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第15回GTDの生みの親 David Allenさんインタビュー特別編(3)GTDの行き過ぎの危険性と、長期間継続させるコツ

GTDの生みの親David Allenさんへの独占インタビューの第2回である前回は、GTDを実践する上で最初のハードルとなる「頭をクリアーにする」習慣についてご紹介しました。さて、この習慣が身についてくるとGTDの恩恵が感じられるようになってきますが、今度はそれを維持することが難しいことに気づかされます。

実際、GTDが爆発的な人気を獲得してからのこの数年は、GTDを「完璧」に運用できる「聖杯」のようなツールやソフトウェアなどを求めて膨大な情報交換と開発がネットで行われてきた年月でもありました。

今回は、そんなGTDの「実装」についての誤解や問題点、そして長期的にGTDを続けるためのコツについてうかがってみました。

GTDの実践を作り込みすぎてはいけない

(以下、MH⁠⁠:
⁠よくネット上の議論で言われることですが、GTDというのは一種『悟り』をひらけば2度と何も調整をしなくてもいい、永久機関のような仕事術ととらえてしまう人も多いようです。ですが、実際は常に油をさして整備しないといけないのですよね」

David Allenさん
David Allenさん

David Allen(以下、DA⁠⁠:
⁠申し訳ないが、その通りだよ(笑⁠⁠。私がGTDで受ける質問の90%はウィークリーレビューをちゃんといていれば、問題にならないことが多いんだ」

「たとえば、⁠プロジェクトとアクションをどのように結びつければいいの?』といった質問は、ちゃんとレビューをして、自分がかかえているコミットメントと向き合っていれば、おのずとわかることなんだよ。というのも、君自身のGTDのシステムがどんな形をとっていたとしても、それが君の人生以上に複雑だということはあり得ないからね。そして君は毎日自分の人生と向き合っているだろう?」

「GTDが人気となった最初のころ、ITに通じた読者の一部は『DavidのGTDってやつは、頭を空にしてくれるそうだ! じゃあ、GTDを完璧に実装するソフトを開発して、二度と何も考えなくて済むようにしてみよう!(笑⁠⁠』と考えてしまい、それがGTDの実践方法を過剰にエンジニアリングしてしまうという問題につながったんだよ」

「皮肉なのはそうした過剰に作り込まれたソフトを使おうとすると、それを使うために必要以上の思考を費やさなくてはいけないはめに陥る点だ。そうなると今度は、⁠こんなつまらないタスク1つを実行するためにこんなにキー入力をしないといけないだって? そんなこと知らないよ! 自分は頭の中で全部管理してやる!』という具合に元も子もなくなってしまうんだ」

MH:
⁠システムに入り込みすぎてしまうわけですね。たしかあなたが43FoldersのMerlin Mannからインタビューを受けていた時に、自分が実際に仕事をしているときにはすでにGTDを離れているとおっしゃっていたこととも関係しますね。GTDは今必要なタスクだけを通すゲートキーパーで、実際に仕事を行なう段階では、すでにそれは必要ないという」

DA:
⁠そうなんだよ。多くの人がProductivity P0rnと呼ばれたりする、GTDを含めた仕事術を過剰に接種している状態になっている。新しい仕事術を趣味として楽しんでいるのだったらそれでもいいけれども、私に言わせるなら『何がしたいの?』というアウトカムだけをはっきりさせたなら、あとは人生に飛び込んでやるべきことを片付けてしまえばいいのに!と思うね(笑⁠⁠」

GTDシステムの維持とバランスのとりかた

MH:
⁠最初に初心者が身につけるべき習慣についてお話をうかがいましたが、次は実際にGTDを実践するようになった人にとって、システムを維持するために最も難しい部分はなんだとお考えですか? どんなことに注意すべきなのでしょう?」

DA:
⁠3つあると思う。最初の一つは、さっき言った『頭が空』という状態を維持するということ、2番目が『物事が頭に入ってくると同時にそれが自分にとってどんな意味をもっているかを考える習慣』3番目が『レビューを定期的にやって、頭脳がシステムを信頼してリラックスできるようにする習慣』。この3つのバランスといえると思う」

「実際には、いまの3つをメタ的に包み込んでいる4番目の習慣があるんだ。それは『優先順位・パースペクティブを決める』というもので、長期的に取り組むべきタスクと、日常的な細々としたタスクも同時にキャプチャーして、それが『今』もっている意味を考えるという習慣だ」

「全部をまとめて一言でいうなら、すべては『頭をクリアーにするためには何をすればいい?』と自分に問いかけ続けて、そのためには頭から何を積み降ろさないといけないかを考える習慣ということになるね」

MH:
⁠そうした、長期的なタスクと、短期的なタスクを同時にバランスさせるという話題は私個人にとっても非常に興味深いです。私事になりますが私も新しい職を探さないといけないと考えています。でもそれは『ちょっと先』のタスクなので、いま出来ることといえば、いくつか書類を書くくらいしか思いつかないのです」

「こうした人生レベルのプロジェクトにおいてとるべきアクションと、日常的な『電球を買う』くらいに小さなアクションとには違いがあるとお考えですか?」

DA:
⁠違いはまったくないよ。ホテルから出るのが目的なら椅子から立ち上がるのが次のアクションだ。職を探しているなら、履歴書を書くのが次のアクションかもしれない。ようするに、アウトカム(結果)が得られるまでにいくつアクションをとり続けるかというリーチが異なるだけで、とるべきアクションには違いはない」

MH:
⁠あなたが繰り返し、長期的なビジョンを短期的なプロジェクトに変えてゆくのが鍵となるとおっしゃっていることにつながりますね」

DA:
⁠誤解してはいけないのは、⁠プロジェクト』『ビジョン⁠⁠、⁠ゴール』といったものは、それ自体はアクションをとることができないことだということだ。⁠ビジョン』を行うことができるかい? ⁠ゴール』を行うことができるかい? できないだろう?」

「私たちにできるのは、ゴールやビジョンに向けてアクションをとり続けることだけなんだ。そしてそのアクションというのは、ものを動かすこと、受話器をとること、キーを打つこと、コンピューターを起動すること、このようなことの連続でしかない」

「長期的な目標の実現もなんら違いはなくて、いすを動かしたり、キーを打ったりしているうちに数年がたったころに思い描いていた場所に近づくためのアクションを十分とることができたか?という話なんだよ」

「ここで問題となるのは、その目標を実現するために今とることが可能な行動がすべて目の前にあるかどうかだ。そして、そんなすべての可能性を見いだすために必要な時間と労力を意識的に振り割いているかどうかということになる」

「たとえば長期的な目標のことを考えるなら君は『いまここでインタビューをやめて、電車に飛び乗って、とある人物に会わなければいけない』と考えることも可能だし、⁠いや、この場でしゃべり続けた方がいい』と考えることもできる。このように、GTDではそうした人生の目標の実現さえも『ホテルから出る』というアクション以上に複雑にはなりえないと考えるのさ」

「繰り返しになるが、必要なのは長期的から短期的なことにいたるすべてのレベルでアウトカムをイメージしておいて、それについてとることのできるアクションを決めておくことだ。そこまでくればもうGTDとは関係のない、⁠けっきょく君はなにがしたいの?』というレベルまで思考を落とし込めたことになる」

「GTDを使って日常から長期目標までのすべてをバランスさせるのはこんな風に非常に簡単で、地味で作業になるのだけれども、反面それはとても恐れに満ちた作業にもなり得るんだよ。というのも、ある時点でとる行動がどのような結果をもたらすか、私たちは完璧に見通すことはできないからね」

MH:
⁠ある決断をする前に、それについての完全な知識は事前にそろいませんからね」

DA:
⁠決してそろわない。だからアクションにこそ最大のリスクがあるんだ。でも結局のところ何もしないで生きる訳にはいかないからね。すべての可能性に目を開いて、できることをするわけさ」

MH:
⁠私も、次の職を得るまでにあと何万回キーボードを打つことになるのだろうと夢想したりすることがあります…(笑⁠⁠」

DA:
⁠そうしてキーボードを打つことが君の未来につながることなんだと安心してとりくめるようにするためにこそ、頭の中からゴールやビジョンをとりだすときにそれがどんな意味をもつのか明確にしなければいけないんだよ。それがGTDを長期的に続けるということなんだ」

左から、David Allenさん、堀 E. 正岳さん
左から、David Allenさん、堀 E. 正岳さん

お話をしているうちに見えてくるのは、GTDをパソコン上で行うのか、紙のツールを使うのか、リストの数はどのくらいあればいいのかといった部分は、実は問題の小さな一部分でしかないということでした。

むしろ、頭のなかから取り出したタスクが不安やストレスを生み出さないように、それが自分に対してもっている「意味」と向き合うことそれがGTD実践の極意なのだということを教えられた気がします。

さて、GTDが大ブームを引き起こしてからすでに3年がたち、その間に世界は大きく変わりました。次回はWeb2.0とiPhoneの時代にGTDを実践するハードルについてお聞きしていきます。

次回もお楽しみに、Happy Lifehacking!

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