[自転車イラスト紀行]徒然走稿

第二十二回「河口へ・そして穴子丼」

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ある日突然、穴子丼が食べたくなった。

鰻丼、ではなく、穴子丼である。

なんで?と聞かれると確固たる理由は思いつかない。

テレビで見た、のかもしれない。

本で読んだ、のかもしれない。

ともかく穴子丼なのだ。

と、いうようなことってありませんか?

なんだか知らないけど、吉野家の牛丼が食べたい、とか、なにはともあれサッポロ一番塩ラーメンに玉子とネギを入れて、ごま油を加えて、さらに切りゴマもプラスしたのをすすりこみたい!とか。

吉野家なら駅前に行けばあるし、サッポロ一番はコンビニで手に入る。

でも、穴子丼はご近所で簡単には食べられない。

「いや、行きつけの寿司屋に行けばいつでも作ってもらえるよ」という人はそうしてください。私なぞはまず近所に、行きつけの寿司屋、なるものを作るところから始めなくてはいけないのだ。

ではどこへいけばいいのか?

そう、行きつけの寿司屋は無くても、おなじみの東京湾がある。

穴子の本場は羽田沖。

羽田沖なら、これまたおなじみの多摩川を下っていけば辿りつくことが出来るではないですか(沖まではいけないけど⁠⁠。

そうと決まれば善は急げ(善かな……殺生をしにいくような気もするが⁠⁠。

穴子丼を求めて多摩川を下っていくことにした。

今回はいてもたってもいられず穴子丼、の気持ちが先走って、本文がエッセイになっていないような気がするが、そんな場合ではない。

一刻も早く多摩川を下らなくてはいけません。早速、コースガイドに取りかかります(いつもよりボリュームあります⁠⁠。

多摩川・穴子丼ポタリング

地図:Pro Atlas X

浅川・ふれあい橋(東京・日野市⁠⁠~関戸橋~多摩川台公園~二子玉川~羽田・大鳥居~大師橋~多摩川河口・右岸~川崎大師~六郷橋~丸子橋~多摩川原橋~関戸橋~ふれあい橋

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いてもたってもいられず穴子丼、とはいっても、ここから穴子丼までは50kmほど隔たっています。

朝飯をしっかりととって、浅川にかかる歩行者自転車専用橋・ふれあい橋をスタート。

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多摩川中流域の上流よりのこの辺り。山からの空気はすっきりとしております。山から海へと向かいます。

正面に見えているのは新井橋とその上にかかる多摩都市モノレールの高架です。

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府中四谷橋の手前で程久保川と浅川が出会い、すぐ先で多摩川と合流。聖蹟桜ヶ丘の河原にはテニスコートやサッカーグランドが広がっています。夏には花火大会も開かれるところ。ここで右手から大栗川が合流してくるため、右岸の道が途絶えてしまいます。関戸橋で対岸へと渡ります。

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関戸橋のこのあたりはネットつながりサイクリングクラブのオフ会目的地になっていたり、年に何回か自転車パーツのフリマもおこなわれる多摩川流域サイクリストにはそれなりに有名なところです。

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ただ、最近は自転車愛好者も増え、歩行者相手の重大事故も増えてきています。行政もスピード制限の呼びかけや、路面への障害物設置(シケインや凸凹舗装など)を検討そして実施も始まるといった、嬉しくない声も聞こえてきています。ここはサイクリング道ではなく(そう呼ばれていた時期もありましたが⁠⁠、歩行者優先の遊歩道、ゆっくり余裕を持って走りましょう。

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中央高速の枝道・稲城大橋手前にある多摩川台公園には、多摩川の源流から海までがミニチュアで再現されています。これから河口に向かう人間にとっては見逃せないところ。休憩をかねて河口までのコースをイメージ走行して見ませんか。

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競輪場を過ぎると、大きな堰堤が見えてきます。これが上河原堰堤。ここから(対岸・神奈川側)始まる二ヶ嶺用水(全長32km)沿いも一度走ってみたいコースです。

堰堤から少し下ると新東京百景にも選ばれた五本松公園。日活の撮影所が近所にあり、時代劇の撮影にも使われているようです。このあたりから丸子橋までダートが多くなってきます。

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二子玉川のビル群が見えてきました。左手の赤いとんがり帽子は水門でしょうか。多摩川沿いには古い施設も残っていて、それを拾っていくのもポタリングの楽しみのひとつです。

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右手に見えている緑地で昼食にします。

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左側が野川と多摩川の合流点。東急田園都市線の高架が見えます。

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高架を越えて少しいった林の中に気になるカフェがありました。お昼の時間をたっぷりとっていなければ、ちょっと寄り道していきたい佇まいです。

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さらにダートが続きます。今回、私だけロードだったのでちょっとしんどい。でも、車が来ないのはいいですね。

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丸子橋の手前で道がぐっと狭くなります。自転車通行禁止の看板も出ている箇所です。そういうときは素直に従いましょう。

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東海道新幹線、横須賀線の高架をくぐると対岸にえらく立派なビル群が。あれは新川崎のビル群なのかなあ。

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多摩川大橋から六郷橋の間、多摩川がきれいなS字を描いてぐっと蛇行していきます。

川の自然な形。美しいです。河口手前のハイライトシーンです。

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S字の先に川崎の町が見えてきました。⁠昔は煙突とガスタンクの町っていうイメージだったんだけどなあ」といったら、いつの時代の話だ、と笑われてしまいました。

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川沿いに不思議な建物……いや、建物は不思議じゃないんだけど、積んである木箱と『自動販売機有り』の看板があって、その看板に社名が無いのが不思議な建物。製麺所じゃないか、と勝手な判断を下して通過してしまいました。なんだったのだろう。販売機で飲み物を買いながら確かめれば良かった。

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多摩川緑地、六郷緑地、太子橋緑地とつないで走ります。六郷緑地の終わりに古い水門が残されていました。これは昭和6年に竣工した六郷水門。面白い形は「郷」の字が「ロ」の字を囲んでいる、旧六郷町の町章デザインからきているそうです。

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河原には小さな干潟も見られるようになってきました。海は近いぞ、そういえば六郷橋を過ぎたあたりから風にまったりと潮気をふくむようになってきました。

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大師橋の袂、というか下に大きな佃煮屋さんがありました。小売りもしているとのこと、昆布やアサリ、アミの佃煮を買い込みました。ポタリング後のお酒のアテにばっちりです。

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佃煮屋から羽田神社のある通りに出てみると、道沿いの赤い煉瓦の塀?が残されています。なんだろうなあ、という疑問はこの後解決。

大師橋をくぐって、更に湾岸線をくぐれば、もうこのあたりは海の雰囲気です。停泊しているのも漁船や釣り船ばかり。人工の入り江には屋形船が係留してありました。

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湾岸線の先、堤防が高くなったなあ、と思ったら、案の定行き止まり。ポタリングでも一度は階段を担がないと気が済まないようです。

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東京湾に注ぐ多摩川と最後に合流する海老取川。その合流点には関東大震災や東京大空襲で亡くなり、無縁仏となった方たちをお祀りした(といわれている)五十間鼻無縁仏堂が建っています。元はこの卒塔婆だけがぽつんと川の中に立っていたそうです。

今はその周りで、大人たちは釣りを、子どもたちはカニ採りを楽しんでいました。

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海老取川沿いを少し遡上して、弁天橋を渡ればそこが羽田の大鳥居です。元は穴守神社の鳥居でした。昭和初期、羽田空港が出来たとき穴守神社は海老取川沿いに移転したのですが、何故か大鳥居だけが残されました。空港が米軍に接収されたときも移築されなかった大鳥居が、新滑走路拡張のため現在の場所に移築されたのは平成11年のことだそうです。

そうだよなあ、前に大鳥居を見たときは空港の真ん前にあったもんなあ。

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羽田空港のターミナルはこの先すぐ。でも、トンネルをくぐるのは嫌なので、本日の左岸はここまで。対岸に渡って、土手沿いの道を河口近くにいけるところまで行ってみることにします。

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後戻りして大師橋を渡ります。その途中でまた赤煉瓦の塀に出会いました。この形ならわかりますね。これは防波堤の名残なのです。

赤煉瓦の防波堤がつながっている風景。粋だっただろうなあ(当時の人は無粋なものこしらえやがって、と思っていたかもしれません⁠⁠。

大師橋を対岸へ。

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土手道のドン付きまでやってきました。少し手前の砂地に、渋い多摩川河口の標が立っています。

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白い小屋の向こうは、すぐ多摩川運河が本流に流れ込んでいます。対岸の高架は東京モノレール。目の前をさかんに飛行機が着陸してきます。

一緒に下ってきた多摩川の水はゆったりと東京湾に流れていきました。

と、いつもならここで終点なのですが……今回は、そうはいきません。穴子丼を見つけに行かなくては。

穴子丼のメッカは先ほどの大鳥居のある天空橋あたりです。まだそれほど空腹を感じないから、そちらに戻る前に川崎大師を詣でることにしました。

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本殿を詣でる前に、お大師様の出張所が現れました。異様な建物にびっくりしたものの、考えてみればアンコールワットとかの仏教遺跡はこんな形をしているのですよね。と、納得しつつも、自分ちの近所にこんな建物が建ったら嫌だなあ。

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川崎大師の仲見世で名物の飴ちゃんをご馳走になりました。親切なおばちゃんにほだされて水飴を一瓶購入。麦芽だけで作られた水飴は、昔、全部一人で舐めきって叱られた浅田飴・水飴の味がしました。

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大師様にも無事お参りを済ませて、さあ穴子丼です。

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その前に輪行に使える駅として、京急川崎大師駅の写真を撮りにいったら、駅の近くのお寿司屋さんの前に魅力的な看板が。

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穴子丼、江戸前天重(穴子はもちろんハゼやキスなど江戸前の魚介づくし⁠⁠、蛤鍋まである!

もう、ここでいいやと飛び込んだらこれが大正解。

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見よ!この江戸前天重の有志。ふたが閉まらないぞ。

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そして待望の穴子丼!ふっくらじゅーしぃ、とはまさにこのこと。ああ、幸せ。自転車乗った後だから幸せの二乗。

あとで調べたら、ここ『恵の本』は川崎大師門前で340年以上続く老舗の日本料理屋なのだそうです。蛤鍋は川崎大師名物として江戸時代から有名なんですと。次回は蛤鍋も食さないといけないなあ。でも蛤鍋を酒無しではつらいなあ。

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そうなると京急で輪行だな、

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帰路は神奈川側を主に走りました。

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小田急高架脇の茶屋(サイクリストが数人休憩していました)やボート乗り場も昔のまま。

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この風車は何だ?などなどお伝えしたいことはまだまだありますが、かなり長くなってしまったのでこのへんで、ワープ!

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夕方前に問題なく、スタート地点・ふれあい橋に帰着しました。

と、言いたいところですが、本当は問題大あり。

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二子玉川の手前でまたしてもパンク。インフレーターまで壊れてしまった。

なんだかなあ。

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