ぶという意味ではそれほど違わないと思うかもしれません。しかし,主催者がボランティアで料金が無償ないし廉価であるという形式的な違い以外にも多くの相違点があると思います。

勉強会の場合,参加者と主催者の役割分担が相対的で,ある時は主催者,ある時は発表者,ある時は参加者というように,固定的ではありません。参加者が能動的,あるいは質疑応答も活発な場合が多いような印象を持ちます。さらには,継続している勉強会では,メーリングリストやWikiなど,さまざまなコミュニティ支援系のツールを活用し,勉強会の瞬間だけではなく,時間や空間を超越したコミュニケーションをとっている場合があります。 勉強会を軸としたゆるやかなコミュニティが形勢されています。

ベンダーの情報を入手するというだけであれば,商用セミナーの意義もありますが,それ以外の,まだ十分形式化されていない現場の情報や,運用のTips,あるいはオープンソースの情報などは,商用ベースのセミナーよりはるかに勉強会のほうが,量的にも質的にも凌駕しているようです。

勉強会と学会

大学の先生や企業の研究職でもないとなかなか学会というのは敷居が高いものです。研究者は基本的には学会の査読付き論文によって評価される職業ですので,勉強会で発表するということは直接的にはメリットはありません。 わたしの個人的な考えなのですが,学会と勉強会的なものがもっともっと融合すると面白い思います。先日開催されたWeb学会のシンポジウムは,Ustream.tvでの中継やTwitterを活用した質疑応答など,勉強会がよく利用するツールを活用して,一般参加者に門戸を開いていました。

学会という権威と,勉強会というライブ感覚を融合し,新たな知を創発する場所になれば面白いなと思いました。学会はどちらかというと権威による編集の百科事典,勉強会は群衆の叡智によるWikipedia,前者は静的,後者は動的みたいな印象があります。

ソフトウェア開発や現場の運用などはなかなか研究になじまないようなものもアカデミアの皆様とコラボレーションできたらなと思います。

勉強会と企業

企業にとって勉強会はどのような価値があるのでしょうか。

従業員への教育的効果,スキルアップ以外にも,モチベーションの向上や社内活性化などの効果があるようです。他社の事例を理解することによって,直接的に仕事に生かせないとしても,それを参考として,日々の業務を見直すヒントを得たり,社外ネットワークを構築したりするメリットがあります。

企業にとって,勉強会を開催することは,ほとんどコスト(設備費,人件費他)が発生しません。メリットは,上手に運営すれば,上記のようにいろいろ発生します。組織というのは,通常機能によって縦割りになっています。大企業になると事業部が違うとまるで別会社のようだということも言われています。クロスファンクションな横串を通すことの重要性が喧伝されていますが,言うほど簡単ではないのが実状のようです。

そこで,勉強会による,縦串でも,横串でもない,社内コミュニティの醸成が価値を持ちます。

勉強会による価値の創造

10年カーネル読書会を続けてきて見えてきたものがいっぱいあります。いろいろな宝物をいっぱいもらった気がします。 オープンイノベーションの時代,価値の源泉の多くは社外にあります。世界にはすごい技術者がいっぱいいます。勉強会によって,それらの人々と緩くつながりあう。そのような可能性に満ちています。

オープンソースはコミュニティ駆動で価値を創造しています。そして勉強会はそのオープンソースコミュニティにとっての貴重な学びの場を提供しているプラットフォームだと思います。

2010年も様々な勉強会によって様々な価値が創造されるだろうと考えます。

著者プロフィール

吉岡弘隆(よしおかひろたか)

1984年慶応義塾大学大学院修了。外資系ハードウェアベンダを経て,米国OracleでOracle8エンジンの開発に従事した後,2000年 にミラクル・リナックスの創業に参加, 取締役CTO。2009年8月より楽天株式会社。技術理事。カーネル読書会主宰。セキュリティ&プログラミング キャンプ,プログラミングコース主査。 著書に『Debug Hacks』(共著)。

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