[自転車イラスト紀行]徒然走稿

第二回「梅雨」

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雨もまた良し。
そうね、良しかな。 良い雨具が一緒なら。

見上げれば夏近しの青空、でも天気図は雨具の携行を強く訴えている。走行距離、総標高差[1]と自分の力量を考えるに、どう考えても低気圧の発達に巻き込まれる可能性が大きい。雨具を待たなくてはならないな、となる。

この時期の自転車走行と雨具はお友達以上の関係になります。

このお友達以上というのが結構負担……じゃない、かさばるのですね。

毎年の事ながら「どんな雨具が良いのかなあ」と考える。

フロントバックやデイパック一個で出かける日帰りツーリングの時は少しでも荷物を減らしたい。良いものになると、動きのための立体裁断や通気性を高めるベントレーション、素材自体も撥水・通気性を高めるために何層にもなっている生地を使ったりしているから、コンビニで売っているポリ袋みたいなレインスーツのようにザックのサイドポケットに放り込んで、というわけにはいかない。

「でも、良いものはそれだけの価値がありますよ⁠⁠、てなことも言われるけど、実際に使ってみると、⁠そうかなあ」と思う。

数年前のこの時期、富士山一周走で、樹海から朝霧高原に抜けた。とたん、土砂降りに見舞われたー⁠ー天気が良ければ高原を抜けて白糸滝まで一気に下るこの道は一周コース中最高に気分の良いところなのですー⁠ー。どうしても勢いのつく直線の下り道は、雨粒をより濃密にした。風圧と水圧で前はよく見えず、呼吸も苦しくなってアップアップ。まるで自転車に乗ったまま溺れているようだった。雨具の内も噴き出す汗で湿度100%のヌルヌル状態。外から叩きつける雨粒もいつか進入経路を発見したらしく、肌に浮いたあたたかいヌルヌルの水溜まりを、雨粒の冷たい流れがツーッ、ツーッ、と幾筋も伝わって、いや、その気持ちの悪さったら……。

結局この日は一周をあきらめ、土砂降り煙る街道筋に赤地に白ヌキ欧文の看板を頼もしげに掲げた某アパレルショップで、着替え一式(靴下、下着まで)とツバのついた帽子を買い込み、富士市まで下って輪行[2]した。

これくらいずぶ濡れてしまうと、ベントレーションも何層にも重なった素材も追いつかないー⁠ー気温が低いとまた違うー⁠ー、ポリ袋雨具を着ているのとほとんど変わらない状態になる。

雨具の素材はとても重要なことなのだろうけど、この時期の自転車ツーリング(動き重視の林道走などは別として)の場合、素材より形態で雨具を選んだ方がいいんじゃないかと思う。

で、おすすめ。

伝統のポンチョタイプです。

ポンチョタイプにレインパンツ(+マッドガード)の組み合わせがベスト[3]⁠。

テルテル坊主スタイルはダテじゃない。背負っている荷物も、フレームもフロントバックやサドルバック[4]も覆ってくれます。雨が降らなくても食事時のシートに使えるし、宿に泊まるときは自転車カバーになる。万が一、野宿、という自体に追い込まれてもツェルト[5]として活躍してくれるでしょう(そんな状況には追い込まれたくないが⁠⁠。

立体裁断がなんだ、三層構造がなんだ、やはり古くから使われてきたものは素晴らしいのだ。

と、いいつつ、今年も梅雨空の下、レインウェアのカタログをながめながら「お、フロントベントレーションが追加されいるじゃないか」⁠体温の上昇を感じ取って通気孔を広げる新素材かあ」などと、新製品から新製品へと追いかけてしまう新しモノ好きがいるのでした。

富士山一周国土地理院五万図『山中湖』『富士山』『富士宮』『御殿場』

富士急・富士吉田駅~⁠10km)道の駅なるさわ~⁠11km⁠⁠ 富士ヶ嶺~⁠13km)白糸の滝~⁠20km)勢子辻~⁠7km)富士サファリパーク~⁠21km)須走IC・浅間神社~⁠6km)篭坂峠~⁠10km)道の駅富士吉田~⁠4km)富士急・富士吉田駅 約102km(距離は目安です)

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雨具の選択も済んだことだし、梅雨の合間をぬって、富士山をぐるりと巡ってみました(実走:2005年6月19日⁠⁠。

100km越えの長丁場ではありますが、変化に富んだ飽きのこないコースです。最後の篭坂峠をのぞけばあまりきつい箇所も無いので、少し走り慣れてきたら距離に慣れるつもりで走ってみましょう。サポートカー[6]を併走させると、乗るつもりがなくても心丈夫です。

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富士吉田駅をスタート[7]⁠。焼きトウモロコシのかおり漂う139号線を、だらだらと上り、鳴沢に向かう。

上り坂の一段落したところが⁠道の駅なるさわ⁠⁠。温泉施設も併設しているから、サポートカーを上手く使って、ここを始点・終点にして、お風呂に入ってさっぱりと終了、なんてのもいい。

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道の駅なるさわを出発してすぐ左折。ここからがこのコース一番の魅力、青木ヶ原樹海、朝霧高原のまっただ中を突っ切っていく県道71号線・通称「開拓道路⁠⁠。うっそうとした原生林を切り裂く道をうねうねとアップダウンを繰り返しながら走り抜ければ、⁠北海道に来たのかいな」と思わせる朝霧高原の牧草地が開ける。日の高くなったこの時期なら、富士山もまぶしく光る午前の顔を見せてくれるはず(この時は曇っていたんだよねえ⁠⁠。高原のただ中、富士ヶ嶺にはコープストアがある。ここのタケノコ弁当は中々のモノです。駐車場も広く、トイレも綺麗になっていた。

富士ヶ嶺から人穴を経て白糸の滝までは一気に下り(そのまま行けば海まで下れる⁠⁠、速度はでるけど徐々に交通量が増えてくるので要注意。

大抵このあたりで昼食タイム。白糸の滝の食堂で食べるも良し、もう少し我慢して眺めの良い場所でコープで買った弁当をほおばるも良し、いずれにしても白糸の滝は見物していきましょう。

白糸の滝からは県道72号線、国道469号線とつなぐ上り基調のアップダウン。天気もぐっと良くなって、右手の景色の中にところどころ顔を出す駿河湾を望みつつ、ゆっくりと漕いで行く。

勢子辻でいったん集合して、この後の流れを考える。メンバーの体力が落ちていたり、この時点で太陽がグッと傾いているようなら、東海道線の吉原駅に向かうとか、もう少し頑張って御殿場まで下って終了する、など無理のない行動を検討する。そういう意味ではこのコースはエスケープルート[8]が沢山あるので助かる。

富士サファリパークを通過して、豪快な下りが始まった、と思ったらすぐに左折。ここは気分の良い下りのせいか、気分良く裾野ICまで行ってしまう人がよくいる。分岐点で後続を待つのはあたりまえだけど、スペースが無くて集合できない分岐点では、最後のメンバーが通過するまで人に立っていてもらうのが鉄則。

左折しても道幅は狭くなるとはいえ、気分良く、がーっと下って行くことに変わりない。がーっと行って勾配が緩んだら大野路の信号。ここを左折。左右に自衛隊演習場が広がる。左手向こう正面にそびえる富士山は、そろそろ逆光気味になっている。

さて、ここから篭坂峠までは延々と上り。ここで再考しよう、御殿場や裾野に下るラストチャンスだから。⁠……!」さ、決心できたところで篭坂峠を越えてしまおう。

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篭坂峠までの道のりはしんどい。車も増える。側道も狭い。自衛隊の輸送車なんぞもゴウゴウと掠めていく。上りもそこそこにきつい。でも、達成感はひとしおです。ひとしおもふたしおも味わったところで、山中湖に向けて一気に下り、車とのバトルを楽しみ(?)つつ、富士吉田駅まで漕ぎ抜く。午前10時に出発して午後7時にゴールしました。

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帰りはサポートカーの運転手を犠牲にして、道の駅富士吉田の地ビールで乾杯。心優しい運転手や下戸の運転手とは普段から仲良くしておきましょう。

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