[自転車イラスト紀行]徒然走稿

第三十四回「鼻をつままれてもわからない暗闇」

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本当の真っ暗闇を体験したことはありますか。

闇と言えば、夜。

夜は確かに暗い。しかし、こと『闇』の話になると夜は意外に明るい。

家の近所に畑の脇を抜ける細い道がある。片側は斜面で林、反対側は都内にしては広い畑になっている。その数百メートルの間に街灯はひとつもない。かなり暗い道ではあるけれど畑の向こうの家から漏れてくる灯りだけで歩くにはなんの支障もない。

キャンプに出かけると、周囲数キロ圏内に人工の明かりは全くないような場所がざらにある。そんな場所では、暗さが故に月明かりと星明かりの意外なまでの明るさを実感することができる。

夜というのは『闇』よりも『灯り』が目立つものだ。

記憶の中に不思議な暗闇がある。

子どもの頃(小学校に入ったばかりだったと思う⁠⁠、少し離れた友達の家に遊びに行って、帰りが遅くなった。

急ぎ足で山すその道を家に向かっている途中、角を曲がったら、すとん、と辺りが暗くなった。まだ日が残っているのでそんなに暗くなるはずがない。覆い被さっている木々や山の陰で太陽光が遮られ、その場所が暗くなっていた上、傾きかけた太陽を目で追いかけながら急いできたせいで、目が急にやってきた暗さに慣れていなかったため、薄暗い程度の闇が真っ暗に見えたのでは無いかと思う。

それでも覚えているあの闇は本当に真っ暗だった。

おもわず動きが止まってしまった闇の中で、何故か『いやいやえん』に出てくるポケットがいっぱいついた子鬼のことを思い出していた。元本が見当たらないのでうろ覚えなのだが、ポケット中にリンゴだのバナナだのを詰め込んでいる姿が挿絵に描かれていて、そのポケットがどうみても体に直についている、つまり、肉がポケットになっているようにしか見えなくて気持ち悪かった。

性格もあまりいい奴では無かったような……そのあたりは忘れたけど、あの暗闇の中で子鬼のことを思い出してしまった自分を歓迎していなかったことだけは確かに覚えている。

山裾の暗がりとそこにぽっかりと浮かぶ子鬼が記憶の中に黒々とした闇として残っている。

真の闇を実体験したのは善光寺のお戒壇巡りだ。

お戒壇巡りは、長野県・善光寺の本堂床下の回廊を巡り、途中にかかっている錠前(秘仏であるご本尊に繋がっているのだそうな)を探りあてることができれば罪障消滅して極楽往生間違いなしという、真っ暗闇を体験できる上、極楽への優待券ももらえるというお得な『闇』空間なのだ。

指の先も見えない真っ暗闇なので、壁を辿っていかないと歩くことはできない。壁を辿っていれば自然と錠前に触れることができる。同行した友人のように辿るべき壁を間違えなければの話だけど。

阿武隈の入水鍾乳洞も、灯りを消すと真の闇に包まれる場所だった。

闇を体験したければ洞窟の一番奥までガイドが案内してくれる「Cコース」を選ぼう。

懐中電灯の明かりを頼りに、冷たい水に足を浸しながら、狭い鍾乳石の間を腹をこすりつつすり抜け、時には水の中を四つん這いになって進む探検コース。

ガイドがコースの途中で「灯りを消してみてください」といった。そのとたん、隣にいた人間も自分の体も視界から消え、ひんやりとした闇に包まれた。

善光寺にしても入水鍾乳洞しても「これから闇が待っている」ことを承知して迎える『闇』だった。

いままでで一番恐ろしかったのは、何年も前、自転車で犬越路を走った時に通過したトンネルだ。

犬越路は神奈川の丹沢湖から津久井方面へと抜ける古道である。武田信玄が小田原攻めの時に犬に先導させてここを越えた故事にならってこの名がつけられたというが定かではない。

峠から津久井方面に向かって下る林道の途中にそのトンネルはあった。

荒れ気味のダートを軽快に下っていくと、目の前にトンネルが現れた。車両通行止めのゲートを乗り越えて入り込んでいるから(現在も犬越路は一般車両の通行は禁止)対向車が来る心配は無い。地図で長いトンネルは無いことも承知していたので一気に抜けてしまおうと前照灯もつけずに隧道内に飛び込んだ。

とたん、闇に包まれた、いや、闇に取り込まれたといってもいい。

一瞬にして視界が奪われ、何が何だかわからなくなった。地面もハンドルも見えない。体があるということは感覚でわかるけれど、実際には鼻の先を見ることもできない。ここで鼻をつままれてもその指先を確認することはできないだろう。

頭の中は恐怖で満たされてしまった。

冷静な判断ができず、自転車を降りて灯りをつけゆっくりと進むべきところを、かえってスピードを上げてしまった。

「大きな穴が開いているかも知れない」

「大きな石があるかも知れない」

「ともかくなんかあるかも知れない」

止まれ止まれ!の警報がなり響いているのに「怖い。一刻も早くここから逃れたい」という気持ちに突き動かされてさらに加速してしまう。

予想していなかったいきなりの「真の闇」は、ねっとりと体に絡みついてきた。

空気とは思えない圧迫感があり、肺の中まで真っ黒い闇に満たされるようで息をするのも苦しかった。闇を無理に引きはがさないとそこで止まってしまったら二度と動けなくなるような気がしたのだ。

トンネルを抜けて、その無謀な行為にぞっとした。

今はそんな闇に出会うことはない。闇の中でぽつんと木の枝に座っていた子鬼を見ることもなくなった。

それでも闇はある。

時にはお金を払ってでも真っ暗闇を体験してみるのも一興だと思う。

多摩川堤~弁天洞窟と生田緑地ポタリング

地図:国土地理院五万図 ⁠東京西南部』

高幡不動駅~ 万願寺ふれあい橋~浅川土手~多摩川遊歩道~多摩河原橋~威光寺・弁天洞窟~よみうりランド~日本テレビ生田スタジオ~生田浄水場~向ヶ丘遊園駅~生田緑地~登戸駅~多摩水道橋~多摩川遊歩道~ 浅川土手~万願寺ふれあい橋

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「多摩川沿いに洞窟がある」という。

それも「入場料をとる」といい「ロウソク1本で入る」というのだ。これは行ってみなくてはなるまい。

洞窟だけでは1日かけるには、ちと物足りないので少し足を伸ばして生田緑地をコースに加えることにしました。

スタートは日野市を流れる浅川にかかる万願寺ふれあい橋。暑すぎず、寒すぎず、まさにポタリング日和。のんびりといきましょう。

浅川を下流へと向かい、聖蹟桜ヶ丘の手前の府中四谷橋を対岸へ。多摩川土手の遊歩道を走ります。

週末・休日は人が多いのはわかっていたけれど、なんだこの人の多さは!しかも皆さん、背中にゼッケンをしょっていらっしゃる。

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歩いている方に聞いてみると「多摩川ウォーキングフェスタ」というイベントに参加しているとのこと。羽村を朝の6時にスタートして、大田区のガス橋まで、50kmを走破するという。

私らが本日走る予定の距離よりも長いではないですか。

50kmが最長で最短は4kmと脚力に合わせていくつかのコースが選べるそうなので、家族で参加してみるのも楽しいかも知れません。

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ウォーカーの方々にお門違いの文句をつけているサイクリストを恥ずかしく思いつつ(この道は向かって右の端を歩行者が歩き、自転車はセンターラインよりを走ることになっているのだから、道の両側にそれぞれの方向に向かう歩行者がいるのは当たり前なのです⁠⁠、理屈がわからずカリカリしているサイクリストを横目に、のんびりとペダルを漕いで多摩河原橋を対岸へと渡り返します。

南部線、府中街道を越えて、斜めの脇道へ。

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京王よみうりランド駅の横で京王相模原線をくぐり、急坂の始まる手前で左折します。

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ここが目的の弁天洞窟のある威光寺。

看板の向こうがお寺の駐車場なので、自転車を駐輪しておきましょう。

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本堂脇の窓口で拝観料を払うと、ロウソクと燭台、マッチとチケットという洞窟探検セットをくれます。

燭台以外はお持ち帰りOK。マッチのデザインが場末のスナックを思わせてナイスです。

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弁天洞窟は、横穴式の古墳を掘り広げたもの…ということは…元々お墓じゃないですか!

素敵な情報を胸に刻んで、いざ洞内へ!

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暗いです。明かりが消えると自分の手も見えません。

「鼻をつままれてもわからない闇」とはまさにこのこと。ロウソクの火だけで歩くのは至難の業。

ついロウソクの火を見てしまうのでいつまでたっても目が慣れません。

しかし、電装を使うのは御法度。

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ここはロウソク一本で勝負しましょう。

ロウソクの明かりに浮かぶからこそ、壁面のヘビの姿も恐ろしい。

小さな洞窟ですが拝観料分は楽しみました。物足りないという方はおひとりでもうひと回りどうぞ。

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威光寺を出て、よみうりランドとゴルフ場の間の急坂を登ります。路肩が狭くて車が多い、要注意です。怖いと思ったら短い距離なので押していきましょう。

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ピークには遊園地に隣接した「日帰り入浴施設・丘の湯がありました。

観覧車が覗いていたりしてよさげな雰囲気ではありますが、本日は通過します。

車が多すぎるので、この道を下って小田急線沿いの道を走る予定を変更、よみうりランド入口・スカイゲート前へと左折します。

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道沿いに日本テレビ生田スタジオがあります。特に有名人に会うこともなく、さらに住宅街へと進みます。

このあたりは適当に走っても、どこかで府中街道か小田急線沿いの道に出ますから、どこだかわからなくなっても気楽にいきましょう。私たちはなるべく粘って、生田浄水場を過ぎたところで府中街道に出ました。

このまま府中街道で小田急線を越えようとしたのですが、高架部分に側道がありません。道幅も狭く交通量も多く危険なので脇道にそれて向ヶ丘遊園駅に向かいました。

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踏切を通って線路の向こう側へ。

しかし、この駅に隣接した踏切が開かないことあかないこと。狭い道で待っている間に人が渋滞していきます。

やっとのことで開いたと思えば、踏切を渡りきる前に遮断機が下りてくるという煩雑な列車の通過数。一時に何人も渡れないため、ずいぶんと待たされました。

渡ってすぐのファミレスでお昼にして、向ヶ丘遊園駅前へ。

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駅前ではドラえもんがお出迎え。

最近、向ヶ丘遊園の跡地に藤子・F・不二雄ミュージアムが開館しているのです。完全予約制で休日のチケット購入は抽選らしいので、人の出入りが落ち着いたらドラえもんポタリングもいいですね。
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駅から生田緑地までは道なりです。

府中街道を越えて前方に坂が見えたら右の側道へ入ります。

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すぐに生田緑地の入口です。

道の両側が自転車置き場になっています。

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ここで日本民家園見学組と岡本太郎美術館組に別れました。

私は日本民家園へ。科学館のプラネタリウムも惹かれますが、こちらは時間が合いませんでした。

丘陵の斜面を利用して全国から集められた民家や民具、石仏が移築保存されています。

平坦に家が並んでいるのではなく、斜面という立地を上手く使い宿場町や地方ごとの村が再現されていて、飽きさせない展示なっています。⁠床上公開」を行っている民家にはあがることができ、保存のために囲炉裏を焚いていました。

ボランティアの方が解説をしてくれたり、昔話を語ってくれたり、お団子や手打ちそば(国内産のそば粉です)も民家の内外で食べることができます。2時間程度の時間ではとても全部を回りきれません。

何軒かの民家の改修工事をやっていて観ることができない代わりに、次回の無料券をもらうことができました。近々再訪するつもりです。

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向ヶ丘遊園駅にもどり、線路沿いを登戸方面に向かいます。

踏切を渡って多摩川に出るつもりが、またしても開かずの踏切です。

今度は本当に開かない。何台も何台も電車が通過していきます。数種類のロマンスカーを含めて、小田急線現役車両の全てを観ることができたのではないでしょうか。

それでも開かない。

あきらめて登戸駅に向かうと、すぐに高架をくぐることができました。車の人はともかく、なんでみんなあそこで待っているのだろう?

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多摩水道橋を渡って、多摩川土手の遊歩道に戻ります。

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秋の日はつるべ落とし。

みるみる暮れてゆく川辺を上流へ向かって帰路につきました。

出会ったおもしろいモノ

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三段差の道

生田スタジオから浄水場へ抜ける道で出会った風景。左が歩道(この先で切れている⁠⁠、右はじの道はすぐに真ん中の道と合流する。

こうなったのにはなんか理由があるんでしょうね。

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懐かしの車内扇風機

生田緑地科学館の前に静態保存されている車両の中にありました。

JNRの文字が泣けます。

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生田緑地の自転車置き場にあった自転車

これはビルダーが趣味でこしらえたんでしょうね。

荷台はスケボー、リアブレーキはペダル後踏み式のコースターブレーキ、フロントブレーキはママチャリでお馴染みのドラム式です。

籠とハンドルが一体化していたり、直進性を高めるため(?)のスプリングがトップチューブと籠をつないでいたり、フレームとおそろいのカラーリム、全後輪のサイズが違うホイールと遊び心満載。

持ち主が来ないかな、としばらく待ってみたけど、お会いすることはできませんでした。

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