ライフハック交差点

第5回フロー型とストア型の情報管理

今は昔のはなしです。まだ大学に入学したばかりの私は、200万冊以上の蔵書を誇っていた大学図書館のすばらしさに幻惑されて、時間をかけさえすれば興味をひく全ての本を読んでしまえるのではないかと無謀な計画に乗り出しました。

ちょうど、渡部昇一氏の「知的生活の方法」⁠講談社現代新書)を読んだところでもありましたので、私はそれにならって情報カードを何千枚と購入して、読んだ知識の全てを体系立てたカードのデータベースにしてしまおうともくろみました。

最初は良い調子で進み、私は毎日、自分の専攻していた自然科学だけでなく、文系の本で読んだトリビアや、小さな情報の断片をカードに書き込んでは知識を我がものにしたつもりでいました。

しかしカードが千枚を越えたあたりからは、それは楽しみというよりも拷問のようになってしまいました。というのも、必要なときに「あのカードはどこだっけ」と探しても、千枚ものカードを一時間あまりも探し回らなければいけなかったり、探した末にも見つからなかったりといったことが多くなってきたからです。

ゆるやかにカードを分類しようという試みも、まるで無駄に終わりました。⁠中世哲学について読んだあのトリビアは、歴史の項目にいれるべきなのか? それとも哲学か?」こんなことに悩んでいるうちに、私のカードシステムは自らの重みで崩壊していきました。

あきらかに、当時の私には情報収集の意欲はあっても、管理のノウハウがなかったのです。今回はそんな「情報管理」の話をご紹介します。

情報管理の二つの流れ

「情報管理」は現代の誰もが直面する大問題です。不必要な情報が流れ込んでくるのは以前に紹介した「情報ダイエット」で減らせるかもしれませんが、必要な情報、あるいは重要かもしれない情報だけでも大変な量の情報が、私たちの日常を埋め尽くそうとしているのです。

情報管理というのは、いわば私たちの脳からはみ出した、あるいは脳では記録できないもの(写真・動画・音楽・ファイル)などを、一時的においておくというだけのことです。

その目的は、次の二つです。

  1. 必要なときに必要なものだけが取り出せること
  2. 情報の蓄積によってそれまで知られていなかった関連性を見いだすこと

Googleの台頭によって情報自体はいくらでも入手できる時代になった今だからこそ、こうした情報を管理する能力のニーズは高まっていると言えるでしょう。

しかし「情報は多ければいい」と、なんでも保存していると、ごみ情報が多くなって必要な情報がとりだせませんし、情報自体にも鮮度があって、情報の重要性や、それに対する自分の興味も薄れてゆくものですから、今日面白いと思ったことでも、1年後にはハードディスクの肥やしとなってしまうこともありがちです。

こうした情報管理の困難を支援するために、アメリカでライフハックが流行し始めた前後から、情報を管理するための多くのツールが発表されましたが、おおまかに分類すると次の二つの情報管理の方法が見えてきます。

関連性や情報量を重視する「ストア」型の管理法

たとえば、ワインについてマーケット調査をしている人だったら、種類や産地、値段などでページを作り、⁠ある産地の全てのワインのリスト」⁠ある年の白ワインすべてのリスト」といった関連性で情報をまとめようとするでしょう。

このように「インプットする分だけ価値が増す」タイプの情報にはWikiのようにハイパーテキストを編集できるツールが向いています。便宜上、私はストア型の情報管理ツールと呼んでいます。

アプリケーションでいうならMac OS X上のFlying Meat社のVooDooPadが代表例です。VooDooPadは文章や画像などを次々と投げ込んでハイパーテキストを作成できるパーソナルWikiソフトで、エディタを使うような感覚ですばやくWikiを作成することができます。

ウェブサービスなら37SignalsのBackpackが良い例でしょう。Backpackはブラウザ上で使えるサービスで、文章やリスト、写真、ファイルなどを自由に貼り付けて複数のページで管理できるようにしてあります。

紙媒体だと、こうした情報管理方法に対応するのは情報カードなどで、あるテーマについてまとめられたカードの山は、蓄積されるほどに価値が増していきます。

しかし冒頭の図書館の例もそうですが、ストア型のツールはなんでもかんでも入れていると、使えない「ごみ情報」が多くなる傾向があり、入力する段階で十分に注意する必要があるツールだと言えます。

情報を流れるままにしておく「フロー」型の管理法

ストア型の情報管理はいわゆる分類学的なやりかたですので、伝統的な情報管理にハイパーテキストの味付けをしたものです。

これに対して、すっかり定着したRSSやdel.icio.usはてなブックマークなどに代表されるソーシャル・ブックマークなどは、情報を流れゆくままに管理する新しい種類の情報管理ツールと言えそうです。

RSSやソーシャル・ブックマークは、時とともに情報を蓄積させるよりも、⁠現在何が話題になっているのか」に注目しています。いつでもリストの最上部にあるのは最も新しい内容で、興味のあることを追加してゆくたびに過去の情報は流れ去って消えていきます。

タグ付けでゆるやかな分類を行うこともできますが、それとて、情報の大河に細い支流を作るようなもので、関連した情報を見やすくはしますが、それでも古い情報は流れ去って自然にフェードアウトしていきます。

紙媒体でこれと同等なのは野口悠紀雄氏の「超整理法」⁠中公新書)で提案された「押し出しファイリング」の方法です。仕事単位に作ったフォルダを時系列順に並べることで、古いファイルが自然と視界から消えてゆくようにした整理方法で、分類を最初から考えない斬新な方法です。

フロー型の情報管理は常に新鮮な情報に触れることを目的にしていますので、古い情報を取り出すのにはあまり向いていません。とっておきたい情報はタグ付けしてあとで検索できるようにしておくか、ストア型のツールにコピーするようにしないといけないわけで、ここで使い分けが必要になってきます。

フローvsストアの情報管理

全ての情報を同じ方法で管理していると、しだいに「ごみ情報」によってか、情報量そのものによって、システム全体がその重みで崩壊してしまいます。

上のおおざっぱな分類から考えると、自分が普段相手にしている情報がどういう種類のものかを意識することでツールを選ぶことができます。たとえば単体の情報よりもその集合に価値があるならストア型のツール、日々流れてゆくニュースなどはフロー型のツールといった感じです。

いずれのツールにしても検索機能でマッチするデータはあっというまに表示できるわけですから、あとはどのようにしてごみ情報を排除するのか、あるいは関連性を作り上げていくのかが課題になります。重要なのは、自分が直面している情報がどちらに類するものかを考えて、ツールを選ぶことです。全ての情報を一元管理しようとすると、失敗する可能性が高くなります。

たとえばここ最近、飲んだワインのラベルをはがして産地情報や感想を記録することを始めましたが、これは蓄積がものをいいますので「ストア」系のツール、この場合VooDooPadドキュメントへの保存を選びました。

それに対して、日々の仕事は終了すると同時に視界からしだいに遠ざかっていってほしいので、仕事ごとに日付を頭に記入したフォルダを使用して、完了した仕事は「完了フォルダ」にいれています。いわば手作りのフロー型フォルダ管理です。

こうすることで、しだいに日付の古い仕事はフォルダ一覧の下の方に隠れていきますが、過去のファイルを見なければいけない確率は時間が古くなるに従って低くなりますから、こんな単純な方法でも何百というフォルダを階層化せずに管理できるわけです。

フロー型とストア型、両方がほしい場合は?

しかし情報によっては、フロー型の管理で情報を自然に忘却させながらも、関連性で検索したいという場合もあります。現在人気のある情報管理ツールには、そうしたニーズを意識して作られているものが数多くあります。

たとえばBare Bones softwareのYojimbo(Mac OS X)は、次から次へとテキスト、ウェブページ、ファイル、パスワードなどを投げ込んゆくことでフロー型の一覧表を作りながらも、フォルダ管理や、ある条件にマッチする情報だけをリアルタイムに表示するスマートフォルダ、高度なタグ付けなどで、時系列と関連性の両軸での情報管理ができます。

Windowsなら紙copiが同様にウェブページやドキュメントなどをフォルダによる管理、時系列・見出し・自由配列などの多軸管理を可能にしていて便利です。

また、情報管理にこのふたつの流れがあることを意識して使えば、ブログだって立派なツールとして機能します。たとえば、一つ一つの情報の単位をブログの記事にして、時系列で古い情報ほど過去に消えてゆくようにしながら、カテゴリや、タグ付けを行うことで、サイト内検索を使って関連した記事を全て表示できます。ブログだったら今は特にソフトを買う必要もなく手軽ですし、他人に公開したくないならBloggerの非公開ブログを使うという選択肢もあります。

究極的には、情報管理は忘却の技術です。どれだけ上手に忘却して、必要なときにどれだけ迅速に入手できるかという工夫にすぎません。情報を管理しきれないというストレスばかりがたまっているようなときには、もしかしたら部分的にフロー型の手法を取り入れて、忘却をあなたのシステムに組み込むべき時がきているのかもしれません。

情報との戦いは情報社会の宿命といってもいいでしょう。私も日々大量に受信する何百もの論文情報にあえいでいる身で、達人とはとても言い難いのですが、情報管理にこの二つの型があるということを意識し、ツールを使い分けることで少しでも情報管理のストレスを減らすことができたと思っています。みなさんの健闘を祈ります。

ここまでは一人でできるライフハックの話題が多かったので、次回は対人関係のハックをとりまく話題をしたいと思います。

それでは次回まで、Happy Lifehacking!

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